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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
222/266

衛士ファフナ、最悪

今回頑張った!

いっぱい書きました!!(五千字程度ですが)

ほめてほめて!

めっちゃほめて!!

甘やかして!!!

 心臓がまるで早鐘みたいに喚き散らす。

 レンガ造りの建物の奥から感じる極上の悪寒。

 そこに私の想像を超える異質が存在するとでも言うのか?

 ゴクリと無理矢理呑み込んだツバの音が耳朶を打つ。

 呼吸さえもが意識しないと上手く出来ない。

 恐怖、か?

 だけど、これは……

 いや、全身を確かに恐怖が蝕んでいるのは確かだ。たしか、だが……

 まるで引き寄せられるみたいに身体が動き、自分の意志とは別に扉を掴んでいた。

 好奇心は猫を殺す――

 そんな言葉が脳裏をよぎるというのに、まるでここから離れることを拒絶したみたいに身体が動かない。

 よせ、あの人みたいな戦う力も無い自分に何が出来る?

 成すべき事、成さねばならぬ事を優先させるんだ。

 まずはあの人に謝って、そして、この異常を――


 ガチャ……


 それは、自分自身でさえも驚き唖然とする行動だった。

 いや、呆然とさえしていたのかしれない。

 違う、この行動は間違っている。

 そう頭では分かっているのに、分かっていたはずなのに……

 自分の意志を裏切るみたいに身体は動き扉を開いていた。

 ドクン、ドクンと、先ほどよりも大きく耳障りな心臓の音をやけに覚えている(・・・・・)

 鼻孔をくすぐるアルコールの甘い薫りと、薄らと漂う白煙に纏わり付くタバコの臭い。

 そして何故か沈黙に包まれ、喧噪一つ無い酒場。

 人が居ない、訳では無い。

 むしろ、視界の中の席は全て埋まり満席と言える。

 寝ているのでも死んでいるのでもない。

 ただ一点に、誰も彼もが同じように釘付けになっているのだ。

 客の視線の先、このただならぬ気配が発する先に恐る恐る振り返る。

 そこに居たのはまるで何事も起きてないとでも言いたげに悠然と立つ、黒衣の鎧を身に纏った燃える炎のように逆立つ赤髪の男。

 それはその男を見た瞬間に起きた実に不可思議な感覚だった。

 まるでここが戦場であるかのような威圧的な空気を纏いながらもその真逆、静謐な神殿で祈りでも捧げている聖者のような気高ささえも感じる。


 だけど、それなのに……


 何だというのだ?

 この圧倒的なまでの、いや、醜悪とさえ言える暴力的な魔素は?

 全てを蹂躙し破壊し尽くしてもなおその暴力性が消えることは無いだろう雰囲気。

 鳥肌とそばだち冷たいモノが流れ落ちる。

 魔術師の性質には古よりとある定説がある。

 【内包する魔素の質はその人間性と力量を表す】というものだ。

 だからこそ、長けたる術師は己の性格が他者に決めつけられる(・・・・・・・)のを嫌いその魔素の量や質を隠蔽する。

 なにより、自分の力量を見透かされることは同時に自分の手の内を晒しているのも一緒だからだ。

 それ故に魔術師は能力を隠蔽することに長けている。

 それが常識。

 そう、その方法を知らぬ者など術師としては半人前以下どころか、術師を名乗る資格すらないのだ。

 それなのにこの男はその力を隠そうともしていない。

 それは自信故か粗暴な性格故か……

 確かにこの気圧されるほどの魔素は、私のそれを遙かに凌駕している。いや、あるいはラーダベルト陛下や元宮廷魔術師だったリーヴァ様にも匹敵……

 いや、違う。

 認めろ、認めるんだ。この男が放つ力の強さを。

 それは以前垣間見たアルフォンス(あの人)の真の力に匹敵するのでは?

 馬鹿な、いや、だけど……

 脅え霞む思考の片隅で、何度も沸き起こっては否定する感情。

 だけど、もう分かっているんじゃないのか?

 この身体の奥底から来る脅え、それこそが物語っているはずだ。

 そう、この男はある種、あの人と同種。


 常識の外にいる規格外の化け物――


「ふむ、俺に誘われ立っていられるのはエルフただ一人か」


 それは、低温ながらどこか甘い音色を含んだ声音。


「それなりに質の良い酒場を選んだつもりだが、やれやれここには肥え太った豚どもしか居なかったということか」


 男の瞳に不気味な光が宿る。


「皆さん! 丹田に魔素を集中してください!」


 私が叫んだと同時であった、酒場を阿鼻叫喚が支配したのは。

 視界はぐにゃりと歪み、猛烈な吐き気が襲いかかる。

 まずい、このままではこの男の魔素に飲み込まれる……


「精霊よ……我に力を……」


 辛うじて紡いだ呪言。

 だけど精霊の歌声は聞こえてこない。

いや、精霊の声はかすかに聞こえてくる。

 まるで泣き叫ぶような、悶え苦しむような金切り声で。

 まずい、このままでは精霊達が消滅してしま、


「うぐぁあぁぁぁぁぁ……せ、精霊達よ、元いる世界に戻りたまえ……」

「へぇ」


 それは僅か数秒の出来事だったのか、それとも何時間にも及ぶ攻撃だったのかすらわからない。

 ただ、男が何かを呟いたのだけは聞こえ、全身を襲っていた凶悪な力は消え失せていた。


「さすがはエルフ族と言ったところかな。お前以外は無様なものだ」


 男はそう言い放つとあざ笑うかのように高笑いをする。

 ぶざ……ま?

 ッ!


「お、前……一体、何をした?」

「何とは?」

「この有様だ!」


 そう、そこには確かに人々がいた。

 酒や食事を囲む者、給仕をする者、調理をする者……

 ここには大勢の人々がいたんだ。

 決して、こんなトマト粥のようにドロドロに溶けた成れの果てでも、家具のバーリーシュガーツイストのようにねじくれた成れの果てでも無い。


「何をしたんだと聞いている!」

「ふむ、ああ、なるほど。そういうことね。うん、やっと分かったよ。キミはこれらを哀れに思って怒っているんだ?」


 どこまでもとぼけた口調

 いや、それとも本気で言っているのか?


「それらは、ただの絞りかすだよ。彼らは魔素体(テオ・ロア)となって俺の糧になった。意味も無いクソを垂れ流すだけの人生に俺が意味を与えた。実に喜ばしいことだと思わないか」


 おどけるでも、あざ笑うでも無い。

 ただ、書物を読み上げるよな淡々とした口調。

 だからこそ分かる。この男に、この惨状を起こしたという罪悪感は微塵も無い。

 純然たる傲慢、純粋なる悪意の塊。


「それにしても人間と比べれば流石はエルフ族と言ったところか。いや、君達風に言うのならアールヴが正解か。なるほど素晴らしいものだな、生き残るために作られた存在を許された(アー)生命(リーヴ)とは」

「馬鹿な、その言葉は神代言語(ロストワード)……」


 それは古代精霊語エンシェント・アールヴよりも遙かに古い言語。

 もはや現代に数語しか伝わっていない言葉を何故知っている?

 いや、それよりも……


「つく、られた……?」

「ん? ああ、知らなかったのか。お前達がかつて人間から作られた一族、誤った(アー)血統種(リーヴ)だということを?」


 馬鹿な、何故この男があの人と同じ知識を持っている?

 いや、それよりもこの男は何と言った?


誤った(アー)血統種(リーヴ)とはどういう意味ですか。それに貴方はいったい何者ですか?」

「んー……質問が多いな? だけど俺は今とても気分が良くなってきた。だからそうだな、うん。教えてやろうじゃあないか」


 男の魔素に当てられ震える足を、気付かれないように爪を立て握りしめる。


「まず、一つ目の質問。それはお前達が本来目指すべき到達点に達することのなかった出来損ないということ」

「出来損ない……だと」


 嘲っている声音ではない。

 ただ、事実をありのままに語る声音。

 だが、その裏にある音色は、路傍の石が視界に入った程度の感情だけしか感じ取れない。

 まるで、アールヴという種になんの価値も無いとでも言いたげに……

 怒りが込み上げる。だが、今は押し殺せ。

 せめて、コイツが何者で何を知っているのかを聞き出すんだ。

 

「到達点とは何のことですか」

「それを知ったところで意味は無いさ。遙か古に過ぎ去った真実を知ったところで事実は変わらぬのだからな。ならば、せめて出来損ないは出来損ないらしくせいぜい今を足掻いて生きるんだな」

「ぐ……」


 これ以上の詮索は無駄、声音からはありありとそう伝わってくる。

 ……おそらくあの人なら、この男が知っている真実を知っているだろう。

 なら、ここは余計な衝突を生むよりもこの男の正体を知る方を優先させるべきだろう。


「これ以上聞いても教えて頂けなさそうなので、他の質問をします」

「存外利口のようで」


 わざとらしい口調

 いちいち癇に障る男だ。

 だが、相手を煽るのは行動を単純化させるのには最良の手段。

 であるならば、この男は粗野な雰囲気とは真逆の策士である可能性も否定は出来ない。


「先ほども尋ねたもう一つの質問の続きです」

「ああ、俺の正体か?」


 私は無言でうなずく。


「んー、知らない方が良いと思うけどな」

「へぇ、それは恐ろしい脅しですね」

「ああ、だって俺はお前達の敵だからだ」

「て、き……?」


 こいつは何を言っているんだ?

 まさか、自分がそう(・・)だと名乗るつもりなのか?

 ハ、ハハ……まさか、ね。


「うん、その顔は疑っているね。だけどこれから俺が言うことは真実だ。そう……俺こそが今世間を騒がす有象無象共とは違う本物のアルフレッド二世だ」


 ゾクリとした。

 何を言っているんだこの愚か者は?

 確かにその力は本物だと疑いたくなるほどだ。

 それに、私たちが想像する悪のカリスマ・アルフレッドの子と言われれば、なるほどと納得したかも知れない。

 だけど、その想像は悔しいことにアルフォンス(あの人)が破壊してくれた。

 そう、コイツはアルフレッド二世を語るだけの偽者にすぎない。


「冗談はせいぜいその粗野な顔だけにしてください。【魔導王】【魔帝】【魔導の枢機卿】【狂魔導師】恐ろしいまでの二つ名を欲しいままにし、個なのか多なのかその存在さえも謎に包まれた男ですが、ただ一つだけ共通で変わらなく伝わる事実があります」

「ん? なんだそれは?」

「それは全ての魔術を極めた者のみがその身に宿るという容貌、そう黒髪と黒眼にして魔術を使う際にはその身は銀灰色に輝くと言うことです。貴方は確かに強いでしょうが、そのような炎の術性に長けた風貌を晒す者が――」

「ククク……ハーッハッハッハッハッ!」

「な、何がおかしいのですか!」

「実にくだらんな。だがその程度の証明なら、幾らでもしてやろうじゃあないか」

「なっ!」


 男が甲高い声であざ笑った瞬間、その身から膨大な魔素が吹き荒れた。

 まるで強大な魔術で生み出した爆心地にでも立たされているかのような荒々しいエネルギーの奔流。

 吹き荒れる魔素だけでレンガ造りの建物を破壊し身体が引き裂かれそうなほどのほとばしりは、だが、突如として掻き消える。


「そ、そんな……馬鹿な……」


 目の前に居たはずの赤髪の男は消えていた。

 その代わり、そこに立っていたのは黒髪にして黒眼の男。

 そして……嗚呼、なんということだ……


「これがアルフレッドの証明だというのなら俺は合格かね、哀れな誤った血統種(アールヴ)よ」


 膝があまりの恐怖にガクガクと笑い出す。

 私はこの男の姿を見るその前から確かに恐れていた。

 辛うじてこの男の前に立てたのは、私の強がりが功を奏していたわけじゃない。

 ただ、この男が……

 この男がただ、その力を隠していたからに過ぎなかった。


「あ、あぁ、あ……」

「やれやれ、わざわざ応えてやったというのに感謝の言葉も言えないのか」


 破壊された屋根を貫き、天に到達するほどあふれ出す銀灰色のオーラ。

 馬鹿な……

 アールヴの建国王ですら、その身に僅かな銀灰色の光を宿すだけだったという。

 アルトリア史上唯一精霊皇様と契約したかの悲劇の王女ソフィーティア様でさえも、辺りを優しく包み込むような銀灰色の光だったという。

 こんな、こんな暴力的な光を放つことなんて、人の身で出来ると言うのか?

 有り得ない……

 無理だ恐怖で思考が凍てつき何一つ考えられない。

 この男の正体が何なのかは分からない。

 分からないが……

 もう、何者かなどどうでも良い。

 この男は真の怪物だ。

 それ以上でも、それ以下でもない。


「やれやれ、外が少々五月蠅くなってきたな人が集まりだしたか。俺としたことが少しはしゃぎすぎたようだな。さて、どうするか……」

「ひっ……」


 男の瞳が私を射すくめる。

 小さな悲鳴しか出てこない……


「このまま貴様を野に放ち、真なるアルフレッド二世が現れたことを喧伝させるのも良いが、私を前にしてまだ意識を保てるのは驚嘆に値する。このまま手放すのはいささかもったいなくもある」

「うくぅぅ……ぅあぁぁ……」


 髪を力任せに鷲掴みにされ激痛が走る。


「劣等種のアールヴが進化に耐えられるかは分からないが、まぁ、アイツらへの良い土産にはなるだろう」


 私の意識が恐怖の末に闇に落ちたのは、それから程なくしてのことだった。




 そして、私は忘れない……

 連れ去られた後に見た最後の光景を。

 私の脳裏に焼き付いて離れない、あの悪夢のような何一つ救いの無い惨劇を。


「だ、ダメです、お願いですから目を開けて……閉じたらダメです、目を開けてください!! お願いだから!!」

「ごぼっ……」

「い、嫌だッ!! こ、こんな結末を私は望んでいません! 私は貴方に何一つ感謝も、謝ることさえも出来ていない! お願いだから、目を、目を開けて下さい!!」



 それは血溜まりの中、私の腕の中で冷たくなっていく少年の姿。 

 アルフレッド二世の剣が心臓にまで到達し、力無く頽れ力尽きたアルフォンス様の姿だった。

さて、次回どうしよう……(汗)


そうだ、夢落ちだ!ダマレ!!>(#゜Д゜)=◯)`3゜)∵プギャ

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