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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第三章 アルトリアの未来
210/266

衛士ファフナ、知る

相当暗い回です。

作者的が言うのも何ですがパスもありかなとか思ってます。

「もう、十二年になるかな」


 そう言って連れて行かれたのはうらぶれた路地裏。


「未来なんて何一つ期待も出来ない形損ない。それでも存在を公にされないまま飼い続けたのは、大公家(あいつら)にとっては血族を残すためのスペアだったんだろうな。ま、弟が生まれたらあっさりとここに捨てられたがな」


 淡々と話すその姿。

 真実かどうかは私には確認のしようも無い。

 ただ能面のような表情で語るその様に、私の胸は鷲掴みされたみたいに痛んだ。


「それからの毎日は悲惨だったよ。ゴミのように捨てられ、小鳥にさえ餌と思われついばまれる。痛みに震えてもそれを追い払う力さえ無かったんだ。それでも五つまで生きながらえることが出来たのは酔狂な老夫婦のおかげだった。自分たちも貧しいくせに、どこからかかき集めてきた小汚ぇ半分腐りかけみたいな飯を食わせてくれた。腹を壊したのだって一度や二度じゃ無い。腹痛で生死の境を彷徨ったこともあった。だけど()は……その時に初めて人の情を知ったんだと思う」


 凄惨、そんな言葉では覆い隠せないような過去。

 だけど、嗚呼、なんと言うことだ。

 私はいま、この人の瞳を見ることでそれが真実だと気が付いてしまった。

 まるで過去と今を見るような、遠い遠い視線。

 ただただ真実を映し出すかのような黒水晶の瞳がそこにはあった。


「幸せ、だったんだ……少なくとも宮殿に居たころよりは。あのヒステリックに叫ぶ母親(おんな)の声も、厄介者と蔑むメイド達の声を聞くこともなくなって心が救われた気がした。あの日まで」

「あの、日……」

「どこからか聞きつけたんだろ。五体不満足なガキが二年も生きているって噂を。夜中だった、今でも覚えているよ。夜空に輝く青い地球(つき)が雲に覆われたと思ったら、焦げ臭い匂いが一気にスラムに充満した。悲鳴は、あったんだ。だけど、スラムには誰も救いには来なかった。スラムだからか? いや、何故か大火だというのに自警団も動かなかった。それもそのはずだ、この辺り一帯は封鎖されていたんだからな」


 ギチリと、鈍い歯ぎしりが聞こえた。

 息苦しさを覚えるほどの殺気がこの小さな体からほとばしる。


「スラムに居た連中ははみ出し者ばかりでろくでもない奴らばかりだった。それでも、()を拾ってくれたじぃさんもばぁさんも、あんな奴らに殺されていいような悪人じゃ無かった! ()何かが居なければ、殺されずにすんだんだ!」


 激しい怒りが、まるで暴風のごとき怒りが頬を打つ。

 それは、外への憎しみと自分への行き場の無い憎しみが、この小さな体を止めどなく苛んでいるようだった。


「……すまない、息苦しいよな」

「いえ……吐き出して少しでも収まるようなら私にぶつけてください。私は、貴方の片腕のつもりですから」

「お前には、救われているよ。感謝している……」


 小さな声でそう呟くと、無言のままさらに奥へと進む。

 ボロボロなレンガの壁に、古ぼけた焼け跡が残っている。


「金が無きゃ何もせずただ捨てられるだけ。それがこの町だ。この焼け跡だってすでに十年は経っているってのに、ほとんど手つかずのままさ……本当だったら、()はここで終わるはずだったんだ」


 そう話されたときには、先ほどまでの息の詰まるような殺気は形を潜めていた。


「ここで炎に包まれて終わるんだ、そう思ったときだよ。兄さんと母さんに会ったのは」

「それは、たまに聞かせていただくお兄さんのことですね」

「ああ、後から母さんに聞いたんだが、帝都崩壊で行方不明になった夫を探すためにあちこち旅をしていたらしい。そんな時にたまたま立ち寄ったこの町で火災が起きているのを知り駆けつけてくれたんだ。助けるのが遅くなってごめんなさい、って散々泣かれたよ。母さんが悪いわけじゃ無いのに、まるで自分が悪いみたいに泣いていたのを今でも覚えているんだ。すごく、優しい人だった……

 ああ、悪い。長くなったな、もう少しだけ昔話に付き合ってくれるか?」

「お聞きしたいと言ったのは私ですよ」

「それもそうだな。酔狂なもんだよ、お前も。ああ、酔狂と言えば、初めて会った頃は兄さんと母さんにお同じことを思った。見殺しにでもすればいいものを、わざわざ救ったんだからな」


 その声音に何かを思い出したんだろう、楽しげな音色が宿る。


「しかもひどい話なんだよ。ボクを拾った兄さんの第一声は『母さん、これ拾っていい?』なんだから。ホントあの人はボクに常識が無いとか叱るくせに、ボクを拾った第一声が一番デリカシーないんだからな」

「あはは、それで、お母様はなんと?」

「『ちゃんと面倒見切れるなら良し』……なんだかなぁ、母さんも母さんで犬や猫でも拾うのかって反応だったよ」


 困ったように笑いながら、でもどこか誇らしげな声音。


「家族として迎えられたボクに、兄さんは何がしたいか聞いてきた。確かボクは『外が見たい』そんなことを言ったんだと思う。それからは、まぁあっちこっち見て回ったよ。兄さんの背中や母さんの背中に担がれて世界中を旅した。特に山から見る景色が好きだった。地平の彼方まで見渡せば、手足の利かない自分でも世界の果てまで行ける気がしたんだ」


 そうだったんですね……

 貴方が旅の最中に記載した地図――

 もちろん将来の戦のためというのは嘘では無いのだろうが、お兄さんとお母さんと回られた旅の記憶を思い出していたんですよね。


「そうそう、このアルフォンスって名は兄さんが付けてくれたんだ。元のフォンツァってのはこの国で『がんばれ』って意味なんだが、そんなボクにとっては嫌みとしか言いようのない呪われた名の代わりにくれた名だ」

「アルフォンス……もしかして」

「ああ、古代精霊語エンシェント・アールヴで高貴なる祝福って意味だったな。ま、散々な生き方をしてきたボクにはそれも過ぎた名だとは思ったよ。それでも、自分の名前に兄さんと同じ文字があることが誇らしかった」


 ふぅ……と深呼吸を一つ。

 まるで、何かを吐き出すような、その瞳には暗い闇が再び生まれた。


「幸せだった。母さんが田舎で開いていた孤児院のガキどもはうるさかったけど、やっと心の平安が訪れたと思った。あのときが来るまでは」

暗い回で申し訳ねっす!←言い方が軽い( ' ^'c彡☆))Д´) パーン


次回も暗いかもです。←嫌な予告



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