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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第三章 アルトリアの未来
190/266

衛士ファフナ、閑話的なようなそうでも無いような話

更新が遅れたのは、決してサボっていたからではありません。

雪山がただ魅力的だっただけです。

仕事が忙しいとか、言い訳はしません。

ただ、雪山が美しかったからです。

悪いのはスノーボーダーである作者を誘惑する雪山です。

「オリンピックモデルの新作板サイコー」とか叫んでいた私が悪いとか絶対にありません。

「すなわち、昨夜の襲撃犯は他人の能力を移植された、と」

「ああ、その解釈で間違い無い」

「だから借り物の力、ですか。でも、その能力をコピーして他人に譲渡する技術……それは強力な能力者をいくらでも量産出来るってことですよね? ぞっとしない話です」


 数刻前のあの惨劇など無かったかのような長閑な草原を歩きながら、長閑とはほど遠いハードな現実を問答無用で放り込まれていた。

 英雄王の正体を明かされた事実でだいぶ耐性が出来ている(マヒしている)つもりでしたが、次に放り込んできたネタもハッキリ言って胃痛がするレベルの話だった。

 能力を複製して他人に与える……

 簡単に言ってくれましたが、それって凶悪な敵兵団をいくらでも量産出来るってことじゃないですか?


「難しい顔しているな」

「こんな顔にさせたのは誰ですかね?」

「さあ? 子は親に似るって言うから、親じゃ無いのか?」

「犯人は貴方です!」

「ボクはお前を産んだ覚えも作った覚えも無いぞ。そもそもお前アールヴだしボクよりもずっと年上だろ」

「血縁の話をしてるんじゃないです、そう言うこと言ってるんじゃ無いです!」

「冗談だ」

「貴方の冗談は分かり難いです……」

「そうか……わかった、ジョークの勉強しとくよ」

「やめてください! 貴方が本気を出したら本当に手が付けられなくなりそうですから」


 この人は放置したら間違い無く別ベクトルの努力をしかねない!

 今でさえ難易度の高い問答をさせられているのに、ここにギャグのセンスまで磨かれたら私の胃が持ちません!


「わかったわかった、冗談はここまでにしておく。取り敢えず、お前が何を気に病んでるのかはわかる。だからあえて言うがその心配は杞憂だと思う」

「何故ですか? 事実夜中の襲撃はかなり危険でした」

「だが、自爆した」

「それはそうですが」

「能力の移植は確かに侮れない。だが、この技術が廃れた理由の一つがそれだよ。この技術はあまりにも安易に強力な能力を与えることが出来る。赤子にカミソリや子供にナイフを持たせればどんな惨事になるかわからないのと同じだ」

「赤子にカミソリ……恐ろしい想像をさせないでください、背筋が冷たくなります」

「表現が悪かったなら謝るよ。でもな、実際そんなもんさ。いや、事実はそれ以下だな」

「それ以下……」

「突然降って湧いた能力。母さん風に言わせれば『チーター』ってヤツなんだろうが、しょせんは努力もせずに与えられた能力さ。図体だけはデカいガキが借り物の力だとも理解しないままに不相応な力を使う。そうなりゃ自爆するのはわかりきった話だ」

「まさに、昨夜の連中がそれだったってことですね」

「この技術が廃れたのは継承の難しさもあったが、一番理由はまさに昨夜の連中みたいのなのが原因だ。どんなに気を付けても圧倒的な力ってのは人の心を容易く澱ませる。澱んだ心は不和を呼び仲間の結束を容易く破壊する」

「確かに幼い頃は無垢でも、成長して人より優れた何かを手に入れれば他者を見下す者は出て来ますね。自助努力で手に入れた力ですらそうなる者がいるんです、ましてや与えられた力ならなおさら」

「そう言うことだ。だからまぁ侮るのは危険だが、必要以上に恐れる必要は無い」

「正しく恐れれば良いってことですね」

「そう言うことだ」

「それにしても、そんな古に廃れた技術……一体何者がこの世界に復活させたんでしょうか?」

「……」


 それは嫌な沈黙だった。

 心当たりがある。だけど、それを言うのを躊躇うほどの相手。

 ……え?

 この気遣いとは無縁というか、しれっと爆弾放り込んで我関せずを決め込むドSが服を着て歩いているような少年が躊躇うような相手?


「おい貴様、何を考えている?」

「何でも無いですドSさん」

「誰がドSさんだ」

「あ、間違えました」

「ナチュラルに間違えただろ。それはそれでムカつくが」

「気のせいですよ、アハハ……」


 イケないイケない、つい本音が出てしまいました。


「まあいい。それで、聞きたいことはこんなもんか?」

「いえ、まだまだあります」

「いい加減、面倒くさくなってきた……」

「答えてくれると言ったのは貴方です」

「今更ながら後悔しているよ」

「流石にずっと喋り通しですからね、今日のところは次の質問で終わりにしておきます」

「今日のところは、ね」

「聞きたがりの学者肌に興味深い話を振ったのが失敗だったと後悔してください」

「ボクの許容値としては、すでに一ヶ月分くらいは話している気がするよ」

「普段、どれだけ話をしてないんですか」

「はらへった飯、それぐらいあれば事足りるだろ」

「倦怠期離婚目前の夫婦じゃないんですから。せめて言語を忘れない程度には会話してくださいよ」

「その程度はしているつもりだが……まぁいいさ。それで、今日聞きたい最後のことってなんだ」

「……」

「無いのか?」

「あ、いえ。何を聞こうか自分の中で順番を決めていたところですが、やっぱりこれしか無いかなって」


 そう、これ以上に聞きたいことなんて他には無い。

 それは、ある意味で一番恐ろしい疑問。


「疑問に答えてくれると言ってくれて感謝します。それでは聞かせてください、貴方は一体……何者ですか?」

「何者?」

「貴方のこれまでの話が妄言で無いというのなら、貴方はあまりに知りすぎている。それこそ、この世界のタブーとも言えるような情報を」

「…………」

「イエスかノーで答えて下さい。貴方は、英雄カーズを知る者ですか?」

「イエス」

「貴方は英雄王カーズの血縁者、もしくは……聖戦で消息を絶った英雄王カーズの生まれ変わり……ですか?」


 自分で言ってて、鳥肌が立つような妄想。

 これこそ、妄言だ。

 だけど、彼の強さとその知識は、そう思わせる何かがあった。

 いや、そうであってほしいと願っている。

 そうで無ければ、ここからの予想は激しい絶望しか、いまの私には浮かばないから……


「……ノー」


 ゾクリとした。

 その目はまるで何も見えていないかのような、澱んだ光を宿す。


「まさか貴方が……ダ・ヴィンチ、とか?」

「やれやれ……ヒントは確かに与えたつもりだったが、まさか素直に地雷を踏みに来るとは」

「じら、い?」

「猫には九つ命があると言うが……」


 身体が、凍り付く。

 なんだ、私は今何を前にしている?

 まるで見たことも無い、途方もない違和感。

 ザラついた、あまりにも異質な化け物。


「さて、アールヴの命の数は幾つあるのかな?」

「貴方は一体なに、を……ぶふっ……あははははははっ」


 く、くは……

 ち、違うんです。恐怖で狂った訳じゃ無いんです。

 目の前の男が、いや、少年? が、人類がここまで出来るのかってレベルの変顔をしてやがるんですよ!


「騙されたか?」

「へは……ふぇ……は?」

「だから、ボクのジョークに騙されたかなって?」

「……えっと」

「いや、さっき『貴方の冗談は分かり難い』って言われたから、練習もかねて騙されるかなーって」

「・・・・・・・・・はぁっ!?」

「お、なかなか凄い沈黙だったな」

「沈黙を褒めないでください! 何ですか、その意味も無い練習は!!」

「や、ジョークのセンスが無いみたいな言われ方でちょっと悔しくてなぁ」

「そんなところばかり子供っぽい素直さを発揮しないでください! あと、ジョークの方向性がますます分かりづらいです! このミニバドハー!」

「グハッ! おい、お前……言うに事欠いて誰がミニじじぃだ……ギャグのセンスか! それとも身長か? 身長を揶揄してのミニ呼ばわりか、こんにゃろー!」


 うわっ!

 それまでのどこか達観した雰囲気はどこへやら、犬みたいな唸り声を上げて噛み付いて(比喩)くる。

 私は何か間違えて変な地雷を踏んだのか?

 バドハー様扱い、いや、チビ呼ばわりしたと思われているのか?

 たぶん、きっと、絶対にどっちも地雷だった気がします。

 始めて見せた子供らしい反応はちょっとカワイイとか思いましたが、さっきの演技以上の殺意を感じるんですけど!

 あ、これ私も本気にならないとヤバいやつです!

 って言うか、そもそもこの人相手に本気になってどうにかなるんですかねぇ?

 ああ、ほんの数分前の感情的になった自分を殴って止められるのなら、思いっきり殴りたい!

読者様、お読み頂きありがとうございます。

次回は……近いうちに更新出来たらなーと思っております。

閑話的な回じゃなく、ちゃんと本編的な回を書き……ます、はい。

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