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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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神に愛された者と才能無き者

どうも、お久しぶりです

仕様変更から二度目の投稿ですが、全然慣れてないので初投稿といっても過言では無いと思う今日この頃、皆さんはどうお過ごしでしょうか、わだすは元気だす。


と言うか、保存から投稿する方法がまじわからぬ!!

 隣のテントから小さな寝息が聞こえてくる。

 そう言えば寝息を聞くのは初めてかも。

 と言うか、こんなにも無防備な寝姿を晒すとは。

 何時もは寝ているときでさえも気配を消しているのに、疲労がかなり溜まっている証拠だろう。

 本当は一緒のテントが良かったのですが、あ、別にくんかくんかしたいとかえっちぃことしたいとかじゃ無いですよ。

 本当ですよ?

 ほら、殺戮蟻の襲撃があったりとか何かと不穏な地域ですから、そう言った意味で同じテントが良いと言いたいのです。

 ただ、あんな熟睡モードに入っているアル君の睡眠を邪魔する気には流石になれないですから。


 それに……

 同じテントの中というか、すぐ近くからは口角が上がっているだけのはずなのに、


 にまぁ……


 と効果音を付けたくなるよな笑みが私を襲っているのですよ。


「それでそれで、聞きたいことがるのですが」

「……もう寝ませんか?」

「寝るのは柩に入った後に好きなだけ出来ると言うのが我が家の家訓です」

「何と言う脳筋はた迷惑な家訓を持ちやがるのですか」

「それでですね、まず聞きたいのはアルフォンスさんの戦い方が変わったということと本命はもちろん――」

「人の話は聞きましょうよ」

「でも、何が切っ掛けで好きになったとか語りたいですよね? 語りたいに決まってます! 貴女の次の台詞は『もちろん語りたいに決まってます』と言う!!」

「もちろん語りたいに決まってます! はっ!?」


 私は今何を……


「ふふふ、さぁいま言いましたよね! 言いましたとも!!」

「な、なんのことやら……」

「アールヴの発言は盟約です!」

「こんなゆるゆるな会話が盟約になってたまりますか!」

「ぐぬぅ、なんと往生際の悪い! 良いんですか私がこのまま意味も分からずアルフォンスさんを好きになって襲いかかっても!」

「本当に意味がわからない!?」

「そう思うなら、さっさと好きになった経緯とか、彼の強さの秘密とか話やがれです! とあっ!!」

「うぎぃ!?」


 毛布一枚で地べたに寝転がっていた私に、突然としか言いようのない勢いで腕挫十字固を決めやがる!


「あ、あばば、あばばばば……ぎ、ギブ、ギブ……」

「話しますか? 話しますよね!!」

「は、話すから、話すから! 離しなさい、このおバカ!!」

「素直にしていれば、痛い目に遭わなかったものを」

「いだだだだ……」


 な、なんという暴論。

 旅の最中に見せた(スノトラ)への敬意は何処に行ったのやら。

 今はただ好奇心が抑えられないとばかりに目が爛々と輝いている。

 ぐむぅ……

 とは言え、これもアールヴらしいと言えばアールヴらしさか。


「それで何から聞かせてくれやがりますか?」

「じゃ、じゃあ、えっと……あの人が強くなった理由、から?」

「チッ、そっちかよこのクソチキンが……」

「うるせぇです。聞く気が無ぇならもう寝ます!」

「あ、嘘です嘘。それでそれで、どんな理由が強さの秘密なんですか?」


 好奇心猫を殺すって言葉を知るべきですね、この方は。

 ま、それはそうとアル君を語れるのはやぶさかではありません。

やぶさかではありません!

 ええ、何せ私の相棒ですから。

 相棒なのですから!!

 相棒を名乗れるのは私だけなのですから!!!

 ふんすっ!!


「な、なんですか、唐突なその目の輝きと鼻息は……」

「気のせいです」

「……そうですか?」

「そうなんです!」

「おふぅ……そ、それで」

「えっと……ああ、強さの秘密でしたね」

「恋心の秘密でも」

「……それはまた次の機会にでも」

「チッ」

「だから舌打ちやめようや。それでですね、えっとアルくんにはお兄さんが居るんです」

「それがどうした、私にもおるわい」

「口が悪いなぁ、被ってた猫何処に捨ててきやがりましたか」

「おっとつい、それで続きプリーズ」

「ホントに聞く気があるんだか……とにも、そのお兄さんって言うのが、アル君にとっては目標であり絶対に越えられない壁……みたいな人だったみたい」

「越えられない……身長的な意味ですよね?」

「……そこら辺の話は聞いたことはありませんが能力的な意味ですよ。あの人の口から聞いたことはありませんか、『ボクは弱いから』みたいな言葉を」

「ああ、そう言えば初めて会った頃、馬車の中でそんなことを呟いていたとかリーヴァさんが言ってたような……あの頭脳と性癖がちょっと病気方面なリーヴァさんが、膝枕をしてハイな気分になった勢いで妄言吐いてるだけかと思ってました」

「膝枕!? 何それ気になるんですが!! ぐぬぬ……あのお腐れ様、私の許可も無く何を勝手なことやりやがっているのやら……」

「とりあえずその怒りは置いておいてですね、え? もしかして、アルフォンスさんのお兄さんって、あのミニマムタイラントよりも強いんですか? それって本当にヒトのカテゴリーに収めて良い存在ですか!?」

「ぐぬぬぬ……リーヴァさんにはあとでキッチリと……へ? あ、ああ、えっと何か今聞いてはならないパワーワードが聞こえた気がしますが、ここはあえて華麗にスルーさせて頂きます。で、強さでしたね? アルくんの言葉をそのまま借りるなら、確か……武の神様や魔術の神様が本当にいるのなら、お兄さんほど神様に愛された人はいない。そう言わしめるほどの天才だったらしいです」

「おぅふ……」


 何とも言えない呻き声と共に沈黙する。

 そりゃまあ、あの異常とも言える強さの更に上を行く存在なんて、常識の外に過ぎるというもの。

 だけど存在するんですよ。

 まぁ、今更とやかく言う気もその資格も私には無いのですが、あのアルフレッドに連なる者だと言えば納得が行くというものでしょうね。

 もっとも、その名前は……

 失われた時間の中とは言え、あの人を傷付けた私には口が裂けても出せませんが。


「アル君は、そのお兄さんのことが大好きで目標で、きっとそのお兄さんの影を今も追い続けてたんだと思います」

「兄さんの影を追う……」

「そのお兄さんがどんな人かは知りません。でも、アルくんから聞いた話から推測するなら、いえ、きっとそれは推測じゃ無くて……」

「推測じゃ無くて……」

「おそらく、アルトリアの大地が黄金の麦穂で優しく命を包み込んでいるように、あの人にとっては、とても力強く優しい方だったんだと思います」


 以前の私なら、到底信じられなかった。

 アールヴにとって、いや、ヒト種以外には絶対悪とも言えるアルフレッドという存在。

 老人とも、魔女とも、古の亡霊とも、アルフレッドという名の悪辣な集団とも噂されたモノの存在が残した血。

 その存在が今やアルトリア(多種族)の未来を紡ぐ希望に繋がっているなどどうして信じられようか。

 今でも、アルフレッドへの憎しみが無いかと言えば嘘になる。

 アルフレッドを前にしたら冷静で居られるのかと問われれば、そんな自信はない……

 いや、きっと、おそらく、取り乱すだろう。

 それほどまでにアルフレッドという存在がこの世に産み落とした兵器(ぜつぼう)は、私たちアールヴにとっては消えない悪夢なのだ。

 それでも、今はアルフレッドという男の存在を知りたいと思っている自分がいる。

 許すことは出来ないだろうけど知りたいんです。

 強くて、弱くて、どうしようもなく不器用で優しい、アル君(あの人)へ紡いだもの(・・)の正体を。


 とてつもなく醜悪なものなのか――

 救いようが無いほど歪なものなのか――

 それとも、ただただ悲しいほどに弱さの末だったのかすら……


 私は何も知らない。

 

 その先に知った真実がどんなに許せないものだったとしても、どんなにくだらないものだったとしても、

 私は知りたい。

 そして、伝えたい。


 貴様(あなた)繋げ(もたらし)た未来は、いま、アルトリア(わたしたち)の希望へと繋がっていると。

 

 ざまぁ見ろって、

 私たちは最高の希望を手に入れたぞって、


「言ってやろう、感謝と一緒に……」

「な、何を一人で納得してるんですか?」

「ふふ、ひ~みつ」

「じゃじゃじゃあ、せめて、強さとかその秘密とかを!」

「ふふ、簡単ですよ。簡単なことなんです」

「なにがですか?!」

「お兄さんは優しくて……そして、とんでもなく強かった。おそらく武芸百般……そんな幻想みたいな領域に足を踏み入れた方だと思います。だから、でしょうね」

「だから?」

「アルくんが、お兄さんのように生きたいお兄さんの代わりになろうとしたのは」


 生きているのか、それとも……

 不安に包まれた絶望の中でもただ生きていると信じ続け、そして、彼の中でお兄さんから託された(うばって)しまったという罪悪感。

 無意味と分かりながらもお兄さんの代わりとして生きようと贖罪のように歩み続けてきた時間。


「……アルくんはお兄さんが大好きだった」

「兄さん……」

「ええ、だから、きっと……アルくんはお兄さんの代わりになろうと……思ったんです。でも、それはとても難しかった……お兄さんはお兄さんだし、アルくんはアルくんで……お兄さんの真似は誰にも出来ないように、アルくんの真似も誰にも…………」


 ダメだ……

 殺戮蟻を退けた安堵からか、私も眠くなってきた……


「アルフォンスさんは、自分の戦い方を見付けた。いえ、自分に適した戦い方に向き合った……ってことですかね?」

「きっと……そうだと思います」

「自分のスタイルを見付けただけであんなに強くなるもんですか?」

「色々……あるんですよ……彼が、踏み出した一歩には……」


 英雄になり得ただろうお兄さんから、力を奪ってしまったという罪の意識。

 それが意味の無いことだと分かりながらも、贖罪のようにお兄さんを模倣し生き続けた日々。

 不器用で……

 本当にどうしようも無いほどに不器用で……

 ああ、何処までも人間くさくて、何て愛おしいのだろうか。

 そして、だからこそ思う……


 アル君と私は……根本……的に違うのだと……


「寝ます、寝ましょう! 寝て明日の戦いに備えましょう」

「だから、寝ましょうって言ったじゃ無いですか……」


 寝ることを一番妨害してきた相手が、真っ先に健やかな寝息を上げたのだった。

それでは、また何時かお会いしましょう。

さよなら、サヨナラ、さよなら!

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