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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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暴君の愛?

久しぶりに日付を待たずに更新出来ました、ヒャッハーッ!!

 心臓が早鐘のように喚き散らしていた。

 

「か……った?」


 疑問符を浮かべているがダリア殿の興奮が伝わってくる。

 その気持ちはよくわかる。

 私も同じだ。

 恐怖よりも興奮を覚えている。

 魔種属の中でも最も凶悪と言われる魔蟲種を相手に、喩え負傷している相手とはいえ勝利を収めることが出来たのだ。


「あ、はは……ファフナ様、手が震えていますよ」

「そういう貴女こそ……」


 お互いの手が震えているのに気付き、気恥ずかしさに照れ笑いする。

 だって、仕方が無いじゃないですか。

 あの手のひらサイズの普通の虫ですら、信じがたいほどの力と生命力を秘めている。

 ムカデどころか、それよりも遙かに小さな虫に噛まれるだけでヒトの身には信じがたい衝撃を覚える痛みに晒される。

 そう、ただの虫ですらそうなのだ。

 西国で魔蟲種が姿を見せなくなったのは、先達が絶望的な戦いの末に駆逐出来たからだ。

 事実、魔蟲種の怪物とは数匹出ただけでどんな大都市でさえも壊滅的な被害に襲われるのだ。

 そんな常識の外にいる怪物に勝った。

 敵は傷を負っていた、目の前では無傷な殺戮蟻を相手に圧倒的勝利を収める腹黒ショタがいる。

 そんな現実は取り敢えず置いておいても、痛覚無き怪物を倒せたという事実。

 それは十分に誇るに値する勝利だ。


「あ、あはは……」

「ふ、ふふふ……」


 我知らず、お互いに笑い出し小さなガッツポーズを取っていた。


「ご無事ですか!?」


 高揚する私たちの元に傷だらけのスピラさんが駆け寄り声をかけてくる。


「スピラさん、貴女も無事だったのですね」

「は、はい~……良かったです、いま無事が確定しました」

「無事が確定?」

「スピラ殿、それはどう言う意味でしょうか?」


 私たちの問いかけにスピラさんが青白い顔をしてぎこちない笑みを浮かべる。


「か、彼が……アルフォンス様が……」

「あ、何か一瞬目眩のようなものが……また、あの人に何か言われたんですか?」

「あ、いえ……私たちが何体もの怪物蟻に襲われているときに助けて頂きました。その時に『蟻はボクが駆逐してやる。もしここに出たら遠慮せず呼べ』とお優しい御言葉を頂きました」


 御言葉(・・・)って。

 それにしても、明らかに『お優しい御言葉』とやらを貰った態度では無いのですが?


「オブラートに包んで言うなら、何やら釘を刺されたって感じですね」

「オブラートに包んで言わなくても良いですよ。たぶん恐らく絶対に脅されてるはずです」


 ダリア殿と小声で確認し合う。


「えっと、うちの人が何か言いましたか?」

「いえ、何も……ただ、『蟻共は殲滅してやるから、あの二人が襲われたら守ってやってくれ』と」


 うん、それは何と言うか、守られるという行為に情けなさは覚えるが、そう気遣いして貰えるのはは嬉しくもある。

 ただ、この怯えようは一体?


「じ、実は……アルフォンス様に助けて頂いた後も目の前に蟻が現れて、助けを呼ぶよりも先に蟻の出現に驚いた村の者達が精霊力を暴走させてですね……」

「あ、さっきの蟻が傷だらけだったのは」

「そうですぅ、私たちの不始末で取り逃がした蟻ですぅ。こ、これで貴女たちに何か起きていたら、わ、私たちは今頃アルフォンス様にフルボッコされてましたぁ!!」


 ガタガタ震えながら、命あることを心底喜んでいるようだった。

 あの人は、本当に……

 出会った瞬間にどれほどのトラウマを捻じ込んだのやら。

 いや、まぁ炎霊王(ゼタルーラ)なんて破壊の象徴を召喚一歩手前までされて脅されたのだ。

 その恐怖足るや、血の滴る生肉を全身に巻き付けて魔獣種の檻に飛び込む方がまだ気楽なピクニック気分で出来るというものだろう。

 ……そう考えたら、あの人は本当に交渉するつもりでこの地に来たのでしょうか?

 交渉というよりも哄笑。

 あざ笑いながら蹂躙しに来たという方がよっぽどしっくりくる言動だった。

 何であそこまでキレッキレにキレてたのやら……


「本当に無事で良かったですぅ」

「あの本当に無傷ですからお気になさらず」

「ファフナ様……」


 ダリア殿が近づきそっと耳打ちする。


「なんか、蟻を倒してちょっと調子に乗っちゃいましたが、スピラさんたちはそれどころじゃなかったみたいですね」


 胃がキリキリしてきた。


「えぇ、そうですね。まったくもぅ……何が憎くてあの人はこうまで他人様にトラウマを植え付けてくれるのやら……」

「は?」

「え?」


 『オイオイ、お前マジで言ってんの?』的な視線を向けられた。

 いまちょっと誇張気味に口汚く表現してしまいましたが、実際そのぐらい残念な者を見る目で凝視されました。


「あ、あの、ダリア、殿?」

「正気ですか!?」

「しょ、正気も正気です!」

「はぁ……」


 ため息重たっ!!


「あのですね、ポンコツ姫様」

「おい、誰がポンコツだ?」

「じゃあスクラップ姫様」

「悪化してはる!?」

「いいですか、アルフォンスさんが何故あの時ぶち切れたかよっく思い出して下さい」

「そんな念を押さなくても思い出せますよ」

「だったら何故気が付かないんですかぁ? 確かに言動としてはまぁ些か行き過ぎた嫌いはありましたが、あの時なんでアルフォンスさんが激怒したか思い出して下さい」

「えっと……矢を射かけられたから?」

「誰が?」

「つ、ツンケンして言わないで下さい。え、えっと……だ、誰でしたっけ?」

「…………………………」

「な、なんですか、その沈黙は?」

「再生出来ないゴミは、スクラップ以下のただの産廃でしかないと思うのですよ」

「ちょ、ちょ、ちょちょ、お、おま、おま……お、おい、お前……」

「良いですか、その無駄に長いだけのオブジェに過ぎないすんずまった耳で良く聞いて下さい」

「流れるような罵倒!?」

「あの時アルフォンスさんが激怒したのは、ファフナ様が矢で射掛けられたからですよ!」

「えっと……」


 記憶の手綱を引き寄せる。

 確かにそれっぽい流れがあって……


「も、もしかして私が攻撃された、から?」

「それですよっ!」

「それは無いと……」

「アホですか!? ポンコツですか!? ぽんこつですよね!? おいポンコツ!!」

「おぉおぉぉぉ、な、なんだとぉこのぉ……」

「あの時アルフォンスさんは『()から奪うということの意味、その身に刻みやがれ!!』って叫んでたじゃ無いですか、なんで覚えてないんですか!」

「えっと……」


 言われてみれば、確かにそう叫んで激怒してたような……

 え? ア、アルくんは、私が攻撃されたからあんなに激怒した?

 はっ、無い無い。

 あのクールを通り越してドライが過ぎるあの人が、そんなデレるような……デレるような……

 あ、あれ?

 無いと分かっているのに、そんなことあるはずないのに、顔が……


「あららら、お顔が真っ赤に。やっと気づきましたか、あのちょっと闇が深そうな独占欲を露わにしたアルフォンスさんの愛情の深さを」


 え、え?

 あれ?

 あれれれ??

 いや、落ち着け私。

 あの人のことだこっちが勝手に盛り上がって肩透かし、なんてパターンが待ってるに決まって、決まって……


「おい、お前達無事か?」

「ぴゃーっ!!」

「ぴゃあ?」


 いつの間にか背後に現れた件の人物を前に、私は……


「何だよ、その面白愉快なファイティングポーズは?」


 どうやら奇っ怪なポーズで威嚇していたらしかった。

引き続き応援のほど、何卒よろしくお願い致します!

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