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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第三章 アルトリアの未来
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衛士ファフナ、違和感は狂気に変わる

ご無沙汰しております。

2ヶ月も更新滞り、読者様には大変失礼を致しました。

読者様がいるだろう北にも南にも足を向けて寝られないので、取り敢えず逆立ちして天に足向けて寝てやろうと思います。

一昨日昨日今日と極上のホタテを食べてタウリン補充しまくりましたので、一晩位なら逆立ちして寝る位は余裕な気がします。


へっぽこな作者ですが、何卒これからもお付きあいのほどよろしくお願い致します。

 違和感――

 それは、喉に刺さった魚の小骨にも似ていた。

 小さな、小さな、

 だけどそれは、決して誤魔化すことの出来ない違和感だった。

 それなのに、その正体が分からない。

 もやもやとする。

 とは言え違和感の正体を彼に聞いたところで、


『聞きたいことがあるなら、自分の中で形にしてから聞け』

 

 な~んて言うんでしょうね、どうせ。

 ええ、こんな曖昧な問いかけには決して答え(しんじつ)を語ってくれ無いだろうことは想像に難くない。


 ため息を一つ吐き出す。

 気にはなるが、とは言え何ですよね。

 その答えが恐らく彼の中に由来するモノである以上、いま私が思い悩んだところで彼が抱えるモノが分かるはずも無い。

 もしかしたら理解とか共感は出来るかも知れないですが、そもそも聞いたところで明確な答えは返ってこないでしょうし……

 いや――

 まず考えるべきはこの助けた女性のことだ。

 私の我が侭で捻じ曲げた優先順位。

 彼は何かあれば責任は取ると言ってくれたが、上司とは言えこの年若い少年に全てを負わせるのは気が引けるというか、いくら情けない私でもなけなしのプライドがそれを許さない。


「とりあえずはコミュニケーションを取ってみます」


 ……自分で解決すると腹をくくりながら、思わず顔色を窺うみたいに出てしまった言葉に歯噛みする。

 情けないがこれが私の本質。

 顔色を窺いながらでしか生きてこられなかった弱さ。

 パンッ! と両手で頬を張ると視界の隅でまるで全てを見透かすみたいに笑っている我が上司。

 そう、ですよね。

 もうナッシュ・オルガンはいない。

 何度も何度も……

 そうやって自分に言い聞かせてきたじゃないか。

 自分を救ってくれた方に自分の意志で楯突いたんだ。

 もういい加減に腹をくくれよ、ただのファフナ!


「……起きて下さい。脅威は去りました」


 声をかけて揺するも反応は無い。

 考えてみれば、風霊王(ルシャルーラ)の加護があったとは言え、とんでもない距離を担いだまま運んでも目が覚めなかったのだ。

 よほどの心的疲労を受けているのだろう。

 あるいは魔猿の上位個体が使うという呪いを受けた可能性もある。

 精神系の精霊に働きかければおそらく強制的に起こすことは出来るだろうが……

 だが恐怖をともなう呪いががすり込まれていたなら、精神精霊では一歩間違えれば後遺症が残る可能性もある。

 とは言え生命を司る精霊は男の精霊士には使役出来ない。

 ならば、


「隊ち――」


 ギロリと睨まれ、思わず口ごもる。


「あの、アルフォン――」


 再びギロリと睨まれる。

 え゛? どうしろって言うんですか?

 自分で解決するまで話しかけるなってことで――

 あ、そうか。


「ア、アル君、一つ聞いても良いでしょうか?」

「何だ」


 他人がいるときは本名も役職も呼ぶなって事ですね。

 徹底しているというか、用心深いと言うか疑り深いとでも言えば良いのか……

 ある意味で頼もしくも、本当に面倒臭い方ですね貴方は。


「もしですが、気付け薬みたいな物はありませんか?」

「気付け薬? ああ、確か荷袋の中に庭の畑で取れた突然変異の唐辛子があったはずだな」

「と~つ~ぜ~んへんいのと~がらしぃ?」

「ああ、ジャイアント・スパイダーも逃げ出すなんか頭蓋骨みたいな形のちっちゃい唐辛子が出来てな」

「一応言っておきますが、世間一般じゃ唐辛子そのものを気付け薬とは言いませんよ」

「凄い勢いで目が覚めると思うけどなぁ」

「あと洞穴の悪食王とか言われてるジャイアント・スパイダーが逃げ出すような劇毒物、目覚めるどころか事件に変わりますよ! 何でそんな物騒な物を持ち歩いてるんですか?」

「まぁ何かに使えるかなぁって思ってな」

「何かって……」


 キリキリキリキリキリキリキリキリ……


 あ、胃痛って本当にキリキリって擬音混じりで感じるんですね。

 そんな、俯瞰で自分を見るような感想。

 取り敢えず分かった事はこの人に任せておいたら穏便に済むことも事案に変わりかねないということ。

 まぁ、コミュニケーション能力に重大な懸案を抱えているのは端からわかっていたことです。


「私が対応しますから、くれぐれも邪魔しないで下さい」

「善処しまーす」


 お役所仕事そのものみたいな反応。

 ま、反応してくれただけ良しとしましょう。

 それはそうと、どうやってこの人を起こしましょうか。

 気付け薬は無し。

 精霊術も無理となれば、後は何が出来るだろうか。

 あ、そう言えばアルトリアを出る時にもしもの為にショタコン(リーヴァ)様に持たされたアルコールベースの傷薬がありましたね。


「隊……アル君、さっきの唐辛子を頂けますか?」

「お、直接喰わすのか?」

「食べさせません、水薬に混ぜるんです!」

「ああ、飲ますのか」

「飲食から離れて下さい!」


 まったく……

 この人は――――――

 

 独りごちりながら、貰った唐辛子を砕きながら水薬に混ぜる。


「あ、これ……あぁぁあぁぁぁぁぁやう゛ぁ、あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ、もう目が辛いです。って言うか、吸う息がからぇですょあう゛ぁう゛ぁびゃびゃぁぁぁぁぁぁ……」

「うぉッ! おいコラッ!! 風上に立つなバカッ!!」


 小犬が悪臭を嫌がるみたいな反応をされた。

 気持ちは痛いほど分かります。

 ええ、実をほぐしただけなのにこの破壊力……

 って、この劇毒物の作成者というか発見者は貴方ですよね!

 この地獄から逃れる為にも、急いで薬瓶に唐辛子を入れ蓋をする。

 あ、痛い。唐辛子に触れた指まで何んか痛いんですけど!?

 ……え、貴方こんな物を直に食べさせようとしたんですか?


「その目が何を訴え掛けているかはボクでもわかるぞ」

「そんな機微があるなら、もう少し他人の痛みに寄り添うことを努力していただきたいです」

「はいよー」

「返事が軽いなぁ」


 この人を説得出来るのは、件の【兄さん】という存在だけなんだろうなぁ。

 ……この少年が恐れる存在、ですか。

 謀略と破壊の権化みたいなこの少年を怯えさせる兄。

 え? それって本当にヒト種の枠組みに収まるような生き物なんですか?

 竜種とか魔王クラスとかの間違いじゃないんですかね?


「なんだ、何か言いたそうだな」

「いえなにも」

「だったらさっさとその寝た――気絶してるヤツを起こせ」

「はい、少し待ってて下さい」


 余計なことを考えるのはやめておこう。

 まずは起こすのが先だ。

 一度蓋をした薬瓶を風下に向け片手で蓋を開ける。

 風下にありながら、アルコールで気化した辛み(きつけ)が鼻を突く。


「……あ、痛ッ! 辛ッ、痛てぇっ!」


 まさに同意としか言いようのない感想を叫ぶと、予想以上の早さで女性が飛び起きる。

 いや、分かりますよ。

 生命の危機を感じる刺激臭に出会うなんて、生きていてそうそうあることじゃ無いですからね。


「胃、胃が、あう゛ぁう゛ぁう゛ぁう゛ぁおぇ」

「あの……」

 

 嘔吐く女性に、そっと声がけし水袋を足元に置く。


「落ち着いたら……えっと、そんな奇跡が起きたら飲んで下さい」

「ゲフゲハッ、げほげは、あ、ありがとう、ございます」


 刺激臭に咳き込みながらも反応は悪くない。

 ほっと、胸を撫で下ろし振り返るとそこにはもう飽きたとばかりに生あくびをする少年がいた。

 え?

 さっきまでの苛立ったというかおかしな言動はもしかして眠くて不機嫌だった、とか?

 や、まさか……流石に嘘ですよね?


「助けていただき、ありがとうございます」

「お気になさらず。私はアルトリアの……商家の者で、商業を学ぶのにルゼルヴァリアへ向かう道中でした。あまり大きな商家ではないので、今は行商をしながら旅をしている最中です」

「あちらの横へぃ……あ、失礼」


 いま、横柄って言いかけましたよね。

 ……ええ、わかりますよ。

 滲み出る横柄感というか、傍若無人なオーラとでも言えば良いのか分かりませんが、何かやさぐれた雰囲気が滲み出てますよね。

 一応フォローするなら、普段はここまでじゃないんですよ。

 ええ、本当に。

 本当は優しくて頼りがいのある上司というか、ちゃんと話しをすればどれほど救いのある言葉をくれるというか。

 ただ、ほんの少し、というか、ほんの僅か――と言うべきか……

 コミュニケーション能力が絶望的なレベルで低すぎて、誤解をされがちなだけと言うか……

 って、私は心の中で誰に言い訳してるんでしょうか?


「彼は、えっと……私の従兄弟です。歳は若いですが、剣技に長けているので護衛も兼ねて共に旅をしています」

「そうですか。年の離れた恋人同士の逃避行じゃなかったんですね」

「こ、ここ、恋、な、何を言ってるんですか、私は男ですよ」

「あ、男性……だったんですね。失礼ながら見た目と、エルフとヒト族のようですから従兄弟というよりも恋愛逃避行の方が――」

「今し方起きたばかりだと言うのに、貴女はさっきから何を言ってるんですか!」

「話しはまだ終わんないの?」

「あ、すいません。変な方向に話しが拗れ……」


 苦笑い交じりに振り返ると、そこには背筋が冷たくなるほどに冷淡な瞳をした少年がいた。


「あ、すいません。手間取って……」

「辛口の採点と甘口の採点、どっちが希望だ?」

「え? 何ですか突然に」


 突拍子も無い発言に、頭が混乱する。


「あの、あちらの従兄弟さんはいったい何の話しをしているんですか?」


 当たり前の反応が隣の女性から返ってくる。

 当然と言えば当然の反応だ。

 だが、私は知っている。

 この少年は詐欺師すら手玉に取るよな確かな性格の悪さを持ち合わせているが、無益な言動で他者を貶めるような人間では無い。

 性格は、まぁ……言わずもがな、と言うかお手柔らかにお願いしますと懇願したくなるぐらいに苛烈な時はありますが。

 ありますがと言うか、そんな時ばかりですが。


「えっと、よく分かりませんが……私の成長に繋がるなら辛口で」

「ドMか?」

「おい」

「冗談だ」

「貴方の冗談は分かり難いんです!」

「あのー……」

「名前も知らん貴様は取り敢えず黙ってろ」

「え゛?」


 まあ、初対面で雑な扱いを受けたらそんな反応にもなりますよね。


「あの、初対面の方にいくら何でも失礼が」

「はぁ……十点だ」

「え?」


 刹那、アルフォンス様の姿がブレて消えた。

 と、次の瞬間、私の真横、いや正確には女性の眼前に現れた。

 それはあまりにも一瞬の出来事。

 まるで物理法則を捻じ曲げる魔法を目にしたかのような動きのまま女性の口に指を人差し指と中指がねじ込まれていた。


「あ、あ……あふぁ……」

「魔猿を従える度胸はあっても自分が壊される覚悟は無かったのか? それとも、こんなガキがためらいも無く自分をガラスコップみたいに壊そうとするなんて思わなかったか?」


 それは先ほどまでの剣呑な雰囲気とはまるで違う、どこまでも優しい……

 場違いなほどに真逆すぎる声音。

 だが、優しい声音のままに――

 ゆっくりゆっくりと、工具のクランプがハンドルを一巻き毎にネジ山を一つ一つと開いていくような緩慢な動作で、女性の口にねじり混まれた左手の人差し指と中指が開く。そして、そのまま魚を釣り上げるみたいに持ち上げた。


「ぁ……が……ぁ……ッ」


 女性のそれは最早声でも音でもなく、胃の中から迫り上がるような嗚咽に変わり果てていた。


「どうした? 力任せに噛み付けばボクの指くらい食い千り逃げ出す、まぁそんなワンチャンくらいはあると思うぞ」


 声音はどこまでも透明。

 いや、透明……なんかではない。

 目の前の人間に、いや見守る(わたし)の心胆さえも震え上がらせるほどの圧倒的な無感情。 

 もし手元のグラスを不意に落とし壊したなら……

 誰もが一瞬の出来事に心は揺れ驚くだろう。

 それが当たり前(・・・・)

 それなのに、そんな当たり前(・・・・)さえも声音からは何一つ感じられない。

 人一人を破壊しようとしているのにゴッソリと感情が欠落しているような、そんな声音だった。

2ヶ月って、以外とブランクあるなぁとか思って書きました。


急展開感のあるまま引きになってしまったので、近々更新出来るようにお酒は控えたいと思います。

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