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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第三章 アルトリアの未来
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老騎士、真実に触れる・1

じじぃリターンズ!

と言う訳で、予告通りじじぃの閑話回です。

相変わらずじじぃは余計な発言が多くてなかなか展開が進みません。


「……おい、起きろ」

「ふご……んごごごご……」

「起きろよ」

「んげごげげげが……」

「小汚ぇいびきだなぁ、取り敢えずトドメでも刺すか」

「ふごっ! フハハ、油断したのぅ小僧! いつぞや襲撃を受けて以来、【眠りは浅く、警戒は濃く】をモットーに昼寝を充実させとったんじゃ!」

「十分爆睡していたと思うが、昼寝までしていたとは。老人のただの余暇と変わらねえじゃん……」

「やかましぃわいっ! ………………んご? ……んぁ~……はて?」


 青白き地球(つき)明かりだけが入り込む暗闇に閉ざされた部屋。

 調度品、カーテン、全てに見覚えがある。

 そう、ここは儂の部屋じゃ。

 何の変哲も無い儂の部屋。

 そう、何の気配も影も無い。


「夢……か? それにしても随分と生々しいというか現実味のある夢じゃったな」


 テーブルの上の水差しを取り、直に口に運ぶ。


「……まさかとは思うが、よもや小僧の身に何かが起きたとでもいうの……おい、小僧そこにおるのか? もしかして其方の身に何かあったのか? まさか、魂だけで会いに来てくれたわけじゃあるまいな?」


 薄暗闇に閉ざされた部屋。

 誰も居ない空間に声をかけ、そして苦笑いする。


「ふ、ふははは、いい歳したじじぃが何を今更センチになっとるんじゃか。そんなはずはあるまい。あの神々や精霊たちに祝福されたとしたか思えぬ天稟を揺るがせる者など、今の世にどれほど居るというのか」


 ふぅ……

 深いため息を一つ吐いてベッドに座る。


「それにしても、今日は良き地球(つき)じゃ……」


 窓から覗く夜空に青々と輝く地球(つき)

 この世界(だいち)同胞(はらから)にして、正史が息づく真なる世界。


「数多の英雄が御霊となり旅立った世界、か……」

「アンタは何時旅立つんだ、大戦の忘れ者よ」

「ぬぅ!? その悪態、やはり小僧め隠れて、お、った……くぁ!?」

「アールヴをやめてカラスにでも転生したのかい?」

「な、お、お前、は……イ、イプシスなのか?」


 そこに居る者を忘れたことなどは無い。

 生まれたときから隣に居た。

 あの悪夢のような地獄の戦場も、コイツが隣に居たから駆け抜けることが出来た。

 英雄王と共に、あの地獄のような戦場から生きて戻ることが出来た。


「イプシス、ああ……あ、ああ……お前なんじゃな。我が血肉を分けし兄弟(はらから)よ」

「良いとしたじいさんが泣くなよ。あと、その名前は王家を出たときに捨てたよ。あの日から僕はイプシロンって名乗っているんだ」

「イプシロン……イプシロン……そうか、お前がイプシロンだったのか。もう随分昔だがその名は聞いたことがある。かつて人間と共に竜王ラースタイラントと戦った【深淵の監視者】メルリカの相棒がイプシロンという名のアールヴだと聞いた」


 英雄戦争を最後に袂を別ち幾星霜……

 あの戦争を生き残った英雄の一人である(イプシス)の噂を聞くことは一度も無かった。

 ははは……

 何たる間抜けか。

 王家を出奔したのだ、名を変えとっても不思議では無い。

 そんなことも失念しておったとはな。


「あれからもう千年以上か。久しぶり、って言うにはアールヴでも時間が経ちすぎたね兄さん」

「其方も生きて……生きて……生き? んあぁ? お主、儂と双子のくせに随分と若くないか?」

「はは、何寝ぼけたことを言ってるんだ。ボクはとっくの昔に死んだよ」

「な、なんじゃと……いや、そうか。そうじゃな。儂のように千年を超えて生きてるのが、変なんじゃよな」


 そう、純血種たるエルダーアールヴ(ハイエルフ)とは言えその寿命は先祖と比べて遙かに短くなっている。

 げんに儂と同じ頃に生まれたエルダーアールヴ(ハイエルフ)は儂を除いて誰一人生き残っておらん。儂よりも後に生まれた者達は皆が皆儂よりも若くして死んでおる。


「ならばお主は……亡霊なのか?」

「何言ってるんだ。この世界で死んだら真なる世界へと旅立つのは知っているだろ」


 イプシスはそう言うと空に浮かぶ青き星(つき)を眺め見る。

 そう、この世界は幻。(かりそめ)

 刻喰らいが滅びた今、この世界で終わりを迎えれば真なる時へと旅立つは必然。


「なら、お主は……」

「まぁ、滅びを受け入れられなかった思念体、ってところかな」

「死ねん体?」

「おい、ボケ兄貴。人をアンデッドみたいに言うな」

「ふぉふぉふぉ、この歳になるとくだらん戯れ言をバカみたいに言いたくなるんじゃよ」

「はぁ……兄さん、アンタは昔からそうだったと僕は記憶するけどね」

「そんなことは無いじゃろ、ほれ、あれじゃ、何ぞマジメだった秘話の一つ位はたぶんきっと、何となく其処は彼にはあるじゃろ?」

「……さあね、そんな記憶は欠片も無いよ。まぁ良いさ、僕も馬鹿話をするために来た訳じゃ無い」

「なんじゃ、千年ぶりの兄弟の再会だというのにつれないのう」

「時間が無いんだ」

「何んぞあったのか?」

「…………」


 イプシスが値踏みするように儂を見る。


「な、なんじゃ?」

「……いや。取り敢えず状況を話す。英雄王はこの世を去った」

「ッ! ま、真か! それは冗談だとしても許されぬ戯れ言じゃぞ!」

「冗談でも戯れ言でも、ましてやウソでも無い真実だよ。あの人は、全てを託せる後継者を見付けてこの世を去った。やっとその長い戦いの歴史(とき)に終わりを告げ、眠りについてくれた……」

「そうか、今もこの世のどこかで神の如く泰然と君臨しているものと……そうか、そうであったか。やっと……やっと、気が狂うほど長く永い闘争の歴史を終えられたのじゃな」


 彼と共に戦った英傑たちは誰もが願い、誰もが望んだ。

 この世界の守護神に安らぎの時が来ることを。

 そして、同時に頼ってしまった。


 この世界を何時までも見守り支えて欲しいと。


 それは純粋な願いであると同時に恐るべき呪いとなった。

 戦い続け傷付いた英雄達の王から終わりを奪い、数多の英雄(とも)が去りゆくこの世界に縛り付け……


「待て、後継者? あの英雄カーズの後継者? いったい、それは何者じゃ!?」

「……名は言えない」

「名を言えないじゃと」


 儂には(・・・)言えぬ、なのかそれとも儂らアールヴ(・・・・)には言えぬ、なのか……


「まさか、儂が若き頃に懇ろ(ねんごろ)になった娘っことあはーんうふーん(はっするオイタ)したときの認知しておらん子供とかいわんよな!?」

「おい、兄貴?」

「冗談じゃ。王家を捨てたとは言え儂は仮にも英雄の末席に名を連ねる者じゃぞ。そんな後から世間に叩かれそうなミスはせんわい」

「バレなきゃ良いみたいに勘ぐりたくなるから、ミスとか言うな。まぁ真実はどうあれ、もう僕にはどうにも出来ない話だからとやかくは言わないよ」


 面倒臭げなため息。

 ふむ、まあその反応は当然か。

 だが、であるなら……我らアールヴには言えぬ存在、か。


「アルフレッド」

「ッ」


 その名を呟いた瞬間、イプシスの表情が曇る。

 ふぅ……そうきたか。そうきちまったか、運命のイタズラよ。


「やれやれだよ、いや、そう言えば兄さんは昔からそうだった。普段はボケているくせに、やたらと勘が鋭くて、その勘が英雄王を救ったこともあったね」

「全ては遙か遠き昔の話じゃよ。それにしても、アールヴの天敵たるあの魔導王アルフレッドがよもや英雄王の後継者とはな……運命とはなんと皮肉なものか。だが、彼の御方が選んだ後継者じゃ。儂が及びも付かぬ考えがあるのじゃろう。腑に落とすには時間がかかりそうじゃがな」

「……兄さん。これから言う事をよく咀嚼して心に留めておいて欲しい」

「なんじゃ? 十世紀ぶりの兄弟の対面だと言うに、随分と物々しい言い方をするじゃないか」


 優しく語りかけたはずが、イプシスは今にも泣き出しそうな面持ちで唇を歪めた。

 シャンッ……

 イプシスはその手にした錫杖を厳か(かなしく)に鳴らした。


「これより語るは時の反逆者イプシロン、否、時の大罪人イプシスが犯した許されざる罪状」


 そしてイプシスは、重々しく口を開く。


「ことの始まりは先王の子、兄の嫉妬による王杯戦役に由来する」

「王杯戦役じゃと? まさか、先王の死後に勃発し王姫ソフィーティア様を失ったあの内戦のことか?」


 真実を知ろうと身を乗り出す儂にイプシスが静かに頷き肯定した。

はい、懐かしい名前が出て来た回でした。

覚えていてくれてる読者様ははてさて何人居ることやら……←遅筆の弊害。


じじぃ回は長ければ3話(希望は2話)予定です。

前作の主人公、リョウとアルフレッドの真実に触れる回となります。

そして誰も望んじゃいないじじぃの真実にもちょっと触れます。


よろしければ読者の皆様、何卒お付き合いのほどよろしくお願い致します!!(_;´꒳`;):_ヘヘー

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― 新着の感想 ―
[一言] アルくんアルくんアルくん!! ええ、忘れられるはずなどあるはずがありません! アルフォンスくんもアルくんだからこんがらがっちゃいそうになるけど。 バドハーがアルフレッドの兄って言うことはえ…
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