簒奪者、その名はアルフォンス
一端、これにてアルフォンスサイドの話は終了です。
もう少しアルフォンスの心情を書きたいのですが、これにて終了です。
土埃を纏った風が吹き抜けた。
見渡しても見渡しても、広がるのは捲れ上がり破壊され尽くした荒野のような大地。
「ぐ……」
ズキリと頭が痛んだ。
「あ、ぐ……」
割れるような痛みと全身を襲う倦怠感。
額に脂汗が溢れ出るのがわかる。
顔に張り付く前髪が不快だった。
掻き上げることすら出来ない不満足な五体。
痛みと苛立ちが全身を蝕んでいく。
こんな、こんな何一つ満足に、喋ることさえまともに出来ない身体なんかいらない……
兄さんが、今どんな目に遭っているのか、それすらも知ることが出来やしない……
「ちくしょう……!!!」
許せなかった。
何も出来ない自分が、ただ許せなかった。
どれだけ守られただろう。
どれだけ愛情を貰っただろう。
返せない、返すこと何て不可能なほどの愛情を貰ったのに……
この身体はその優しさに応えることすら許してくれない。
「に……兄さん……く、うぅ……う……ううぅぅうあぁあぁぁぁぁぁぁーっ!!!」
それは、どれほど長い慟哭だっただろうか。
思い出せない。
もう、思い出すことも出来ない。
ただ、気が付いたときには、
プツ……
自分の中で何かがキレた。
「声を、声を聞かせてくれ! 兄さんっ!! 兄さ……うぐ、うるあぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ!!!」
怒り任せに動かし叩き付けた拳。
その瞬間、俺の眼前で有り得ない破壊が巻き起きた。
それはまるで兄さんや母さんが見せてくれた魔術のような力。
それは、俺なんかじゃ絶対に起こすことの出来ない奇跡のような力だった。
「……?」
全身を蝕む激情と、冷や水のように全身に絡みつく懐疑。
ブルブルと指先が震えた。
……ブルブル、震える?
まともに動かすことも出来ない、
何一つ言う事も聞かない、
そんなヒルのようだった俺の指が震える?
『アルフォンス、あの怪物の狙いはボクだ。どこまでやれるかは分からないけど、取り敢えずやれるだけやってみっからさ。もし、ボクが戻らなかったら母さんはお前が守ってあげてくれ』
それは、不意に脳裏をよぎった言葉。
『……父さんを探す旅は、正直心が折れそうなことばかりだった。憎しみで出来た分厚い壁と刃に、母さんの心はどれだけすり潰されたか分からない。そんな中お前に出会えたことは、ボクにとってはかけがえのない希望だった』
……いやだ、そんなお別れみたいなことは言わないで兄さん。
『憎しみ何かじゃ無い、慈しみってやつを紡げられるんじゃ無いかって。アルフォンス、お前はボクの希望なんだ。だから、ボクの全部をお前に託す。アルフォンス……生きろ』
「あ、あ……」
嗚咽が、喉の奥底からこぼれ落ちる。
俺は――
兄さんから受け取った。
受け取ってしまったんだ。
兄さんだけが持って生まれた天賦を。
兄さんだけが許された、気高い優しさを……
俺は、兄さんだけが許された気高い魂を……
奪ってしまった。
やらかした腰は未だ痛いですが、椅子に座れるのって幸せだったんだということを実感しております。
読者様の応援がそんな貧弱腰痛持ちな作者へのケアル(ホイミ)となります。
どうか引き続き応援のほどよろしくお願い致します(* .ˬ.))ペコリ






