表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
251/266

驚愕の手法

結構長めに書きました!

更新遅れたのはこれでちょけしだ!(๑•̀д•́๑)キリッ

 キン……チャキ……


 どこか遠くから、金属音が聞こえてくる。

 この音はどこかで聞いたことがある。

 どこ……だったか……


 カン……キッ……ザスッ……


 ……?

 ふとのうりによぎるそれは、私自身経験こそすくないが戦場できいたそれによくにていた。

 そうか、ちかくでせんとうがおきて……

 ……?

 せん、とう?


 頭に靄がかかったまま辺りを見渡せば、テント越しでも分かる夜も明けきらぬ薄暗さ。

 そして隣には大の字で寝ているダリア殿。

 静かな明け方。

 だけど、それはどこか異様であった。

 早朝の朝靄に濡れた森特有の鳥たちの囀りさえも聞こえない。

 ピリピリと肌を刺すどこか異様な空気を纏った静寂。

 そこに――


 キンッ……カッ……


 朝靄の中にかすかに響く金属音。

 まるで場違い。

 長閑な小麦畑で、剣戟を見せられているような……

 剣、戟……?


 ッ!!

 

 気のせいなんかじゃ無い、これは極上の違和感だ。

 なんでこれほどの異変に気が付かなかった?


「ダリア殿起きて下さい! 敵襲です!!」

「んが!?」


 健やかに寝ているダリア殿に枕を叩き付ける。

 って言うか、私が言えた事じゃありませんが貴女も武門の家柄なら真っ先に気が付いてください。


「なにやつ!?」

「何奴じゃありません! 何時まで寝ぼけてるんですか、起きなさい敵襲ですよ!!」

「てきしゅ……ッ! 何奴!?」

「その何奴(・・)はあっていますが、ちゃんと状況把握出来てますか貴女?」

「私は正気に戻りました」

「………………とにも外では戦いがすでに始まっています、急ぎましょう」

「随分静かいうか、変に音が遠いですね。近いのか、遠いのかすら分かりません」

「恐らくはすぐ近く、いえ、間違い無くすぐそこで起きています」

「ファフナ様はこの異変、何が起きているのか知っているのですか?」

「話は後です、アル君の加勢に急ぎましょう」

「アルフォンスさんがすでに戦ってるんですか?」

「間違い無く」

 

 そう、私とアル君はこの戦いを経験している。

 いや、私はこの異常を一度経験している。

 精霊力とも魔術とも違うこの異質を。

 そして、疼くのだ。

 あの時、敵に無様に捕まり【砕けた石のナイフ】で貫かれた心臓が。

 無様な醜態を晒して……

 

「ッ! 急ぎましょう」


 テントから飛び出すと、刹那、鳥肌が立つほど異様に冷たい朝靄が肌に纏わり付く。

 そして静寂。

 辺りからはまるで音が聞こえない。

 誰の気配すらも無い。


 ポンポンポンポン――


 不意に肩を叩かれ振り返ると、ダリア殿が一生懸命何かを訴え掛けている。

 何か、と言うのは本当に何か、としか言えなかった。

 と言うのも、たぶん喉がかれるほど大声で訴え掛けているんだろうけど音が何一つ聞こえてこないのだ。

 あ、そうか。

 彼女はいま何が起きているのか分からないのだ。

 取り敢えず身振り手振りし、アルトリア軍の視覚信号(ヴィジュアルシグナル)で説明する。


『これはただの不思議事態、おーけー?』

『らじゃ』


 うん、深く悩まれなくて良かった。

 細かい説明を必要としない脳筋バンザイ。


 それにしても耳鳴りがするほどの静寂。

 気配もまるで朝靄に溶け込んだかのように希薄だ。

 だが――

 どこが戦場なのかはすぐに分かった。

 そう、有り得ないほどに血の臭いだけは濃くなっていくのだ。


『こっちです』

『らじゃ!』


 ……コイツ、視覚信号(ヴィジュアルシグナル)とはいえやたら簡単な返答、というかサムズアップしかしないな。

 まさか、視覚信号(ヴィジュアルシグナル)を覚えていない?

 いや、上級騎士なら流石にそれは無いですよね。

 無い、ですよね?


 とにも、今は脳筋騎士よりもアル君です。

 走れば走るほど強まる気配。

 傷付けられた心臓が早鐘みたいにわめき散らす。


 そして――


 喉が、我知らずにゴクリと鳴った。

 あの病的に青白い肌と氷のように透けた髪は、あ、あれは……まさか……竜王ラースタイラントの僕……

 

『『魔界の住人……凍れる魔人(イス・アールヴ)……』』


 その姿に、私とダリア殿の声が、いや、思考が重なった。

 実物は初めて見る。

 だけど、私たちアールヴは知っている。

 いや、アルトリアに生きる者なら誰もが知っている。

 遠く過ぎ去った古き世界で悪魔に魂を売ったアールヴの成れの果て。

 五百年前、竜王ラースタイラントの先兵となり当時地上最強と謳われた【古代神ガードの迷宮国】のドヴェルガー族を皆殺しにした悪魔。 


 我知らずにダリア殿と視線が絡み合った。

 ダリア殿の瞳が恐怖に凍えている。

 いや、おそらく彼女の瞳に映る私の姿も恐怖に凍えているはず。

 まさか、黒エルフ(スヴァルトアールヴ)の町を襲った怪物の正体は殺戮蟻だけじゃなかったのか?

 

 マズい、敵の正体が凍れる魔人(イス・アールヴ)ならいくらアル君でも……

 アルく……ん、で、も……


 は、はは……

 私は、何を勘違いしていたんだろう。

 彼が規格外の強さを持っている何てことは端から分かっていたこと。

 ええ、そんなことは分かっていたことだ。

 薄暗い朝靄の中を幽鬼の如く彷徨う凍れる魔人(イス・アールヴ)に気を取られ失念していたが、ここは血の臭いで溢れている。

 戦闘?

 戦場?

 いや、そこで行われていたのは一方的な蹂躙だった。


 地面に転がる十数体の凍れる魔人(イス・アールヴ)

 そして、未だ微かに聞こえる剣戟の中に混ざる濃密な血の臭い。

 そう、アル君が戦っていた。

 いや、これは戦いとか蹂躙なんて言葉すら生ぬるい。

 そう、これは、これこそが虐殺だ。

 視界に捕らえるのさえも難しいほどの速さで、地面も壁も関係なく、大地を蹴り空を蹴り空間そのものをさえも閃光と成って蹂躙する姿。

 朧の如く姿を見せたと思えば次の瞬間には再び姿をかき消し敵の魔術を粉々に切り刻む。

 その姿は、まさに死神そのもの。


――――(みつけた)


 アル君の口が微かに動いたと同時にまるで舞うように空を蹴った。

 血飛沫が舞った。


『――――――ぉあぁぁぁあおぉぉああぉぉぉぉっ!!」


 無音の中で上げ続けた絶叫が突如聞こえて来た。

 それと同時に辺りを支配していたプレッシャーが霧散する。


「やれやれ、これで鬱陶しい縛り(・・)も消えたな。先に潰した移植者(オド)といま潰したコイツ以外にもまだ移植者(オド)は居るか?」


 燃え盛る短剣で器用にナイフアクションを見せながら、生き残った凍れる魔人(イス・アールヴ)に静かな恫喝を叩き付ける。

 存在そのものが畏怖とさえ言える凍れる魔人(イス・アールヴ)が、目の前に現れた死神を前にガチガチと歯の根が合わぬほどに怯えだす。


 ゴロ……


 ッ!

 一瞬、あまりに一瞬。

 ただ、無造作に凍れる魔人(イス・アールヴ)の首が一つ転がる。


「敗残共、ボクが尋ねているんださっさと答えろ」

「わ、われ――」


 ボッ――


 また一つ首が刎ね落とされる。


「何か余計なことを喋ろうとしたよな? ボクは貴様らの矜持にも思想にも興味は――ああ、そうか。取り敢えず」


 まるで何かを思い付いたとでも言いたげに凍れる魔人(イス・アールヴ)を睨め付ける。


「全部消せば移植者(オド)が居ようと居まいと関係ないよなぁ」


 凍れる魔人(イス・アールヴ)達の相貌に戦慄が走る。

 その顔からはもう闘争の意志は見られない。

 まるで猛禽類を前にした野ネズミ。

 と、次の瞬間、凍れる魔人(イス・アールヴ)の一人が足元に向かって魔術を解き放ち爆風を巻き起こす。

 凍れる魔人(イス・アールヴ)の気配が猛烈な速度で離れていく。


「ファフナ!」

「はいッ! 風霊よ(ルシャ)この荒野で我に傅け(ヴァラスルオラン)


 私の放った魔術がアル君を包み込む。

 そう、これは巻き戻る前の時間軸でアル君が見せてくれた精霊術だ。

 彼のように風霊王(ルシャルーラ)の力を使役することは出来ないが、今の私なら風霊(ルシャ)の力を借りることは出来る。

 風霊(ルシャ)の加護を纏ったアル君の姿が掻き消えた。


「ギャーッ!」

「ごばあぁぁあぁぁっ!」


 離れた場所から聞こえてくる断末魔の叫び。


「全然別の場所から悲鳴が聞こえましたが」

「ただでさえ常識外れな速さを身に付けてる方です。風霊(ルシャ)の加護を受ければ――」

「戻った」

「うわっ!」

「戻られたのですね。お怪我は? 少し疲労が見えますね」

「怪我は無いよ。ただ、そうだな。ちょいと魔術を使った疲労はある」

「この状況説明は私が行います。皆さんが起きてくるまでまだ少し時間がありますから、休んでてください」

「ああ、悪いな。そうさせてもらう」


 気怠げな動作でテントに入る背中を見送るとダリア殿が私の食い入るように見てくる。


「な、なんですか?」

「何ですかじゃありません、何ですか今のやり取り!?」

「いえ、ですから何が何なんですか?」

「ああ、もう混乱する!」

「それはこちらの台詞です」

「ですから、あの熟年夫婦みたいなやり取りですよ!」

「じゅ、じゅく?」

「さっきのツーカーなやり取りですよ!」

「あ、さっきのですか? え、えへへ、ま、まぁ相棒ですし?」

「溶けきっただらしねぇ顔しやがって……相棒だったとしても、あまりに手慣れた連携じゃ無いですか」

「まぁ彼との共闘は今まで何度もしてますからね。表情を見れば何を求めてるのかはすぐにわかりました」

「その関係性が少しでも恋愛関係に生かせてたらもう少し仲にも進展があったんでしょうね」

「うるせぇです」


 この女一皮剥いた本性は厄災みたいな口の悪さだな。


「それにしても、そんな表情で気付くもんなんですか?」

「それなりに気付きますよ。今更ですが、昨夜のあの突然の睡魔も凍れる魔人(イス・アールヴ)の力が原因でしょう」

「もしかして、アルフォンスさんのあの眠気もそうでしょうか?」

「ええ、そうで無ければあの人があんなに無防備に寝るなんて……いや、違いますね」

「違う?」

「恐らく襲撃(それすら)も分かった上で睡魔の力を逆に利用して肉体の回復を図ったんでしょう」

「へ? 肉体の回復を図る為にワザと敵の術中に乗ったと言うんですか?」

「敵の裏をかく為ならそんな突拍子も無いことをやらかす方なんです」

「無茶苦茶にもほどがありますよ!」

「そうですね、実際強力な睡魔でしたから。だからでしょうね表情に少し疲労が見えたのも私に精霊術を任せたのも、恐らくは半醒半睡の状態で一晩中警戒していたんだと思います」


 ダリア殿の顔が凍り付く。

 ま、実際その反応は正しい。

 慣れない戦い方で疲労した身体を癒す為にあえて精神の回復を切り捨てるとか無茶にもほどがある。

 だけどこっちの心配などお構いなしにその無茶な方法をやるのがあの人なんだよなぁ……


「ファフナ様……どうしましょう」

「な、何がですか?」

「昨夜の女子会で私、結構な暴言吐いてましたよね?」


 女子会ぃ?

 若手男子兵の夜のノリみたいに腕挫十字固をぶちかます行為を女子会と言いやがりますか?

 しかもその勢いでミニマムタイラントがどうのとかばとんでもないこと言ってやがりましたよね貴女。

 ま、そんな彼女にはこの言葉を贈ってあげましょう。


「ご愁傷様です」

「あはぁあぁぁ……」


 珍妙な呻き声を上げて崩れ落ちたのであった。

 ちょっとだけざまぁとか思ったのは秘密中の秘密です。

お読み頂きありがとうごじゃります!

読者様引き続き応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ