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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第三章 アルトリアの未来
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衛士ファフナ、一万二千年前の真実に触れる・3

北の大地はえげつぇほどの強風でした。

マイケルのゼロ・グラヴィティが出来るんじゃないかってくらいの爆風に晒されました。

ポゥッ!!


「あ、あのアル……」

「やめるか?」

「う、うあ……ぐ、んぅぐ……つ、続きをお願いします」

「意外と根性あるな、お前」

「意外は余計です。それと別に根性とかじゃないです」

「じゃ、興味本位か? 好奇心に殺されるのをのぞむか?」

「ほんと意地悪な言い方をしますね、雑に言えば知識欲という名の興味本位ですよ!」

「じゃ、もう止めないさ。最後まで喰らい付け」

「わかり、ました」

「人間、アールヴ、獣人……これらの共通点は何かわかるか?」

「えっと……二足歩行が出来て、知恵があり、会話によるコミュニケーション手段が行える。そんなところでしょうか」

「ああ、そうだな。だが、二足歩行という点を除けば、容姿は醜く高等とは言い難い知恵しか無く、おおよそ会話でコミュニケーションが成立しているとは思えないゴブリンやオーク。コイツらとの交配は可能か?」


 ゾクリとした。

 何を、この少年は何を言おうとしているんだ。

 いや、かつて私は、彼と同じ事を考えたことがあった。

 あった、が……それはあまりに荒唐無稽。ヒト族と種が近いと思うのならいざ知らず、魔物と種が近いと思うなど、あまりのおぞましさにその考えに封印をした。

 封印したはずの思考が、まさかこんなところで呼び覚まされるなんて。


「崩壊前の世界は科学……この時代で言うところの魔導学と錬金学を遙か高次元で融合させた技術が世界を支配していた」

「世界を支配するほどの技術」

「ああ。生命学、薬学、そして、現在の言葉では表現することが不可能な工学技術だ。今じゃ到底考えることも出来ないほどに高度な技術、だから可能だったんだ。ダ・ヴィンチによって破滅寸前の世界、地に落ちた倫理観の末の生への執着が生み出した悪魔の発想」

「悪魔の……発想……」

「それは生命が次々と死に絶えゆく世界でも生き延びることが出来る、強力な生命体を誕生させるための外法」


 ギチギチと心臓を鷲掴みにされたみたいに全身に恐怖が這いずり回る。


「最初の実験隊は野生動物や昆虫だった。だが、思い通りの結果がすぐに生まれるはずも無く、次々と粗製濫造(・・・・)されたのはおおよそ見るに堪えないおぞましい姿の成れの果て(・・・・・)ばかりだった。だからそいつらは、当たり前のように焼け爛れた荒野に遺棄された」

「まさか……」

「そうだ。そいつらこそ、この世界で魔獣や魔虫、魔物と呼ばれる連中の祖となった成れの果てだ」

「ん……ッ!!」


 叫びだしそうな感情を、辛うじて呑み込んだ。

 膝もガクガクと震えている。

 私は学者の卵だ。学者の端くれに過ぎなくても、学術を学び歩んだ者だ。

 この先の言葉がどんなに過酷で悪意にも似た真実であったとしても、受け止めきってみせろ!


「それから程なくしてだ。生き延びたい、ただその一心で研究された外法は僅か十数年で一つの完成をみる。そう、魔獣の中に比較的性格が穏やかな種が生まれた。当時の科学者達はその因子を人間に使った」

「まさか、それが獣人族の誕生……」


 我知らずに掻き毟っていた髪の毛。

 爪を立てていたのだろう。

 ズキズキとした痛みが頭皮に走る。


「ああ、だがそれは科学者にとっては途中経過に過ぎなかった」

「途中……経過?」

「人類全滅の危機的状況にありながら、特権階級の連中が真に望んだのは獣的見た目を排しよりヒト型であることだった」

「あ、あぁあぁ……」

「ヤツらが望んだのは、限りなく見た目がヒトでありながらその特性はヒトよりも遙かに優れ、そして獣人族が足元にも及ばない優れた知性を持つ存在」

「ま、まさか……」

「そう、アールヴの始祖は極一部の研究者、そして特権階級の連中が生き残る為に地上に誕生した種族だ」

「あ、ああ、ぐ……ああぁあぁぁぁぁあぁあぁぁぁっ!!」

「獣人族は自分よりも強き者を認めより強き者に従う習性がある。獣が群れを作るときにボスを決めるそれと同じだ。まぁ、ヒト族にもそれに近い感性はあるがな。長いものに巻かれ……は、違うか? だが、この感覚はお前達アールヴ族もわかるはずだ。いや、アールヴ族こそその特性が多種族よりも顕著だと言える」

「……」

「地上に生き残ったありとあらゆる生物の優秀な因子だけを掛け合わせた結果だろう。獣人族やヒト族以上により強い遺伝子に惹かれる。アールヴにとっては性別すら意味をなさ――」

「ああぁあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ダンッ!


 絶叫と同時に思わず力一杯殴りつけた壁。

 非力な私の拳に走る、ズキズキとした痛み。

 今にも発狂しそだった感情が、拳の痛みで辛うじて我に返る。


「……見せろ」

「っ……」


 しばらく私の手を触ると、腰の袋から取り出した軟膏らしき物を塗ってくれた。


「いくら衝撃的だったとは言え慣れないことはするな。骨がイッてる、お前しばらく右手使うの禁止な。後で添え木になる物探してやるから、少し我慢しろ」

「……すいません」

「ま、感情的になることを言ったのはボクなんだけどな。ここまでの話、お前は嘘だとは思わないのか?」

「聞きたいことや疑問はあります。だけど、貴方の言葉に嘘は無い……私の中でその気持ちが消せないのも事実なんです」

「ほう?」

「もう随分前ですけど、貴族だったときに王都の図書室で、禁書指定されている本を読んだことがあるんです。父にはくだらないことに時間を割きすぎだと馬鹿にされましたが、そこで読んだ本に興味深い図書がありました。確かタイトルは「「【世界生物見聞録】」」


 私達の声が重なった。

 

「そうです、それです。貴方も読まれていたのですね」

「王都で調べたいことがあって、禁書庫に入る許可を陛下に貰った。そうか、二千年前に書かれたあの本を読んだか。どうだった? わずか数百冊発行されただけで、大神ガード教を信奉する連中から禁書として発禁喰らった書物の内容は」

「禁書の一つでしたが、貴方のように生命や種の誕生を明言はしていませんでした。ただそれには現在生きる種は一万年程前に忽然と現れ、深き地層から出て来た化石には原生生物とは乖離する化石しか発掘されていない。現存の生物と太古の生物はまるで違う種であり、現在に繋がる痕跡は無い」

「ミッシングリンク、か。生命は大神ガードが作ったと教義する大国生正教には許されざる内容だったってわけだ」

「ですが禁書にされた理由を考えたとき、それは神を冒涜する考えと言うよりも教団の教えにとって不都合だったからでは、そう考えたことがありました」

「なるほど、心のどこかで真実を受け入れる下地は出来ていた訳だ」

「ですが! こんな、こんな……自分たちの先祖が私欲によって人為的に生み出された種族だったとか、そんな事実に辿り着くなんて思ってもいませんでした!」

「事実だけを羅列すればそうだが、当時を鑑みたら別にそれ自体が悪だった訳じゃ無い。生を望むのは種として当たり前のことだ」


 慰める口調とはほど遠い。

 それでもどこか気遣ってくれている、そう感じた。

 ……情けない。

 真実を追い求めると覚悟を決めたのは自分なのに、自分よりも遙かに歳下の少年に気遣われるとは。


「すいませんでした」

「ん?」

「自分の種族の成り立ちを聞かされ、正直に言えば頭はまだ混乱しています。ですが、私もかつて学問に身を投じた身です。一万年前の大昔の出来事にかかずらっていられません」

「ふ……ある意味で学者らしい放言だ」

「何とでも。私は前に進むと、真実を知ると決めたんです。事実は事実として受け止めます。ただ、疑問に思うことも多くあるので教えて頂けますか」

「ボクに答えられることなら」


 ボクに答えられることなら、か。

 普通に受け止めるなら、大体のことは答えてくれそうな返事だ。

 だが、おそらくこれは牽制。

 彼は暗に言ったのだ。

 自分のことは追求するなと。

 だが、それは雰囲気から額面通り受け止めるべきなのか?

 ……私は彼を信頼した。

 彼も、私を信頼してくれたからこんなおぞましい話をしてくれたんだ。

 なら、ここからは私なりのやり方で疑問を咀嚼し彼が正体に近付くんだ。

読者の皆様、お読みくだしゃりありがとうございます。

それではお休みなさい、良い夢を!!

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