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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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衛士ファフナの後悔

腰痛(ぎっくり腰)がひどくて難産だったのか、難産だったから腰痛が悪化したのか分からないくらいに難産な回でした。

ポンコツがシリアスしようとするとあかんと言うことを学習しました。

 呪い――


 それは何も呪術や魔術を用いたモノばかりでは無い。

 怒りや憎悪、或いは、ただの言葉でさえも心を蝕む呪いになる。


 それは、私自身が一番よく知っているはずだった……


『本は持てても剣は持てぬか? 軟弱者めが!』

『オルガン家の血統でも、ハズレが生まれることもあるんだな』

『戦士であらずばオルガンにあらず! 頭でっかちなだけの臆病者などいらぬ!』


 どれほど汚辱の言葉を浴びせられただろうか。

 振り返り思い出される私の半生は、何一つ明かりが見えるものではなかった。

 地平に明かりが灯り朝を迎える度に憂鬱が鎌首をもたげ、陽が地平の彼方に姿を失う頃には何者にも成れない己を呪う……

 それが当たり前だった。

 ただ、それを受け入れ仮面を作って笑う(どうけをえんじる)ことだけが、唯一生き残る術だった。

 

 ……そう、あの人に会うまでは。


 今の私はあの頃の私には信じられないほど、笑うことが出来た。

 あの人の隣でアールブの未来を創造して(夢見て)、そして、天賦の才に恵まれたあの人が一体どこまで行き着くのか……

 そんな果てしない未来をどれほど創造して(思い描き)胸を躍らせただろう。

 あの地獄のような日々だった頃とは比べものにならないほど、心から笑うことの出来る日が増えた。

 あの人が、あの時に手を差し伸べてくれたから……

 なのに、


『何故ですか……何故、アルフレッドに連なる者がアールヴの味方をするんだよ!』


 それは、救いの無い暴言。


『もし、お前達アールヴがその人を許さないと、その人の母親も許さないと言ったら、ボクは……ボクは兄さんと母さんの味方になる。この身が焼き尽くされようとも、魂を砕かれ輪廻から外れようともだ』


 あんなにも顔を歪め、血反吐を吐くみたいに返された言葉。

 あの人の、家族に対する覚悟は本物だ。

 周りが何を言おうとも、喩えバドハー様や陛下が敵に回ったとしても心を変えることはないだろう。


「ッ……」


 あの人の言葉が脳裏をよぎる度にどうしようもなく指先が震えた。

 怒りなのか失望なのかもわからない。

 ただ、頭は幕が掛かったみたいに思考することを拒絶する。


「このまま、獣王国家(デルハグラム)に向かうべきだろうか……」


 当初の予定とは違いすでに狂い始めた旅路。

 何もかもがズレ初め、そしてこの旅を計画したあの人自身もアールヴの味方とは言い切れなかった。

 ただ、あの人の今までの言動からから考えても、アルトリアに力を貸してくるのは確かだろう

 だけど……


 アルフレッド――


 この地上に現れた全ての厄災の象徴にしてアールヴが打ち倒すべき悪のカリスマ。

 そんな一族を信奉する者に、これからのアルトリアを任せ……


「………………ッ!」


 鈍い音と痛みが拳を走る。

 知らず力任せに殴りつけていた壁。


「痛ッ……街路樹の次は壁……はは、何度似合わないことやってるんだか……」


 ズキズキと鈍痛が拳を包み込む。

 折れ……てはいないだろうけど、ヒビ位はは入っただろうか?

 回復術も使えないくせに、ほんと、何やってんだろ。


「馬鹿な上に自傷癖とは……救いようがない」


 それは、脳裏をよぎる後悔。

 怒りにまかせて呪いを吐き、会話を恐れて逃げ出し、


 ただ、あの人を傷付けた。


 アルフレッド一族への愛情を受け入れることは出来ない。

 だけど聞かされたあの人の生い立ちは、私が想像出来るようなモノでは無かった。

 大公家の者として生まれながらに疎まれる。

 そこまでの境遇は私と似ている。似て、いるけど……

 その生い立ちはあまりに残酷だった。

 小動物にさえ怯え、腹を下すような残飯をあさり、助けてくれた老父母を実の親に殺される。そして、地獄から救ってくれた人達とさえも引き裂かれた……

 彼は出会ったときから異次元とも言える強さを秘めていた。

 その年齢からはあまりにかけ離れた実力を持っていた。

 それなのに、どこか脆さや弱さが見え隠れもした。

 どこかチグハグだった。


 そんなチグハグ差には気が付いていたはずなのに……


 私はいつの間にか彼の超人のような能力にばかり惑わされ、その内面の儚さに気が付けなかった。

 嗚呼、そうだ……

 今更に過ぎるが、あの人は立場だけではなく心さえも恐ろしく脆く危険なところで生きていたはずなんだ。

 それなのに、そんな自分自身さえもいつ壊れてもおかしくはない状況の中でも私たちを助けてくれた……


 そんなことにさえも気が付かずあの人に呪いを吐き付け傷付けた怒りと後悔が込み上げてきた。

 ズキズキと痛んでいた拳にさらに痛みが走る。

 いつの間にか痛めたことも忘れ力任せに握りしめていた拳。


「馬鹿は死ななきゃ治らないなんて言いますが、ホント何やってるんだか、ですね……ただでさえ感情に任せてあの人に悪態をついたってのに、これで怪我までしていたら本当にあの人に切られてしまうじゃないですか」


 アルフレッド一族を許すことは、正直出来るのかは分からない。

 それでもアルトリアを救うために動いてくれるあの人のことを信じたいと思う私が確かにいた。

 戻って謝ろう。

 そう、腹をくくった時だった。


 突如、背筋に冷たいモノが流れ落ちブツブツと肌が粟立っていく。


「なん、だ……」


 それは、振り返れば目と鼻の先にある酒場から感じる気配。

 瀟洒な雰囲気を醸し出す酒場から発せられているとは思えない破滅的な気配であった。

読者の皆様、応援よろしくです!

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