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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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覚醒・兆

安定の深夜更新です


 夜空に反響した獣の鳴き声は掻き消え、金切り音が辺りを殴打する。

 夜空に輝く星の輝きを、青き地球(つき)の輝きを、それら全てを塗りつぶす叫喚。


「つ、強い……強い強いとは思っていましたが、いささか強すぎやしませんか?」


 出会うこと(イコール)死を意味する殺戮蟻を相手に、まるで当たるを幸いとばかりに危うげ無く処分(・・)していく姿に畏怖よりも純粋な恐怖を覚えているようだった。


「いや、事実強くなっていると思います。私が知る限り、という条件付きですけど」


 私が知る限り、とは言ったがアル君は明らかに強くなっている。

 それも私の思い込みで無ければ、魔術頼りの戦い方だった以前よりも明らかに戦士としての戦い方にシフトしている気がした。

 いや――

 それも恐らく間違いだ。

 魔術と格闘、それらどちらかに偏った印象の戦い方だったのが、今は高次で融合した戦い方をしている。

 ……待て、本当にそうか?

 もしかしたら、それすらも私の思い込みじゃないのか?

 炎霊の力を借りて短剣を生み出しているからそう感じる、だ、け……

 目の前で起こる殺戮ショーのような戦闘。

 蹂躙、蹂躙、蹂躙。

 敵の懐に飛び込み、爆心地(・・・)とも言える最も危険地帯での蹂躙劇(・・・)

 小柄な体型ながらも速度を活かした暴風の如き圧倒的手数が殺戮蟻の反撃を一切許さない。

 ああ、そうか「どうりで、強い訳だ……」


「え?」


 思わず呟いていた言葉。


 そんな圧倒される私たちの前で、戦いはさらに加速した。

 いや、【戦い】がでは無い。

 それは一方的な蹂躙が加速したということ。

 最早目で追いかけるのさえもギリギリ。

 次元が違うとはまさにこのことだろう。

 そして、ついにはそんな感想さえもチープな言い回しに過ぎないことを思い知らされる。

 辛うじて追い掛けられたその姿さえも遂には掻き消え、夜闇に乾いた斬撃音と無限の赤い閃光だけが支配する。


 そんな殺戮劇は、果たしてどれほど続いたのだろう。

 ほんの数秒だったのか、あるいは――

 あるいは果てしないほど長い戦いだったのか?


 そんな異質で異次元すぎる暴力は突如終了する。

 荒れ果てた集落の中に薄っすらと彼の姿が見え始め、そのぼやけた残像は濃度を増す。

 そして息切れ一つせず、まるで辺りを値踏みするみたいに視線を走らせた。

 その視線の先を追いかけると、

 蟻たちはまるで斬られたことにさえも気が付いていないかのように――

 否

 ややの間とともにバラバラと崩れ落ちた地面で、自分達がすでに死んでいる(・・・・・)ことにさえも気が付かずガサガサと藻掻きやがて沈黙した。


「蹂躙とは、まさにこのことですね……」

「そう、ですね」


 ダリア殿の声がどこか遠くに聞こえた。

 上の空で返すのが精一杯。

 だって、仕方が無いじゃないですか。

 あんな戦いを見せ付けられたんですから。

 いや、『見せ付けられた』も嘘だ。

 ほとんど見えなかったのだ。

 片腕としてだと?

 笑わせる。

 ますます差が付いていく。

 とんでもない強さなのは相変わらずですが、相変わらず、ですが……

 人が貴方の背中を追いかけてる最中だってのに全力で走り去らないでくださいよ。


「ファフナ様。どうされましたか、暗い顔をされて?」

「あ、いえ、何でもありません」

「でしたら、取り敢えずは無事に終わったみたいですから、彼氏さんをねぎらいに行きませんか?」

「!! そうですね、片腕じゃなくてもその道がありますよね!」

「その道?? 良くは分かりませんが、何やら落ち込まれていたようなので気持ちが少しでも晴れたなら――ファフナ様ッ!!」


 ダリア殿の突然の絶叫。

 いつの間にか私の背後に現れた怪物蟻の残党。

 片目もつぶれ全身傷だらけ。

 恐らくは黒エルフ(スヴァルトアールヴ)の戦士達が打ち漏らしただろう怪物。

 突如現れた死を纏った怪物を前に、私の視界はやけにクリアだった。

 怪物蟻の鋭い牙を持つ長い顎がゆっくりと開くのが鮮明に見える。


「ファフ――っ! 炎霊(ゼタ)よ、・この暗闇に(モルーク)松明を灯せ(ファイアブランド)


 それは、私の横を駆け抜けた一陣の赤い風。

 負けられない。

 彼女(・・)にまで負ける訳にはいかない。


「我が呼び声に応えよ、ハウゼル!!」


 鋭い顎の一撃が、私の頭上で乾いた金属音を奏でる。

 追撃で迫る横薙ぎの拳。


 遅い。


 まるで関節のつなぎ目までもが見える遅さ。

 まるで?

 いや、『まるで』、じゃない。

 私の目にはこの怪物蟻の鈍重な攻撃が止まって見えた。


 振り抜かれた拳を余裕を持って躱しても、追撃するにはまだまだ余裕がある。

 延びきった関節肢。がら空きになった関節膜に、刃を滑り込ませる。

 スルリと、強靱な外骨格に覆われているとは思えないほどあっさりと左前足を切り落とす。

 その横で燃え盛るブロードソードを携えたダリア殿が、腹柄節を横薙ぎに切り裂く。


 GYABABABABABABA!


 耳と脳に突き刺さるほどの絶叫。

 だが、昆虫型の魔物の生命力は異常だ。

 喩え身体を真っ二つに、いや、首を切り落としたところでその獰猛な本能を無くすことはない。

 私はダリア殿の背後、蟻の死角からハウゼルを加速させ、細いその体躯の中ではあまりに細い首の接続部を狙い薙ぎ払う。


 ゴトリ……


 それは重たい花瓶を床にでも転がしたような音。

 蟻は毒々しい体液を撒き散らしながら、自分の死にゆく肉体を見つめて顎をギチギチと鳴らした。

3/15まで今しばらく更新が不安定になります

え? いつも通り?(´エ`;)

と、とにもしばしお時間をくだしあ!

またよろしくです!!


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