衛士ファフナ、夜の森に触れる
そう言えば今日いよいよ13話放送ですね。←勝手に番宣
リアルに夏アニメから秋アニメ冬アニメと転生した作品は他に無い気がします。
でも待たされるだけならSEGA厨には幸せな事だと思います。
失うよりは……
消えるよりは……
黒歴史ハードのような扱いを受けるよりは、幸せなのです。
言い回しが新興〇教的になってきたので、ここまでにします(読者様にひかれたら嫌ですからね)。
そんな訳で今日の私はリアタイで鑑賞すべく、ネッチョリと布団の中で起きて見るつもりです。
パンッ!
……パチ。
パキ……
夜の帳に包まれた森の中、焚き火から木の爆ぜる音が小さく鳴いた。
遙か遠くで狼の鳴き声も聞こえる。
二日あれば着いたであろう汽車の旅も、今や徒歩の旅となり野宿を迎える時間帯になっていた。
「くー……かー……ふしゅるるる……ふご、がるるるる……」
健やか、というには少し珍妙な寝息を立て大の字になって寝る少年が一人。
強靱な力を持つ森の王者魔熊ですら、夜は腹を隠し丸くなって寝る。
それほどに夜の森とは、いや、夜の自然とは危険なのだ。
そこに強がりや無知が立ち入る隙など無い。
そう、どんなに愚かで無謀なヤカラでも、深夜の森の中では己を知る。
それなのに、です。
圧倒的で暴力的とも言える知性でラーダベルト家をアルトリアの王に導いたこの少年が、まるで何も知らない無垢な子供のような寝方をしていた。
ただ図太いのか、無神経なのか……それとも、圧倒的な強者の自信か。
たぶん、最後の自信ってのは違う気がするんですよ。
「ふご……ふにゃふしゅしゅ……」
珍妙な寝息を立ててはだらしなくヘソを出したお腹をポリポリと掻いて眠る少年。
「無邪気すぎません、貴方?」
タオルケットをお腹に掛けてあげながら思わず苦笑いする。
自信ではないはずなんですよね。
だけど――
この明らかに子供でも分かるような危険な森の中で無防備に眠る姿は不自然なほどのアンバランス。
その姿から感じるのは圧倒的な強者か史上類を見ない愚か者、といったところか。
……本来なら自他共に認められほどの活躍なのに、そこには何故か自が入らない。
何なのだろうか、この少年の自己評価の低さは。
いや、自己評価が低いという言葉が正しいのかさえも分からない。
暴れる獣人をねじ伏せ膂力、戦場で活躍する知力。
武力知略、そのどれもを高次で兼ね備えながら臆面も無く自分の弱さを表に出す。
この少年は確固たる信念を持っているのは確かだ。
それなのに、どこか危ういほどの脆さが垣間見える。
ありえるのか?
こんな年端もいかない少年が自分の強さに溺れないなんてことが。
己の能力に溺れ才に酔いしれる。
酔いしれる、は年を考えると違うか?
ですが、自分は神や聖霊の寵愛を受けた特別な存在だと勘違いをし、自惚れたとてなんらおかしくはない。
それほどの強さをこの少年は持っている。
自分の強さの異常性を理解していないのか、それともよっぽどしっかりとした親に躾けられたのか……
でも親、のことはは知らないんでしたっけ?
『あはは、ありがたいことにボクも知らん』
……あれは、どう言う意味だろうか?
彼の口から『母親』のことと『兄』のことはちょいちょい聞きますが……
父親のことを知らない、って言うことなのか?
………………いや、よしましょう。
これ以上は下世話な詮索になりかねない。
この少年が言わないのなら、それは触れられたくないからなのだろう。
無理に聞き出す必要はない。
私は寝息を立てる少年を見やる。
年頃を考えても決して大きいとは言い難い体躯。
この身体の何処にあれほどのパワーと知力を秘めているのやら。
……どう見てもやっぱり小さいですね。
学院に通ってたら、万年先頭でしょうか?
確かに失礼だとは思いますが、そりゃ小さいって言葉に敏感になるのは分かりますね。
「ふしゅるるる……ッ!」
ビクッ!
突然隣から聞こえて来た獣のような寝息にビクリと身体が震える。
もしかして、本能というか勘だけで私が何を想像したか気が付き威嚇して……あはは、流石にそんなはずは……ないですよね?
………………ちっさい、マスターミニマム、チビゴリラ、ミニバド――
「ガルルルルルルルルルッ!!!」
わーっ!!
聞こえてます!
絶対に私の心の声が聞こえてます、この人!!
こっわッ!
本能で私が何を考えているのか勘付くとか怖すぎです!!
唸り声を上げる珍獣……じゃなくて、猛獣から少し距離を取る。
直感なのか本能なのかは分かりませんが、あの言葉にやたら敏感すぎませんか貴方?
よせ……これ以上考えるのはやめるんだ私。いや、記憶喪失レベルで忘れるんだ私ッ!!
余計な事を考えると私の寿命が縮まるというか、この世から解脱するはめになるのが目に見えていますし!
焚き火の端に座りながら、大の字になって眠る少年を見やる。
先ほどの唸り声も何処へやら、健やかな寝息が聞こえてくる。
「……はぁ~……まったくもって、なんだかなぁって感じです」
胸を少し撫で下ろしながら、夜空に浮かぶ青い星を見やる。
私が酔狂なのか、この少年がどこまでも不可思議なのか。
どちらが正しいのかは分かりませんが、これだけは確実に言えます。
未知過ぎるんですよ貴方は。
他者を圧倒するほどの知識や言動、それなのに年端のいかない子供のような表情まで見せる。
まるで気紛れな野良猫のような、そのくせ良く躾けられた小犬のような。
それは何もかもがチグハグ。
それなのにそのチグハグな未知は、抑圧されて生きてきた私にはどこまでも眩しい。
この感情は何なんでしょうかね?
そんな少年の焚き火の炎に彩られた横顔を見ていたら、パチッとかすかに小さな音を立て薪が弾けた。
「ん……」
小さな唸り声。
え、さっきの反応も異常でしたが、今の反応も流石に嘘でしょ?
ヒト種なら耳を澄まさなければ聞こえないような小さな破裂音に寝ているのに反応したというのか?
こんな音の絶えない森の中で……音の絶えない森?
思わず辺りを見渡す。
薪の爆ぜる音は確かに小さかった。
彼がそれに反応したように見えたのはただの偶然だろう。
だけど……
ああ、何て間抜けだ。
余計な事ばかり考えて失念していた。
この森は静かすぎる。それも有り得ないほどに。
先ほど聞こえた狼の遠吠えも、アールヴだから聞こえたようなもの。
それほどまでに距離が離れていた。
そして、今思えばその泣き声にはどこか怯えがあった。
いくら私が宮殿暮らしだった世間知らずとは言え、この森が異常なのは……異常なのは、今更ですが気が付きました。
遅いですか? 遅いですよね、ええ、それは重々承知です。
列車の中で散々煮え湯を飲まされたと言うのになんて間抜けな失念。
火の番がただ火を見つめていればいい訳じゃ無いことくらい分かっていたつもりなのに、この異常さに気が付かないとは。
……あの消音能力の男は確実に倒している。
だが、もし彼の言う能力の移植がすでに量産出来るよな事態になっていたら……
知らずたぐり寄せていた外套を腕にこすりつける。
落ち着け、落ち着くんだ
彼に頼りすぎるのは情けないが、それでも今は一人じゃ無い。
冷静になれ。
現状を思い込みで決めつける前に状況を冷静に分析するんだ。
さきほど、かすかとはいえ薪から爆ぜた音が聞こえた。
あの完全に無音と化す能力とは明らかに違う。
だが、あの連中が力を使いこなせず自爆したように、この状況を生んだ者が能力を使いこなせていない可能性も否定出来ない。
とは言え、列車強盗という特殊な犯罪を成功させる為に何者かが暗躍しているならいざ知らず、私達を追い囲むために能力者を使う理由はない。
何せ真実はどうあれ、私達は表向き身分も低いただの旅人だ。
ならば、現状は能力者の存在を否定せずに可能性の一つと過程するんだ。
なら現状一番起きうる可能性、それはおそらく森の獣だ。
しかもとびきり厄介な獣性を備えた獣。
彼の言葉を借りるなら、ヒトが生きる為に生み出した悪意の副産物、
魔獣――
とは言え、森から気配だけで他の生物を排斥して縄張り化出来るような怪物は限られている。
少なくともここはアルトリアからだいぶ離れている。
氷結熊の生息地や縄張りである可能性は極めて低い。
ならば……
ゾクリとした。
氷結熊に匹敵、いや集団になれば氷結熊を超える暴力性と、圧倒的な狡猾さを持つ魔獣……
危険性という一点において、ヤツらを超える怪物は存在しないとさえ言われる魔獣。
暴力と邪悪な知性の権化、
魔猿――
随分前に悪名高き帝国の魔導王が実験目的か何かで魔猿を虐殺し、相当な数が姿を消したと噂された事があった。
あの時はヒト種の悪党でも役に立つものだと宮殿では喜ぶ者達が大勢いたものだ。
私もその言葉には納得したのを覚えている。
だが、魔猿らは我々が思う以上に狡猾なのだ。
いかに魔導王が悪名高く恐ろしい存在であろうとも、一つの種を根絶やしにすることなど容易いはずが無い。
どこかの森で繁殖し数を増やしていてもおかしくはないのだ。
ならばこの森の静けさ……
それは、草原と森の主と呼ばれる魔猿の縄張り。
そう考えるのが打倒だろう。
どうする?
魔猿の一匹位なら対応は出来るだろうけど、正直ヤツらの縄張りで戦うなんて正常な思考回路があるなら選択肢になんか入りはしない。
仮に一匹、ハグレだとすれば……考えたくも無いな。
私の命に代えても、この疲れ切って寝ている少年だけは逃がさな、
その時だった
ギャギャギャギャギャギャ!!!!
静寂を引き裂き、森と夜の闇をたたき壊すほどの獣の鳴き声が殴打したのは。
「……ー……かー……ふしゅるるる……」
そんな極上の異常事態でも健やかな寝息を立てる少年がいることを、その時の私は知る由も無かった。
お休みなさい!
良い夢を!!






