静かな熱量
ある意味戦闘中の閑話(一息)
歓声を上げる私たちの元に、気怠げにナイフアクションをしながら戻ってきた。
「なんだか随分と賑やかだな」
「あのような戦い方を見せられれば、誰もがこうなりますよ」
「あのような戦い?」
「目で追うのさえも精一杯。そんな戦いは異次元過ぎるってことですよ」
「そうか」
「何だか不満そうですね」
「ちょっと手こずったからな」
「え、手こずった?」
「ああ。出来ればコイツら相手にもう少し練度を上げたかったんだが、正直そこまでの余裕が無かった」
あれで余裕が無い?
最早ツッコミ処満載過ぎて言葉も出ないんですが。
「出来ればもう少し試したいことはあったんだがな、大して練度も上げられないまま手早く駆逐するしかなかった」
「人はそれを余裕と言いませんか?」
「他人の言に意味は無いよ。大切なのは自分がどう思うかだ」
前までのどこか拒絶しているようなつっけんどんな物言いでは無い。
言葉こそ少ないですが、珍しく自分の事で感情が燃えている気がした。
いつもどこか変に達観しているというか浮世離れした印象を受ける人ですが、今はただ純粋に強くなりたい、そんな強い感情が言葉の端々に滲んでいるように感じた。
「とりあえず潜入組は誰一人怪我は無いようだな、蟻相手によくやってくれた」
「はい、蟻との戦い方を道中で教えてくれたおかげです!」
スピラさんが鼻息荒く食いつく横で、ダリア殿がウンウンと力強く頷く。
人のことチョロいとか言ってくれやがったくせに、貴女こそチョロいじゃないですか。
まった、く……はぁ? チョロ、い…………だと?
な、なんですと!?
まさか、この女……
「ん? どうしました、怖い顔してますよファフナ様。お腹空きましたか?」
「誰がわんぱくか!」
こんな殺伐としたところでお腹が空くかっ!
ぐぬぬぬぬ……
何度も何度も反芻していますが、改めて今度こそずぇったぃに揺るぎなく確信しました。この女に口を開かせちゃダメだ!
ダメ絶対!
「がるるるるる」
「古代遺跡の迷宮だってのに、犬のモノマネか? ずいぶんと余裕だな」
「ちがいますぅ、余裕じゃ無いですぅ! もう、色々と何だかわからないモノまでゴリゴリとすり減ってますぅッ!」
「お、あ、あぁ……そ、そうか、ごめん」
「あ、いや、私こそすいません八つ当たりみたいな返しをして」
「いや、いいさ。そりゃこんな迷宮の中じゃ軽口の一つでも叩いてないと、気疲れですり切れるよな」
うぅ……
それを否定はしませんが、主にすり切れる原因はそればかりじゃ無いんですぅ。
「取り敢えずメンタルは自分でなんとかします。これからどう動けばいいのか指示をお願いします」
「すり切れてるなぁ……自分でなんとかするって言ってるヤツは大概かなり限界だぞ。ホントに大丈夫か?」
「ここまで来たらあとはもう少し頑張るだけですから。このダンジョンを攻略したら一杯愚痴らせて下さい」
「変な悲壮感を出すなよ。まぁ、実際の話、あとここから先は戦略って言う程のものはないから、気合い入れるしかないんだけどな」
「今までも十分過ぎる程気合いを入れてきましたけど」
「ああ、あとその十倍ほど絞り出してくれ」
「………………なんですと?」
サムズアップをしながら今まで見たことの無い笑顔で地獄に突き落とされた瞬間だった。
次回戦闘再開予定です






