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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第三章 アルトリアの未来
206/266

衛士ファフナ、腹ペコ聖女になる

なんと二日続けて更新です!

……そこ、短いとか言わない!

「無礼な、この方をアルトリアの聖女ファニーナ・ペルフェロッツェ様と知っての失礼か!」


 高級宿の受付で一悶着を起こしている黒服の少年。

 まぁ、中身は見習い神官のコスプレをした腹黒ショタ(たいちょう)なんですけどね。 結局、当初の予定通りまずは新聞を買いに行ったのだが時間が良くなかったのか新聞はすでに売り切れていた。

 宿泊に安宿は無いにしても、中級宿で決定か。

 そう思っていたら、迷いもせずに連れて行かれたのは眼下にルゼルヴァリアの港町が広がる貴族街。

 そして大通りに面した随分と伝統のありそうなホテルだった。

 アルトリアでもまず見ないようなホテルに少し心が躍る。

 ただ、気になることもあった。

 さすが貴族街というか高級住宅街とでも言うべきか、一見ではまず迷子になりそうな迷路のような都市作り。

 そこを迷いもせず案内したのだ。

 思い起こせば、この道中でも彼は地形を紙にしたためていた。


『ん? 地形を把握するってことは時に十倍の兵力差も覆すことが出来る最強の手札になるんだぞ。それを目に焼き付けないで漫然と旅するなんてもったいないだろ』


 あっさりと言ってのけられましたが……

 なるほど、確かにその通りだ。

 事実、彼は地形を把握することでオルガン軍を手玉に取り、そしてほぼ無傷で勝利を勝ち取った。

 確かにオルガン軍には慢心があった。

 それでも士気の高い軍を完膚なきまでに壊滅に追い込むなど、英雄譚や脚色を除けば歴史上でもどれほどあっただろうか?

 地形、なるほど。

 彼がそれをどれほど重要視しているのかこの旅で嫌と言うほどよく分かった。

 ただ、把握――

 この町での彼の足取りは調べた上での把握という言葉では収まらないというか、あまりに詳しくいささか納得がいかなかった。

 裏道の把握、この町への嫌悪。

 恨みのようなモノを感じるし、もしかしたら――


「――、おい――どうされま――おい、聖女、返事をしやがれ、おい聖女」

「ふぁ!? あ、ああ、すいませんでした、考え事をしていて」


 いつの間にか戻って来た腹黒ショタ(たいちょう)に返事のカツアゲをされた。


「すいません、ちょっと考え事を」

「それは先ほど聞かせて頂きました、聖女ファニーナ・ペルフェロッツェ様」


 人が近くを通り過ぎた瞬間、丁寧語で恭しく頭を下げる。


「お部屋の予約が完了しました」

「手間取っていたようですが、大丈夫でしたか?」

「なにもありませんよ。脅したら(もんだいなく)部屋を貸してくれましたよ」

「……何か聞き捨てならい響があったような気がするんですが」

「いえ、単にアルトリア聖堂教会が認定した聖女をお疑いになるということは、些か国際問題になる可能性がありますがよろしいですか? と丁寧に説法したら快く部屋を明け渡しました」

「明け渡……」


 やれやれ、受付の彼が通りで青ざめている訳だ。

 只でさえ信仰心? の強い街で、教会を敵に回したなんて知られたら、彼の身も無事には済まないだろう。

 見た目若い私達がブラックカードを持っている。

 それを疑うのはきちんとした仕事をしている証拠ではあろう。

 まぁ、身分を偽り侵入している身としては、鬱陶しくはありますが彼は職務をただ全うしているだけ。

 悪いのは私達なんですよね。


「どうしました、ファニーナ・ペルフェロッツェ様?」

「……酷い偽名をありがとうございます」


 耳元に口を寄せて静かに文句を言う。

 ファニーナとは古代精霊語エンシェント・アールヴでデンプン、ペルフェロッツェは同じ言語で魚介パスタ……

 私の偽名は魚介のデンプンパスタですか。

 もしかして先ほどの私の食欲に対する皮肉のつもりですか?

 そうですか。


「なんか面倒臭いこと考えてないか? 向かいのレストランのスタンド看板に旨そうなメニューが書いていたから、思い付きで言語変換しただけだ」

「……心を読まないで下さい」

「顔に出やすいのですよ、聖女デンプン様」

「誰がデンプン様ですか!」

「どうどう、落ち着いて落ち着いて。ほれ、ここが聖女様のお部屋です」

「ぐぬぬ……って、一緒の部屋じゃ無いんですか?」

「ボクは下男だぞ? 聖女と部屋が一緒だったら問題あるだろ」

「あ、確かに」


 甚く当たり前の説明をされた。

 まぁ、デタラメとは言えアルトリアの聖女なんてヤバい肩書きを名乗っているのだ、ホテルの配慮も当たり前か……

 え。私の女装、そんなに違和感ありませんか?


「おい、なんかセルフ落ち込みするな」

「いえ、まぁ、お世辞にも男らしい体格では無いのは確かですからね。肩幅とか身長とか……」

「おい、それはボクに対する皮肉もこめてるのか? ガルルルル」

「ち、違いますよ! 私はもう二十五歳ですよ。ヒト種的な見た目では十代でしょうが、肉体年齢の成長はほぼほぼ止まってます。ヒト種である貴方ならまだ将来性があるからいいじゃ無いですか」

「まぁ年齢だけならな。ただ、ボクはもう成長しないだろうなぁ」


 自虐的に笑っている。

 ……こういうときはどんな言葉も無意味というか、下手な慰めの言葉は傷口に水で溶かした塩と唐辛子を擦り込むようなものだ。

 沈黙を尊ぶとしよう。


「何だよ慰めもなしかこのヤロウ」

「ああ、どっちにしても威嚇されるのは変わらなかった」

「がるるる……まぁ、冗談だ」

「……どこまでが?」

「さぁな」

「はぁ……ホント、最近の貴方は変にナーバスというか苛立っていて結構私も疲弊してるんですよ」

「そうか、そいつはすまなかった」


 殊勝に返された。


「えっと、と、とりあえず廊下でいつまでも立ち話をしていて不審に思われたら面倒です。まずはお互い部屋に入るとしましょう」

「それもそうだな。あと、今後の流れは食事をしながら打ち合わせをしよう。お互い荷物を片付けたらすぐにロビーに集合だ」

「わかりました。あ……」

「ん、どうした?」

「格好はどうしましょう」

「ああ、神職の姿のままだと食事時には色々と面倒だだから着替えてこい。あ、服は自称お姉ちゃんが用意してくれた女物だぞ」


 結局、女装は延長線へと突入にすることになったのであった。

短いのは暑くてパソコンが変な唸り声を上げているからです。

決してサボったわけじゃありません。

本当です。


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