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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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思い出

心情描写は難しいですなぁ

 清浄な風が吹き込んでいるとは言えそこは瘴気に数千年も支配されていた古城。

 辺りはまるで死人が徘徊し続けたような穢れが染みつき、それ(・・)は今にも這い出しそうな影のようだ。


「うぅ……こんな所でだけは、おいてけぼりになりたくないですね」

「同感ですね。出来れば、こんなところに踏み込むことも人生の中ではあってほしくなかったです」


 そして、訪れる沈黙。

 ちなみにですが私たちと行動を共にする六名の黒エルフ(スヴァルトアールヴ)達は、この古城に飛び込む選抜隊に決まった時点で沈黙していた。

 正直、ダリアさんが軽口のように呻いたのもこの重苦しい雰囲気に耐えられなかったからだろう。


 ただ、そんな中でもただ一人、周りの緊張など何処吹く風。

 まるで観光地を物珍しげに見物する旅行客のように興味深そうに辺りを見渡す少年の姿が。


「そんなに物珍しいのですか?」

「ん、警戒はしているぞ?」

「あ、いえそうではなく。こんな不気味な城だというのに、興味深そうだったので」

「不気味……まぁそうだな。かつて彼奴が」

「彼奴じゃありません、カーズ様です」

「あ、ああ、カーズ」

「様」

「がこの地は世界崩壊以前は城塞都市と呼ばれていたと語っていた。古城の中心にはシルヴァンシャー宮殿や乙女の塔と呼ばれる美しい建築物が連なり、王族の霊廟が奉られた静謐な空気を纏った地だったらしい」

「伝説の英雄王が語る古、ですか」

「ああ、かつて超大国と呼ばれた国が一晩で崩壊し、赤い津波に世界が呑み込まれる以前の話だそうだ」


 それは巻き戻る前に聞かされた話。

 私たちアールヴ族や獣人族、いや、この世界で生きるあらゆる生命が、その大崩壊から逃れる為に生み出された生物だということ。

 そんな、残酷な真実に繋がる時代の話だ。


「この古城は大崩壊以前の遺跡なんですね。ん? と言うことは、もしかして西国で見付かっている古代遺跡とは」

「正解だ。今見付かっている大多数の遺跡は大崩壊以前の都市だな。世界一有名なところだと、古代神ガードの迷宮国はかつてエジプトと呼ばれていたらしい」

「かつて……そう、ですか。その地に栄え失われた地上の都市の名ですか」

「まぁ世界が引き裂かれ大地が赤い津波に埋もれる以前の話だ。地形もだいぶ変わっているだろうからそこで栄えたかどうかは今は誰にも分からないが、地上に文明があった確かな歴史の跡ではあるだろうな」

「歴史、お好きなんですね」

「好き、か」

「お好きではないのですか?」

「ん……きっと、好きなんだろうな」

「何だからしくもない煮え切らない返答ですね」

「昔、何一つまともに出来なかった頃、寝る前に母さんがよく読み聞かせてくれたのが遠く遠い昔の世界の話だった」

「でしたら、やっぱりお好きなんじゃないですか」

「……そう、だな。初めて自分が興味を持ったモノだっからな」


 どこか遠い目。

 太古とも言えるような古を見つめる目、とも違う。

 まるで、何かを噛み絞めるみたいなそんな目。

 その瞳にどんな思いが宿っているのかは想像しか出来ない。

 いや、想像することしか出来ない、そんな私がこれ以上想像するのも踏み込むのも無粋ですよね。


「ん……やれやれ、無粋なのかちょうど良いタイミングなのか」


 私の心のつぶやきとリンクしたみたいなドキリとするような言葉を呟いた次の瞬間、両手に宿る炎霊王(ゼタルーラ)の短剣が一際明るい光を放つ。

 刹那走る緊張。


「左前方、数は百、兵隊と雑兵の蟻混成部隊! 左奥に三体の精鋭クラス!!」


 怒号にも似た報告に緊張が走る。


「ファフナ!」

「はい、お任せ下さい! 貴方もお気を付けて!」


 横顔のままニヤリと笑うと、二筋の赤い閃光と成って暗闇へと消えた。

深夜更新にお付き合い頂きありがとうございます。



次回からガッツリ戦闘です

お付き合いのほどよろしくお願い致します。

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