侵略
イチャからのバトル!
ホー……ホー……
キキャキャキャキャキャキャ……
ほきゃーッほきゃーッ!!
テントの布越しに聞こえるフクロウとあと何かわからない生物の奇怪な鳴き声。
……聞き覚えのあるフクロウの鳴き声ですが、どうせ全てが規格外の【トゥバリー大森林】。
きっと馬鹿げたジャンボサイズのフクロウなんでしょうね。
「どうした、寝れないのか?」
ぼーっと考え事をしていると、毛布を敷き布団代わりに寝ていたアル君が話しかけてきた。
「まだ起きていらっしゃたんですね」
「狭いテントの中で、悩んでる姿が見えたからな」
「ごめんなさい、寝るのに邪魔でしたよね」
「邪魔だなんて思っちゃいないさ。ボクも少し考えごとをしていた」
「考えごと……先ほどのことですね」
「ああ」
言葉少なな返答。
珍しく緊張している?
いや、この方に限ってそれはないですね。
ほんの数刻前。
集落に入ってすぐに案内された黒エルフの族長との会話。
血の気の多いアル君と黒エルフの間で一悶着起きると思ったけど、会談は意外なほど穏やかに終わった。
まぁ、穏やかというのは戦闘にならずに済んだということだけ。
彼らが置かれている境遇、そしていま目の前にある現実……
それは、アルトリア王国が置かれている現状よりもさらに過酷なものだった。
「嫌な予感はしていた」
「【竜の背骨大山脈】からずっと話されていましたね。悪い意味で予想通りでしたか?」
「半分な」
「予想が当たったのはどちらの方ですか? あと、最悪度は上がった感じで……あ、これは聞くだけ野暮ですよね」
ん、と小さく唸り伸びを一つする。
「ダリア、起きてるんだろ?」
「……ギクッ」
「え、寝たフリ?」
リアルでギクッとか言う人初めて見ましたよ。
「なんで寝たフリしてんだよ」
「いえ、こっそり静かにイチャイチャし始めたら是非後学のために見学してやろうと企んでいました。私には気にせず目一杯デレちゃって下さい」
「おま――」
「そうですよね! アル君にはデレが足りないと思います!」
「ほら見ろ、こうなるんだ! お前は斜め後ろから余計な援護射撃するな!」
「アル君にはデレが足りないと思います!」
「壊れた蓄音機か!!」
「アル君さんは、イチャコラを私に見せる義務があると思います!」
「お前まで何言ってるの!?」
「こっちは危険地帯でずっとお預け食らって悶々としてたんです! ご褒美を所望します!! ご褒美プリーズ!!」
「お前もいいかげ――
「「「蟻だー!! 蟻が侵入したぁあぁぁぁッ!!」」」
「チッ、着いた初日からマヂかよ……」
「アリさんよりアルくんです!」
「あー!! どいつもこいつも面倒くせー!! ダリアお前もジックリネットリ見てんじゃねぇ!」
「邪魔はしません!」
「アル君、アル君、アル君にゃー!!」
「お前らもういい加減正気にもどれ!!」
「私は正気に戻った! アル君にゃー!!!」
「正気に謝りやがれ!!」
手四つで組み合う私たち。
ええい、じれったい!!
こうなれば足をかけて一気に体崩しを――
「クソがッ!!」
アル君が叫ぶと同時に抱きついてくる!
デレた!(1カメ)
デレました!!(2カメ)
デレやがりました!!!(3カメ)
「ウェルカム!!」
「たわけ!!」
「何故の罵倒ですか! しかしそれさえも受け止めます! 私許容値高いですから!!」
「あー、もうホントに説明も面倒くせぇっ!」
一喝と同時に背後にある私の剣(正確には陛下の剣ですが)を奪い抜刀すると同時に頭上で鳴り響く乾いた金属音。
「へ?」
頭上をチラリと眺めてみると、
「ほ、ほきゃーっ!! ア、ア」
「落ち着け、二人ともボクの後ろに隠れてろ!」
「ア、アリくん!」
「混ぜるな!!」
「アリフォンス殿、ラブってる暇があるなら戦いを優先に!」
「お前ら後でまとめてグーで殴る!!」
ザグンっとテントを切り裂き三体の蟻、蟻と言ってももちろん私たちよりは頭二つ分は高い狂ったサイズ感の怪物が押し入ってきた。
「這いつくばっていても吐き気がするぐらいデカいのに、二足歩行されるとさらにデカいですね」
「ダリア、下がっていろ。今のお前の武器じゃ、コイツらの硬い外骨格を傷付けるのは無理だ」
「ですが! それなら貴方は、その剣で一人で戦うつもりですか?」
「この剣は、ファフナ!」
「はい」
「仮とは言えこの剣の今の主はお前だ。お前に返――どうした?」
「え?」
そう言うと、また投げて寄こすのかと思いきや柄を向けてきた。
……いや、手渡しとしてはこれが当たり前なんですがね、ましてや刃物ともなれば。
ただ、今までどんなものでも投げて手渡されてきたから一瞬身構えてしまった。
「早く受け取れ」
「あ、はい」
「その剣と今のお前なら、兵隊蟻相手なら十分戦えるはずだ」
「で、では私が援護します」
「いや、その必要は無い。その剣で身を守っていろ。あと、ダリア」
「わ、私ですか!? わ、分かりました……ファフナ様の盾ぐらいにはなってみせます! 一撃でミンチになったらごめんなさい! ダリウス兄さんにはダリアは勇敢であったとお伝え下さい!」
「いや、あー……」
悲壮な覚悟を浮かべるダリア殿を前にアル君が困惑する。
そしてその困惑の後に一瞬覗かせた表情は、面倒臭いからほっとこうというものだったのに私は気が付いた。
「ファフナ」
「はい」
「コイツらの狩り方は見て覚えろ」
「見てって――」
雑にそれだけを言うと、無造作に蟻たちへと近づいていく。
それはあまりに無謀、あまりに傲慢。
ギャキャキャキャキャキャッ!!!
まるで錆び付きザラついた金属同士を力負けに擦り合わせたみたいな耳障りで不快な叫び声。
荒ぶる三体の怪物が同時に襲いかかった。
「アル君逃げて下さい!!」
「炎霊よ、この暗闇に松明を灯せ」
私の叫び、怪物の叫び、数多の悲鳴。
多重に彩られる音色の中で、場違いなほど穏やかで言葉少なに紡がれる古代精霊語。
ゾンッ、と鈍い音と共にズレ崩れ落ちていく怪物蟻の群れ。
気が付けば、その両手には燃え盛る短剣が握られていた。
「真似する必要は無い」
言葉少なにそれだけを言うと、真っ二つになりながらも強靱な生命力で顎を鳴らす蟻の頭を踏み潰す。
「コイツらを倒すのに必要なことだけを、自分たちが持つ武器で何が出来るかを見つけるんだ」
星空と悲鳴が支配する暗闇に、赤い輝きが無数に閃いた。
耳を覆いたくなるような怪物の奇っ怪な悲鳴が紫の体液に濡れる。
「まずは三体か」
バラバラに崩れ落ちた蟻たちの残骸の中で悠然と当たりを睨め付ける。
ゾンッ!
「四体」
背後、突如地面を掘って現れた蟻を振り返ること無く首を切り落とす。
「見え、ましたか?」
「あの動きが見えるようなら、私は胸を張ってあの人の片腕だと言い張りますよ」
その自信が無いから、口に出して言い続けているだけだ。
恐らく、あの人の領域に私が届くことはないだろう。
だからこそ、見て、観て、視て、あの人が求めているものが何なのかを考え見付け出せ!
イチャというかギャグか
イチャギャグ!?






