老騎士、真実に触れる・3
ほらな、だから言ったんだ。
じじぃは話が長くなるって。
※イプシス(イプシロン)が姫のことを呼び捨てにしてじじぃは様付けで呼んでますが、じじぃは王位継承権を捨てて臣下という道を選んだため、敬意を表して様付けしています。←先に書けよ(おい)
「最大の誤算は、僕が精霊皇様のソフィーティアに対する執着心を軽く考えていたことだった」
「精霊皇様の執着心、じゃと?」
「さっきも言ったけど、強大な力を持つ精霊になればなるほどその孤独は計り知れない。ましてや根源を司り全ての精霊の頂点にいるお方だ。その心の孤独は今思えば何者も、王の名を冠する他の精霊たちでさえも埋めることは出来なかったんだ」
「強大すぎるが故の孤独か。なんとも切ない話じゃな」
「だから……だったんだ。あの時はまさかとは思ったけど、今思えば精霊皇様のその決断は容易に想像出来たはずだった」
「何があった? もったいぶらずに早よ教えてくれい」
「精霊皇様は人間に転生された」
「……………………な、なんじゃと?!」
あまりにもなとんでも発言に、儂の思考は一瞬それを受け入れるのを拒絶した。
「根源の君主たる精霊皇様が、脆弱なとも言える人間になったというのか!? 何故じゃ、何故人間にならなければならなかったのだ!」
「真なる時間軸には知的生命体は人間しかいない。そして、精霊界はこの世界線のみでしか触れることが出来ない世界だ」
「ソフィーティア様の転生体に会いたいがために人間になったというのか? 失礼を承知で言うが、よもやそのためだけに人間になったなどと儂には……」
「あの御方にとっては、それ以上に必要なものは無かったんだろう」
「俄には信じがたいが……いや、信じがたいからこその真実、なのか? それで、精霊皇様は人間になった後どうなった?」
「……」
「なんじゃ、まだもったいぶるのか? 今更これ以上の厄介ゴトなど無いじゃろ?」
「違うよ……本当の問題はここからなんだ」
「なに?」
「精霊皇様は転生を妨害された」
「精霊皇様を妨害じゃと? そんなことは不可能じゃ喩えそれが三大魔王と、て……ま、まさか……」
「そのまさかだよ」
「名も無き厄災の王……」
儂の悪夢のような呟きに、イプシスが静かに頷いた。
「この世界に顕現した魔王は、全て英雄戦争で巻き起こった力の余波から生まれたのは知っての通りだ。輪廻の魔王レオニスが英雄王カーズの姿を持つように、魔竜王ラースタイラントが真なる古竜ブルーソウルの力の影から生まれ、暴虐の魔王エルヴァロンが英霊達の力の余波から生まれたように……名も無き厄災の王も確かに生まれていたんだ。【刻喰らい】の影として」
「ッ!!」
かねてより英雄王は予言していた。
あの英雄戦争で魔王が生まれたように、或いはその可能性が極めて高いことを。
「まさか……まさか精霊皇様は殺され消滅されたのか?」
「いや、力の大半は奪われたけど、辛うじて転生されたよ……」
「そ、そうか……」
「ただ、その記憶も力の大半も永久に失われた」
「では、ソフィーティア様の転生体には会えなかったのか?」
「……紆余曲折はあった」
「紆余曲折?」
「精霊皇様としての記憶を失い力の大半も失ったけど、それでもその想いは僕の想像を遙かに凌駕していた」
「それほどに、精霊皇様はソフィーティア様のことを……」
「ただ……記憶を失われたことが、全ての不幸の始まりだった」
「不幸の始まり?」
「力の大半は失ったが、それでも人の身には強大すぎる力を宿して生まれた」
「精霊皇様の力じゃ。それはそうじゃろうな」
「だからこそ、だった……ただの人の子とも言える身には過酷すぎる地獄が待ち受けていた。兄弟に妬まれ、親に忌み嫌われ、酷い虐待を受けた挙げ句に山奥に捨てられた」
「なんと残酷で罰当たりな……」
「すぐにでも助け出したかった。だけど、その時の僕はすでにこの世界に大きな干渉をすることが出来なくなっていた。だから、賭けだったんだ」
「賭け?」
「僕はかつてこの世界からラースタイラントの双生児の片割れを連れ出した際に【時渡の扉】を作ったんだ。そして、万が一に備えその扉は残しておいた。まぁその後は誰一人として使える者は居なかったし、何よりも僕ごときが作った扉じゃそう長持ちはしなかった。ただ、運が良かったのかどうかは分からないけれど、精霊皇様の生まれ変わりはその近くの山に捨てられた。だから、僕はなけなしの力で二度とは開くつもりの無かった時渡の扉を復活させた」
「なんと無茶なことを」
「全ては僕の愚かさが招いたことだ。精霊皇様の執着……いや、ソフィーティアに対する想いを妨害しておきながら、手を貸すなんて愚かで傲慢以外の何物でもない……でも、見捨てることは出来なかった。命が生を受けて生まれたなら等しく愛情を受ける権利がある。苦しみの中で歪められていいものじゃない」
苦虫を噛み潰したような表情。
変わらぬな。
イプシスは自身の心の内を表すことが下手だったが誰よりも優しかった。
英雄戦争に参加しなかったのは臆病だったからでも劣っていたからでもない。
単純な精霊召喚における力量だけだったなら、あるいは儂や姉上よりも優れた戦士じゃった。
だが、国を開け無辜の民が暴力に蹂躙されることを何よりも嫌ったイプシスが、大戦に参加をしない批判を浴びるのを覚悟で国に残った。
「それで、精霊皇様はどうなった?」
「時の妨害、次元の妨害……あらゆる障壁を乗り越え、奇跡のような確率で二人は巡り会った。仲の良い友人としてね」
「そうか……恋仲にはならんかったのじゃな」
「まぁ出会った頃はお互いに年端もいかない子供だったし、その頃は少年同士だったからね」
「そ、そうじゃったな、ソフィーティア様は男性に生まれ変わったと言うとたな……聞けば聞くほど何かにつけて不憫というか」
「……まぁ、良がこっちの世界に自力で来た際に女になったからある意味WINWINというか結果良ければ全て良しだと自分に言い聞かせてるけどね」
「リョウ? 誰じゃそれ」
「ああ、向こうで人間に生まれ変わったソフィーティアの名だよ」
「ふむ、リョウか……最初聞いた時はなんぞ平凡な響じゃなぁとか思ったが、ソフィーティア様の名じゃと聞くとシンプルじゃが良い名に聞こえてくるな」
「姪馬鹿め」
「やかましいわい。姪可愛さに精霊皇様に喧嘩売ったおぬしに言われとうないわい……ところで、今こっちの世界に来たとか、女になったとかどういう意味じゃ?」
「ああ、兄さんも知っての通りこっちの世界は聖杯が生み出した世界なのは知ってるよね」
「うむ、聖戦に参加した者達ですら極一部の者しか知らんが、この世界が聖杯という秘法により生み出された世界なのは知っとるよ」
「そう、だからこの世界はある意味では幻界とも精神世界ともいえる。良が女になったのは十数年人間として生きた肉体の性別より、こちらで遙かに長く生きたアールヴとしての魂の性別に肉体が引っ張られたんだろう」
「聞けば聞くほどWINWINとはほど遠い目に遭っとる気がするのぅ」
「それでもアルフレッドとは恋愛の末に結ばれたんだから、良かったとは思ってるよ」
「そうじゃのぅ、アルフレッドと恋仲……なぬっ!? おぬし、精霊皇様と結ばれたと言わんかったか!?」
「ああ、精霊皇様が肉体に選んだのが、竜王ラースタイラントと【深淵の監視者】メルリカの末裔。僕がかつてこの世界に残した双子の片割れの末裔だよ。そして、人間として与えられた名がアルフレッドだ」
と言うわけで、もう一話続きます。←こら
話がだいぶややこしくなってきてると思いますが、読者様、応援のほど何卒よろしくお願いいたします!
『わからにくいぜ、ひゃっはー!』
というお叱りがあった場合いつの日か修正すると思いますので、どうかお待ちくださいませ。






