衛士ファフナ、挑む
Twitterのフォロワーさんが『いぶりがっこおかき』うめぇーってつぶやいてて気になって仕方がない今日この頃です。
(おやすみのあいさつ)
「くああぁあぁぁぁぁ……」
寝起きの小犬みたいな大あくびを一つ。
「大丈夫ですか?」
「ん~……寝不足が尾を引いてるな。出来ればヒトもアールヴもどん引くレベルで寝てたい派なんだが」
「財宝の前で高いびきかいて寝ている竜じゃないんですからそんなレベルで寝ないで下さい。あと、寝不足は身体に悪ですが、若いんですから二徹くらいでそこまでヨボヨボに老け込まないでくださいよ」
「う゛~……がるるるる……」
野犬が人間と遭遇して威嚇するみたいな唸り声を上げる。
不平不満を全身で現す姿が初めて見せた子供らしさみたいで可愛いとか思いましたが、口に出して言ったが最後とんでもなく酷い目に遭わされそうなんで秘密ですけどね。
それはそうと、私達はいま草原で休憩を取っていた。
『ああ、聞かれたことには答えるよ。ただ、今は少しだけ寝させてくれ……』
長い会話の後、私が聞こうとした矢先に彼の口からついて出た言葉だ。
そして間を開けずに聞こえて来た寝息。
正直、これだけ重たい話を聞かせておきながら、間を開けずに聞かされる健やかな寝息。 気持ちよさそうな寝姿に怒りを覚えてないかというと嘘にはなるが、連日ハードモードだったのも事実。
それに私自身もクールダウンする必要があったからちょうど良かったのかも知れない。
健やかな寝息を奏でる横で頭をひねる。
正直身体は疲労しているし、許されるなら泥のように眠りたい。
だけどあまりにもショックな事実を聞いたせいか、頭の奥が変な冴え方をしていた。
「景色だけは腹立つくらいに長閑なんですよね」
止まった車両の連結部から見る地平の彼方まで続く線路。
完全に夜は明け、雲一つ無い青空が広がる。
走り去った列車はすでに姿形も無く、物静かな車内がまさか惨劇が起きた現場だなんて誰も思うまい。
……惨劇。
このテロ事件に巻き込まれた彼らには何の罪も無い。
せめて埋葬くらいはしてあげたいところだが、これから来るだろう国境警備隊に私達の情報が少しでも洩れないようにする為にも余計なことは出来ない。
結局、私は意味もわからなく殺され奪われた者達に対して、その最後の尊厳すら守ってあげら
…………いけない。クールダウンと言いながら、この思考パターンは無力な自分を自覚して落ち込む泥沼パターンだ。
他のことを、考えないと。
他のことと言っても、考えるのはさきほどした会話の延長。
結局、話が真実かどうか確かめるにはバドハー様に確認するしか方法はない。ですが、そのバドハー様すらもどこまで知っているのかもわからない。
ようは確かめようが無い荒唐無稽な真実、と言える訳だ。
だけど、彼がそんなすぐにばれる嘘を言うなんてとても思えないし、何より淀みなく話す姿はまるで真実を直接見てきたようにさえ思えた。
もしあれが作り話ならとんでもない創作作家かサイコパスのどっちかです。
ただ、そうなるとやはり疑問なのは彼が何者かということだ。
あるいは両親のどちらかが危うい真実に触れるような研究者だったとか?
それに敵の能力の正体もわからないままだ。
わからないが、今までの彼の言動を考えるに無駄を徹底的に削ぎ落として合理的に行動するタイプ。
意味のない虚勢を張るタイプでも、無為な虚言を使う人間でもない。
恐らくだが、今までの会話もその真実に繋がるはずだ。
ん、会話?
虚言を用いるどころか会話よりも武力で解決する歩くコミュ障みたいなこの少年が会話?
まさかコミュ障が災いして、話しているうちに関係ないことまで暴走して話していたとか……
や、さすがにそれはないか。
「おい」
「は、はい!? 目を覚ましたんですね」
「人の顔をマジマジ覗き込みながら、失礼なことを考えてなかったか?」
「ま、まさか……あはは」
無愛想が服着てるみたいなくせに、やたら勘良いな。
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
「そうか」
ふぅ……危ない危ない。
「一時間位寝たか?」
「あ、ちょっと待ってください確認します。ん、そうですね。今八時ですから一時間弱ってところでしょうか」
懐から取り出した懐中時計を見せる。
「懐中時計とは随分レアな物持ってるな」
「子供の頃に死んだ母の形見です」
「そうか……ん、時間も分かったことだしダルいがもうソロソロ動いておくか」
「もう大丈夫なんですか?」
「全然大丈夫じゃ無いが、予定通りならあと一時間ちょっとで切り離した車両が煙を噴くはずだ。まだ余裕はあるが、距離は稼いでおきたい」
「それもそうですね、急ぎましょう」
そして、現在に至る訳ですが……
列車を離れて約二時間。
発する音はあくびばかりだった。
「だいぶ離れましたが、いったん食事にしませんか。ちょっと見晴らしがよすぎて火は使えませんがね」
「そうだな、乾物ぐらいしか無いが何も喰わんよりは良いだろ。それに、いい加減話を聞きたくて我慢も限界そうだしな」
ニヤリと笑うその顔は、本当に底意地の悪い老齢な策士にさえ見えた。
「あぅ……そういう所、本当に意地悪ですよね。親の顔が見たいです」
「あはは、ありがたいことにボクも知らん」
「へ? ありがた?」
「何でも無いよ気にすんな」
声音は同じ。表情も変わらない。
だけど、それ以上は踏み込ませない。
今までの雰囲気とはどこかがまるで違う。
何に触れても飄々と答えてくれそうだった雰囲気は、どこか鳴りを潜めた。
触れるな、ってことですね。
わかりました。
何故かはわかりませんが、どことなくですが貴方の線引きが理解出来た気がします。
そして、それはきっと土足では踏み込んではいけない領域。
思えばズカズカと明け透けに踏み込むように見せて、貴方は言葉で傷つけるようなことだけはしない。
それが貴方の強さの中に弱さも内包した正義なんでしょうね。
何て言えば良いんでしょうか。
貴方にあってから私の人生では吹いたことのない風……主に暴風というか爆風が吹き荒れています。
今まで生きてきた人生よりも遙かに濃密な一ヶ月。
やつれるほどに過酷な毎日でしたが、それでも処刑されるのを待つだけだった私に第二の人生を与えてくれた。
何よりも、私がずっと求めていた居場所を作ってくれた。
貴方には感謝しています。
ええ、この気持ちは本当です。
ただ、感謝はもちろんしていますが、色々と心臓に悪かったり振り回されたりすることばかりなんですよね。
恨み言を言いたいことも山ほどありますが、貴方に感謝しているんです。
本当ですよ?
ただ……
貴方に感謝をすればするほど、何だかどんどん遠く離されていく気がするんですよ。
わかりますか?
武の家門に生まれながら才無く、幼い頃から散々挫折した日々。
居場所が無いのが当たり前だって、これが普通だって無理矢理慣れた振りしてして呑み込んで生きてきた日々……
そんな呪縛から解放してくれた恩人に少しでも気持ちを返せたら……そう思っていたのに、その恩人が凄すぎて近づくことすら出来ずにまた挫折を覚えそうなこの何とも言えない感情。
でも片腕を目指してる者が、武力も知識も足元にも及ばずなんの力にもならないなんて滑稽じゃ無いですか。
だからこれは、私の意趣返し……ってつもりはありません。
ただ、ここからは私が主導になり貴方が知る知識の引き出しを見せてもらいます。
そして貴方が何者なのかを教えて頂きます。
きっと、その先に貴方の力になれる何かがあるはずだから。
『お前を仲間に加えることが出来たことはボクにとってかけがえのない力になる』
これは貴方がくれた言葉。
だから、私は応えないといけない。
目に見える力で及ばなくても、貴方が抱えるものを共有して支えてみせるためにも。
北海道の北見に住む友人宅の家に遊びに行ったら布団が凍った。
鼻毛も凍った。
外気温-24℃ってなんぞ?
不要不急の外出ダメ、ぜったい。
読者の皆様、おやすみなさいです。






