アルフォンス、刻んだ記憶
難産な回でした
そして、あと3話ほどアルフォンス視点(こう予告すると、数話延びるのが何時ものパターン)続きます。
たぶん、うまれたときになまえをもらったきがする。
でも、だれもなまえでよんでくれたことはない。
いらないこだって、
うまれてきちゃだめなこだって、
ずっとそうやっていわれてきた。
ことばもしゃべれないクズだって……
なにひとつまともにできないごみだって……
それが、あたりまえだった。
ゆりかごからみえるそらがあおくてもはいいろでも、どうでもよかった。
ゆびさきひとつうごかせず、ただよこになるだけ。
どうせ、さいごはほんとうのゴミのみたいにすてられる……
しばらくして、どこかでちいさななきごえがきこえた。
「生まれたぞ! 我がルゼルヴァリア大公家待望の第一子だ!!」
そんな――にみちたこえ。
そして、おぼえているのは、そのひのばんにひっそりとすてられたこと。
なにも、なにひとつとしておもいだしたくないまいにちだった。
「何がやりたい?」
「なひも……」
「本当か? 遠慮するな、無理なモノは無理って言うから、言うだけ言ってみろ」
「いひの?」
「言っただろ、遠慮するなって。アルフォンス、ボクはお前の兄ちゃんだ、弟のやりたいことくらい叶えてやる」
「あ、あのね、ひっぱい、ひっはい、そとをみたひ」
「外?」
「うん、そらとか、そやとか、うみとか……うひと……か、あと、やはみたい……だめ?」
「何言ってるんだ、お安い御用さ。空に海に山、どうせ父さんを探して世界中旅してるんだ。アルフォンス、お前の願いは全部叶えてやる」
そういって、わらってくれた兄さん。
だれよりもやさしいひとだった。
そして、約束してくれたとおり、世界中をたびしてくれた。
海をみた。
生まれた国の海はきらいだったけど、兄さんと母さんが見せてくれた海はだいすきだった。
「なひ、かいてるの?」
「ん? ああ、せっかく来たことの無い国に来たんだ。記憶にだけじゃ無く、地図として残しておくんだ」
「ちふ?」
「ああ、地図ってのは何にも勝る宝だからな」
「たかあ?」
「ああ、そこに生きる人達の生活を知れる。歴史も学べる。何より、万が一の時には下手な武器よりも強い武器になるんだ」
「ちふがぶき?」
「ああ、戦いってのは武力だけ決まるもんじゃないんだ。個でも多でも、地形を生かして戦えば力の差をいくらでも埋めることが出来る」
「ふぉんあにすごひの?」
「ああ、だからアルフォンス、せっかく見て回るならお前も一緒に覚えるんだ」
「おぼへ、れるふぁな?」
「覚えれるさ。だってお前はボクの自慢の弟なんだからな」
何一つ、まともに出来なかったおれに、兄さんはすごくやさしかった。
母さんも物おぼえの悪い俺にあきれること無く、毎日毎日優しく言葉を教えてくれた。 陽が昇れば、兄さんは俺を抱き上げ目新しい世界を一杯見せてくれた。
陽が落ちると、母さんが物語を読み聞かせてくれた。
俺は、兄さんと母さんの元で、やっと人間になれた気がした。
そんな穏やかに日々が流れていたある日、兄さんと母さんが珍しく喧嘩している声が聞こえた。
「息子ちゃん、ママね、そろそろ旅を止めようと思うの」
「何でさ。まだ、探してないところはいくらでもあるじゃん!」
「そうなんだけどね……そう、なんだけど……さ」
母さんが、行方不明になっている旦那さんに会いたがってるのは知っている。
『再会したら? そんなの……うふふ、そんなの決まってるじゃ無い。子供の出産前に行方不明なったような無責任男には、三十分耐久頭突きの刑とマッスルスパークをぶちかます。倒れたらマウントポジションから高速で顔面に拳を叩き込む!』
妖艶な笑みで殺意バリバリの物騒なことを言っていたけど、母さんが旦那さんに会いたがってたのは本当だった。
思い出話をしてくれたときも、いつだって幸せそうに笑っていた。
……だから、母さんが旅を止めると切り出したことに、兄さんは納得出来ずに声を荒げた。
北も南も灼熱地獄
雨やら台風やらで大変な八月ですが、お身体に気を付けてお過ごし頂ければと思います。






