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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第三章 アルトリアの未来
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衛士ファフナ、大惨事の目撃者になる

最近、前枠と後枠の使い方が違うと指摘を受けました。

たぶん大いなる気のせいだと思うデス。

 森の中に溢れかえるけたたましいざわめき。

 まるで森全体が怒りに震えているようだ。


「まったく、どんな真似をすればこれだけ怒りを買えるんだか」


 その言葉は、今思えば明らかに違和感の覚える言葉だった。

 だが――


 程なくして辺りに充満した血臭に思考は霧散した。

 初夏間近、夜露に濡れた森に溢れる獣臭に濡れた悪臭。

 呼吸をするだけで内臓を殴打されたみたいに吐き気が込み上げる。


「ファフナ!」

「は、はい!」

「風霊は使えるか?」

「残念ながら」

「そうか」

「ただ契約は出来ていませんが、この空の見える開けた森の中なら対価さえ払えば多少なりとも使役は出来ます。ただこの悪臭ですから、気紛れな風霊がどこまで力を貸してくれるかはわかりません」


 風霊の力は絶大だが、彼らは契約者に対しても気紛れが過ぎる。

 精霊力のバランスが崩れた場所はもちろん、澱んだ空気に支配された空間などは特に嫌い、まともな使役はほぼ不可能となる。


「対価を払っての精霊術はリスクが高い。気紛れな風霊が相手なら尚更だ」

「いったい、風霊に何を頼む気ですか?」

風防(スクリーン)だ」

風防(スクリーン)?」

「離れててこの悪臭だ。近付いて戦闘なんて考えたくも無い」

「あぁ確かに。それもそうですよね」

「取り敢えず風霊はボクが使役する」

「風霊召喚まで……あ、いえ何でもありません」


 この人の底知れ無さは今に始まったことじゃ無い。

 この状況下で一々驚いていたら身が持たない。


「ただこの悪臭だ、召喚は出来ても戦いながらの維持は難しい。お前に任せて良いか?」

「わかりました。他に出来ることはありませんか」

「未契約の精霊を扱うんだそれだけで十分だ。それとも、ボクの代わりに魔猿共とガチで戦いたいなら、ボクが後方支援をするがどうする?」

「が、頑張ります」

「冗談だ」


 彼らしい、何時ものどこか意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 ……何だろうな。

 あんなにも不安にさせられたのに、あんなにも澱んだ気持ちに沈めかけられたのに……ずるいですよ。

 ほんの一言、小さな仕草一つで、圧倒的な安心感を与えるなんて。

 でもこれこそが陛下やバドハー様を心酔させた、英雄の器だけが見せる、いや魅せる事が出来る力なんですよね。


「全力で支援します」

「ああ、絞り出せ。しんどいからな」

「はい? しんどい?」

風霊王よ(ルシャルーラ)この荒野で我に傅け(ヴァラスルオラン)

「ッ!」

 

 まさか、古代精霊語エンシェント・アールヴ!?

 私達アールヴの間ですら、すでに失われて久しい言語だというのに。

 つくづく天才。

 いや、その前に貴方……一体何にいまお願いしました?

 (ルシャ)(ルーラ)って言いませんで……


「今一体何に、願いう゛ぁあぁぁっ!!」


 突然吹き荒れた暴風に思わず声が裏返る。


「それの制御は任せるぞ」

「そ、れ……って」


 偉大なる(ルーラ)をそれ呼ばわりとは、いつか罰が当たりますよ。

 って、それどころじゃ……


「がはぁ……全身から力が……」

「んじゃ、行ってくるかなぁ」


 全身から力が抜けていく私を尻目に気軽な口調でストレッチをする性悪ショタ。


「この……普通の風霊で良かったんじゃ、ないんですかねぇ!?」

「ん? 下位精霊、特に下位の風霊は未契約者に対しては気紛れな野生動物と大差ないからな。使役中でも面倒臭くなって放棄する可能性もあるぞ」

「そ、それでももっとお手柔らかな感じの風霊とかはチョイス出来なかったんですか?」

「情けない声出すな。元はと言えば魔猿の縄張りで戦えという無茶の言い出しっぺはお前だ。それに、お前が風霊との契約を済ませていれば面倒臭い手間もかけずに済んだんだ」


 ぐぅの音も出ない死体蹴りとはこのことか。

 だが、そこまで言われればこっちにだって維持がある。


「貴方が戻るまで、制御してみせます!」

「ん、頑張んな。風霊王(ルシャルーラ)に力を示せば、風霊(ルシャ)の加護を得られるはずだ」

「んがー!! ち、力が……何か言いましたか?」

「や、気にすんな。んじゃ、行ってくる」


 シュタッと右手を挙げると、まるで近所に散歩でも行くような気軽さで森の中へと消えていった。

 そしてすぐに聞こえて来た鈍い音。

 いや鈍い音というか、もはや破城槌で城門をぶち破ろうとしているんじゃ無いかというくらいに暴力的な音が聞こえてくる。

 これ、人体が出している音なんですよね?

 こんな真似出来る癖に、よく自分は弱いとか言えますね。

 一体何と比べればそんな発言が出るのやら。ご近所にドラゴンでも住んでたんですか――


「いっ!?」


 地面がグラグラと揺れた。

 魔術を使った気配は無い。ならばこれは純粋な暴力か。

 どっちの力だ?

 いや、どっちも何もない。いくらあの人がチビ……いえ、小柄なゴリラといえど、馬鹿力だけで地面を揺らせるはずが無い。

 こうなれば、無謀だけど私も手を貸しに行くべきか。

 ……悩む理由は無い。

 私の無謀な感情でこの戦いを起こさせたのだ。今すぐ加勢に――


 と、その時だった。


 けたたましい獣の叫びと共に、夜の森を引き裂いて巨大な獣が姿を現した。

 まさか、このサイズ、


「はぐれ……」


 魔猿の中でも極上に危険な存在。

 まさか森の異変の根幹は侵入者などでは無く、はぐれによる縄張り争い……群れ全体が動いているのか!?

 マズい、このままだと向こうは群れそのものと激突していることになる。

 早く加勢に、


「ゴアアァアァァァァッ!!」


 咆哮とともに血走った目がギョロリと動く。

 って、加勢よりもまずはこの状況を変えるのが先だ。


「風霊よ――」


 風霊を使役するよりも早くはぐれが動いた。

 それは火砲から放たれた砲弾のごとき早さ。

 死の一文字が思考をよぎる。

 ぐにゃりと魔猿の顔が醜悪に歪んだ。

 それはまるで、弱者を嘲るような醜悪な笑み、


 では無かった。


 私に近付いた瞬間、まるで壁にでも激突したかのように顔が歪んだのだ。

 そして、弾かれるみたいに吹き飛ばされ地面を転がる。


「いったい何が……あ、風霊王(ルシャルーラ)の防壁」


 悪臭対策にしては大仰な精霊術を使ったと思いましたが、まさか私への加護も与えてくれていたとは。

 加護を、与えてくれた……

 すぅーっと、思わず深い深呼吸を一つ。


「わッッッかり難いですッ!! 優しいのか辛辣なのか、根性悪なのか貴方は一体どっちなんですか!!」


 フーッ、ふーっ……

 

「お、なんだ? 一仕事終えて戻って来てボクに罵倒でお出迎えか?」

「うわぁあぁっ!? 何時の間に、じゃなくて、お疲れ様です」

「んなかしこまらなくて良いよ」

「えっと、じゃあお疲れっした?」

「お前、知識以外はほんと色々と疑いたくなるレベルで壊滅的だな」

「ほほ、ほっといてください! そんなことよりも、もう魔猿討伐は終わったんですか?」

「ん、いずれ終わる」

「いず――」


 私が言葉を紡ぎきるよりも先だった。

 強烈な雄叫びが辺りを殴打したのは。


「しまった、貴方が無事に戻った安堵で失念していましたが、ここにははぐれが」

「うるさい猿だなぁ」

「そんな悠長に言ってる場合じゃ無いです、はぐれがそこにいるんです」


 はぐれがけたたましい咆哮を上げる。

 それに呼応するみたいに森の中から魔猿の奇声が森全体を包み込んだ。


「え? 魔猿の退治は終わったんじゃ」

「こんな短時間で終わるわけないだろ」


 しれっと言ってのけやがりました!


「どどど、どうするんですか、このまま風霊王(ルシャルーラ)の加護の中でやり過ごす気ですか?」

「んな何時諦めるかもわからんような消極的な戦いするかよ」

「あ、ならこの加護の中で魔術攻撃ですか」

「エグいこと考えるヤツだな」

「だって、そうでもしないと戦いようがないじゃないですか」

「大丈夫だ。もう少ししたら終わる」

「もう少ししたら終わる?」


 荒れ狂う魔猿の雄叫び。

 目の前にいるはぐれの咆哮。

 目と鼻の先の絶望を気にしたふうも無く、地面に放り捨てたままのずだ袋を投げ渡してくる。


「うわっ、だから物を投げて渡さないでください。貴方と違って私は反射神経良くないんです」

「苦情は後にしろ。ささっとここを離れるぞ」

「自分の荷物くらいは自分で、って背中に何担いでるんですか?」

「聞いてこないと思ったが、今更気が付いたのか」

「そんな余裕無かっただけです、今も無いですけど。で、ヒト種ですか?」

「これはお前が気にかけていた魔猿と一緒(・・)にいたヤツだ」

「あ、忘れずに助けてくれたんですね」

「……割り切って見捨てたら一服盛られそうな目で睨まれたからな」

「私を何だと思ってるんですか」

「取り敢えず話は後だ。さっさとここから離れるぞ。それともお前は発情した魔猿の雄同士の絡みがみたいのか?」

「………………は?」


 それはこの場には似合わない耳を疑うような、いや平時でも脳が拒絶するようなとんでもないことをぶち込んできた気がしやがりますが、気のせいですよね?


 そして、間もなく……

 何が、とは言いませんがナニかが発情した雄の魔猿達がはぐれに襲いかかっていた。

 いや、よく見たら襲われてるのははぐれだけじゃない。

 森から飛び出てきた魔猿が嫌がる他の魔猿に襲いかかっている。

 

「あ、貴方は一体何をしたんですか!?」

「すまん、間違えた」


 後頭部をポリポリと掻きながらそっぽを向く。

 あ、はい。

 今わかりました。これ、本気で予想外の事態になって後悔している感じです。


「取り敢えず小汚い化け物どものおぞましい行為を見たくなかったら、さっさとここを離れるぞ!」


 そして、背後から聞こえてくるはぐれの咆、いや、悲鳴。


「早くしろ!」

「実行犯がエラそうに言わないで下さい!!」

「すまん、今は反省しているから許せ」


 実に横柄な謝罪。

 が、今はそんな些末なことに構ってる暇は無い。

 背後から聞こえてくる、おぞましい悲鳴とも嬌声ともつかない声を背に、私達は全力でその場をあとにした。

お読みいただきありがとうございます。


もう少し執筆速度を上げられたらと思うのですが、16Bitの脳処理が追いつかないのが現状です。

だれか私の脳処理技術をセガサターン並みにアップデートしてくれませんか?

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