霊峰に宿る力
ヒャッハー!
間も開けずに更新出来ると思って調子に乗ってたら結構アルコール入ってただでさえ怪しい推敲がさらに怪しくなった!><
お得意のある程度たまったらまた推敲再投稿の嵐になると思います。
とにも……
本編の中で出てくる年齢のお話
ファフナタン25才
脳筋32才
この世界はアールブ=エルフなので、ファンタジーとして常識外の高齢の方が良かったのにという後悔があります。
だけど裏設定的にはあんまり高齢に出来ないというジレンマもありで……
読者様には実年齢に近いとどうしても受け入れがたいところはあるでしょうが、お許しください。
(ここで年齢のこと書かなければそんなことも思わなかったか!?)
登場キャラの心根は永遠の19才です!!!!
乾いた金属音が深夜の山奥でこだまする。
「握りが甘くなってますよ!」
「ふぎゃっ」
「今日はここまでにしましょう」
「あ、あぃがとうごじゃじゃしゅたぁあぁぁ」
ダリア殿と何をやっているのかというとチャンバラ、ではなく剣術の稽古。
正直に言って私が最も嫌いな訓練です。
では何故そんなことをやっているかというと、簡潔明瞭に言って強くなるため――らしいです。
「おょ、終わったか?」
鍋(食材は現地調達)を作りながら、のんきな声が返ってくる。
「ぐ、こっちがダリア殿にしごかれてくたびれてるっていうのに、のんきにしてくれてますね」
「んじゃボクと訓練するか? 生憎とボクの拳も足も刃引きしてないから手加減は難しいぞ」
「死にたくないからやめときます」
「手加減云々は冗談だが、お前の剣術の基本はアルトリア騎士団の流派だよな」
「流派なんて気取って言えるほどのものではありませんが、一応そうなります」
「なら尚更、ボクみたいな我流が混ざるのは良くない」
「我流も突き詰めれば一流。アルフォンスさんはかなり変則的な戦い方ではありますが、その強さと剣技は間違いなく超の付く一流です。とはいえ、正直に言ってダリア様の綺麗すぎる剣技とは相性が悪すぎるとしか言えません」
「そう言うことだ」
「念を押されなくても分かってます」
「立ち合いや仮想敵としての訓練なら良いが、剣術を教えるという意味じゃボクには荷が重い。お前自身もこと剣技に関しては器用とは言いがたいんだ。同じ流派に師事した方が成長には最適だと思うぞ」
「そうかもしれませんが……」
そもそも論で私が何故に今更になって剣技を習わねばならんのかという疑問が消えてませんよ。
『ダリア、コイツに剣を教えてやってくれ』
『了解!』
『なにゆえ!?』
腹黒と脳筋、混ぜるな危険。
ろくな理由の説明も無いままに脳筋に頼んで脳筋はとりあえず剣の訓練が出来るのが嬉しいのだろう、二つ返事であっさりと了解する始末。
そして、バドゥーの一件以降、毎夜こうやって剣術の訓練をしているのだ。
「で、どうだファフナは?」
「正直に言えば、初日は魔術師の素養と比べると剣士としての能力はかなり見劣りするものでした」
「ぐふっ」
「ただ――」
「ただ?」
「成長が……その、こんな言い方はあれですが、正直ありえないほどに異常です」
異常とはなんぞ?
ダリア殿のそんな身も蓋もない言い方に、だけどアルフォンス様が無言のままに頷く。
「たった数日で異様な速度で強くなっているだろ」
「はい。これが英雄の血、バドハー様の血統なのかと驚ろかされ嫉妬さえも覚えています」
「天上の賢き者ってのは限りなく古代種に近い。こと身体能力という意味じゃ、ボク達よりも素養が遙かに上なのは確かだ」
「で、ですが、私は今まで剣とか得意ではありませんでしたよ」
「身体能力が優れていても性格の向き不向きはある。苦手意識やそもそも戦うことに嫌悪感があればどんなに適性があろうと成長は伸び悩むさ」
「私の中ではそれほど意識が変わった感じはしていませんが」
「前に訓練していた時は仕方が無くやっていたんだろ。周りには自分よりも強いヤツがいただろうし、劣等感の方が大きかった。でも今は自分で動かなければという前向きな感情は無いか?」
「それくらいの前向きさは、まぁあるかもですが」
「自分でも気が付かないほどの小さな変化を一つ一つ丹念に積み重ねることで大きな変化を生み出す。そんなこともあるんじゃないのか」
「そうかも、しれませんね」
「二人だけで通じる会話、繋がってる感じがラヴいわねぇ」
「えへへ、それほどでも」
「茶化しにノルなよ。とは言っても、こんな緩い会話をしている余裕もあと数日で消えるだろうけどな」
「と、言いますと?」
「順当に行けばあと二日も山を下れば東国最大の難関、【トゥバリー大森林】だ。【竜の背骨大山脈】が西国と東国を分ける最大難所とすれば、【トゥバリー大森林】は東国に広がる大魔境だ」
「大、魔境……」
期せずして私とダリア殿の喉がゴクリと鳴る。
トゥバリー大森林――
東国を埋め尽くすほどに広がる魔の大森林。
かつて大冒険家にして戦う学者と名高かったオーソンが挑んだが、その手記には『寿命が千年あっても探索し尽くすことは不可能』と書かれていたという。
「難所ではあるが生物の種類が少ない【竜の背骨大山脈】は、準備さえ入念に行い天候にさえ恵まれれば攻略は比較的容易だ」
「容易なものですか! バドゥーの大群の後もどれだけの魔物に襲われたか!」
「そうですよ、私何回も死にかけました! 空気は薄いし、ストーンガザミは落石みたいに転がってくるし!」
「空気が薄い高山トレーニングってのは、太い体力が付く良いトレーニングになるらしいぞ。兄さんが言ってた」
「誰がトレーニングの話をしてますか」
「なるほど、あの空気の薄さは太い体力を付けるにはもってこいということですか…… ファフナ様、明日は走りましょう!」
「おい、何をクワッとか目を見開いているんですか!」
目をキラキラさせて何を言ってやがりますかこのカチコチ脳筋は。
あっさりと丸め込まれてどうするんですか!
「魔物に襲われたなぁ……不可抗力な悲劇はいくつもあったが、それを乗り越えて今のボク達があるんだ。それをまず喜ぼうじゃあないか」
「こ、この……」
しれっと言ってくれやがってますが、襲われた何回かは明らかにわざとバドゥーやストーンガザミを煽ってましたよね!?
「言いたいことはあるんだろうが、暖簾に腕押しという言葉を知っておいた方が良いぞ」
「元凶がそれをいいますか?」
「今からそんなに血圧上げてたらこの先持たないぞ」
「んぎぎ……」
「ファフナ様、よくこの方に着いていけますね」
「慣れ……って怖いですよね」
「慣れですか」
「慣れです」
「好きなだけ言ってろ。さっきも話したが、どうせそんなこと言ってられる余裕も今のうちだ。ここから先はびっくり箱の中にでも飛び込んだみたいなモンスターワールドだからな」
「モ、モンスターワールドとは言い得て妙といいますか……」
世界中の六割の生物種が住むと言われている【トゥバリー大森林】。
そしてそのどれもが我々の体高よりも遙かに大きく強靱な生物ばかりだという、まさに大魔境。
「毒虫に始まり高速で飛び回る爬虫類。馬鹿げたサイズの魔獣に這い寄る植物。極めつけは古代遺産の海洋生物まで出るって話だ」
「陸上で海洋生物ですか? 鱈とかサンマとか、マグロやイカみたいな美味しい感じの?」
「ふっ、どうやらダリアは空腹みたいだな。鍋はとっくに出来てるよ」
「いえ、私は別に空腹というわけでは――」
狙い澄ましたかのようにダリア殿の腹の音が鳴った。
「あ、あはは……お恥ずかしい真似を……」
「せっかく作った鍋が煮詰まる前に食べるとするか」
「そうですね」
やっと取ることの出来た本日最後の食事。
「高山タンポポの根が良い具合に乾いたんだがコーヒー飲むか?」
「タンポポコーヒーですか。良いですね、演習の時によく野外で飲みましたよ」
「いつの間に手に入れたんですか?」
「一昨日」
「採取なんかしてました?」
「ああ、やってくれたぞ。ストーンガザミがな」
「……」
「……あっ! あの高原の群生地! 高原で甲羅干しして気持ちよさそうに寝ていたストーンガザミに突然跳び蹴り入れてましたよね!」
「高山タンポポの群生地だラッキーとか思ったんだが、コイツは固い岩盤に根を下ろすから採取がめんどいだよな。良いところにストーンガザミが居て助かったよ」
思い出しました。
跳び蹴りをかまされたストーンガザミが怒り狂って辺りを破壊しまくっていたのを。
え、正気ですか?
タンポポの採取のためにあの凶悪なストーンガザミを利用したとか?
「アルフォンスさん……」
「なんだ?」
「私たちがストーンガザミから逃げ回っている間、貴方はタンポポを採取していたと?」
「このタンポポを採取できたのはお前達が居てくれたからだ。タンポポ採取のMVPはお前達だな」
「そんなことを言ってるんじゃありません!」
「あそこはオーソンの手記にもあった、通称【地平まで続く高原】って場所でな。ストーンガザミの繁殖地でバドゥーも近づかない」
「それが何だというのですか!」
「なだらかな坂だから見渡しもよくストーンガザミにさえ気を付ければ、延々と数十キロは走り付けることが出来る」
「だから……はっ!」
「気が付いたか。そう、あそこは延々と走り込める絶好のトレーニングゾーンだ」
「な、何という……心が折れそうな時には背後に迫るストーンガザミが鼓舞してくれる……」
それは鼓舞とは言わない。
鬼気迫る恐怖と言うのですよ。
「なるほど、ナイス判断ですアルフォンスさん! ファフナ様、もう一度戻ってあそこで走りましょう!」
「行くか!」
駄目だこの脳筋……
旅に出てからというものずいぶんと知性が崩壊していらっしゃる。
ってあれ?
この方、確かに直情径行がある方だと聞いたことがありましたが、ここまでストレートに無鉄砲な方ではなかったような……
「アルフォンス様」
「何だ? って、いちいち様付けしなくて良いぞ」
「じゃあアルくん」
「振り幅……まぁ良いか。んで何だ?」
「ダリア殿って、ここまでブレインマッスルな方でしたっけ?」
「ブレインマッスルってお前……」
「いやーこの高原タンポポのコーヒーも美味しいし星空は綺麗だし、襲われがいがあったというものです! あーはっはっー!!」
ダリア殿が青い地球に向かって高らかにコーヒーカップを掲げてがぶ飲みする。
あれ、アルコールは入ってませんでしたよね?
「…………あ、まぁ、恐らく地形の影響だな」
「地形の影響、ですか?」
「本人の脳筋としての素養もあるだろうが、ここらは遥か昔に天空都市が墜落しているんだ。詳細な場所は知らないが、それ以後、地表の魔素や精霊力がかなり乱れている。感応性の高いアールヴだからその影響を受けているんだろ」
「なるほど……って、さらっと今凄いこと言いませんでしたか?」
「【竜の背骨大山脈】なんで仰々しい名前が付いているのにはそれなりに理由もあるってことさ」
「今度詳しく教えてくださいね」
「国に戻ったときにでもな」
「あ、でも」
「なんだ?」
「ダリア殿があんな感じに仕上がったのは魔素の影響を受け素養もあったのでしょうが、私にはあまり影響が無いようですが?」
「そんなことはないぞ」
「え?」
アル君が――
うん、この呼び方の方が私的には好きです。
アル君が横目でハイテンションなダリア殿をチラ見すると小さなため息を漏らした。
「アレはあんな調子でどうせ聞いてないだろうから話すが、王都に居た頃のお前の精霊力は正直かなり不安定な状態になっていた」
「ッ!」
それには気が付いてた……
女性の肉体になったせいで起きている不具合では無い。
おそらく、時渡りなどという無茶な芸当をやってしまったからだろう身体の変調。
「ここは天空都市を支えた巨大な【風の精霊石】が眠る地だ。普通のアールヴが魔術に高い適正を持つ天上の賢き者に比べ身体能力が劣るのは確かだが、ダリアがあそこまで影響を受けているのは魔術回路が正常だからだ」
「私の変調が少ないのは、魔術回路が壊れかけているから?」
「端的に言えばそうなる。だからこそこの地に来る必要があったのも確かだ」
「何かあるんですか?」
「巨大な精霊石が眠ることで、この地はある種の霊峰とも言える魔素を宿すことに成功している。この地に宿る莫大な風の精霊力がお前の中の壊れかけた精霊力を癒やすと思ったんだ。【風霊王】の加護を受けているならなおさらな」
「もしかして、私の事を心配してくれてたんですか?」
「そのぐらいはするだろ。まさかボクのことをそこまで血も涙も無いヤツだと思っていたのか?」
「いえ、そんなことは思ってません。思ってませんが……えへへ」
他人に興味が無いように見せて、実は誰よりも人情家で優しいのは前から知っていますよ。
え、えへへ……
駄目だ、何か顔が緩んでしまいます。
「それでな」
「は、はい、なんですか?」
「風霊王の加護とハウゼルの力で魔術回路の再構築はだいぶ進んでいると思うが、ボクはもう一歩進んだ治療を考えた。それがこれだ!」
「う゛ぁあ!? な、生首!?」
ドン、と地面に置いたそれに思わず悲鳴を上げる。
「生首じゃ無い! よく見ろよ!!」
「えっと、顔……じゃ、ない……、マ、マスク? 仮面?」
よく見るとそれは確かに人の頭では無く作られた顔。
顔とは言っても精巧に人に寄せたデザインとではなく面長の顔型に目の穴だけが掘られ、赤と黒の隈取りの入った魔除けのオブジェみたいなマスクだった。
「なんですか、これは?」
「うん、母さんが持っていた漫画とか言う本に載っていたんだ」
「漫画?」
「ああ、ほぼほぼ挿絵で世界観を表現した本でな、当時のボクには文字はよく分からなかったけど母さんが読んでくれたんだよ」
「ほほぅ」
「んでな、その中で頭を熊の爪で抉らた廃人闘士が不思議なガスを放つ霊木で作ったマスクをかぶると全盛時みたいに戦えるって言うシーンがあってな、ボクもそれを真似て作ってみたんだ」
「……それで?」
「ここには精霊力をふんだんに吸収した霊木があるからこれをかぶればお前も即回復! 名付けてモンゴ――」
「とりゃーっ!!」
むんずとつかんだマスクを全力で放り投げる。
「ああ! そのマスクお前達にバレずに作るのにメッチャ苦労したし出来もすげぇ良かったのに何すんだよ!?」
「怒られたくないからです! いい歳した大人が、ちゃんとした大人にしっかりと怒られる姿とか客観的に見て目も当てられないです!!」
なんだかよく分かりませんが、非常に危険な物体を地平の彼方に投げ捨てたのでした。
そんな感じで暮れゆく【竜の背骨大山脈】の十日目の夜でした。
チャンチャン♪
今回の更新で、後書きに残す時世の句は何もなかとです……






