アルトリアの王、暗雲に触れる
日没前の更新じゃー!
うぉおぉおぉぉぉぉぉぉっ!!
更新じゃー!!←ただの勢いです
声音は穏やか。
されど内容は恫喝に等しい。
だが――
彼が求めてきた覚悟とはファフナを無条件で許すことか?
ちがう。
それは断じて否だ。
彼が求めた覚悟、そして私が応えるべき覚悟は別の次元にある。
「ならば軍師アルフォンスよ、私はこの国の王です。この国の民を守る使命があります。貴方がファフナを守というのなら、私がファフナを害さないで済むに足る明確な答えを今ここに示しなさい。出来なければ私はファフナ共々、貴方を罰さなければなりません」
私の応答に、アルフォンスが目を細めた。
それは酷薄な笑みにも、満足げな笑みにも見える、あえて言うなら彼らしい意地の悪い笑みだ。
「感情論を抜きにするのなら、喩え【超越せし支配者】になろうとも、今のあの者は私の手で十分に殺せます。私の補佐官として私のそばに居る限り、あの者が敵対しようとも私の手でけじめは付けられます」
「なるほど。ですがそれは事が起きた上での対処。貴方自身が手を下せない状況下になることだってある。貴方ならそれくらいは想定できてますよね」
「もちろんです。殺させない絶対的な条件とするのなら、ファフナは純血種に近い天上の賢き者と言えども二度と時干渉は使えないという事実があります。もし仮に時干渉を行えばその魂は粉々に砕け散り二度と蘇る事は出来なくなりましょう」
「天上の賢き者という言葉を知っていることにも驚きですが、あえて天上の賢き者という存在を知っている上で、ましてや【超越せし支配者】に覚醒してなお、その力は二度とは使えないというのですね」
「不可能です」
「ここまでの話を聞いた上で判断するのなら、制御の出来ない怪物としてなおのこと処理しなければなりませんよ。それを分かった上で貴方は話しているのですよね」
「あの者を滅ぼすことも封ずることも出来ません。何故ならあの者がその身に宿しているのはアールヴにとっては、人間にとっての神と同等の存在だからです」
「ずいぶんと大きく出ましたね」
「時干渉……この能力は極めて異例です。歴史をひもといても有史以来それを可能とした者は知りうる限り一名。そしておそらく可能であっただろうと推測される者は二名に過ぎません」
「【史滅の魔女】ネムリア」
「【編み士】ハルカ」
「そして、時を超え歴史の中に度々登場する【名も無き魔剣士】……ですね」
「【史滅の魔女】ネムリアを除けばおそらくその二名のみが時を渡ることが出来たと目されています」
「【編み士】ハルカは諸説こそありますが【英雄王】カーズの妻だと伝わっています。あの神にも等しき英雄の妻なれば時干渉する能力は万に一つもあったのかも知れません。ただし【名も無き魔剣士】に至っては幾度となく歴史に名こそ刻んでいますが、登場する時間軸にはあまりに隔たりがあります。そのため到底同一人物とは思えませんし、今は創作の中の英雄とさえ言われてますよね」
「………………」
「どうしましたか?」
「……いえ、私は彼は存在したと確信しています。もっとも、それを今すぐに説明するのは少し難しいですが」
「……そうですか。とにも、今はそんな歴史談義をする時ではありません。そう、伝説と呼ばれる数多の英雄達でさえ不可能とされた時干渉。それを何故ファフナが可能としているのか、です」
「陛下、時干渉を可能としたお方がもう一人います」
「……いま、歴史でこの三名のみと言ったのは貴方自身じゃないですか」
「人間、あるいはそれに近しい生命体であるという条件なれば」
「人ならざる……まさか、ま、まさか……有り得ません! その御方を使役するなど不可能です!」
「果たしてそうでしょうか?」
「何を……」
「かつてアルトリアを二分した王杯戦争……兄と妹で争われた玉座を巡る内戦。まさか【盾を持ちて駆けつける者】の名を冠する陛下が、結末を知らないとは仰りませんよね」
「ッ! 何故貴方が……いえ、あの凄惨な王杯戦争は、この国では誰もが知るところ。ですが、貴方は知っているのですか?」
「失われた王姫だけが史上唯一盟約を結べたという事実。それは王姫ソフィーティア様が稀代の召喚術師であり、それを超える者は過去現在において存在しない」
「それを知っているのなら何故、精霊術において未熟者と断言できるファフナが根源の王にして創造を司る精霊皇様の力を使えるなどと言う妄言を吐けるのですか!」
「精霊皇そのものを使役する、それはいかな天上の賢き者と言えども不可能です。前王室の王姫が様々な奇跡の糸を手繰り寄せたからこそ成し得た奇跡……」
「分かっているではありませんか。それこそが答え。それが全てです」
そう、あり得ない。
あり得るはずがない。
あの奇跡は精霊に愛され慈愛に満ちたソフィーティア様だからこそ成し得た奇跡。
そして、起こしてはいけない奇跡だったのだ。
「私めもそう思います。ですが、かつて英雄王の強大なる敵として立ちはだかった偽英雄は【超越せし支配者】と呼ばれました。いや、【超越せし支配者】と呼ばれる未知なる技術こそが偽英雄を生み出した、が正解でしょうか」
「卵が先か、ニワトリが先か……貴方が言いたいのは、【超越せし支配者】と呼ばれる技術があれば、かつて偽英雄と呼ばれた男を生み出せたように、精霊皇様の力に類する力を擬似的にでも生み出せる、と言うことでしょうか」
私の問いかけに、アルフォンスが静かに頷く。
「それが根源の王たる精霊皇の力をただ模倣したものなのか、或いは精霊皇の力に干渉することで手に入れたものかは分かりません。分かりませんが少なくともアールヴにとって偉大なる精霊皇の力を宿した可能性がある者を傷付ける、それは決して許されることではないはずです」
その言葉に、深いため息とともに椅子にへたり込んだ。
「……正直、貴方が狂ってしまった。そう思い込んだ方が安心の出来る発言ですよ。精霊皇様に干渉する、それ自体途方もないことですがそれ以上にそんな常識の外を行く力を持った者を悪意ある何者かによって量産でもされたら、かつてこの世界を救った英雄王たちの偉業すら消し去られかねません」
「心中お察しします」
「爆弾を放り込んだ張本人が何を他人事のように」
底意地の悪い笑みだ。
「ですがご安心ください、と言うのが適切ではないのを承知でお話しします。純血統種に近い天上の賢き者であるファフナですら、強大な時干渉の力を前にその精霊力を扱う力に傷を負っています」
「それが二度とは時干渉能力が使えない、と言う先ほどの発言ですね」
「天上の賢き者と呼ばれる方々は先の元老院と公爵家の粛正で大幅に姿を減らしました」
「なるほど、より純血種に近い天上の賢き者とは王家に連なる者、となれば残るのはほんの一握り。それ以外の者には制御どころか触れることさえ不可能と考えればそこまで恐れる必要は無いのかも知れませんね」
「正しく恐れよ、と言うことです」
「なるほど、過剰に脅えれば道を失い道を失えば未来は閉ざされる。戦そのものと同じですね」
「まさに」
「ところでファフナですが。あの子は精霊力に傷を負ったとのことですが、どの程度の傷なのですか?」
「通常の精霊力に触れる程度であれば問題は無いでしょうが、王クラスの力やまして時干渉となれば制御自体どころか触れることすら叶いません」
そこまで言って一瞬、極めて一瞬だがアルフォンスの瞳に後悔にも似た光が宿る。
「……なるほど、貴方がファフナの命をかけても守る。そうまで言わしめたのは、あの子は時干渉能力を使うことで貴方を何者かから守った……そうせざるを得なかったと言うことですね」
「これは、参りました。ですがその通りです。そして、その真相こそがエルダリア・ファン・オルガン・ラーダベルト・アルトリア陛下、臣である私が分をわきまえずに陛下に覚悟を問うた真意であります
と言うわけで、脳が働くうちに更新しないと、パニクりそうな回が続きそうです><
どうかご容赦くださいませです!






