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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第二章 アールヴの闇
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衛士ファフナの考察

『それは何のため?』


 と問うたら、大多数の人は復讐のためだと思うだろう。

 だけど、私にその気はまるでなかった。

 むしろ知りたかったのは、あの大群に対して完勝した知謀の主の正体。

 ただそれだけ。

 私をオルガン家の呪縛から解き放った者が何者なのか……ただそれだけに興味があった。


 オルガン家――


 王国の中でも常に最前線だったからか、それとも元々ある血筋の為か……

 オルガンの一族はアールヴの中でも短命の一族だった。その短命故、オルガン家はまことしやかに呪われた血筋と呼ばれるようになる。そして、その陰口を肯定するかのように、歴代の当主は自ら戦場に出ては血塗れになりながら武勲を上げた。

 そう、オルガン家とはアールヴの中では極めて珍しい戦闘に特化した血筋だった。

 魔術よりも戦技に重きを置く武闘派と言えばまだ聞こえは良いが、中身はただの戦闘狂。

 それが極まったのが父の、いや、祖父の代だ。

 前王家のアールヴ至上主義を掲げる王兄派と異種族共生を遵守する王姫派に分かれて戦った、後に【灰色戦争】と呼ばれた戦。その戦で祖父が王兄派に付いたのが何よりの証拠だろう。

 兵力と武力で勝るオルガン家はその戦で圧倒的な武勲を上げたという……

 だが、歴史が全てを物語るように王姫ソフィーティアの奇跡により精霊皇が現世へと召喚され王兄派は敗北。 

 そして、敵対勢力として本来なら取り潰されるはずのオルガン家は、王姫派の恩情と元老院の力により取り潰されずに生き残った。

 それからのオルガン家は半世紀に及ぶ屈辱的な隷属の時代となる。

 父があれほどにラーダベルト家との戦いに固執したのは、【灰色戦争】で祖父を失った弔いという側面も確かにあっただろう。

 だが、固執の本質は自分に苦汁を飲ませたラーダベルト家への復讐。

 ただ、それだけ。

 そこにアルトリアへの愛は薄く、王位を簒奪することで敗北の歴史を塗り潰すことしか考えてはいなかったのだろう。

 今思えば、私が幼き頃に結ばれた五王国同盟に参戦することを強烈に進言していたのも、黒歴史を塗り隠したかったため……

 醜い。嗚呼、なんと醜いことか。

 武闘派などと呼ばれながら、その中身は自分の中の歪んだ悪意にさえ打ち勝てないただの敗北者。

 オルガン家は【灰色戦争】に破れ祖父を失ったあの日に、すでに死んでいたのだ。

 それに気が付かず、気が付こうともしないオルガン家(ぼうれい)が、生者の足にまとわりついて国家を危機に晒した。

 滅びて当然だ。

 父と兄の死に悲しみは無いかと問われれば、無論だが私の中にも確かに悲しみはあった。

 だが、それ以上に亡者と化したオルガン家が終わったことを喜んでいる自分がいた。

 ……身内の死が悲しみよりも喜びで勝る私もまた、オルガンの者らしくどこか壊れているのかもしれない。

 だから、だったのか?

 いや、それはただの理由付けにすぎない。

 私は純粋に知りたかったのだ。


 オルガン家(ぼうれい)を狩ってくれた聖者の正体を、

 私にこの不透明な感情を植え付けた者の正体を、

 そして……私をオルガン家から解放してくれた者の正体を。


 だから、驚いた。


 その正体に。

 疑われ嘘をつかれたとさえ思った。

 だって、信じられるかい?

 精強を誇るオルガン兵を、自軍にほぼ犠牲も出さずに壊滅に追いやった者の正体。それが目の前に居る小柄な少年だったなんて。しかも身分は出世しても衛士だって言うんだから。

 まさかと思ったよ。

 だけど、まぁ私はオルガン家最後の生き残りだ。

 嘘をつかれて当然だとも思った。

 嘘をつかれて当然、そう思ったんだけど――


『忙しくしとるのかと思って来てみたら、思いのほか暇そうじゃった』


 こんな郊外の辺鄙なボロ詰所に姿を見せた老人の正体に私は言葉を失った。

 だって信じられるかい?

 そこに居たのは大戦の守護神にしてかの大英雄バドハー・アラウンケスト様だったんだ。

 しかも、だよ……


『仕方ないさ。どこかのじじぃが勝手に戦略変えて活躍してくれたおかげでボクの予定が狂ったんだ』

『ぐふっ!!』


 大英雄バドハー様を驚くほど雑に扱い、しかも雑に扱われた本人もどこか楽しそうにしているじゃないか。

 だから、私は心の何処かで理解した。

 本当に、この人種の少年があれほど大胆な作戦をやってのけたのだ、と。

 まるでその謀略の凄まじさは、かつて聞いた帝都の魔人アルフレッドの再来でさえあるように感じた。


「ん? どうしたんだ、人の顔をまじまじと見て」

「え、あ、いや……」


 いぶかしがるように私を見詰める視線。

 別に悪意は無いつもりだったんだけど、まじまじと見過ぎたか。

 あらぬ疑いを掛けられないと良いんだけど……


「生憎と、ボクは今のところそっち方面の趣味は無いぞ」


 ガクッ!


 察しが良いんだか悪いんだか……

 って、違う。そうじゃなくて!


「一応尋ねますが、そっち方面ってどっち方面ですか?」

「ん……母さんが寛容だった方面かな?」


 あらぬ疑いが私の予想と完全に同期した瞬間だった!


「腐ってらっしゃる! わ、私もそちらの趣味はありません! ただ、その……」

「もじもじするな、ハッキリ言えよ」

「もじもじは余計です! あ、あのですね……ア、アルフォンス様は何故私が部下になることを許してくれたんですか?」

「様はいらないよ。ボクは別に偉くはないから」


 それだけを言うと、僅かばかり悩んだ素振りを見せて窓から見える空を眺めた。


「たぶん、ただの気まぐれだ」

「気まぐれ?」

「癇に障ったか?」

「いえ、ただ少し不思議に思っただけです」


 私の言葉に、アルフォンス様が薄く微笑んだ。


「その笑みの意味が分かりません」

「ん? さあね。それは――」

「衛士さん助けてくれ! 町中で喧嘩が起きて、このままだったらうちの屋台が壊されちまう!」


 アルフォンス様が何かを言いかけたタイミングで飛び込んできた少年。


「ん……やれやれ、配属しての初仕事としては打倒なのか物騒なのか。案内してくれ」

「はい、こっちです!」


 自分より少し背の低い少年に手を引かれ慌ただしく連れ出されたアルフォンスさ……いや、アルフォンス隊長。

 何を言いかけたのか気にはなるけど……

 いや、隊長の下についていたら何時かは聞く機会もあるでしょう。

 取り敢えず今は、


「隊長待ってください、私も行きます!」


 せっかく生きるチャンスを貰ったんです。隊長の背中を追い掛けられる間は、このアルトリアがどう変わっていくのかどう変えてくれるのか……

 

 一番の特等席で見させて頂きます。

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