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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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トレーニング

暑いですね。

北の大地も燃えています。

読者の皆様、熱中症にはどうかお気を付け下さい。

 分厚い金属が擦れるような音。

 それなのに、まるでスズメバチ、いやトンボさえも超える軽やかさで蠢く殺戮蟻。


 まったく違う。

 まるで別物。

 精鋭級と雑兵の差は、素人目にさえも分かるほど明らかに違いすぎた。

 超重量と超速度という相反する属性の高次元での融合。

 ああ、そうか。

 西国において厄災と恐れられた殺戮蟻は、私たちが戦ってきたような有象無象のことではなかった。

 いま、彼が戦っている蟻こそが黒き厄災だったのだ。

 

 吹き荒れる蟻酸。

 柳の枝さながらに予測不可能な軌道で襲い来る脚。

 その一つ一つが明らかな致死性を帯びた暴力そのもの。


 町中に一匹迷い込むだけで、その都市が壊滅する――


 言うことを聞かない反抗期の子供を躾ける為の創作だと思われた寓話のそれは、だが、間違いなく真実だった。

 スピラさんをはじめとする黒エルフ(スヴァルトアールヴ)達が、ダリア殿が、青ざめながらも固唾を飲んで見守っていた。

 そう、吹き荒れる超高次元の暴力の中でさらにその数段上の次元で戦闘をしている者がいるからだ。

 首が切り落とされたと錯覚するほどの接近戦、降り注ぐ蟻酸がまるで身体をすり抜けていくような錯覚。


「なんですか、あれ……」


 ダリア殿が震える声で絞り出す。


「精鋭クラスの蟻の恐ろしさは、嫌ってほど分かりました。分かりましたけど! アルフォンスさんのあの戦いって、なんなんですか!?」


 ヒステリックな叫び。

 だけど、仕方が無いとさえ思えた。

 それほどに、彼の戦い方は――


「天才なんて言葉がほんとチープに聞こえ霞むほど、つくづく怪物ですよね」

「凄いとか、羨ましいとか、妬ましいとか……そんな感情を持つこと自体が馬鹿らしく思えますよ」


 古の英雄達を前にした凡百の戦士達が抱いた感情とは、恐らくこんな気持ちだったのだろう。

 しかもこの戦い方。

 まるで何十年と研鑽し積み上げ身に染みた戦い方のようにすら見えるが、その実、東国に来てから彼が自ら切り開き身に付けた戦い方だ。

 時が戻る前の彼のそれは、速さこそあったが一撃一撃に重きを置く単発攻撃系だった。

 あの時の戦い方は恐らく彼のお兄さんアルフレッド二世の戦い方を模倣していたんじゃないでしょうか。 

 心境の変化が何処にあったのかは分かりませんが、いえ、恐らく巻き戻る前に敗北したということを聞かせたのが切っ掛けだったんでしょう。

 それはそれとして、戦い方を自分流に合わせただけでここまで強くなるとは。


 鳴り響いていた重たい破壊音が、程なくして空を切り裂く音に変わる。

 今まで避けらるだけだった攻撃は標的を見失い迷宮を破壊していたが、今や炎の剣で軽く受け流され宙を彷徨っていた。

 まさかあの人……

 いや、今更か。間違い無いですよね。

 過酷な道中がそうであったように、あの人は精鋭クラスの殺戮蟻を相手にトレーニングをしていたのだ。

 付け焼き刃だったはずの技量は、より近く、より鋭く敵の懐に飛び込み最も危険な爆心地でその刃に火を入れた。

 付け焼き刃(もぞうとう)はやがて鋭い刃を纏い、本物へと至った。

 ただそれが、非常識としか言えない程の速度で模造刀が名刀に化けていくんだから近くで見せられている方はたまったもんじゃないんですけどね。


 やがて、

 精鋭蟻の最後の一体(・・・・・)が断末魔の悲鳴を上げ、その鈍色の頭が迷宮の硬い床に転がった。

 ゴロ……ゴロ……

 と、まるで鉄の塊が転がるような重い音だけが響く。

 歓声一つ上がらない勝利。

 アールヴにとって強さとは象徴であり強い憧れだ。

 圧倒的強さを見せた。

 それなのに歓声一つ上がらない。

 マズい、かも知れない。

 強大すぎる力は恐怖を呼びかねない。

 地上にあまねく命達が魔王という存在に怯えるように。

 そうなれば、最早同盟どころでは無い。

 最悪は同盟を持ちかけた相手との戦争、良くても、恐怖による併合という形で国政を進めることになる。

 良くて?

 何を言っているんだ。

 獣王国という強国と戦わねばならないのに、同盟相手が恐怖で縛り付けた味方など何時裏切るかも分からない最悪な爆弾を抱えているのと一緒だ。

 どうするんですか?

 貴方ならこの空気になることは想定内だったんじゃないですか?

 いつも二手三手先を、いや、五手十手先を読んで人を手玉に取る貴方が、まさか無策なんてことは……


 そこでふと思い出す、この人の未来視のような先の読み方(・・・)


 人の怒りや悪意を逆手に取り、より悪辣により狡猾に、まるで蜘蛛糸の粘性を持つ真綿で首を締め上げるような策士だ。

 ここ最近は戦闘ばかりで忘れかけていましたが、必要であれば平然と詭道も使いこなす生粋の謀略軍師タイプ。

 ……あれ?

 こなした策略というか罠だけ見たら、人に寄り添うタイプとは真逆か?

 もしかして、今の状況って積んでます?

 あ、これ私がフォローしないと行けないヤツだ。


「み、みなさ」

「ファフナ様ファフナ様!!」

「みなさ……へ、な、なんですか?」

「見ましたかいまの!!


 震え怯えていたのもどこへやら、ダリア殿は興奮を隠せぬとばかりに満面の笑みを浮かべる。

 圧倒的恐怖が限界点に達した結果、一周回って歓喜に変わった?

 え、ありますそんなこと?


「凄すぎます、アレってもはや英雄級ですよ! いえ、すでに英雄級だったのは知っていましたが、今のアルフォンスさんは間違い無く英雄級です! 伝説の英雄王を支えた百英雄の再来です! もしくは英雄王の再来みたいですよ!!」

「ひゃくえい、ゆう……」

「百……」

「え、英雄、王……」


 それは黒エルフ(スヴァルトアールヴ)達の間に、さざ波のように広がったうねりであった。

 だけどそのさざ波が、恐怖を拭い去り希望を抱かせる光を生み出した。

 

 元々が強者に憧れる種族の特性、か。

 恐怖を拭い去れば憧れが芽吹くのは当然と言えば当然かも知れない。

 いや、殺戮蟻や凍れる魔人(イス・アールヴ)による支配という恐怖を味わったからこそ、自分たちを救う英雄を求めていたからこその感情の反転ってところでしょうか。

 取り敢えずは、何と言うか上手く纏まった感じですかね。

 ちょっと釈然としないものはありますが、今は取り敢えず無邪気にはしゃいでるダリアさんに感謝するとしましょう。

安定の深夜更新。

読んで下さる読者様本当にありがとうございます。


……あれ?

前書き後書きがいつになくマジメだぞ。

暑さのせいですね。

お休みなさい!

皆さんも良い夢を!!(*´ω`)ノシ

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