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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第二章 アールヴの闇
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衛士ファフナと飴玉

「とりあえず、小言を一つよろしいでしょうか?」

「とりあえずならやめて欲しいんだが」

「では、リテイクします。本題の小言です」

「悪化したなぁ……」

「『悪化したなぁ……』じゃありません、何ですかあの無茶苦茶な鎮圧方法は! 獣やならず者同士の喧嘩だってもう少しまともな決着方法を選びますよ!」

「獣以下とは失礼な。ならず者共よりはマシな手段を選んだつもりだ」

「……そうですね、そこだけ(・・・・)は訂正します。とにも! もう少し常識的な鎮圧方法を考えてください!!」

「いたって至極まっとうな鎮圧方法だったと思うがね」

「どこがですか! 自国の民を武力鎮圧とか!」


 私の抗議など何処吹く風。さして気にした風も無く机の中から布袋を取り出す。

 バドハー様がくれた飴玉の入った袋だ。


「ん、甘っ……」

「飴なんか食べてないで、私の話聞いて下さい隊長!」

「あぁ、聞いてる聞いてる」

「とにかく、自国民を武力で鎮圧とか非常識も良いとこです!」

「コイツらはうちの国の住人じゃ無いよ」

「……え?」


 隊長は口の中の飴をバリバリと噛み砕くと、面倒臭そうに気絶した男の一人に近づいた。


「ほらよ」

「うわっとと……突然人に物を投げ付けないでください。私は隊長と違って運動神経はよくないんですよ!」

「文句は後だ。それを見てみろ」

「後って……」


 突然投げ渡されたそれは小さな金属プレート。


「ん? これは……認識票ですか?」

「コイツらが胸ぐら掴んで殴り合っている時にちょっと見えたんだ」

「……抜け目ないと言えば良いのか、よくあんな状況で見えましたね」

「ボクは百メートル先を飛び跳ねてるバッタぐらいなら見付けられるよ」

「猛禽類ですか、貴方は」


 呆れるほど化け物じみた身体能力をあっさりと言ってのける。普通なら嘘だと思えることも、この人が言うと変な説得力があるから対応に困る。


「その認識票の縁から裏側にかけて黒いレザーが貼ってるだろ。それは魔狼の皮だ」

「魔狼の皮で作った認識票ですか。魔狼の皮、か……どこかで聞いた気が」

「ここ数年、北の獣人国デルハグラムで徴兵が進んでいる話は知ってるよな?」


 それは本来なら、私にとっては一番ナイーブなことに繋がる質問。だけど隊長は一切のためらいもなく問いかけてくる。

 信頼してくれているのか、ただデリカシーが無いだけなのか。

 何となく両方とも違う気がする……

 だけど、それを問うても教えてはくれないだろう。

 だから私はそれに気が付かないふりをして答える。


「はい、その一連の流れでラーダベルト家が王位に就いたんですよね」

「……ああ、そうだ」


 なんでしょうか、今の一瞬の間は?

 試されてる? 

 そりゃそうですよね。自分の家族を殺した者の下に好んで就こうとする者を誰が信用すると言うのでしょうか。


「ほらよ」

「わ!」


 再び突然投げ渡された小さな包み。


「だから私は隊長と違って運動神経は良くないんですって! いきなり物を投げ渡さないでください!」


 まったく、一体何を投げてよこ……


「飴ですか? 何で飴を私に」

「バドハーのじぃさんが置いてった飴だ。特別にくりーみーで甘い飴だよ」

「それは知ってますよ。私も貰いましたし」

「今食べたらボクにはちょっと甘すぎたから、ボクのもお前が食え」

「それはいらない物を押しつけたと言いませんか?」


 この飴はバドハー様が初めて詰所に顔を出された時、テーブルに置いていった飴だ。

 私の分も頂いたが、食べずに引き出しの中に入れっぱなしだった。

 別にバドハー様が毒を盛ったとか疑ってる訳じゃ無い。

 オルガン家の生き残りの自分には、これを受け取る資格が無い気がしたのだ。


「毒なんか入ってないぞ」

「わかってます!」

「だったら食えよ。食い物を粗末にしたら、部屋の隅から鉈持った鬼婆がニヤリと笑って見てくるらしいぞ」

「な、何ですか! その恐ろしい言い伝えは!」

「母さんが話してくれたんだ。昔、母さんも母さんの父さんから聞いたらしい。食べ物を粗末にしたり好き嫌いしたりすると、竹箒と熊手で武装した鬼婆が襲ってくるんだとよ」

「隊長のお母様は何処の国の生まれですか? そんな民間伝承聞いたこともないですよ」

「さあ、どこの生まれかは知らんけど実話だったらしいぞ。母さんの父さんは非常識が服着て歩いてるみたいな……とにかく滅茶苦茶強かったらしいけど、鬼婆にはまったく勝てなかったんだってさ。ボコられた挙げ句に庭木に逆さ吊りにされたらしいからな」

「まるで異界か魔界の話みたいです……」


 隊長の謎な強さを考えたら、魔界の出と言われても何となく納得してしまいそうですが。


「なんか変なこと考えてないか?」

「気のせいです」

「そうか。とにもそういうわけだからお残し厳禁。もうその飴はお前の物だ。鬼婆の奇襲を喰らいたくなかったら黙って食え」


 少年とは思えない何とも意地の悪い顔。

 それにしても『ボクには甘すぎる』、ですか。

 即興の作り話までして、私が受け取れなかった飴を食べさせてくれる……

 ふふ。優しいんだかひねくれてるんだか、ほんと分かり難い方ですね貴方は。


「あ……美味しい」


 口にした瞬間、不意にこぼれだ言葉。


「むぅ……なんですか、その顔」

「別に」


 私を見て隊長が薄い笑みをこぼす。

 何だか小さな子供にでもなった気分で妙に気恥ずしかった。

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