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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第二章 アールヴの闇
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アルトリアの王~謀略、葛藤そして墓穴~

「エルダリア陛下、こんな時間にいったいどうされたんじゃ?」

「どうしたもこうしたもありません。ファフナから軍鳩が届いたんです。町中で暴動がありその件でアルフォンスくんが貴方の所に向かったと」

「そうじゃったか」

「あの詰所に軍鳩なんか居たんだな」

「……以前ファフナからの報告では貴方が町外れで野鳩を捕まえて燻製にしていたため、それを見た軍鳩が逃げ出したと聞いています。ファフナが用意した軍鳩は他の詰所から借りたそうです」

「あー……あったかなぁ、そんなこと」

「『あったかなぁ』じゃありません! 山の中じゃ無いんですから、周りの目には十分に気を付けて下さい!」

「まぁまぁ陛下、アルフォンスは都市部に住んでいたわけではないんじゃ。町中での常識は追々身に付けるじゃろうし、あまり目くじらをたてなさるな」

「ですが……」

「ところでアルフォンスよ、鳩の燻製は旨いのか?」

「ああ、少し癖はあるが旨いぞ。じぃさんなら酒のあてに良いんじゃないのか?」

「なんと! それはさぞ珍味そうじゃのぅ、是非儂にも食わせてくれ!」

「バドハー!」

「そう目くじら立てて怒りなさるな。皺が出来ればますます婚期を逃しますぞ」

「余計なお世話です!」

「おい、そこの売れない漫談家共、早く話を戻せ」

「くーっ! くーっ!!」


 この二人の前だと私がオチ担当みたいになるのは何故ですか!?

 ぐぬぬぬぬ……ひ、はぁー、ふー……


「それでは話の続きです。アルフォンスくん、貴方には現時点で最良と思う解決法が見えているように見受けられますが、どうですか?」

「その前に聞かせてくれ。西方の城塞都市との関係を」

「城塞都市のぅ……」

「城塞都市、ですか……」


 私とバドハーが思わず顔をしかめる。

 城塞都市、そこはかつてアルトリアの飛び地であった所領だ。

 だが五十年前に起きた王家の跡目争いの時、内紛のどさくさに紛れて独立を許してしまった。

 隣接地であればすぐにでも奪還することは出来たが、間にあった帝国領により手を出せずに手をこまねいているうちに海洋都市と同盟をされてしまった。


「あの都市は面白いな。表面上は独立国家となっているがその実中身は海洋国家ルゼルヴァリアの属国。しかも中身は都市と言うより要塞そのものだ」

「中に入られたことがあるのですか?」

「アンタらはあの都市の情報はどこで止まってるんだ? 五十年前か?」


 私もバドハーも同時に頷く。


「なら、掻い摘まんで話す。すでに話したが、あそこはすでに都市としての機能は果たしていない。中身は旧帝国とデルハグラムに対抗するためにルゼルヴァリアの軍人が闊歩する完全な要塞だ」

「城塞都市なんて呼ばれとるが、かつては苔むした城壁と緑が美しい都市じゃったんじゃがのう」

「残念ながら、ボクが見たあそこは風光明媚なんて言葉とは無縁な殺伐とした要塞だったよ」

「アルトリアからの独立で行き着いた先がその様ですか」

「謀反を起こしたヤツはとっくに毒殺されたよ。表向きは部下の裏切りってことになっているが、十中八九ルゼルヴァリアの陰謀だろう」

「アルトリアを裏切った罪は出来れば私の手で裁きたかったのですが、それは二度とは叶わないということですか」


 ルマークの愚か者め……

 アルトリアに禄を食み、王家からの信頼もあったからこそ飛び地という危険な所領を任されたというのに。


「思うところはそれぞれあるだろうが。ここからが本題だ」


 そう切り出したアルフォンスくんの瞳は、あの館で垣間見た策士の顔になっていた。


「その顔を見ると怖くもあり頼もしくもありますね」

「そうか? まあボクが提案するのは大したことじゃない。あの捕虜二人を城塞都市近郊に捨ててくるだけだ」

「ルゼルヴァリアとデルハグラムを戦わせる気ですか?」

「ルゼルヴァリアは外洋国家だ。あの国は外洋資源からなる豊富な資金を元手に傭兵を掻き集める覇権国家の一つ。今は水産資源で食糧事情は辛うじて安定しているが、集めた傭兵のせいで食糧バランスは何時崩れるかもわからない状況だ」

「アルフォンスよ、そなたはデルハグラムと同等レベルでルゼルヴァリアが危険だと踏んでおるんじゃな?」


 バドハーの問いかけに、アルフォンスくんが静かに頷いた。


「危険度で言えば圧倒的にデルハグラムが上だ。だが、アルトリアがデルハグラムに勝利しても無傷のルゼルヴァリアを残しておけばヤツらは疲弊したアルトリアを間髪入れずに責めてくるだろう」

「弱った獅子を狙い虎が動き出す、ですね」

「ああ、そうなれば総力戦になるのは目に見えている。一戦二戦は何とかなるだろうが、疲弊したアルトリアと体力を温存したルゼルヴァリア。最後敗北するのがどちらなのか……結末は火を見るより明らかだ」

「先読みをして戦略を練らねばならぬの」

「目先の大国との戦いばかりに目を光らせている訳にはいかない。大局を見て戦略を練らなければ足をすくわれるのは目に見えている」

「有史以来、【帝国の台所】と呼ばれたアルトリアじゃ。どの国にとっても魅力が尽きぬ、か」

「ああ、この大陸全ての王国が敵と思って間違いないだろう。そいつらが結束する前にせめてルゼルヴァリアの体力は根こそぎ奪っておきたい」

「そのために二匹の虎を戦わせるということですね」

「表向きは」

「どういうことじゃ?」

「この二つの国を上手く離間させることに成功したなら、もう一匹の眠れる狼を起こそうと思う」

「もう一匹の……」

「眠れる狼じゃと?」

「ああ、確率は低いがそいつを刺激する効果は十分にあるはずだ」

「そいつの正体はいったい何者じゃ? まさか宗教国家ガードレリジョンじゃあるまいな」

「ん……いつかガードレリジョンとも事を構える日は来るだろうが相手は宗教国家だ。うちが正面から事を構えると色々と面倒なことが起きる。内部分裂を誘うか他国に侵略させるべきだ」

「恐ろしいことを言うのぅ」

「神様への信仰心ってのは、自然信仰が主なアールブ族のあんたらが思う以上に厄介だ。下手をすれば全世界の民を敵に回しかねない。それなら醜い内部分裂を誘発し民の信仰心を目減りさせるか、それとも他国に侵略させてアルトリアに救援を求めさせた方が良い」

「信仰心を味方に付ける訳ですね」

「ああ、表向きは宗教国家に味方することで内部に深く入り込み内側から解体し力を弱めていくしかないだろう。かなり時間のかかる面倒くさい手法ではあるけどな」

「ん……隣接するガードレリジョンを動かさないとなると、一体どこを動かすというのですか?」

「獅子がどんなに強く凶暴でも、臓腑を食い破る虫には勝てない……」

「獅子身中の虫と言うヤツじゃの……で、それはいったい何者じゃ?」


 バドハーの問いかけに薄く微笑むアルフォンスくん。


「ま、上手くいったらそのうち分かるさ」

「貴方が語ると、まるで未来を知る予言者のような説得力がありますね」

「未来は誰にも分からないさ。ただ、ボクは確率的に最も勝利に近い道を選ぶだけだ」


 薄く微笑むその姿の何と頼もしきことか。


「それで、ちょっと頼みがあるんだ」

「頼みですか? 可能な範囲であれば」

「しばらく、恐らく一ヶ月位かかると思うが出張許可をくれ」

「一ヶ月もですか?」

「小僧もしかして、お主自身で捕まえた捕虜を護送する気かの?」

「その通りだ。他にもちょっと覗いてきたい場所があるから、そのために幾つか用意して貰いたいモノがあるんだ」

「それは貴方が危険を冒さないとダメなことですか? 今はまだ表立って動けなくとも、このような感じで軍師として私の近くで政務のアドバイスをして頂きたいのですが」

「確率的に最も勝利に近い道を選ぶと言っただろ。これもアルトリアを守るために必要なんだ。あ、そうだ。もう一つあった。ファフナも同行させるからアイツの分の出張許可も頼む」


 ファ……フナ?

 その名前に私の心がざわりと揺れる。


「なんだ暗い顔して? 勝利のためとは言え他国を巻き込むことが気になる――」

「ちがいますぅ! 王になることを選んだ時点で、王道だけで国を守れないことぐらい覚悟は決めてます! ただ~、ただ~……うぅぅぅ……」

「何が言いたいんだお前は……」

「がるるるる」

「やれやれ犬かお前は」


 呆れられた。もの凄く残念な感じで……

 バドハーはバドハーで、何も見ていないとでも言いたげに窓から差し込む地球の青い光を眺めている。

 イジられるのは嫌ですが、バドハーにさえも放置されるのはいたたまれません……

 くさくさする気持ちを噛み締めていると、アルフォンスくんがポコンと丸めた紙で私の頭を叩く。


「何が不満なのか知らんがチャッチャと片付けてくる。帰ったら話ぐらいは聞いてやる」

「うぅ……私国王、貴方配下。私ずっと年上」

「片言になってるぞ、戻ったら時間を作ってゆっくり話くらいは聞いてやるから少し落ち着け」

「はい……」

「あと、その紙にメモしてある物は至急用意してくれ。それが準備出来たら作戦を開始するから、出来次第宿舎に届けてくれ。早ければ早いほど助かる」

「わかりました。でも、何度も言いますが貴方はアルトリアに必要な人です。絶対に無茶だけはしないでください」

「わかったよ。じぃさんもしばらく会えないが達者でな」

「うむ……そう言って後ろ姿を残して立ち去ったアルフォンス。しかし、この時の儂らは予想もしていなかった。この後ろ姿が今生の別れになるなど……」

「おい、何物騒なこと言ってやがる」

「いや、何となくフラグっぽい言い方じゃったから、モノローグを付けてみたんじゃ」

「じゃあ言い方を変えてやる。ボクが戻るまで死ぬんじゃ無いぞ」

「うむ、それじゃあな。って、それじゃ儂に死亡フラグ立っとらんか!?」

「気にすんな。じゃあな、次会うときもそのままのじぃさんでいろよ」


 それはあまりに突然な、どこか飄々としたこの少年らしくも無い声音。

 どこまでも透明で何かを見透かすような、だけど確かな熱を帯びたようなそんな声音だ。

 悪態の一つでもつくつもりで大口を開けたバドハーが、静かに言葉を飲み込んだ。


「何が言いたいんじゃ、小僧」

「別に……ただ、飴玉をくれるじじぃが居なくなったら、身内のいないボクの部下が寂しがる」

「ファフナがか?」

「何て、な。そんな気がしただけだ、じゃあな」


 そんな言葉だけを残し、アルフォンスくんは窓から姿を消した。


「やれやれ、何とも分かりにくい言葉を残しおってからに」

「ま、あの子らしいと言えばらしいですけどね。それじゃバドハー、私はこれで――」

「まぁまぁ、久しぶりに儂の家に来たのですじゃ、そう慌てなくともよいでは無いですか」

「いえいえ、わ、私も昼間の激務がたたって、いささか眠気を催してきましたので、これで……」

「ご当主様、否、国王陛下……先ほどはなかなかに面白い反応をしておりましたなぁ」


 ――――――――――――――――――――――


 ニヤリと笑う老悪魔が一匹あらわれた。


  戦う

 →逃げる


 アルトリア王エルダリア・ファン・ラーダベルト(未婚)/状態異常ショタコンは逃げ出した。しかし――


「英雄バドハー究極奥義! 反復横飛び回り込みの術!! この究極奥義発動中は腰痛と膝の痛みは無効となる!」

「何ですか、その説明台詞!」


 エルダリアはぼやくも妖怪じじぃにまわりこまれた。

 じじぃはいじりがいのあるおもちゃを見付けた目でニタニタと笑っている


「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」


  ぶっ殺してでも黙らせる

 →どうせ殺しても蘇るだろうから諦める


 情けなくも自分が撒き散らかした醜態とは言え、今宵は色々と長い夜になりそうですね……

 はぁ……

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