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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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交渉術とペット

みごとな深夜更新!

うん、平常運転である!

 悲鳴にも似た声が聞こえてくると、アル君が邪悪な笑みを浮かべた。

 そして、聞こえるか聞こえないかの小声で、


「よーしよし、良い子だ。出て来た瞬間に消し炭にしてやる」

「おーい! 正気に戻れ、おバカッ!」


 ビシッ!


「……………………いた、何をする」

「何をするって、貴方こそ何をしようと思っていたんですか?」

「……出て来たら消し炭にしてやろうかと」

「ていっ!」

「痛い、何をする?」

「アホですか! アホなんですか!?」

「性欲の権化みたいになってるお前に言われたく無い」

「やかましゃあっ!」


 袈裟切りみたいなチョップをぶちかます。


「おぐふ……だから、痛いんだが」

「痛くしてます! まったく何をしようとしてるんだか……確かに彼らは降伏してからも未だ姿も見せませんが、それでもこの森に来た理由を貴方が見失ってどうするんですか!!」

「……悪い、返す言葉もない」


 先ほどまでの『喧嘩上等、絶対ブッ殺すマン』というか輩感マシマシな殺伐とした雰囲気もどこへやら、飼い主に怒られて尻尾が垂れてるしょぼくれワンコのように凹んでいる。

 わ、分からない……この方の情緒の起伏が。

 こめかみにかつて覚えたことの無い鈍痛を感じていると、木々の影からそろりそろりと姿を現した人影に気付く。


「出て来たからって噛み殺さないでくださいね」

「分かってるよ、感情コロシテ相手スル」

「や、何ですかその返し、本気で怖いんですけど」


 謎の緊迫感に襲われながらドキドキとしていると人影が更に近付いてくる。

 雲の切れ間から差し込む陽光に照らし出されたその姿は、私たちと酷似した女性の人型。

 身体的部位の特徴は私たちアールヴとよく似ている。

ただ、男性でも小柄な者が多い私たちに比べ、頭一つ分は高い身長と布の隙間から見える筋肉質な肌がやけに印象的だ。

 これが黒エルフ(スヴァルトアールヴ)……

 なるほど、この生きていくだけでも厳しい東国で生存してきた彼ららしく、実に逞しい肉体です。

 一見してわかる、無駄のない鍛えこまれたすごい肉体美です。

 すごい肉体美、ではありますが……

 ええ、おそらく一連の出来事(・・・・・・)が無ければ、一見では明らかに威圧感という名の恐れを覚えただろう一流の上を行くだろう雰囲気。

 だが、その纏っていたはずの強者のオーラも、炎霊王(ゼタルーラ)で脅迫されて見るも無惨な有様になっていた。

 具体的に言うなら、背中を丸め涙目でガタガタと震えている。


「あ、あの……」

「ひ、調子に乗りましたごめんなさい!」


 まだ何もしていないのに、全力で拒否られました。 

 あれ?

 弓で殺されかけた私たちの方が悪に見えませんか?

 他人が見たら孤児院の修道女を地上げのために脅しているヤクザ者みたいな構図じゃありませんか?

 思わず変な例え方をしましたが、そのくらいに怯え縮こまっている。


「私たちが望むのは貴方たちとの対話です。武器を収めていただけるのならこちらとしても最も望むことです」

「は、はい! 会話で済むのでしたら、是非にそうしてくだされば私たちと致しましては何も申し上げることは無いであります!」

「あーだったら――」

「ひ、ひぃいいいぃぃぃぃ」

「………………」


 アル君が話しかけた瞬間、まるで街角で突然凶悪なモンスターと出会したみたいな悲鳴を上げた。


「この、どの面下げて被害者面してやがる……」

「そ、双方共に落ち着いてください」

「ひゃ、ひゃい!」

「がるるるるる」

「ひ、ひぃいぃ……」

「ステイ! アル君ステイ!」

「がるるる……」


 ふう、何とか落ち着いてくれたみたいですね。


「あ、ありがとうございます、たた、助かりました!」


 涙目ですがり付く黒エルフ(スヴァルトアールヴ)の女性。

 ぱっと見の威圧感もどこへやら、今じゃすっかり怯えきっている。

 だが、これはある意味で好都合かも知れない。

 初見の態度からも彼ら彼女らは何かしらの問題を抱えている可能性もあるが、それを差し引いても閉鎖的な種族だと思われた。

 だが、むしろ何かしら問題を抱えている方が彼らの懐に入りやすいかもしれない。


「取り敢えず私たちもこの地に来た理由を説明したいのですが、あなた方の町まで案内して頂けませんか?」

「え、町に、ですか?」


 明らかに警戒、というかあからさまに嫌がっている。

 そりゃそうですよね。

 さきほど有り得ないほどの恐怖を植え付けられたんですから。

 怒り任せに炎霊王(ゼタルーラ)何て極上の厄災を解き放たれたら、アルトリアの首都ですら壊滅的な被害は免れないだろう。

 そんな特級クラスの危険物を自分たちの町になど誰が招き入れたいというのか。


 だが出会い方は最悪でも、私たちにもアルトリアを守り抜くという後には退けない使命がある。

 そのためには黒エルフ(スヴァルトアールヴ)達の力を何としてでも借りないと行けない。

 ……正直、手段としての脅しはあまり得策では無い。

 得策では無いが、ここで無駄に手をこまねき時間を浪費するのも悪手。

 ならば、覚悟を決めるのみ。


「そうですか……まぁお互い不幸なすれ違いがあったから仕方がありませんね」

「え、引いて頂けるんですか?」

「はい、ただ……この者が」


 と言って、それまで沈黙していたアル君を指さす。


「空腹になると食材調理法と称して豪快に辺り全体(・・・・)を使った丸焼き調理法を生み出しかねないとだけ伝えておきますね」


 それは極上の脅しとなった。


「ぜぜぜ、是非に我が町に来て下さい歓迎します!」


 私たちを招待出来ることに感激して歯の根も合わないほど喜んでくれた。

 ……なーんて、やれやれです。

 時間が無いという言い訳のもと、最も効果的で最も醜い交渉術を使ってしまった。


「ただ……」

「ただ?」

「で、出来ればですが……」


 そう言うと、黒エルフ(スヴァルトアールヴ)が私に小声で耳打ちしてくる。


「その……」

「何ですか?」

「そちらの飼い主(・・・)様なんですよね。絶対に手綱だけは放さないで下さいね」

「かい……ぬし」


 ………………飼い主!?

 今までの主従関係とはまさに真逆な何と悪魔的で甘美な発想!

 アル君(ペット)とご主人様な私。

 な、なんと言うことでしょうか。

 かつて無いほど私いま興奮しています!


「はーい、大丈夫ですよ。飼い主のお世話はご主人様のお仕事ですから、私にまかせておいてください! 私に!! この私に!!!」


 大事な事なので念を押しました!

 あ、ちなみにさっきから黙りこくっているダリア殿ですが、ペットなアル君が炎霊王(ゼタルーラ)を召喚しかけた時の余波に当てられ立ったまま気絶していた。

今回でアルフォンスの挙動不審感を説明すると言いましたが、アレは嘘だ!

たぶん、次回か、次々回か、次々々回か……

どこかで書くはずです。


ま、そんなに深い理由はないでげすけどね。


それでは、次回も引き続きお付き合いのほどよろしくお願い致します!!

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