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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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ファフナが見た世界・1

あー、話が進まない(爆)

「で、落ち着いたか?」

「はい、それはもう心の奥底から……」


 説明します。

 私は宿舎の煎餅(ピッツァ)布団で簀巻きになっている、以上。


 ……なにゆえ?

 ええ、ことの経緯は単純明快です。

 我知らずに(ええ、本当に我知らずでした。本当です、本当なんですぅ!)アルフォンス様に興奮して飛びかかっていたようで、気が付けば簀巻きにされていました。


「さて、何でこんな状況になっているのか、だが……ボクとしては一番納得のいく答えは寝ぼけて命の精霊と契約してしまった……ってパターンだが、まさかそれは無いよな?」

「寝ぼけて契約出来るような精霊じゃないことくらい貴方がよくご存じだと思いますが」

「なら……自分の意志で契約、か。命の精霊との契約は女以外不可能だ。その不可能を可能とするには、命をかけた強い意志と王族に連なる血の盟約が必要……だったはずだ」

「流石です。よくご存じで、その通りです」

「命をかけるほどの状況、か。ボクの知らないうちに……もしくはボクが忘れてしまっている、或いはそれに類似する事態の中でお前はそれを選択した……違うか?」


 グビリと喉が鳴る。

 分かっていたことだが、相変わらずの知識と観察眼……

 だからこそ、ここからが本音をぶつける勝負所だ。


「その通りです、でも私が話したことを信じて頂けるかは……」

「最初に言っておくが、喩えお前の話だとしても全てを鵜呑みにはしない。ただ、これから聞くこと、それがどんなに荒唐無稽だったとしても全ての可能性を考慮すれば否定、或いは排除するつもりもない。だからその上でファフナ、お前に聞く。何を見た?」

「つくづく冷静。そうですね、あるいはそれが、いや、あるいはそれこそが貴方が最も敬愛しているお兄さんの教えでもあるのでしょうね」

「……兄さんのことを知っているのか?」

「アルフレート、いえ、真なるアルフレッド二世その人だということぐら――ッ!」


 刹那、空気がヒリついた。

 いや、これはヒリついた何て生やさしいモノなんかじゃ無い。

 これは、ま、まるで戦場にでも突然放り出されたかのような……暴風のごとき殺気。


「か、は……ア、アルフォン……さ……お、抑えていただけ……」

「……あ、すまない」


 こちらの血の気が引くほどの殺気を撒き散らしながら、まるで気が付いてなかったとばかりにため息交じりに深呼吸をする。


「むぅ……気軽にため息をついてますが、こっちは殺されるかと思いましたよ」

「……」

「え? や、私殺されないですよね!?」

「冗談だ」

「貴方の冗談は分かり難いんですからやめてください! 私が蚤の心臓なの知っているでしょ」

「ああ、だけど覚悟を決めたら誰よりも強いってことも知っているつもりだ」

「あ……」


 その言葉は、いつ聞いた言葉だっただろうか。

 ……あ、そうだ。

 喧嘩して袂を別つ少し前に、かけて頂いた言葉だ……

 ぶっきら棒で、腹が立つくらい唯我独尊……

 そのくせ、そのくせ……どこか脆くて、儚くて……そして優しいくせに、どうしようもなくらいに不器用な人だった……


「お、おい、どうした? って、ボクのせいだような、すまん」


 何故かばつが悪そうに頭を下げられた。

 意味がわからな……あ、そうか。私はいつの間にか泣いていたんだ。


「す、すいません、違うんです……以前貴方にかけて頂いた言葉を思い出して思わず」

「以前? こんな言葉をかけた覚えは……いや、それよりもお前は兄さんのことを知っているみたいだ。お前のその情報量や変化は……まさか、時渡りをしたのか?」


 時渡り――

 それはこの世界最大の教団、大国生正教において最大の禁忌とされている魔術の大罪。

 そんな禁忌を私が?

 まさか、そんな力なんか持ち合わせちゃいない。

 だけど、この状況は……

 私の記憶は、魂に刻まれたこの悲しみは、間違い無く本物だ。


「……先に聞かせて下さい。その反応を見るに私の知識、いや、記憶に齟齬は無い、と言うことで大丈夫でしょうか?」

「ああ、そうだな。お前の知っているボクは随分とおしゃべりだったようだ。これ以上聞けば、実は醜態とかまで晒していとかそんな事実まで聞かされそうで怖いよ」

「しゅ、醜態なんか晒してません! あ、ただ……」

「ただ? なんだよ濁すなよ」

「貴方が如何に私たちが好きだったのか、ぶっきら棒で不器用に語ってッ、ふぁっ!?」


 カツンッ!

 と私の横数ミリほどずれたところに着地(・・)した万年筆。


「あ、嘘です、うそうそうそうそ何だったらつまらないジョークでも良いです!!」

「ああ、クソがッ! 万年筆の先がイカレた!」

「人に向かって投げ付けるからでしょ!」

「ぐむむむむ……お前の知っているボクは、どうしようもなく素直なおしゃべりだったかお人好しだったんだろうな!」

「あ、いえ、そのどちらでもないです」

「あ゛?」


 どんなに怖い顔をされようとも、ええ、はい、それは明確に否定させて頂きます。

 素直どころかどうやったら……あ、いえ生い立ちを知っているので仕方ないとは思いますよ。

 ただ、それを差し引いても、本当にどうやったらこんなに捻じ曲げられるのかと思うくらいに強固なひねくれ者なのかとは思いますね、はい。

 この人を素直にさせるのとダイヤモンドを飴細工みたいに曲げるのなら、絶対に後者の方が楽だと私は確信しています。


「……いま、何となくだけど、お前が男だったら、顔の形が変わるぐらいに殴りたいと思っているよ」

「今この瞬間こそ、私は女性になって良かったと確信しています」

「ハハハ、気が合うじゃ無いか」

「まったくですね、ふふふ」


 ああ、何て心が繋がった爽やかな会話だろう……

 とか思う人が居たなら、その人は脳みそを冷水でゴリゴリ洗った方が良いと思います。

 ま、そんな人は居ないでしょうけどね。


 ……それはそうと、真面目な話をするならいい加減この煎餅(ピッツァ)布団の簀巻きから解放していただけませんかね?

ゆる~く更新をするような展開ではないはずですが、まったりと更新されていくはずです

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