剣と精霊
仕事の忙しいシーズンです。
現実逃避して頑張って書きました!
ほめて!!
※
発作的に褒められたい症候群に陥ります。
「お、と、と、と……の、と、と?」
一斉に集まるバドゥーの敵意と狂乱の瞳。
「ぷ、ぷ、プギャー!? あ、ああ、あああ、アル君、バドゥーに睨まれてます! 美味しく食べられちゃいます、ほ、ほぎゃー!!!」
「あの、す、凄い悲鳴上げてますよ」
「大丈夫、大丈夫」
「彼女さんが泣き叫びながらアル君って呼んでますよ?」
「彼女ちゃう」
「やり〇ンDV男」
「おい、そんな事実はないぞ、誤解を招く人聞き悪いことを言うな! いいか、アイツは――」
「ほぎゃぁあぁぁぁぁぁって、ごるぁあぁッ!! なんで二人仲良くくっちゃべってるんですかぁ!?」
助けを求め後ろを振り返れば、よく聞こえませんが右腕で相棒で勝手に過去を知る私をほっぽいといて二人の世界を作りやがっていた。
ぶちっ。
「こんちきしょーめ、やったらーボケがよーッ!! まとめてかかって来やがれ、こんだらずどもがぁぁあぁぁあぁぁぁぁっ!!」
「なんか、口汚く叫びながら突撃していきましたけど!」
「ほぎゃあぁあぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「あ、悲鳴上げてますけど!」
「大丈夫大丈夫、たぶん」
……
…………
………………
「ほらな?」
「な、ぜはー、ぜはー、ぉえ……な、何がほら……おぇ」
「あー、喋んなくても良いぞ。まずは呼吸を整えろ」
「あ、あー……すごかった、ですね」
「言ったとおりだろ」
「だ、だから、何の話ですか?」
「気が付いてないようだが、周りを見るんだな」
「ま、まわり?」
促されて辺りを見渡す。
「日が暮れてます。夕日が綺麗です」
「あ、ああ、まぁこの山の上から見える景色は確かに絶景だな。や、そうじゃなくてだな、視線をもう少し下げてみろ」
「しせん?」
そこに広がるのは、空の美しさとはまさに対極とも言えるような地獄絵図。
「う、うわぁー!? な、何ですかこの惨憺たる有様は?」
「ファフナさん、貴女が風霊を使役して手当たり次第に打ち落としたんですよ?」
「え、私が風霊を使役?」
思わずポカンとしているとアルフォンス様が苦笑いする。
「使役と言ってもハウゼルの力で強制したものじゃない。お前自身気が付いていないみたいだが、【風霊の加護】とまでは言わないが、少なくとも力の導線はすでに引かれていた」
「いつの間、あ」
思い出した。
そうだ、あれは巻き戻る前にアルフォンス様から風霊の召喚を無理矢理手伝わされたんだった。
そうですか、あのときの経験が。
あれ、でも時が巻き戻ったなら?
「不思議な顔をしているな」
「えっと、えっと、なんて言いますか、その……」
ここには事情を知らないダリア殿が居る。
迂闊なことは言えない。
「王と呼ばれる存在は、自然現象に近い下位精霊などとは比較にならない存在だ。わかりやすく言えば神と同格だよ。その盟約はある意味、魂との絆と言っても過言じゃない」
「な、なるほどです」
濁して説明されたが、おそらく精霊王様とは魂の繋がりになるから時が戻ろうともその繋がりは無くならないということなのだろう。
「なんだか分かったようなよくは分からないような何とも言えない感じですが、ファフナさんが最も気難しき精霊と言われる風霊の使役が出来る希有な術者であると言うことは分かりました」
良く分からないと言いながらも納得したとばかりに頷いている。
知性のダリウス、脳筋のダリアという噂はどうやら本当らしい。
「ですが」
およ?
ダリア殿が何だか険しい表情でアルフォンス様に詰め寄っています。
「アルフォンス殿、いかに資質があろうとバドゥーの群れに解き放つなど無茶が過ぎます!」
「あ、でも、こういう人ですから、そんなに怒らないであげてくだ……」
「何を甘い態度をしてるんです。恋人なんですよね、しっかり言わないでどうするんですか!」
「ッ! そうだそうだ、恋人にはもっと優しくしろー!」
「お前ら……特にファフナ、お前もそうなってから変なノリを身につけやがって。ああ、もうボクが悪かった、悪かったよ。少しやり過ぎた」
「少し?」
「少しだろ」
「少しじゃ無いです、私死にかけました!」
「あのなぁ、ボクのやり方は確かに荒っぽかったかもしれないがお前の精霊魔術の才能はすでに開花してんだぞ」
「へ? 才能の開花、ですか?」
「王との盟約ってのは、そんじょそこらに転がる有象無象の精霊魔術師が百人や千人いたって叶うようなもんじゃない。今のお前は少なくともこのアルトリア王国では五本の指に入る術者になっているんだぞ」
「え、私そんなに凄いことになっているんですか?」
「やっぱり気付いてなかったのか」
「やっぱりって……気が付いていたらもっと自信満々に生きています」
「胸張ってその返しはどうかと思いますが」
ダリア殿が苦笑いを浮かべる。
し、仕方が無いじゃありませんか!
精霊王様の加護が得られるなど、アールヴの歴史を見ても希有なことなのは分かっています。
分かっていますが、私だって巻き戻る前に精霊王様の力に触れたのはほんの少しですし、盟約なんて大それたことが出来ているなんて思わなかったんですぅ。
……でも、そんな偉大な存在と盟約が結べたのもアルフォンス様のおかげなんですよね。
「なあファフナ」
「はい、大好きです!」
「あん?」
「ラブラブねぇ……にやり」
「えっと、あ、そうじゃなくてですね。あ、そうじゃないというのは、そうじゃなくてですね、あの!」
「ファフナ、墓穴を掘るだけだからそれ以上はやめとけ」
「むぅ……そうやってすぐはぐらかす」
「はぐらかすって、そんなつもりはないよ。ただ、お前自身がもう少し冷静になったら逃げずに聞くから今はまだ保留にしとけ」
それは初めて聞けた前向きな言葉な気がした。
今もし、私のお尻に犬の尻尾が生えていたらブンブン振っていたかもしれません。
「え、えへへ」
「ん゛……と、とにもだ」
「戦闘の天才様も好意を受け止めるのは不器用だったりします?」
「うっせー、もう面倒だから本題に戻す。天上の賢き者として生まれたお前自身の溢れる才能に、やっとお前自身が追い着いた……ってところだ」
「えっとえっと…………私の才能ですか? 私に才能何てあったんですか?」
「お前はもしかしたら嫌がるかも知れない言い方だが、すくなくとも天上の賢き者の血筋に無才はありえないよ。何より――」
「何より?」
「お前が心折れずに人知れず積み上げてきた努力が実を結ばないはず無いだろ」
「……ッ」
この人はこの人は!
いつもいつも、本当にさらっとそんなことを!!
「ま、――」
「まままま、ま、ま、ま……」
「まが多いな、それとボクのまを取るな」
「ま、ま、まさかですが、私の聞き間違えじゃ無ければ今天上の賢き者と言いませんでしたか!? ファフナさん、あ、いえ、ファフナ様はも、もしかして天上の賢き者なのですか!? ま、まさか王家の……」
「あ」
ダラダラと背中に汗が流れ落ちる。
まずい、これはまずいです。
私がオルガン家の者だと……あばばばば。
「そうだ、コイツは前王家の直系だよ」
「前、王家……ゴクリ……」
「そう、私は前王……え?」
前王家ってなんですかぁ!?
公爵家は確かに血筋的には前王家に縁はありますが、それでも高祖父様が王室の三男だったので、どちらかと言えば直系というよりも傍系遠戚がせいぜいですよ。
「前王室って、それでは現王であらせられる、エルダリア様よりも正当な血統と言うことになりますよ!」
いいえ、ラーダベルト大公家の方が血筋的には明らかに直系です。
軽くパニックになりながらどうやってこの場を乗り切るかを考えていると、この腹黒ショタ様がさらにとんでもないことを言い出した。
「落ち着け」
「お、落ち着けって、これは一歩間違えれば……国が二分に……」
「ファフナは確かに天上の賢き者で前王家縁の者だが、その親は疾うの昔に王籍離脱している」
スラスラとまぁ、よく作り話の出るお口でいらっしゃる。
って、ちょっと待て。
王籍離脱した天上の賢き者って……
「まさかバドハー様の隠し子ッ!?」
「正解」
おいこら、何が『正解』ですか、あと間髪入れずに同意すんな!
さっき泣きそうになった私の感動を焦りで上書きしないでください!
「よもや、二千年間独り身でスキャンダルとは無縁だったバドハー様に隠し子がいたなんて……」
「おい、そんな【悠久の非モテ】みたいな言い方してやるなよ」
「非モテだなんて言ってません。ただ、男色なんだろうなとは思っていましたが」
この二人、ここにバドハー様が居ないことを良いことに、好き放題言ってます。
「じじぃの趣向はともかく」
建前をあっさりと捨ててのじじぃ呼ばわり。
「少し考えれば陛下の御心が分かると思う」
「陛下の御心?」
「アルトリア陛下が国宝とも言える剣を何故貸し与えたのか。その剣は元々は黒エルフの秘宝だ。そして今回の旅の目的は彼ら黒エルフの力を貸りることだ」
「えっと、すなわちアルフォンス殿が言いたいのは、この剣を返して欲しければ力を貸せと脅すため?」
「おい」
「ぶほッ……」
「どいつもこいつもボクをなんだと……あと、お前も笑ってるんじゃない」
だって、そう思われるような行動をしているのは貴方ですよ?
「じゃあ何故陛下からお借りになったのですか?」
「第一にはファフナを守るためだ。残念ながら天上の賢き者としての才はあっても正直まだまだ未熟だ。ハウゼルの力を借りなければ、風霊を使役するのは覚束ない状況だ」
「言い返せないです」
「それとその剣は彼奴が……いや、英雄王が黒エルフから譲り受け、アルトリア王国へと渡った経緯がある。正当な剣の後継者であることを示さなければ力を借りられない可能性がある」
「な、なるほど……それで陛下が貸し与えてくれたのですね」
「あと最大の理由としては、国を平定してまだ間もない状況だ。正当な世継ぎがいるわけでも無い以上、遅かれ早かれ王家の血筋を心配する者達が声を上げるだろう」
「確かに私の所属する騎士団の中でも、陛下の身にもしもの事があれば、連綿と続く王室の血筋が途絶えるのではと危惧する声があるのは確かです」
「とはいえ、陛下はまだ即位して間もない身。婚姻の話をどうこうと進める余裕も無い」
「腹立たしいことに北には獣王国、南は蛮族、西は盗人国家。極めつけは東の魔王ですか」
「まさに孤立無援って感じですね」
「陛下にはまだまだ陣頭指揮を執って頂かないといけない。正直、今はまだご祝儀相場で士気だけは高いがこれもいつまで続くかは不明だ」
「そのためのファフナ様ですか」
「ああ、この旅でその剣を使いこなせるようになり精霊王と契約出来るようになれば身体のどこかに精霊王の文様が浮かぶ。陛下はそれで国を守る力を持つ者として証明し、その上で王室直家の姫であると宣言するつもりでいる」
めちゃくちゃな言い分ではあるが理にはかなっている。
ただ私自身、突然そんなことを言われても荷が重いのは確かだ。
確か、ですが……
万が一にもそんな最悪の事態が起きたら、私が役割を果たすことで国が纏まるのであればその時は象徴となる覚悟くらいは……おそらく、きっと、あるはずです。
「ならば、いっそバドハー様に自分の子だと証明して貰ってはいかがでしょうか?」
「おふっ」
「おふ? 大丈夫ですか、むせたんですか?」
「いえ、何でもありません……」
って、そこで声を噛み殺して顔を背けて肩をふるわせてる貴方!
貴方が言い出した嘘ですよ!!
どうするんですかこの嘘!?
「まぁ、正直それも考えてはいたんだが、あのじじ、ゲフンゲフン。バドハー様に腹芸は難しいと思う」
「確かに普段のバドハー様は面白おかしい好々爺ですものね」
「……好々爺、ね。ま、アルトリアが統一されたばかりなのに突然旧王家の直系たる血筋が出てきたら、それはそれで厄介な問題を生みかねない」
「自分のことでこういう言い方もあれですが、あくまでも私はもしもの時のスペアと言うわけですよね」
「ぶっちゃけるとそういうことだ。もちろんお前が表舞台に立つのが得手じゃ無いのは知っているし、新王が即位し平定したばかりのアルトリアに余計な火種を生むのは得策じゃ無い。得策じゃ無いがそれでも搦め手は用意しておく必要はある」
「私は幼き頃より陛下を近くで見てきました。あの御方は穏やかな性格でありながら国でも一二を争う剣豪です。ですが、無敵でないのはあの屋敷の襲撃で重々分かっているつもりです」
ダリア殿にアルフォンス様が静かに頷く。
「どんなに強くとも不意を打たれれば負傷します」
「ああ、ドラゴンだって英雄だって首を落とされれば死ぬ。そして死ねば全てが終わりだ」
「だからこそ、万が一を考えて策を練る必要があるわけですよね」
「そうだ。とは言え覚悟を決めて即位してくれた陛下をむざむざと害されるつもりは無い。無いつもりだが、この乱世だ。正直これから何が起きるかは誰にも分からない」
「一寸先は闇と言いますしね」
「その通りだ。だからこそ打てる手は全て打つ。王道だけじゃどうにもならないなら、権謀術数だろうとなんだろうとボクの持てる力は全部使ってやる」
汚れ役は引き受ける。
そう力強く言い切られた気がした。
できるだけ早く次も更新しますデス!←いつもこんなこと書いてんなぁ……
応援よろしくです!!






