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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二章 知る心、消える心
25/266

TSヒロイン・ドMが加速する

2018/08/27に投稿した『どMが加速する』を改稿しました。

誤字、重複表現を直しました。


「それじゃ必要な物をまとめるからリョウも手伝ってくれる?」

「そ、そんな事を言っても手伝わないんだからね!」

「え?」

「あ、いや……」


 ああぁぁあぁ……orz

 脱チョロインを考えていたら、何だ? 今の分かりやす過ぎるくらいに分かりやす過ぎるド下手くそなツンデレは?


「あ、ああ、そうだね。身体も辛いだろうから座ってて」

「あ、いや……あぁぁぁ……」


 ちゃうねん、そうじゃないねん……


 教訓

 ――慣れない事はするもんじゃない――


 ふ……

 どうせ俺は何時までも子犬の心を忘れない男さ。

 飼い主に少しでも優しくされれば尻尾を千切れそうな勢いで振るバカ犬さ。


 自分の犬っぷりに落ち込みながらも、俺はアル君に促されるまま庭の切り株に腰を落とす。

 実は立っているのが結構辛かったので正直座れるのはありがたい。

 やっぱ慣れないぁ、この身体。

 違和感の塊みたいなこの身体にもだいぶ慣れたつもりでいたけど、やっぱり十五年連れ添った元の身体とは違うんだって、こう言う時に思い知らされる。

 そんな自分の身体にさえも四苦八苦している俺とは違い、アル君は燃え上がる家の中に臆すること無く入っていく。

 や、あれは身体に馴れてるとか馴れてるとか以前の行動だな、うん。

 さすがに俺も元の世界の常識なら炎に飛び込む少年を全力で止める所だけど、もう遠目でも明らかに分かる炎の異常な動きにその気も失せる。

 だって聖書に出てくる海を肉体言語でかち割るモーゼの如く、炎を引き裂きながら飛び込んでるんだもん。


「すごいなぁ……」


 戦闘という特殊な空間では無い、こういう日常の中でこそアルフレッドという少年の特異性がよくわかる。

 『天才』という一言では収まりきらない常識を遙かに超えた能力。

だけど、だからこそ思う……

 彼が立っているそこ(・・)は、どんな世界なんだろう?

 振り返っても見渡す景色は自分よりも遙かに低い山々。

 生まれた時から頂点に居るという絶対。

 誰も片腕にはなれないという真実。


 ……それはどんなに孤独な世界何だろう?


 ねえ、アル君?

 キミはそこに一人で居て寂しくは無いの?

 俺なら――

 俺ならきっと、孤独に負けていたと思う……

 両親が居て、姉貴が居て、バカだけど仲の良かったツレ達が居て、

 最高では無かったけど、毎日がそれなりに充実していて……

 だけどその真逆みたいな所にアル君はいる。

 アル君には確かに魔術という研究すべきおもちゃはあったかも知れない。

 それなのに、その研究こそがアル君を孤独にして、その研究さえも今では後悔から手放してしまった。


 どうやったら慰めてあげられるんだろ?

 どうやったらその孤独を埋めてあげられる?

 ねぇ、アル君はどうして欲しい?


 そんなことを取り留めも無くなく考えていたら、俺の頬を涙が一筋こぼれ落ちた。


「あぁぁ、支えたいって思ってるくせに何泣いてんだよ。このぐらい強がれなくてアル君を支えられる訳ないだろ……」


 思わず膝を抱えてうずくまる。


「どうしたの?」


 ぽん、と俺の頭に乗せられた手。


「アル、君……」

「キミが暗くなってる雰囲気を感じてね」

「何でも無いよ……ちょっと考えすぎただけ。でも、俺が落ち込んでるってよく分かったね、それって恋人の直感?」


 チョット暗くなった気持ちをごまかすみたいにおどけた口調で問いかける。


「恋人の直感、って言ってあげられたならきっと格好良いだろうし、リョウを喜ばせてあげることが出来ると思うんだけど……残念ながらそうじゃないんだ」

「そっか、それは残念だな。じゃあ、何で分かったの? 俺がただ分かりやすいだけ?」

「分かりやす……それは否定できないけど、そうじゃないんだよ」


 そう言うと、自分の左腕に指さすアル君。

 そこにはぼんやりと薄く発光する光があった。

 ん? はて、こりは?

 こんな感じの光をどっかで見た気が……


「ってこの光、俺の首に巻き付いた魔術と同じ光!」

「正解。この魔術は元々が主従契約の魔術でさ」

「主従……奴隷ってこと? はっ!? えっちぃ奴隷にして、さては俺にくっころとか言わせる気だな! あの薄い本みたいに、あの薄い本みたいに!!」


 ペチンとちぃさな音が鳴る。

 優しくデコピンされてしまった。


「一応その魔術は奴隷が謀反を起こし逃亡とかしないようにするための魔術だよ」

「それで逃亡しようとしたら電流が流れたんだね」

「あと、キミ気が付いてるでしょ。だから訳の分からないこと叫んでごまかそうとしたでしょ」

「うぐぅ……も、もしかしてですが、その魔術で繋がってるから俺の心が丸分かりにゃのかなぁって」


 ヤバい!

 それはヤバすぎる!!

 今まで俺、何考えてたっけ?

 エロいこと……は、口に出してるから良いとして何か変なこと考えてなかったよな?

 うきゃ~。

 は、は~ずかし~><


「あ、パニックなってるみたいだけど一応安心してよ。その魔術の効果は最低レベルに抑えてるから、リョウの心までは覗いてないよ」

「ほ、ほんと?」

「うそ」

「うきゃ~!!><」

「冗談だって。魔術強化して拘束を強くすれば心も読めるけどキミにはそんなマネしないよ」

「う、うん……キミには?」


 思わず聞き逃しそうになった不穏当な言葉。


「研究機関に居た頃、研究資料を盗もうとする連中や寝首を掻かうとする連中が多くてね。とりあえず全員気付かれないように魔術で拘束していたんだ。ぶっちゃけ裏切り者を何人粛正したか分からないよ」


 う、うわぁ~……

 そういや、あの痴ロンジョがアル君と戦うなんて恐ろしいとか言ってたよな。

 仕方が無かったとは言え、その行動の積み重ねの末に言われた言葉何だろうな……


「一応、リョウに今使っているその拘束レベルでも感情の揺れぐらいは何となく分かるんだ。嬉しい、寂しい、辛い、悲しい。あくまでそのぐらいだけどね」

「だったらアル君はもう俺の気持ち分かってるし、そ、それに恋人同士だよね。逃げたりもうしないからこの術解いてくれないかな?」


 心が丸分かりにならないとは言っても、感情の起伏がバレるのは流石に恥ずかしい。

 だって俺、アル君の前だとしょっちゅう発情してむりゃむりゃしてるし。

 自慢じゃ無いがこの先も発情を抑える自信は全くないと断言できる!!

 どうよアル君、俺のそそり立つ雄々しさは!

 俺の発情オーラをしょっちゅう浴び続けたいか?

 浴びたくなければキミはすぐにこの術を解除すべきだ!


 何てこと口に出して言えるはずもなく……


「ダメ、かな?」


 控えめにお願いするのが精一杯だった。

 だが、そんな控えめなお願いがこのドSに通じるはずもない。

 あっさりと首を振って拒否される。


「そんなぁ……あ、分かった! アル君てば、やっぱり俺を淫乱メスエルフに調教したいんだ!! 『元男のクセにすっかりメス顔しやがって、これが欲しいんだろ発情したトロ顔を俺に見せろ』とか言う気だろ! あのエロ同人みたいに、あのエロ同人みたいだだだだだだ!!」


 突然こめかみをグリグリと襲った激痛。

 

「さっきと違って今のは本気で思ってただろ! 君は少し慎みって言葉を知った方が良いと思うな!!」

「痛い痛い! こんなお仕置きじゃなく、俺はもっと甘いお仕置きを所望します!!」

「だから、言動は控えろって!!」


 ゼェゼェと肩で息を切らすアル君。

 あまりの痛みに地面に沈む俺。


「うぅ……アル君のドロスティックバイオレンス……」

「誰が泥の付いたきったねぇ棒だ。キミは人の話を少し聞こうよ……ボクがその魔術を解かないのには他にも理由があるんだよ」

「そうなの?」

「どう言う意味かは分からないけど、キミが痴ロンジョって呼んでたあの女はこの世界の言葉しか話せないんだよ」

「え? でも俺、普通にあの痴ロンジョと話してたよね……」

「それが答えだよ。この主従魔術は主人が奴隷に命令するための物なんだ」

「あ、察しました。言葉の通じない奴隷なんて使い物にならないし言葉を覚えさせる時間が無駄だって考え方から生み出された魔術なんだね。だから、言葉が通じたし話せたと」

「ほう、察しが良いね。満点の正解をあげるよ」


 アル君が感心したみたいに声を上げた。

 まあ、ここまで言われたら毛利探偵レベルの俺でも想像つきますがな。


「じゃあ、この魔術がバイパスになっている間は俺はこの世界の言葉を覚える必要がないんだ」

 

 なるほど、それは楽――


「楽だなんて考えないでね」

「カンガエテナイ、カンガエテナイデスヨ」

「何で片言さ。一応ボクとリョウの間にはメリットがあるけど、デメリットもあるんだからね」

「デメリット?」

「だから、視界から消えた時だよ」

「あ、ああ!」

「万が一、ボクたちが誘拐とか何らかの事故で離れ離れになったら、キミは絶え間なく電流に襲われるんだよ?」

「うぉぉおぉぉぉぉ……そ、その部分だけ解除できませんか?」

「楽しようとしないの。まあ、そんな使い方も考えて一応研究してはいたんだけどさ使うことがほとんど無いと考えて脳のリソースは割いてなかったんだ」

「えっと、記憶にとどめておかなかったことかな。じゃあ、その研究は……」


 アル君が深い深いため息をついて振り返った目線の先は轟々と燃え上がる俺達の愛の巣。


「サルベージ不可能だったよ……」

「己、痴ロンジョ!! 許すまじ帝国!!」


 俺の虚しき絶叫が夜の空にこだましたのであった……

読者様、お読み頂本当にありがとうございます。


ランキングタグなどで応援を頂けると執筆の励みになりますので、もし面白かったと思っていただけましたなら、何卒! ポチりとよろしくお願いします!!

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