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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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仄暗い迷宮の中で

間が空いた?

きぃのせいでござゆ……

 策無し(死の宣告)から恐らく数刻ほどは過ぎただろうか?

 元々薄暗かった森の中で眠っていた古代の迷宮都市。

 遙か上空にある天井、というか降り積もった土砂? それとも時間と共に地殻変動を起こした地面とでも言えば良いのか、とにかくそこから木漏れ日のように差し込んでいた陽光もだいぶ薄暗くなってきた。

 

「あの、随分歩いているようですが、あとどれくらいかかりますかね?」

「随分? ああ、さっきの襲撃から半刻位は経ったか?」

「へ、何を言ってるんですか? すでに数刻は過ぎてるじゃありませんか」

「……ああ、そうか」


 そう呟くと同時に柏手を一つ鳴らした。

 と次の瞬間、薄暗く感じた視界は何事も無かったみたいに開け身体に纏わり付いていた倦怠感が嘘みたいに霧散する。

 ザワザワと黒エルフ(スヴァルトアールヴ)達にも驚きが広がる。


「い、いま何をしたんですか?」

「すまんボクのミスだ」

「ミス?」

「ああ、竜気の存在を失念していた」

「りゅうき、ですか? すいません、不勉強で」

「いや、不勉強って訳でも無いさ。そもそも竜気自体がかなりレアだ。知らなくても仕方が無い」

「レアと言うことは、上位竜しか使えないとか、そう言う類いですか?」

「勘が良いな、その通りだ。古代種や幻想種と呼ばれる竜種の中でも限られた種のみが持つ特殊な気だ。あ、竜の咆哮は知ってるよな」

「もちろんです。受けたことはありませんが、強力な魔素を纏った雄叫びですよね。弱い者はその声を聞いただけで精神が崩壊するとか」

「ああ、それだ。ただそこまで強力な、所謂【魂砕き】と呼ばれる咆哮を使えるとなれば上位種以上になるだろうが――おっと」


 と、そんな気の抜けた感じで独り言ちると、虚空に向かって突如ハイキックをする。

 ゴガンッ、とまるで発破作業や鉄の塊に大金槌を振り下ろしたみたいな音が鳴り響く。

 薄暗闇に潜み襲いかかってきた殺戮蟻を蹴り飛ばしたのだ。

 あの殺戮蟻が凄まじい勢いで吹き飛び地面をゴムボールのようにバウンドし、そのまま壁に叩き付けられピクピクと痙攣する。


 ピッ!


 ッ!?

 アルくんが空気を切り裂き二本の指で指差した瞬間、殺戮蟻が粉々にはじけ飛んだ。

 い、今の殺戮蟻の体躯や保有している魔素量からしても明らかに上位種、精鋭級――いや、もしかしたらそれ以上だった。

 それを、容易く圧倒してみせた。

 いや、先ほども精鋭級を圧倒していたのは見ていた。

 だけど、今のはなんだ?

 まるで小さな子供が癇癪を起こし作ったばかりの砂山を破壊するような気安さで精鋭級の殺戮蟻を殺害、いや、見たままを形容するなら粉々に破壊した。

 宮殿のパーティー会場でガラスコップをわざと落として割るような、そんな挑発的ともいえる薄気味悪ささえも感じるような暴力。


「で、だ。蟻に話の腰を折られたが、竜気ってのは一部の竜種のみが纏うことを許された覇気だ。ソイツには竜の咆哮に似た効果がある」


 あれ、おかしいです。

 知的要求を満たす話を聞かされているはずなのに、先ほどの出来事が衝撃的すぎて頭に入ってこないのです。

 って言うかこの人、あんな衝撃的なことしておいて何をしれっと会話してくれやがりますか。


「ま、この奥に居るのは恥さらしとは言え竜王種の一角だ、その程度の能力は持っていてもおかしくはなかったな」


 またです、明らかに敵意と言うよりも嫌悪感を隠さない物言い。

 何で……いや、えっとぉ、たしか……思い出せ……んっと……

 あ、あぁあぁあぁぁっ!!

 そうだ、思い出しました!

 アルくんの中には神喰らいの竜帝(ゴッドーイーター)ブルーソウルの魂が眠っているんだった。

 あ、あれぇ?

 何でこんなにも重大なことをすっかり忘れていたんだろう……

 ――――――あ、思い出しました。

 忘れていたというか、そういえば私あの時の話をよく聞いてなかったんだ。

 はつじょ――(ごにょごにょ)していて、それどころじゃなかったんでした。

 そりゃ記憶も錯綜しているわけです。

 ええ、これは私が悪いのではありません。

 この忌ま忌ましいアールヴの習性が全ての原因ですからね、仕方が無いのです。


「おい、聞いてるのか」

「……私は悪くない悪く無いったら悪くなぃ~♪」

「おいっ!」

「ふぁっ!? す、すいません、ちょっとトリップしてました」

「……あ、まぁ状況が状況だからな。疲労でも出て来たか?」


 やば、怪訝な顔をされてしまいました。


「だ、大丈夫です。全然大丈夫ですから、そんな心配されなくても大丈夫です」

「そうか? 普段と様子が違う……や、普段もさして変わらんか」

「おい」

「冗談だ」

「うぅ……冗談に聞こえません」

「ま、それはそうと少し早いが休憩を取るか」

「よろしいのですか?」

「ああ、視界も悪く慣れない迷宮のうえに竜気の件もある。知らず知らずのうちに疲弊している可能性は否定出来ない。無理はしないほうがいいさ」


 そう語ると、背後を振り返る。


「皆! 少し早いが小休止だ。恐らくこれが最後の休息になる十分休んでおけ!」


 最後の休息の言葉にピリッとした緊張が走る。


「警戒はボクがやっておくから、今のうちに水分なり保存食は摂っておいてくれ」


 黒エルフ(スヴァルトアールヴ)達の顔には緊張は宿っているがアドバイス通り飲食は出来ているようだ。

 なるほど、蟻という脅威と戦い続けて故郷を守ってきた戦士たち。流石ですね。

 とにもアルくんには変な心配のさせ方をさせてしまいましたが、周りに疲労が見え始めていたのは事実。

 何よりもあの喋る厄災ダリア殿が無言だったのがその証拠だろう。

 小休止出来ることは結果オーライとしましょう。


「なんか無理矢理納得しているみたいな顔だな」

「勘の良いことで……じゃなくて、気のせいです」

「本当に大丈夫か?」

「本当に大丈夫です、私は正気に戻りました」

「はぁ?」

「何でもありません本当に大丈夫です。それはそうと最後の休憩という話でしたが、ここは迷宮と呼ぶわりには随分と浅いようですね」

「浅いというのは、【古代神ガードの迷宮】に比べてか?」

「はい」

 

 咄嗟に出た質問。

 本当に聞きたかったこととは別なことを聞いてしまった。


「古代神の迷宮が特別に巨大だとしても、城塞都市で宮殿や古城が原型にあるにしては、ここは些か小さいかと思うのですが」

「そうだな、世界崩壊以前のここは確かに風光明媚で巨大な都市だったという。だが、原形を止めていたのは魔皇帝ヴィシャスが邪竜レヴァンを支配するまでの話だ」

「そいつらが古代の遺跡を破壊した」

「直接そいつらと言うか、正確に言えば七日七晩続いた戦闘で崩壊したんだがな」

「もしかして英雄王様と魔皇帝の戦いですか」

「ああ、まぁその戦いでもここまで酷い崩壊はしていなかった。恐らくは、その後に知性の大半を失った成れの果てと蟻どもに破壊し尽くされたんだろう。【古代神ガードの迷宮】が《最も暗き迷宮》の二つ名を持っているように、さしずめここに二つ名を付けるなら《最も穢れた迷宮》ってところかな」

「最も穢れ、た……」

 

 滲み出る隠せない嫌悪。


「あ、そうでした」

「うん?」

「自分から聞いておいて何ですが、他に聞きたいことがあったんです」

「何を聞きたいんだ」

「先ほどの戦いです」

「先ほど?」

「今までと全然違う戦い方ですよね。まるで手探りのような」

「ああ、そのことか」

「やはり自覚があってやっていたのですね」

「……ファフナ、お前はボクに兄が居るのは伝えてあったな」

「それはしっかりと覚えています」


 ええ、忘れるはずもありません。

 それだけは、忘れることが出来な――いえ、忘れることは許されない私の過ちでもありますから。


「無意味、って分かってるはずだったんだ」


 それは、不意に語り始めた兄に対する彼の思いだった。

暑いですね。

全ては夏の暑さが連れてきた怠け癖です。

御盆暑かったですね。

皆さん、夏は堪能されましたか?

私は暑くてバテてました。

庭で炭をおこして焼肉しまくったとか、浴びるように酒を飲んでたとか、そんな事実は決して無いはずです。

是非もなし!!

それでは皆様、近々お会いしましょう!

おさらば!

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