衛士ファフナ、知る2
一部のキャラが少し出て(?)来ます
「あの、とき……」
「そいつはオーガンクルス馬のように半身が機械化した獣人だった。今でもハッキリと覚えているのは全身傷だらけの焦点が合わない瞳。まるでその様は壊れかけの操り人形みたいなヤツだった」
ギシギシと鳴る歯ぎしり。
そして、ゴウッ! と音を立てて溢れ出す暴風のごとき殺意。
「た、隊長、すいません、少し抑えて下さい。流石にこの近距離でその溢れる魔力は私には辛いです」
「あ……すまない」
「いえ、私こそ……話の腰を折り、すいません」
幾分か薄れた力の濁流に安堵の呼吸を漏らす。
「ヤツは自らを魔王エルヴァロンの使徒だと語りロイと名乗った」
「知性と暴虐の魔王エルヴァロンの、使徒ロイ……」
「兄さんと母さんは狂気をほとばしらせたそいつから孤児達を守るために戦った。だが、使徒は強すぎた……いや、ボク達が居たせいで、兄さんも母さんも本気を出せなかったんだ。そして、ヤツが天を仰いだ次の瞬間、流星が大地に降り注いだ……」
「流――まさか、失われた魔法」
流星召喚――
書物の一説で読んだことがある。
かつての大戦で、英雄の一人が復活を繰り返す蛇の魔神を滅ぼすために放った魔法。
神々の鉄槌、あるいは断末魔の鐘とも呼ばれる禁断の破壊魔法だ。
まさか、そんな失われた魔法を……いや、魔王の使徒ならば不可能では無いのか?
「それからの記憶は曖昧だ。ただ、はっきりと覚えているのは半壊した孤児院の中で結界に守られ泣き叫ぶ子供たちの声と地面に転がる母さんの壊れたロッドだけ」
「お二人は……」
静かに頭を振る。
「わからない。ただ、うっすらとだが記憶にあるのは降り注いだ流星が大地を引き裂き崩落する山の中で兄さんがボクを助けてくたこと。そして――」
そう言うと、まるで何かを持っているみたいに両手を伸ばした。
「死ぬはずだったボクに兄さんは分けてくれたんだ、自分の力を」
ゴウッ!
と両手の間に生まれる渦巻く魔力。
意図的に押さえ込んでくれているのだろう、感情の起伏であふれ出した力よりは抑えられているが、濃密にしてあまりにも強大。
それは人の身に宿っているとは信じがたい力だった。
「そ、その力、は……」
「これまでの話もずいぶん荒唐無稽だっただろ。この先は、さらにぶっ飛んだ話になるが、信じられるか?」
「……貴方と出会ってから、気が休まったことは本当に数えるほどしかありません。それほどに毎日が口で説明しても信じてもらえないような、荒唐無稽とも言える破天荒な日々でした。今更それが一つ増えたところで、散々実体験してきた身としては疑うことは出来ませんよ」
我ながら、少しわざとらしい気軽な口調で薄く微笑む。
「ありがとな」
「素直ですね、貴方らしくも無い」
「人をひねくれ者みたいに」
「私を散々巻き込んだ人は、『みたい』ではなく、『そのもの』だったと記憶しておりますが?」
「ま、そういう考え方もあるのは否定しないさ。とりあえず話の続きだ」
「お願いします」
「一言で言うと、兄さんは竜の生まれ変わりだ」
「りゅ、竜?」
「正確には竜の魂を持って生まれてきた」
「あ、あはは、これは本当に荒唐無稽だ」
「信じられないだろ」
「……いえ」
私はこの旅のさなか、貴方の中にヒトならざるモノを感じたことが幾度となくありました。
荒唐無稽と切り捨てればそれまでの話。
だが、今見せられた魔力にしても、これまでの桁外れな能力の数々も竜の魂を宿していれば――
「もしかして、貴方が、その……」
「いいよ、何を言いたいかはなんとなくわかる」
「はい、すいません。失礼な言い方ですが貴方がそのヒルコと呼ばれた存在から今の貴方になったのは、もしかしてお兄さんの」
「ああ、兄さんが分けてくれた竜の力のおかげだよ。小鳥一つ追い払えない骸みたいだった俺が、まるで神算鬼謀を操る軍師みたいな真似が出来るようになったのは、この竜の力の恩恵でしか無い」
それは、どこまでも誇らしく聞こえ、そして、どこまでも自虐の音色を帯びた声音だった。
「本当は自分じゃ何一つ持ち合わせちゃいない空っぽだった俺が、兄さんから奪ったこの力を使ってさも英雄のように立ち振る舞っているだけなんだ」
「そんもん誰も覚えちゃいねぇ!」って言われそうですが、二部が始まって足かけ二年でアルフォンスが時折呟いていた心の脆さと闇を、少しですがやっと書けた気がします。
初期にちりばめたネタとか忘れられないよう、更新がんばります!






