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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第三章 アルトリアの未来
202/266

老騎士、真実に触れる・4

お待たせしました。

じじぃ回、これにて終了です。

本当に終了です。


「アルフレッドの正体が、精霊皇様……」


 それは儂には、いや、アールヴには到底受け入れがたい話だった。


「その話は、まことなのか?」

「少し考えればアルフレッドの異常性は理解出来るはずだ。たった一人の人間が数年でこの世界の文明レベルを数百年も推し進めたんだ。真なる世界(むこう)で見聞きした情報だけを頼りにこっちの世界で再現するなんて、どんな天才にも常識では不可能なことだ」

「見聞きしただけ……そうなのか? そこら辺は儂には分からぬ。だが、確かにあの天空を飛び続ける魔導列車も、戦争で使われた古代の魔術もまるでこの世の果ての技術だとは思っていたが……」


 魔導王と呼ばれし男の異常性は確かに気が付いてはいた。

 事実、彼の者が歴史に名を刻んだ時より確かにこの世界、取り分け帝国の文明レベルは異常な発展を遂げている。

 なるほどのぅ。これが根源の王にして創造を司る精霊皇様のお力という訳か……


「ハハハ、まさか我らアールヴの怨敵とも言えるアルフレッドが精霊皇様とは……我らが偉大なる守護者様が、我らが崇めてきた御方が、我らを苦しめた存在だったとは……」

「アルフレッドが結果もたらした破壊、その事実が消えることは無い。人間を除く他種族が帝国によりもたらされた破壊は今も世界中に深い爪痕として残っている。それは揺るぎない事実だ。だが、諸悪の根源は……僕にこそある。精霊皇様の想いの深さに気付か――」

「よせ、それ以上は言うな。頭では分かっているつもりじゃ」


 そう、頭では分かっている。


「分かっているつもりなんじゃ!」


 イプシスはソフィーティア様の魂を守るべく、ただその時の最良を選んだ。

 ソフィーティア様の生まれ変わりは、アル……精霊皇様に見初められて愛を見つけられた。

精霊皇様はその歪な生まれの為に、恐らく心を病んだのだろう……

 憎むべきは精霊皇様を虐げた人間……

 いや、そうではない。そうではないんじゃ……

 何かを憎むなど、あの心優しかったソフィーティア様が望むはずも無い。


「……のぅどうすれば良い、イプシスよ。頭では分かっているつもりなんじゃ。分かっているつもりなんじゃ! ただ、北の滅ぼされた同胞達の王国や帝国の侵攻で殺されたアルトリアの戦士達のことを思うと、頭では感情が割り切れぬ!」

「すまない兄さん……」

「ぐぅ……」


 為政者の誰もが羨むほどの長き時を生きながら、こんな時に唸り声しか出せぬとは……

 我ながら嫌になるほど長いため息を吐き出した。


「……イプシスよ、儂はこのことを墓の底まで待っていくとしよう。エルダリア様にも伝えぬ」


 そう、答えるのが精一杯。


「歳は取りたくないのぅ。耄碌した儂の頭ではこれ以上の答えは出せそうにないわい」


 アルフォンスよ、そなたならどう答える?

 お主の天稟なら明確な答えは出せたかのぅ。

 じじぃにはそれが問題の先送りにしか過ぎぬとわかっていても、それ以上の答えを見つけることができそうにないわい。


「すまない……」

「もう謝ってくれるな。しゃあないじゃろ、誰にも選択した結果がもたらす未来などわかろうはずもない。ましてや、これは誰かを貶めようとした結果が招いた結果(もの)にあらず」


 そう、これはその時に生きる者達が精一杯足掻いたが故の結果。

 知恵が出せぬなら、真実は噛み砕いて吐き捨てるしかない。

 いつか答えを出せるその日まで、な。


「お主が儂にしか話せぬ真実があったことはわかった。それでお主は今何を恐れている?」

「兄さんも気がついているだろ。ヤツが、精霊皇様の力を奪ったヤツがもう間もなくこの世界に復活する」

「……やはり、か」


 【名も無き厄災の王】の精霊皇様の力を奪ったのは、無論この地上に復活するため。

 だが、精霊皇様ほどの強大なお力を奪ったなら、とっくに復活していてもおかしくはない。

 ならば……まだ足りないモノがあるのか?


「イプシスよ」

「なんだい?」

「精霊皇様がアルフレッドに転生したのは何年前じゃ?」

「もう、三十五年くらいにはなるかな?」

「三十五年。それすなわち【名も無き厄災の王】が精霊皇様のお力を奪って三十五年がすでに経過している、ということか」


 この世界の消滅を望んだ【時喰らい】。

 そして、その影たる【名も無き厄災の王】。

 あの怪物が生み出した影なら、この世界を消すべく疾うに復活していてもおかしくは無い。

 それなのに、三十五年も……

 時そのものとも言える【時喰らい】にとっては、三十五年など瞬きにすら満たない刹那だとでも言うのか?

 無いとは言えぬが、待つ道理も無し。


「イプシスよ、【名も無き厄災の王】が三十五年もの間沈黙を続けているのは何故じゃ?」

「復活に足りないピースがある」

「復活に足りない? それは一体」

「かつてソフィーティアや精霊皇様がそうであったように、宿るべき依り代だ」

「依り代……しかし誤解を恐れずに言うなら、アルフレッドの肉体があるじゃろ? 精霊皇様が転生の依り代にしたほどじゃ、その肉体なら――」

「アルフレッドは死んだ。魔王エルヴァロンの使徒に二十年前に殺されたよ」

「なっ! アルフレッドが、精霊皇様がすでにお亡くなりになっただと!?」

「使徒に襲われた際に瀕死の体で神剣の力を解放しこの世界から消滅した」

「神剣じゃと? まさか【時喰らい】との大戦で顕現したあの三振りの神剣のことか?」

「ああ、三振りの神剣が一つ、【時の果てより来たる終極を砕きし剣】だ」

「あの地上で起こる天変地異の全てを濃縮したような英雄王の剣を、か……」


 三振りの神剣の中でも、唯一大地に生きる者達のために明確に味方した剣。

 いや、英雄王が担い手だったからこそ、あの最も気難しい知性ある剣インテリジェンスソードが味方してくれたとも言える。

 そうで無ければ魔軍に堕ちた二振りの神剣同様、あの剣すらも儂らを傷付ける刃となっていてもおかしくはなかった。

 その神剣の後継者、か。

 いや、あの英雄王が選んだ自らの後継者だ。

 その後継者ならあの剣に選ばれてもおかしくはない、か。


「ならば……残る魔王さえ駆逐することが出来れば、或いは【名も無き厄災の王】の復活は防げるという訳じゃな」

「……」

「何じゃその嫌な沈黙は……ッ! ま、まさか……」

「世界最強なんて実に子供じみてて馬鹿げた表現だとは思うよ。だけど、この世界には間違い無くその馬鹿げた最強なんて表現でしか喩えようのない存在が二十年前に生まれている」

「ソフィーティア様の、リョウ殿と精霊皇様の御子か!」


 儂が、その真実に辿り着いた瞬間、イプシスの身体が揺らぎ始める。


「イプシス、お主どうした!? 身体が薄れて!!」

「くそ、もう限界……いや、妨害か」

「妨害? 妨害とはどう言うことじゃ!! お主、想像以上に危険なことに巻き込まれておるんじゃないのか!!」

「探してくれ、早く、一刻も早く探し出してくれ兄さん! あの子を魔王の手から守ってあげてくれ、【名も無き厄災の王】の器なんかにさせちゃいけない!」

「イプシスよ分かった、分かったとも。その者は何処におる」

「行方はぐぁあぁぁ……行方は、わから……ぐぅ……兄さん、これだけは忘れな……貴方は誰が何と言おうとアルトリアが、アールヴが誇る英雄だ。死が津波の如く押し寄せるその時まで、どうか英雄で……英雄の、まま……で……アル……を、たの……む……」

「イプシス!!」


 儂の叫びを最後に、まるで全てが幻であったかのような静寂が訪れた。

 青い地球(つき)明かりだけが、部屋に差し込んでいた。


「……イプシスめ、言いたいことだけ言って消えおって。く……ふ……くくく……愚か者め……」

一身上の都合という、読者様には関係の無い方向で長引かせてしまった三章もようやく終了です。

些か後半は不穏な引きとなりましたが、次回より四章開始です。

色んな意味で作者が書きたかったことがやっと書ける回とも言えます。

えらく長くなりましたが、どうか最後までお付き合いのほどよろしくお願い致します!

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