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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第四章 降り止まぬ雨
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アルフォンス、記憶の真ん中に

毎日更新を保てないのが私クオリティー……

 その年の春は――

 まだ冬も明けたばかりだというのに、やけに蒸し暑かった。

  

 山には色づき濃くなり始めた緑が早々に宿り、青い空にはまるで真夏のような入道雲、時季外れなのに狂い鳴く蝉の鳴き声が雨のように降り注いだ。

 時折強く吹く風は、まるで生まれた国の夏の夜に吹く海風のように重たい湿気を纏っていた。


「はぁ……今年はやけに暑いな」


 超人のような兄さんの口から初めて聞いた小さな愚痴。


「だひひょうぶ?」

「ん? ああ、ボクは問題ない。アルフォンスこそ、暑くないか?」

「すこひあふいへど、だいひょうふ」

「そうか。だけどこのままだとさらに気温が上がりそうだから、もう家に戻ろうか」

「いひの?」

「ああ、暑すぎて魚も上流の方に行ってるか、巣穴に隠れてるみたいだ。正直、これ以上やってもここら辺じゃ捕まえられそうに無い」


 兄さんが億劫そうにザブザブと川から上がってくる。

 兄さんの狩猟はいつも手掴みだ。

 道具も使わず、慌てることもなく、まるで地面に転がる石でも拾うみたいな気安さで魚を手掴みする。


「ん、残念ながら魚は居なかったけど、鹿とイノシシは捕れたから良しとするか」


 愚痴るように言いながら、血抜きの為に川に付けていた獲物を引きずり出す。

 解体する為にナイフこそ使っているが、その二匹のデカい獣すらも素手で仕留めている。

 つくづく思わされる。

 【闘争】の二文字において、兄さんは非常識なほどの天才だった。

 それは自分と兄さんを比較したり羨んだりすることが馬鹿らしくなるほどの才。

 もし、この世界に武の神様とか魔導の神様なんてのが……

 そもそも神様なんているかも分からないけど、仮にそんな神様が本当にいるとしたならきっと兄さんだけがその寵愛を一身に受けて受けて生まれてきたんだと素直に思った。

 そこに、羨ましい……

 なんて思う浅ましい気持ちは無い。

 ただただ、誇らしかった。

 

 この人と出会えたこと。

 この人が自分を拾ってくれたこと。

 この人が兄になってくれたこと。

 自分に兄が出来、自分に母さんが出来た……


 そんな幸運を与えてくれた神様の存在だけは、ただ純粋に信じて良いんだって思った。


 それなのに――


 その日は、本当に暑い日だったのを覚えている。

 潮を帯びた風はむせ返るほどに暑く何時もは思ったことも無い、抱きかかえてくれる兄さんの体温が不快だった。

 季節外れの蝉時雨がやけに五月蠅かった。

 五月蠅、かった……

 ああ、五月蠅かったんだ。

 耳鳴りみたいに、みみ……なり……


 パチ……

 パチ…………

 パチ……パチ……


 それは、どこかで聞いた音色。

 吐き気を覚える音色で。

 嗚呼、どこで聞いたんだっけ?

 ?

 おかしいな、何時もは蝉時雨よりも五月蠅いはずの 孤児院にいる弟たちの声が、やけに遠く聞こえた。


 ずっと、ずっと……

 ずっと遠くに、聞こえた。


 パチ……

 パチリ……

 パチ……パチ……


 嗚呼、そうだこの吐き気を覚える音は、あそこで聞いたんだ。

 ゴミ溜めのようなあの国で、あの日の夜に、聞かされた音色。

 夜空が赤く燃えた、あの日の……


 その日は、むせ返るほど暑い春だった。


 突き抜けるほどの青空。

 空高いところに塊でたゆたう入道雲。

 そして、土砂降りのような蝉時雨をかき消すほどの、弟たちが泣き叫ぶ声。


「あはぁ♪」


 俺は忘れない――


 俺を、いや、兄さんを見て唇を歪め吐息を漏らした、獣臭の塊のような、獣にも似た機械仕掛けの怪物の姿を。

応援よろしくお願い致します!!←やけにシンプルな後書きヽ(´∀(〇=(゜д゜〇)ヤカマシィ

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