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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
256/266

突撃

この更新ペースだったら、三部作とか言ってる状態じゃ無いかも知れぬ……

完結前にオイラの寿命が来ちゃう><

 アルくんの纏う気配にピリピリとした刺々しさが宿る。

 私が喋る雑音製造機(ダリア殿)に虐げられてるうちに、アルくんはいつの間にか戦闘モードに移行していた。

 ……いや、端から戦場なのですから、ヒリついた空気を解除するのが非常識なのだ。


炎霊王(ゼタルーラ)よ、この暗闇を(モルーク)切り裂く(グラム)松明を灯せ(ファイアブランド)


 ゴウツ!


 と音を立て、両手に生み出した炎の短剣。

 離れているのに、皮膚に突き刺さるほどの熱量。

 高炉の前に立っている気分です。


「あばばばば、ファフナ様ファフナ様!」

「どうしましたか?」

「どうしましたかじゃありませんよ! アルフォンスさん、今あっさりと(ルーラー)の力で炎の剣を作り出しましたよね?」

「ええ、まぁ炎霊王(ゼタルーラ)を使役出来るでしょうから、不思議はないか――」

「何言ってるんですか! この間は炎霊(ゼタ)ですよ、炎霊(ゼタ)! 炎霊(ゼタ)よ、この暗闇に(モルーク)松明を灯せ(ファイアブランド)と唱えたんですよ!!」

「いえ、それは分かってますけど」

「分かってません! 断言します、分かってません!」

「念押しすんなや……」

「良いですか、ただでさえ気性の荒い炎霊(ゼタ)を剣という形に収めるのでさえ一苦労だというのに、さらに気位が高い(ルーラー)に向かって自在に命令を下すなど、もはや常識の外に過ぎます!!」

「ああ、まぁそうですねぇ」

「な、何と言う気のない返事」


 私の塩過ぎる反応に、ダリア殿がガックリと肩を落とす。

 いえ、まぁ凄いとは思いますよ。

 凄すぎる位だし、たぶんダリア殿の反応が普通なのも分かります。

 分かりますけどね。

 ええ、もちろん分かりますとも。ですが私はその反応を時が戻る前に散々やってきたのですよ。

 散々過ぎるほど間近で非常識な力を見せ付けられてきたのですから、そりゃ驚き慣れというか、いちいちリアクションしていたらこちらの身が持たないというかですね。

 まぁ、ようはアルくんのことは私が一番熟知しているから驚かず温かく見守っているだけなのですよ。


「……なんですか、その勝ち誇った顔は?」

「いえ、何も。そんなことよりも、私たちもアルくんに続きましょう!」

「そ、そうですね、私も腹を括ります。炎霊(ゼタ)よ……」


 手の中に火球を生み出す。


「炎の剣は使わないのですか?」

「先ほども言いましたが、炎霊(ゼタ)は気性の荒い精霊です。剣に収めるなど、そんな窮屈な真似はさせられません!」

「えっと……直訳すると成功する自信ないから火球にした、ってことですね?」

「ほっといてください」


 ムスッとしていらっしゃる。

 そう言えばダリア殿はこの古城に着くまでの間に何度か炎霊(ゼタ)を召喚していたが、何度か爆発してチリチリ(・・・・)になってましたね。

 敵を巻き込んで爆発していたから新ワザの練習かと思いましたが、ただの自爆だったのですね。

 ふっ……少し溜飲が下がったのは秘密です。


 あ、いけないいけない。

 こんな品の無い事を思うとか、少しやさぐれていますね。


 って、そんなことよりも、私がいま考えるべきことはこれからの動きだ。


『風穴開けたらぶちかます』


 ………………あれ?

 私は記憶障害を起こしたんでしょうか?

 思い起こせばここから先の作戦って、ザックリというか敵が居たらぶん殴れ的な脳筋ぱわふるな作戦しか聞いてない気が……


「よし、風穴もブチ開けたし瘴気も吹き飛んだ。数千年も引きこもった腐竜退治と行くか」

「えっと、方法をお聞きしても?」

「斬る」

「……KILL?」

「二度とこの現世で悪さが出来ないように消滅させてやる」

「ああ、やっぱり具体的な作戦も無くただ倒すだけなんですね」

「このお二人の会話は噛み合ってるんだか噛み合ってないんだか」

「他人事みたいに言ってますが、先頭切って突撃するメンバーには間違い無く私たち二人も含まれてますからね」

「え゛ マ、マジっすか?」

「大マジです」

「あぁあぁぁぁぁ……」

「五月蠅いぞお前達」


 これから起こる大惨事。

 その事実に打ちひしがれる私たちを余所に、この腹黒様はまるで短距離でも走るような気軽さでストレッチをしていらっしゃった。


「一応聞きますが、何をしてるんですか?」

「ん? ストレッチ」

「や、それは知ってますが。そうじゃなくてですね」

「安心しろ」

「今までの会話で安心要素が皆無なんですが……」

「竜族の面汚しはボクが直接手を下す。お前達は露払いをやってくれ」

「露払い」


 邪竜の周りに居る者を倒すという恐怖。

 だが、それよりも気になるのは、お気軽な口調だけども隠すことの出来ない邪竜への怒り。


「一応言っておくが、今のお前達なら雑兵蟻どころか兵隊蟻にだって余裕で勝てるからな」

「私たちはがそこまで……本当ですかアルフォンスさん!」


 あ、ダメだこれ。

 恐怖とか疑念よりも、自分が強くなったことを聞かされて浮かれてる。


「ああ、ただ――」

「ただ、何ですか?」

「恐らくだが中には女王がいる。と、なると女王を守っているのは将クラスだ。ソイツらが居たら間違っても手を出すな、ボクが戦う」

「女王って、蟻のですか?」

「ああ、そうだ」

「と言うことは、アルくんは邪竜の巣に殺戮蟻が紛れ込んでるのではなく、邪竜と蟻が共存しているとお考えですか?」

「共存か……そうだな、ある意味共存だと思っている」

「含みますね」

「確信がある訳じゃ無い。ただ、最悪の予想も必要だからな」

「最悪の予想ですか。では、もしアルくんのその最悪が的中したなら私たちはどのような立ち回りをすればよろしいでしょうか?」


 私の問いかけに、アルくんが少し意地の悪い笑みを浮かべる。


「一匹でも町に入り込めば厄災扱いだ。なら答えは一つだろ」

「まさか……」

悪・即・斬サーチアンドデストロイ悪・即・斬サーチアンドデストロイだ!!」

「ですよねー!!」


 風穴の空いた古城へ喜々として飛び込むその背に、私は頭を抱えるのであった。

次回、ダンジョン(予定)です!

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