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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
243/266

ぶち切れアル君

ストレートなタイトルです

 あの悪夢のような難所【竜の背骨大山脈】を下山して早二日。

 あのアホなやり取りから四日が過ぎました。

 私たちは――


 疲弊していた。


「あッちぃっ!」


 音を上げる姿など見せたことの無いアル君が苛立たしげに叫ぶ。


「分かりきったことですがこの天気、山とは全然違いますね」


 ダリア殿が額の汗を拭いながら重い吐息を吐き出す。


「気温も湿度も異様に高いですし、昼過ぎにはバケツをひっくり返したみたいな雨ですものね」

「ああ、それがこの地の特徴らしい。薄着になりたくても湿度の高い森の中じゃ自殺行為だからどうにもならん」

「湿度のせいかダニだけじゃなくヒルやら蚊も多いですしね。って言ったそばからテイッ!」


 ズボンに張り付いたヒルをペシンと払い落とす。

 ただのヒルと言えばそれまでですが、サイズが拳大ともなれば鳥肌百倍。

 それなのにこの気色悪いサイズでも、この森の生物の中では小型の部類……

 森に近づいてからというもの、これまで【トゥバリーベアー】【トゥバリータイガー】【アイアンスカラベ】【トゥバリースネーク】……その他諸々巨大生物に襲われ実に気が休まる暇が無く(いきたここちがしなく)神経もピリついていた。


「デカい魔物も危険だが、最も厄介なのは気付かずに張り付いてくる小さな毒虫どもだ。下手に薄着になったらどんな病原菌を伝染されるかわかったもんじゃ――ファフナ、ダリアッ! 来るぞ!!」


 アル君が叫ぶと同時に地面を蹴った。

 と、ほぼ同時に地面を貪りながら姿を現した馬鹿げたサイズのワーム。


「何が来るかと思えば今度はミミズの化け物か!」


 アル君が気炎を吐き出すと同時に支給品の槍で薙ぎ払い吹き飛ばす。

 半分以上地面に埋まっていた身体を力業で引っこ抜かれだワームが、打ち上げられた魚みたいに地面をのたうち回る。

 のたうち廻ると言ってもそのサイズは大木と同等以上。ただのたうち回るだけで辺りは大惨事となる。


「くそ、このなまくらだとコイツらの皮膚を引き裂くのも一苦労だなッ!」


 苛立たしげに吐き捨てると、まるで火砲の如き勢いで槍を投げ付けた。

 ドンッ! とまるで破城槌が城門を穿ち付けるみたいな轟音が鳴り響く。

 声帯を持たないワームの声なき悲鳴。


「いい加減くたばれ!」


 一声叫んでからの回し蹴り。

 それは、非常識すぎるほど非常識な破壊力となりワームを吹き飛ばした。


「ファフナ、さま……」

「はい?」

「あの方って確か軍師で魔術師、そしてそこそこ強い剣士ってくくりでしたよね。この旅で薄々気が付いていましたが、アルフォンスさんの戦闘能力って異常じゃありませんか?」

「人の心を弄ぶ悪逆非道な罠貼り軍師で、戦闘大破壊どんとこいの破壊型魔剣士です」

「おぅふっ」


 多少(・・)言い過ぎなのは分かっています。

 分かっているんですぅ!

 それでも、あえて念押ししておきます。


「可愛い見た目と反して、敵と見なした相手にはどんな搦め手を使ってでも地べたに這いつくばらせる超弩級のサディストです」

「おぉおぉぉぉ……」


 ライバルになる可能性がある()なら早めに摘んでおく。


「おい――」


 先手必勝というヤツです。


「おい」


 ただ、このままでは流石にあれなので、ダリア殿にはあとからそれとなくフォローを入れておく予定だ。

 計画通り!!


「おい、そこの悪い顔しているお前……」

「計画ど……ふぁっ!! いつの間に!?」

「何が何時の間にだ。悪辣な情報を植え付けるな」

「見事な戦いでした、アルフォンス殿……うへへへ」

「おい、お前も三下腰巾着みたいなおかしな態度で笑うな」


 舌打ちを一つすると、槍を杖のようにしてもたれかかる。


「文句の一つも言ってやりたいが、ボクが疲弊していて良かったなお前ら」


 それは、場合によっては死の宣告だったと言うことでしょうか?

 愛ですよ愛。

 こんな発言も愛故なんです。


「お前、反省してるのか?」

「ちょー反省してます!」

「どうにも軽いんだよなぁ」

「ファフナ様への懲罰なら私が受けますから!」

「やめろ、本当にボクが何かするみたいじゃないか」


 ふぅと深いため息を吐き出す。

 あ、まずい怒ってるかもです。


「すいません、調子に乗りすぎました」

「あん? あぁすまん態度が悪かったな。そんな謝らなくても良いよ、そこまで怒ってるわけじゃ無い。ただ、ちょっと思考の坩堝に嵌まってる」

「思考の坩堝というと、何か引っかかる点があるということでしょうか? 【トゥバリー大森林】のことを何も知らない私がただ呑気なだけかも知れませんが」

「いや、この地のことをよく理解している者はそう居ないさ。ボクだって、ファフナだって知識程度に知っているくらいだ」

「そうですね、私にいたっては大昔の学者の知識を少しかじったくらいです」

「だからここから先はあくまで一般論として聞いてくれ。森入ってからというもの予想以上に魔獣が多すぎる」

「それは失礼ながら当たり前と言うか、私が町や騎士団で聞きかじった【トゥバリー大森林】とはそういう場所だと認識していましたが」

「ボクが言いたいのはそうじゃない。あくまで一般論だが、所謂森と草原の境目というのは天敵が居る生物はあまり出てこない」

「森の中の方が身を隠せるからですか?」

「そういうことだ。野生動物というのは獰猛ではあるが知性が低いわけじゃ無い。トゥバリーベアーやトゥバリータイガーにしても、確かに強力な魔獣だが東国においては下層に位置する魔獣だ」

「あれで下層ですか」


 思わず唸るように絞り出してしまった。

 町中に一匹でも紛れ込めば大惨事になりかねない怪物。

 それがこの地では下層……


「少なくとも【竜の背骨大山脈】から森に入るまでの草原地帯は、バドゥーが支配する世界だ。今回は出会わずにすんだが、あそこにはレッサーからエルダーまでのドラゴン種も飛び回る。言ってしまえば、地を這うことしか出来無い魔獣ごときが生存できるような場所じゃあない」

「……確かに。軍の演習でも、大隊が動けば演習地から魔獣の気配は消えます」

「魔獣とは言え本能は野生動物とさして変わらない。凶暴性ばかりに目は行くが、身体がでかい生物ほど存外臆病な性格をしているんだ」

「でしたら草原の時もそうでしたが、広大な大森林と考えればまだまだ森の外周とも言えるこのような場所でこれほどまでに魔獣に遭遇するのは……」

「未踏未開の地にしていかに生物種が多い【トゥバリー大森林】とはいえ、明らかに異変が起きていると思うべきだろ」


 そう言えば、バドゥーと遭遇したときにも同じようなことを話されていた。

 そして、あのときポツリと話していたのが確か……


『大昔に起きた変化なら問題は無いが最近起きた変動の可能性も否定出来ない』


 だったはず。

 そう、あの時点ですでに東国のどこかで何かしらの良くない変化が起きている可能性を示唆していたのだ。


「森ってのはこんな浅いところよりも奥の方が恵の宝庫だ。コナラやブナなんかのドングリや野生種の果物だって豊富にある」

「それを求める鳥やそれを狙う動物がいて、さらにそれを捕食する中・大型の肉食獣や魔獣が居るということですね」

「トゥバリータイガーほどの大型魔獣なら、せめてもう少し木々が生い茂り空から天敵に狙われない安全な場所こそ縄張りにしているはずなんだ」

「でしたら、本来彼らにとって安全な縄張りは――」

「ファフナッ!」


 突如アルくんが叫んで私を引き寄せ背後に回した。

 何が起きたのかも分からぬまま、


 ドスッ!


 と、鋭くも鈍い音が眼前で鳴る。

 先ほどまで立っていた位置に深々と突き刺さるシャフト。

 もしアル君が助けてくれずそこに立っていたらと思うと、背筋に冷たいモノが流れ落ちた。

 

「ファフナ様、お怪我は!?」

「大丈夫です。アル君が守ってくれたので」

「ふん、ずいぶんと手荒い歓迎じゃないか。森ごと全て焼き払ってやろうか?」


 あ、怒ってる。

 穏やかな口調ですが、ぶち切れまくってます。


「我らは交渉人だ! 古の盟約に従いこの地に来た!」


 森に反響する声。

 そして、沈黙。

 鳥の鳴き声が遠くに聞こえる。


「ルアルー!」


 それは、やや遅れてから聞こえてきた姿見せぬ女の叫び。


「「「ルアルー!! ルアルー!!」」」


 男、女入り交じったいくつもの叫び。


「共通語を話せるくせに脅しのつもりか? 上等だ、最初から喧嘩売ってきたのはてめぇらだ買ってやるぞごるぁッ!!」

「あ、あ」


 やばいです。

 この地の者は知らないのです。

 この小さな身体に極上のモンスターが潜んでいることを!


我らは交渉人だ(ジャダン・アルガス)古の盟約(ラルバ・カーズ)従いこの地に来た(アルギラータ)!!」


 それは古代精霊語エンシェント・アールヴに似ているが、独特のイントネーションが混ざった言葉だった。

 そう言えば、先ほどのルアルーという言葉も、古代精霊語エンシェント・アールヴ去れ(ルアレー)という言葉に似ていた。

東国訛りなのか、それとも他種族と混ざることの無かった彼らだからこそ守り続けられた言語なのか。

 とにも……


 ザワザワとしたどよめきが姿見せぬ者達の間に広がる。

 そして、明らかに纏う空気に苛立ちを見せ始めるアル君。


「こっちとら問答無用で喧嘩売られてんだ、いつまでも隠れてるつもりなら森ごと消し炭にして炙りだしてやろうか、おん?」


 ガ、ガラ悪……

 姿見せぬ敵の気配にすら怯えを植え付けるガラの悪さ。


「出てこないんだな。だったらこっから先は喧嘩ってことで良いんだな……地の底の赤、星の(かいな)で眠りし異界の紅蓮炎霊王(ゼタルーラ)よ、我との契約、我との約定、我との血の盟約に従いて我が敵を――」

「わーわー、ダメですそんなお手軽に(ルーラー)呼んだら!」


 ごぅっ!!

 と音を立て渦を巻く炎。

 それは熱を持たない地上では絶対に生まれるはずの無い炎。

 薄暗闇を明るく照らす不可視の輝き。

 知らなかった。

 この人風霊王(ルシャルーラ)だけじゃなく、炎霊王(ゼタルーラ)とまで契約しているなんて!

 って、そんなことに驚いている場合じゃ無かった!


「ダメです、そんな力を解放したら!」

「知ったことか! ()から奪うということの意味、その身に刻みやがれ!!」

「おふぅ、何故にそんなぶっ壊れハイテンションなんですか!!」


 ダメだ、もう打っ叩いてでも止めるしか――

 そう思ったときだった。


「アルトラ……お止めください! いま、そちらに行きます!!」


 それは怯えに怯えた(当然ですね)、臓腑から絞り出した声だった。

いい加減、深夜では無く夕方に更新出来るようにならんとなぁ。

とか思ってますが、恐らく無理でしょう。


何でアル君がキレたかは、次回で


またね( ・ω・ฅ”)

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