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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第一章 天才少年とポンコツご当主さま
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深まる少年の謎

2022年04月03日 アルトリアの偽王~謎の少年と妖怪じじぃ~

2022年05月25日 アルトリアの偽王~一人相撲~ 一部


を結合し表現を中心に改稿しました。

「はふぅ……けっぷ。みっともなく、少し食べ過ぎました」


 バドハーがあんなにはしゃいでいた理由がわかりました。

 あの料理は本当に経験のない刺激的な物でした。

 口の中に残る香りの余韻を楽しみながらだらしなくベットに寝転がる。

 天上には見た事も無い照明器具があった。まるで、盛夏の太陽のような光を放つ照明。

 王宮の照明など比べものにならないほどに明るい。どこか違う世界の技術か、遙かな未来からでも持ち込まれたような光。

 魔導ハウスなんてそれそのものが冗談みたいな存在だというのに、その中身までも私が想像する遙か上を行った技術に満ち溢れている。

 何もかもが目新しく、冷静になればなるほど恐ろしいほどの技術の結晶。


 だけど――


 そんな魔導ハウスを越えるほど不思議な存在が居た。


「不思議というよりも未知数、ですかね……」


 思い出されるのは恩人である少年に斬りかかったあの失態の瞬間だ。

 私はあの時、確かに――本気だった。

 自分で噛み付き、先手を取りながらの惨敗。

 彼がもしあの後に反撃に出ていたら一体どうなっていた?

 見栄に過ぎないが自分が負ける姿は想像出来ない。だけど、勝てる姿も想像出来ない。

 ならば相打ちか?

 ……違う、純粋にわからないのだ。


 勝てるビジョンも、負けるビジョンも、何もかもが霧の向こう側……


 どんな敵と相対した時でも自分が勝てるか負けるかそのぐらいの予想は出来た。

 それなのにあの少年には……

 知らずに握っていた手の中がぐっしょりと濡れていた。


「はは……私は恩人を相手に何を考えているんでしょうかね」


 ため息と共にコロンと寝返りを打つ。

 このベッドもまた、今まで覚えがないほど柔らかなクッションだ。

 だけど、それよりも私が気になったのは……


「くんくん……しゅ~は~……くんかくんかくんかくんか……」


 この香り……何処かで……懐かしいな……

 そう言えば、あの少年も……くんかくんか……


「……はっ!?」


 わ、私とした事が、なんてハレンチで変態的な行為を!?

 ライアンを亡くしたばかりだというのに何をやっているのですか!

 は、恥を知りなさい!!

 それにこんな言動をバドハーに見られでもしたら、一体何を言われるか……

 お、ぉおぉぉぉぉ……か、考えるだけでも恐ろしい。

 本当にここに居ないでよか――


 コンコン……


「ご当主様、まだ起きておられますかな?」

「ひゃわーっ!?」

「ぬっ! 失礼しますぞ!」


 ガチャッ!!


「何事ですか!?」


 私が思わず発した悲鳴にバドハーが血相を変えて飛び込んできた。


「あ、いや、あの、その……」

「何事も無さそうですなぁ……では、今の悲鳴はいったい?」

「えっと、その、物思いに耽っていたら、突然貴方に声をかけられたので驚いたと言いましょうか……」


 しまった><

 この胡散臭さ全開、荒ぶるお調子者のマッスル老害にこんな事を言ってしまったら、謎の詮索力を発揮してどんなおちょくりを受けるか……

 だけど、そんな私の杞憂は無駄に終わる。


「物思いとは、やはりご当主様も感じておりましたか」

「え? あ~……と、言う事はバドハーもですか?」


 私は訳も分からぬままに、咄嗟にバドハーの発言に全力でのった(・・・)

 ええ、保身ですがなにか?

 わ、私にだって我が身が可愛い時があるんです!


「ご当主様、聞いておりますか?」

「え、あ、はい。聞いてますとも」

「それで、あの小僧のことですが」

「ア、アルフォンスくんのことですか?」

「……? 何を警戒されているのですか?」

「警戒などしていません」

「そうですか。何やら声が震えていたようですが」

「気のせいです!」

「ふむ、であるなら、改めてお話しさせていただきます。ご当主様、食事の時に儂はあの小僧に助けられた経緯を話しましたな」

「ええ、黒騎士からの逃走中に助けられたと聞きました」

「その際に、あの小僧に儂とご当主様を助けていただくお礼として、国に戻ったら報酬として食料を渡す約束をしております」

「食料だけであの子は黒騎士から助けてくれたのですか?」

「まぁ結果的に言えばそうなりますな」


 何と割に合わない報酬でしょうか。

 これほどの魔導具を持ち、あれほどの料理を作れるのです。

 それにあの冷気を放つ不思議な箱に備蓄していた食料の量を見ても、特に必要としている様子ではありませんでしたが。


「ご当主様が何を考えているのかわかります。小僧が何故あのような要求をしたのか儂も直接聞いた訳ではないのであくまで憶測ですが、どうやら孤児達の面倒を見ているようなのです」

「孤児をですか? あの子も年の頃ならまだ十を少し過ぎた位でしょうに……」

「あくまで会話の中でチラリと聞いただけですから、憶測に過ぎませぬがな」


 孤児……

 アルトリア王国には【高潔なる恵みの法】という、高祖フィーダ様の政策により定められた悠久法が存在する。

 それは法の施行以降スラムを形成することは一切許さず、種を問わずに孤児や貧民を国民と国ぐるみで保護するというものだ。

 高祖により遙か昔に定められた法が今でも頑なに守り続けられているのは、多種族国家であるアルトリア王国の盟主が代々地上で最も長命なアールヴ族であるためだ。

 そう、その長命の恩恵こそが代替わりを少なくし高祖の教えを正しく伝え守ってきた。

 あと、これを言ってしまっては元も子もないのだが、アルトリア王国の住人は大半が妖精族であり、その妖精族特有の長命こそが出生率の低さを招いた。

 それ故に新しい命が誕生した際は誰もが命の誕生を喜び大切にする

 孤児となること、命を粗末にすること、血縁の有無にかかわらずそれ自体を良しとはしないのだ。

 ならばあのアルフォンスという少年はこの国の住人では無いのか?

 アルトリア王国は帝国との先の大戦には不参加でしたが、もしかしてその時の戦渦で流れてきた難民ということでしょうか?

 ですが、それならこの家は……まさか帝国貴族の生き残り……


「ご当主様、お気持ちはわかりますが難しく考えすぎです。どんなに悩んでもわからぬことは想像の域を出ませぬ。ただ儂らがわかっていることはあの小僧に救われた。それが事実です」

「そうでしたね。あの少年の恩情に感謝こそすれ、出自に疑念を持つなど信義に反する感情でした」

「お気付きになってくださったなら、この老骨もたまには真面目にしたかいがあるというものです」

「私としては、常にそうであると助かるのですがね」

「ホッホッホッ、たまにだからこそ響く言葉があるものですぞ」


 やれやれですね。

 そんな私のため息も何処吹く風でバドハーは笑っていた。


「それで、あの子に渡す報酬の件で私に相談をしに来たのですか?」

「いえいえ、あの小僧の要求は確かに食料ですが無論それだけで済ませるつもりはありません。私がご当主様の元に夜分訪れたのには他の理由があります」

「他の理由?」

「あの小僧を絶対に手放してはなりませぬ。我が国(アルトリア)に客分として招くべきだと具申いたします」

「手放すなって、それに客分としてですか?」


 確かにアルフォンスくんが私やバドハーを助けてくれた功績を考えれば、客分として迎え入れ礼儀を尽くしてもおかしくはない。

 だが、バドハーの目的はそれだけでは無いはずだ。


「本来なら客将として迎え入れたいところですが、無名で実績も無く年端もゆかぬことを考えれば些か無理がありましょう。何より旧王太子派に付け入る隙を与えかねませぬ」

「バドハー、客分はともかく客将とは随分と飛躍した話に聞こえますが」


 私の問いかけに、バドハーは逡巡するみたいに瞳を閉じた。


「ご当主様もあの小僧の能力には薄々気が付いているはず。いや、直接相対したご当主様なら、あの底の見えない天稟に気付かぬはずはありませぬ」


 バドハーの問いかけに、ドキリとした。

 それは、先ほどまで自分が悩み、頭を悩ませていたことに他ならないからだ。

 あの時、バドハーが乱入してくれなければどうなっていたかもわからないのは自分の方だった。

 それが、率直な私の感想だ。


 しかし……


「バドハー、あの少年の能力に惹かれたから客分として迎え入れたい。本当にそれだけですか?」


 私の問いかけに、バドハーはぴしゃりと自分のおでこを叩いた。


「いやはや、ご当主様にはかないませんな」

「食事中のことです。貴方が『いただきます』と言う言葉に驚愕していましたよね」

「目聡いですなぁ」

「貴方の動揺した顔などそう見られるものではありませんからすぐに気が付きましたよ」

「腹芸の一つぐらい練習しとくべきでしたな。儂があの言葉に動揺したのには理由があります。遙か古に滅びた国の食前の作法だとかつて教えられたのです」

「誰からですか?」


 私の問いかけにバドハーは再び目を閉じた。

 先ほどとは違い答えはなかなか返って来ない。

 バドハーがこれほど口に出すのを悩む相手となると、まさか……


「バドハー、まさかその相手とは……」

「さようです、全ての英雄達の頂点にして至高なる御方【英雄王カーズ】様です」


 その名にゾクリとした。

 遙かな古にあった絶望の王【刻喰らい】との大戦で英雄達を勝利に導き、そして現代では生きとし生けるもの全ての守護神として奉られる英雄の中の英雄の名。

 軽々に口に出す事さえも憚られる偉大なる万物の王。

 そして、【刻喰らい】との大戦で生き残ったバドハーがかつて仕えた主の名でもある。


「現代には伝わらない古の英雄王が知る食前の作法ですか。確かに不思議ではありますが、それがあの少年と英雄王に何か繋がる話だと考えるにはそれこそ飛躍しすぎでは無いでしょうか?」

「無論、流石にお迎え間近の儂と言えどもそこまではボケておりませぬ。ただ、黒騎士共から逃走のために魔獣を利用した知識、何より……」

「何より……?」

「あの小僧、驚くべきことに古代精霊語エンシェント・アールヴに精通しております」

「なっ、ほ、本当ですか!? それが本当ならあのアルフォンスという少年はいったい何者だというのですか!!」


 古代精霊語エンシェント・アールヴ――

 上位精霊と契約するために必要な言語だが、発音が難しく言語の一つ一つに霊力を込めねば発声することすら出来ない難度の高い言語。

 現在では純粋なアールヴ族でさえ習熟している者がどれほどいるか……


「あの小僧が何者かわからぬからこそ悩んでおり、だからこそ客分として迎え入れるべきだと進言しておるのです」

「そうですね……あの子が何者なのか見極める必要はありそうです。何より、もしあの子が本当に孤児を匿っているようなら、私は為政者として守らなければなりません」

「ホッホッホッ、良き王に……いや、良き宰相になられましたな」

「アールヴの王が残した誇りある教えを、何故王ですら無い私が穢すことができましょうか。そんなことをしてはソフィーティア様にも、高祖フィーダ様にも合わせる顔がなくなります」


 胸を張り言い切る私に、バドハーは一瞬困ったような表情を浮かべたあとただ静かに微笑んだ。


「さて、いささかマジメに話し過ぎましたな。そろそろ何時もの儂に戻るとするかの」

「その二重人格を疑いたくなる変貌ぶりを無くしてくれる方向で検討して頂けると、こちらとしては助かるんですがね」

「ホッホッホッ、このもう一つの顔も老骨の本性じゃて」


 悪びれもせずに言い放つ古の英雄。

 はぁ……せめて真面目な顔がもう少し長続きしてくれれば助かるんですがね。


「さてさて、儂は今から何時ものモードに戻りますぞ」

「こんな面と向かって最悪な予告を聞いたのは初めてです」

「ホッハー! 儂、すごく嫌がられちょる嫌がられちょる」


 くそっ!

 このじじぃ、さっそく仮面脱ぎやがった!!


「ところでですな」

「な、なんでしょか?」

「そう警戒なさるな、人前に出ちゃいけない表情をしてますぞ」

「だとしたら、貴方の突然の胡散臭さがそうさせていると理解してください」

「ヒョヒョヒョ、言いよるわい! なら単刀直入に聞きますぞ。ご当主様はあの小僧のことをどう思っておりますか?」

「……はぁ?」

「だから、あの小僧をどう思っておりますか、と聞いてるんですぞ」

「ど、どうって……そりゃ、あの歳で測りかねる能力とか、どこか品のある雰囲気とか謎めいてるなと……」

「カーッ! 誰がすったらつまらんこと聞いとるだぎゃ!!」

「いったい何だと言うのですか! そんな聞いたこともない訛りまで使って、貴方はキレやすい老人ですか!」

「老い先短いんじゃ急ぎたくもなるわい!」

「何を急いでるか知りませんが、1500年も生きたんですから今更老い先など気にせず少しは落ち着きなさい!!」

「うぅ、天国のばぁさんや孫が冷たいんじゃ……」

「誰が孫ですか。それと、何を身内に虐げられている老人みたいなことを言ってるんですか、永劫の独り身のくせに」

「永劫の独り身とはなんじゃ! あったまに来たぞ。儂、もうこうなったら単刀直入に言っちゃる! おぬし、あの小僧のこと気に入っとるじゃろ!」

「な、何を突拍子も無いことを言ってるんですか、この独居老人は……」

「ぬぅ、息吐くように儂を孤独な老人扱いしおって! 儂聞いてたもんね!」


 ざわ……

    ざわ……


 背筋に鳥肌がそば立つ。

 ニチャリと悪辣な笑みを浮かべる老害を前に、私の魂は確かな恐怖を覚えた。


「な、何を、見たというのですか……」

「ん、ん~? 見たじゃなくて聞いていた、と言ったのですぞ。ご当主様、小僧に借りたこの部屋、小僧の部屋だけあって、小僧の匂いに満ち溢れちょりますなぁ~」


 ドキリとした。

 わざとらしく『小僧を』何度も連呼する生ける老害。

 ま、まさか……

 まさかとは思いますが……


「くんかくんかしゅ~は~」

「ほ、ほきゃー!! な、何を覗いてるんですか!」

「人をデバガメみたいに言うでないわ! ただ、ノックをしようと思ったら凄まじいバキューム音が部屋から聞こえただけじゃ」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ」

「何となく何をやらかしているか想像が付きながらも、それに気が付かぬフリをして部屋をノックした儂。実に出来た忠義だと思わんか? ん? ん?」

「うぎぎぎぎ……」

「ま、さすがにノックしたと同時に悲鳴を上げられたのには驚かせられましたがな」

「…………死ねー(くきゃー)ッ!!」


 剣を振るえない代わりに、拳を刃に見立てて抜刀する。


「ぬっ!? なんの! 残像を生みながら横ッ跳びで神回避じゃ! これぞ珍技【じじぃ神ステップ】の術じゃ!


 得体の知れない妖術もどきを使われ、私の拳が空を斬る。


「ここ、この妖怪じじぃ!!」

「ほれほれ、そんな暴れては貸してくれた小僧の部屋を壊してしまうぞ、どーどー」


 元凶に制されるのはしゃくですが、情けで貸して頂いた部屋で暴れるなんて許されません……許され、ませんぐがががが……


「フーッ、フーッ!」


 爆発しそうな感情を呑み込み、何とか深呼吸を繰り返す。


「ホッホッホッ、もう少し遊びたいところですが、今日の所は勘弁してやりますわい」

「え、えらっそうに……」

「これ以上からかってこの部屋に何かあったら、二度と小僧にはカレーを作ってもらえなくなりそうですしな。それじゃ、また明日ですじゃ~」


 鼻歌交じりに、部屋を後にするバドハー。

 ただ、一言言わせて下さい……


「わ、私は……カレー以下ですか。カレー以下……カ、カレーは美味しかったけど、美味しかったですけど!」


 一人になった部屋で、老害に翻弄された私の叫びが寂しく反響した……



 ちゅんちゅん……

 朝靄の中から聞こえる小鳥の鳴き声。

 ……?


「あれ、私は何時の間に外で寝て……あ、窓ガラスがあったんですね……あぁあぁあぁぁぁ~……」


 自分自身のあまりにすっとぼけた発言に頬が熱くなり気の抜けた声が出る。

 べ、別に、私がすっとぼけてるとか天然とかそんなことが理由じゃ無いです。

 思わず外と勘違いしてしまったのは、この歪み一つ無い透明な窓ガラスのせいなんです!

 宮殿の窓ガラスとは比べ物にならないほどの透明度。そう、それはまるで恐ろしく進化した未来で作られたみたいなガラス。

 ま、こんな未知の塊みたいな魔導ハウスを前に今更ガラス一枚ごときで何をって話ですけどね。

 頬がさらに熱くなる。

 我ながら、なんと屁理屈じみた下手くそな誤魔化し方でしょうか。

 はぁ……こんな事だからバドハーにポンコツ扱いされるんですよね。


 ……イラ。


 おっと、いけませんね。

 つい無駄過ぎるほど無駄に元気いっぱいはしゃぐバドハーを思い出してイライラが膨れ上がってしまいました。

 反省です。

 気持ちを落ち着かせるべく深呼吸をし朝靄から覗く太陽に手を合わせる。


「敬愛するソフィーティア様。どうかこの未熟で非才なる私にその温かなる恩情をお与えください。そして貴女様の元に旅立ったライアンに、どうか……どうか貴女様のお隣で天上の野を駆け巡る機会をお与えください」


 ソフィーティア様――


 誰よりも気高くお優しく恵みを与える真夏の太陽のような敬愛すべき御方。そして、足下のおぼつかない夜道を照らす優しい星明かりのように慈悲深きお方だった。

 貴女様の加護があれば、あの寂しがり屋で気弱なライアンもきっと笑顔で天上の草原を走り回れますよう、に……

 祈りを捧げながらも、私の首に纏わり付くみたいに鎌首をもたげる暗闇。


「私は何を考えてるんでしょうかね。ソフィーティア様がお隠れになんかなるはずが……」


 そう、頭では信じているはずなのに。

 それなのに、心の何処かでは認め……いや、わかっている。

 端からわかっていた。  


 あの日……


 王家の内乱でお隠れになったソフィーティア様が、十数年前に精霊皇様の気紛れであるかのようにこの世界にお戻りになったのは確か。


 だけど……


 再来されたはずのソフィーティア様は流星が流れ落ちたあの夜、再びこの世界からお隠れになってしまわれた。

 今度こそお守りしようと誓いながら、そのお姿を見付けることさえも出来無かった。

 何たる不忠、何たる不敬。

 ただ、罪悪感だけが心の中に降り積もる……

 だけど、私もいい加減に前を向かなければならない。

 気晴らしのつもりで出掛けた鹿狩りでとんでもない災厄がこの世界に生まれていた事実を知ってしまった。


 あるいは――


 あるいは、これは私の妄想に過ぎないがあの黒き災厄こそがソフィーティア様の命を奪ったのではとさえ思えてしまう。

 とは言え、長い歴史を持つアールヴ族の歴史の中でも、有史以来初めて原初の精霊皇様との契約に成功し精霊姫と称された偉大なる王女。

 我が妄想ながら、精霊皇様さえも使役したソフィーティア様の再来を害することが出来る者など果たしてこの世にいったいどれほど居るというのか?


 よもや――


 輪廻の魔王レオニス?

 それとも謀略と暴虐の魔王エルヴァロン?

 まさか破壊の竜王ラースタイラントか?


 どれも名を思い浮かべるだけで震えを覚える恐るべき存在だ。

 恐るべき存在、だが……

 いかな魔王と言えども、精霊皇様の加護に護られた御方を害することなど出来るだろうか?

 ならば黒騎士ヤクトリヒターなら?


 ゾクリ……


 思わずガシガシと袖を腕にこすりつけていた。

 思い出すだけで泡立つ鳥肌。

 アイツらはあまりにも異質だった。

 かつて魔王エルヴァロンと対峙した時も恐怖に臓腑が凍て付く思いをしたが、あの黒騎士は……いや、あの先頭に居た大剣使いの黒騎士……

 どの黒騎士を思い出しても恐れが脳裏を掠めるが、あの大剣使いの黒騎士は明らかに一線を画す恐るべき力を秘めていた。

 いったい、あの黒騎士(ばけもの)はどれほどの力を秘めているのだ?

 まさか、知らぬ間にあんな悪夢みたいな存在が帝都に生まれていたとは。


 あるいは――


 あるいは、アレこそがかつて帝国の中枢で【魔導の枢機卿】【魔導王】等、様々な災厄の二つ名を欲しいままにしたアルフレッドの最高傑作なのか?

 それとも、あの恐ろしき黒騎士こそがアルフレッドその人だとでも言うのか?

 再び泡立ち始めた鳥肌。

 考えれば考えるほど最悪な展開(みらい)ばかりが脳裏をかすめる。

 あの化物と戦わねばならないのかと思うだけで心は今にも挫けそうだった。


 だけど――


 未熟な私のせいでライアンの命を奪ってしまったが、それでも私にはまだまだ守らなければならないものがある。

 ソフィーティア様からお預かりした大地、森、湖……

 そして、何よりも守るべき民の命。

 あれほどの力を秘めた者達が何故あの廃墟と化した帝都で未だ燻っているのか。

 その理由は憶測すら出来ませんが、アルトリアの国境付近に姿をあらわした以上放置する訳にはいかない。

 何としてでも今日中に王都に戻り急いで対策を練らなければ。

 そして、バドハーの言ではなないがあの少年を……

本編進めず改稿に走ってます。

一段落つきましたら本編再開をしますので、もうしばしお待ちください。



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