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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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アルフォンスが見た荒野

お盆休み中に投稿したかったのですが、間が空いてしまいましたごめんなさい。

盛大にギックリ腰をやってやっと起きられる程度には回復しましたが、脂汗なのか冷や汗なのかわからないモノと戦いながら椅子に座っています(´・ω・`)

「みーつけた。貴方がアルキュンの忘れ形見ね」


 傷だらけの顔に張り付いた酷薄な笑み。

 最早生きているのが不思議なほど全身を魔導生物(オーガンクルス)化した怪物がそこにはいた。


「誰だお前は」


 背筋がゾクリとするほど冷たい空気が流れる。

 それは初めて聞く、兄さんのドスの聞いた声音


「纏う魔力()、がドス黒い。まっとうな魔物ならもうちょっとマシだと思うんだがな」

 

 兄さんは会話で牽制しながら、俺を大木の陰に優しく寝かしつけてくれる。


「ひーはん……」

「大丈夫だ、兄ちゃんに任せておけ」

「ふぇ?」


 それは違和感だった。

 覚えてはいけない違和感だった。

 何時もの兄さんなら、『ボクに任せておけ』と言ったはずだ。

 どこかおどけた口調なのに、ヒリついた空気を纏うその姿に不安が膨れ上がっていく。

 まさか、この最強なんて言葉を具現化したみたいな兄さんの身に何かが起こるというのか?

 ……まさか、そんなこと起こりえるはずが無い。

 自分の兄でも無ければ理不尽の権化としか言いようのない兄さん。世界中の天賦の才を一身に受けて生まれた兄さんが、こんな怪物ごときに気圧される何てことがあるものか。


「魔力を気とか言うあたりぃ、リョウ(あのこ)の子供よねぇ」

「そんなこと聞ぃちゃいねぇよ、先に質問したことだけに答えろ。誰だ、お前」

「む、可愛げ無いわねぇ。そういうクソ生意気な感じはアルキュンそっくり。んじゃま、とりま答えるなら、えっとぉあ~しぃ~? あ~しは、ふげう゛ぉっ!!」


 鈍器でゴムの塊を殴りつけたみたいな鈍い音が鳴る。

 質問にニタニタ顔で答えようとした怪物の顔面に兄さんのハイキックが炸裂し、首から弾けるように吹き飛ぶ。

 そう、いわゆる不意打ちだ。


「ちょ、ちょほっとあーだ、あたずにひつ問ひなが、おがあぁっ!」

「うるせぇ、どうせ敵だろ黙って死んどけや」

「この身も蓋もない、攻撃……マジでアルキュンぞっくりね……」

「地霊よ、我が呼び声に応えよ!」

「ちょ、ちょほっと! まぢなざい……ょ」


 精霊術と同時に暴雨のような蹴りの嵐。

 徐々に敵とおぼしき怪物の身体が地面に沈んでいく。


「あ、あばばばば、ちょちょちょ、本当に、何も聞かないつも……あぎゃー!!」


 兄さんが怪物の悲鳴と同時に跳躍すると虚空に高速で印を切る。


貪狼(どんろう)巨門(こもん)禄在(ろくそん)文曲(もんごく)廉貞(せんそく)武曲(むごく)破軍(はぐん)、極北に瞬きし七つの星々よ我が呼び声に応えその輝きを剣と成せ! 七死宝剣(グラン・シャリオ)!」


 刹那、竜の低い唸り声にも似た震動とともに頭上に夜の闇が訪れる。


「消えろ!!」


 兄さんの咆哮と同時に天空から無数の光が降り注いだ。

 目の前で起こる圧倒的破壊、破壊、破壊……

 兄さんが巻き起こす圧倒的破壊を前に、地形が見る間に変わっていく……


 ザッ! 兄さんが砂埃を揚げて着地する。


「にひはん、ふご――」


 俺が言い終わるよりも早く、兄さんが俺を抱え上げる。

 その横顔には、今まで見たことも無いような強い焦りが宿っていた。


「逃げるぞ。まずい、今のボクじゃヤツに勝てない」

「ふぇ?」


 圧倒的な蹂躙と比類無き破壊を巻き起こしながら、兄さんは逃げを選択した。

 兄さんが勝てない?

 そんなことがあるのか?

 もしかして俺が居るせいで、俺を巻き込むかも知れないから全力を出せないのか?

 だったら、


「にいふぁん、おふぇをふててたたはっふぇ。おふぇみたいなひゃまものがいなふぇれふぁ、にいふぁんはまふぇないんだろ?」


「二度とくだらないことを言うな。お前は荷物なんかじゃない」

「だぁー!!」


 背後で起こる爆発。

 兄さんの魔術を怪物が気合いだけで破壊する。

 

「ちょっとー、あーしにこんだけ散々やってくれたってのに、ずいぶんとイチャついてくれてるじゃ無い」

「くそ、もう復活かよ」

「ちょっとぉ頭にきたから、ほんの少し痛い目見てもらうわよ」


 怪物の腹が凄まじい勢いで膨れ上がる。


「ブレスか、音か……」

「ぐふ……この程度で死んじゃわないでよ、魔王の器」


 怪物が口をすぼめた瞬間、全身を襲う衝撃とともに目の前を破壊が吹き抜けた。

 そして、舞う赤。


「チッ」


 兄さんの苦々しい舌打ち。

 全身に衝撃が走るほどの超反応で敵の攻撃を除けたが、それでもなお敵の攻撃が兄さんの頬を浅く裂く。


「すごいわねぇ、良く躱したじゃ無い」

「……」

「あら、顔色が変わったぁ。ぐふふふ、逃げるのは無駄と悟ったのかしら? じゃあもう少しだけ痛い目見て、ちょうだい!!」

「おらぁっ!!」


 化け物が大口を広げた瞬間、兄さんが気炎を上げて腰ベルトの瓶を投擲する。


「オガッ! ――――ッ!!!!」


 怪物が驚愕と同時に声にならない悲鳴を上げる。

 と同時であった。

 怪物の顔面が爆発するみたいに弾けそして炎上したのだ。


「やっぱりな。一回目と同じ威力の衝撃波は腹のへこみ具合から無理だろうと想定して正解だった。一撃目は瞬間的破壊の衝撃波で足止めし、二発目は広範囲のブレス攻撃で逃げ道を奪うつもりだったんだろ」


 危機的状況にありながらもなお冷静。


「おがあぁあぁぁ……ぁぁあぁぁぁ……ぁぁ……」

「にいふぁん、なひひたの?」

「地図描くのに使っていた油彩用の揮発油(ペトロール)を口に放り込んだ」


 かつて兄さんは教えてくれた。

 

『戦いになったら使えるモノは全て使え。そのために自分の周りにあるモノがどんな効果を発揮するのか必ず覚えておくんだ』


 そう教えてくれた兄さん。

 だけど、実際には兄さんが道具を使う姿など、実演してくれたとき以外一度として見たことは無い。

 道具まで使うなんて、それほどまでに兄さんは追い詰められていたというのか?


「ち、こんな事になるなら揮発油(ペトロール)をガロンで持って来とくんだった。七死宝剣(グラン・シャリオ)をかましたときに同時に投擲して焼いてやったってのに」

 

 ……容赦という言葉を母体に置き去りにしてきたような過激な発言。

 敵と見なした相手にはとことん容赦の無い、実に兄さんらしい発言とも言える。


「おわっふぁの?」

「無理だな。魔術で倒しきれなかったんだ、いくら不意打ちとは言えあんな小瓶の揮発油(ペトロール)じゃ喉を焼くぐらいが精一杯さ」

「にぃふぁん……」

「そんな不安そうな顔するな。絶対逃げ切ってみせ――」

「だふぁら! あーしをこんあ目にあわふぇて、イチャついてんじゃふぇーっ!!」


 顔面を半分以上吹き飛ばされ未なお燃え続けているというのに、異常とも言える執着と執念で怪物が飛びかかってきた。


「しつけえヤツだな! 大人しくそのまま火葬されて……ッ! 閉じて注げや白灰の銀、閉ざし世界の中で降りて戻れや死せる硝子の棺(ダーク・オリオン)!」


 兄さんの怒声ととともに朗々と紡がれた呪禁。

 だけど……

 

 ――俺の記憶が繋がっていたのは、そこまでだった。


 目を覚ましたとき目の前に広がっていたのは、

 記憶に残っていた景色とは解離した、



 ただただ痛々しいまでの大破壊の跡が広がる荒野だった。

久しぶりの戦闘シーンで、ちょっと「う~ん……」って感じです。

いつか書き直すかもしれません。←すでに心が負け犬モード

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