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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第二部 第一章 天才少年とポンコツご当主さま
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王を代行せしアールヴの偽姫~

2021年11月17日 アルトリアの偽王~王を代行せしアールヴの偽姫~

2021年11月25日 アルトリアの偽王~英雄の心~←一部


結合し修正しました。



 ――時は十数年ほど遡る――



 それは突然私の意識下に閃いた直感にも似た感覚。


「今のは、まさか……」


 それは、まるで無から有が生まれたかのような突然の衝撃。

 だけど、それは決して恐れでは無い。

 むしろ優しい懐かしささえ覚える気配。


「やっと、やっと……お戻りに、なられた。バドハー、今の気配に気が付きましたか!?」

「うむぅ……なんという気だ、しかもまだ上昇しているだと!?」

「気では無く精霊力です!」

「そんなでかい声出さんでも聞こえちょりますよ。ちょっとばかりウィットに富んだおはしゃぎをしてみただけじゃ、眉間に皺寄せすぎると年食ってから後悔するぞい」

「余計なお世話です! 貴方はいちいち減らず口をたたかないと会話が出来ないのですか!」

「減らず口を叩いても叩いても減ること知らずの儂の口。どうじゃ、キュートじゃろ?」

「お黙りなさい! まったく……貴方だって気が付いたでしょう、ほんの一瞬でしたが今の空を引き裂くような強大な精霊力を」

「あまりに一瞬。気のせいと言えばそれまでのような気もしますがな」


 バドハーがそれまでのお調子者の仮面を潜め、思案顔でぼそりと発言する。

 確かにバドハーの言うとおりだ。いや、むしろそう考えるのが普通だろう。

 ですが……


 私には確信にも似た予感があった。

 

「いえ、これは間違いなく精霊皇様のものです」

「ふむぅ、確かに一瞬とは言え精霊達のあのざわめきは精霊皇様が降臨されたときのそれに匹敵すると言えましょうが……」

「何が言いたいのですか?」

「ご当主様も知っていましょう。精霊皇様はソフィーティア様がお隠れになった際、共にこの地上からその存在を消されました。何より精霊皇様を使役出来たのも歴代最高峰の召喚士と称されるソフィーティア様だけです。精霊皇様を使役出来る術者が他に居ない以上、精霊皇様が再び降臨なされたなどとはとてもとても……」

「いいえ、バドハー。『匹敵する』のでは無く、ソフィーティア様ご本人がお戻りになったのです。だからこそ精霊皇様もお応えになっ……」

「……」


 バドハーがしかめっ面で私の額に手を当てる。


「……バドハー、何ですかこの手は? それと、その残念なモノを見るような目はどう言うつもりですか?」

「いえいえ、お熱が上がっていらっしゃるのかと」

「バドハー!! 貴方は私を暗愚扱いするのですか!」

「いやいや、そんなまさか。半世紀前の王家の内紛を収め今まで見事に統治された手腕を考えますに、決して暗愚などとは思ってはおりませぬぞ。ただ、時折コイツってどうしようもねぇポンコツだよなぁとはしみじみと心の奥底から思うことが稀によくありますが」

「バドハーッ!!」

「ふぉっふぉっふぉっ。いかんいかん、こりゃ口が滑って本音がこぼれ落ちましたわい」

「ポンコツってお前……本音って、お前……」

「ま、憚りある事を承知で進言するのなら……」

「貴方の今までの態度こそ憚りあると思うのですが?」

「それは気のせいですな。さて、時を戻して先ほどの話の続きをしましょう」

「時を戻すって、貴方のその不遜を受け止める私のテンションを少しは考えてはくれませんか?」

「善処しま~す」

「わー、びっくりするほどお役所しごとなはつげん~」

「ほっほっほっ」


 いったい何故でしょうか。バドハーは間違い無く救国の英雄であるはずなのに、会話をするだけでビックリするほどの疲労感に襲われるのは……


「それでですな、ご当主様」

「は、はぁ」

「おや、これはまた随分と気の抜けたご返事」

「気にしないでください。私にだって思うところがあるんです」

「そうですか。とりあえず話の続きになりますが、残念ながら死せる者が蘇る事など古今ありませぬ。まぁ、不死なる者としてなら話は別になりましょうが」

「そんな事は私も分かっています。ですがソフィーティア様なら、原初の精霊皇様さえをも従えたあのお方なら、或いは……」


 死せる者の復活。

 そんなことは誰にだって、子供にだってさえも分かる奇跡のような願い。

 それでも願わずにはいられなかった。

 半世紀以上もの長き間、主無き国であったアルトリア王国の玉座に真なる主が帰還したことを。

 あの誰よりも気高かく美しく、そしてお優しかった王姫の再来。

 嗚呼、どれほど待ち侘びただろう。

 

 私達アールヴ族の寿命はヒト種のソレよりも遙かに長い。種子が芽吹き、大樹となってやがて枯れ落ちる頃、まるで思い出したかのように私達にも終わりが訪れる……


 そんな私達アールヴ族にとってはほんの一時に過ぎぬはずの半世紀が、まるで枝葉から滴り落ちる雨粒で大河が出来るのを待つかのような長き苦痛の日々だった。

 そんな日々から遂に解放される。

 敬愛してやまない、あのお方がお戻りになる。

 仮初めの王に過ぎぬ私が、その地位をやっと愛おしき御方にお返しすることが出来る。

 そしてソフィーティア様の御旗の下で、我らアールヴ族はまた一つにまとまり繁栄するのだ。


 そう――

 心を躍らせたのは、僅か十数年前の話だ。

 だけどソフィーティア様のお姿は、いや、その後ろ姿さえも見かけることは出来なかった。

 当たり前だ――

 精霊力の痕跡だけを頼りに世界中から探し出すなど、真砂からガラスの一粒を発見するような奇跡。

 そんな無理難題とも言える捜索が暗礁に乗り上げた頃だった。

 崩壊した帝都の領地を奪うべく立ち上がった諸王国の版図拡大戦争が激化し、その戦火がこの豊饒の地アルトリアにまで飛び火したのは。

 かつて起きた帝国からの侵略戦争とは比較にならない規模で戦役は拡大。

 時同じくして長年沈黙を続けていた魔族達の台頭……

 大陸の何処にも、平和な地など無くなった。


 激務に忙殺される日々は続いた。


 あの奇跡を感じた衝撃から幾日が過ぎただろうか?

 だけど、そんな奇跡をあざ笑うみたいに私の身に再び悪夢が襲いかかる。

 闇夜に流れ落ちた星が一つ……


「あ……」

「どうなさいましたか、おひいさま!」


 年若いメイドがバルコニーの床に頽れた私の元に駆け寄ってくる。


「おひいさま、どうなされたのですか? お気を確かに――」


 叫び続けるメイドの声。

 だけど、その声は遙かに遠く――

 私の心には届かない。

 全ての声が遠のく中、私はただ……

 ただ、ソフィーティア様にお仕えした日々を思い出していた。


 二度とは戻らない、あの幼く若かったころのただ幸せだった日々を……


 夜寝て起きれば次の日には笑顔が約束された毎日。

 それなのに、それなのに……


 嗚呼……

 何故ですか、ソフィーティア様……


 何故、貴女は私達の前に姿を現すこと無く、またもお隠れになってしまわれたのですか……


「ご当主様。お倒れになったとメイドからお聞きしましたが」

「ごめんなさいバドハー、心配をかけてしまいましたね」

「いえいえ、ご当主様が倒れたと聞いてついに儂にも王の座が見えてきたかと思い、ウキウキで伺いに来ただけですからお気になさらず」

「バドハーッ!! お、おぉぉぉ……め、目眩が……」

「ほれほれ、ろくに飯も食わんと寝たくっていたのに激高するから貧血を起こしたのでしょう。取り敢えず儂んちの裏山で採れたシシ肉の燻製でも食いますか?」


 ドンッ! と目の前のテーブルに置かれた、明らかに胃に悪そうな馬鹿でかいイノシシ肉の燻製。そして、その横には鼻孔を優しくくすぐるスープ。


「この香……」


 これはアールヴ族(わたしたち)ですら栽培が出来ず日持ちもしない香草の香。

 秘薬にさえ使われる長癒草(リーヴフェアル)を、わざわざ……


「はぁ……まったく、もう」


 何時もボケ倒して何を考えているのか掴み所が無いくせに、貴方はこんなさり気ない気遣いも出来るんですよね。

 ほんと、普段からそうしやがれって思うのは私の心が狭いのでしょうかね?

 あと、人の寝室に馬鹿でけぇ燻製持ち込んで突然スープを作るとか気遣いのベクトルぶっ壊れてんじゃねぇのかとは思いますが。

 ……私の中に沸々と込み上げてくる何とも言えない感情。


「およ? 何やら気遣いをしたはずが、いらぬ怒りを買ってる気がするのぅ」

「その勘は間違い無く正解だと思いますよ。ただ、同時に貴方の不器用な優しさも感じているから、やるせなくなるのです」

「ほっほっほっ、儂の滲み出るいぶし銀な優しさにやっとお気付きになりましたかな」

「いぶし銀かどうかは分かりませんが、貴方が昼行灯を装っているのは分かっているつもりです。ただ、多少行き過ぎてるその感性にイラッとはしますが」


 私の言葉に老騎士が髭を揺らして笑う。

 まったく、笑ってる顔は好々爺そのものだというのに、口を開けばピント外れのボケ芸人なのだから困ったものです。

 私のそんな様子を一通り堪能したのか、老騎士の顔から笑みが消えた。


「さて、ご当主様。本調子では無い貴方に聞くのは酷なことかも知れませぬが」

「構いません」

「貴方がお倒れになったのには、ソフィーティア様の一件が関わっているとみてよろしいのですかな?」


 虚飾が何一つ混ざらぬ追求(ことば)が、私の心を穿つ。

 私が知った事実を話すのは怖い。

 それを口に出せば、許されざる真実を認めてしまうことになるからだ。


 だけど……


 私の事を心配し来てくたバドハーに隠し続けることなど出来はしない。


「ご当主様、言いにくいようでしたら、無理に聞くような真似はしませぬが」

「いいえ、バドハー。貴方にもお伝えしておきたい事があります。ソフィーティア様の再来を感じたあの日より、|運命の精霊(イーディス)様にソフィーティア様の命脈を占って頂きました」

「ふぉっ!? なんと|運命の精霊(イーディス)に願掛けとな!」

「願掛けでは無く占星術です。どうして貴方はそんな俗っぽい表現をするのですか」

「歳を取ると些細な事は気にしなくなるものです。それにしても、あのイタズラ好きで気紛れなことでも有名な|運命の精霊(イーディス)様にお力を貸して頂けたのなら、それを公表すればよろしかろうに」

「私もそれは考えました。ですが、半世紀前の王選でソフィーティア様につかなかったオルガン家をはじめとする上位貴族の何家かは未だ健在です」

「ああ、あの無駄に家柄だけが肥えた連中ですな」

「斬新な表現ですね」

「ふぁふぁふぁ。でも、そうですなぁ。あの家柄ばかりが肥えた連中は至極残念なことに健在。いや、その勢力は水面下で日に日に強くなっているとも言えましょう」

「ええ、そしてヤツらは覚えています。あの戦いでソフィーティア様の莫大な精霊力で知った、いえ、魂にさえも刻まれた恐怖を」

「なるほど。精霊皇様さえも従えた強大なる力。当時の敵対勢力からすれば、ソフィーティア様の復活など悪夢でしかありませんな」

「その通りです。態勢も整わずにソフィーティア様の再来を発表するなど、かえってソフィーティア様の身を害されるおそれがあります」

「なるほどのぅ。しかし、せめて儂だけには|運命の精霊(イーディス)様のことを伝えてくれても良かったのでは?」

「……貴方にソフィーティア様の再来を伝えたら、可哀想な者を見る目をしたじゃないですか」

「そんな事実あったかのぅ。いやはや、記憶が心許ない。歳は取りたくないですなぁ」


 飄々とした笑顔崩さぬこのじじぃが憎い!

 ……いえ、落ち着きなさい私。

 どうせ一つ反論すれば、十の言葉ではぐらかされてストレスまみれにされるのは目に見えているのですから……


「はぁ……とにも、|運命の精霊(イーディス)様のお力を借りられたので、ソフィーティア様の御霊がこの世界に再来されたことは確認しました」

「|運命の精霊(イーディス)様のお墨付きを得た、と」


 一瞬、老騎士の瞳に僅かに強い、いや暗い光が宿た気がした。


「その時に運命の精霊(イーディス)様より、ソフィーティア様の守星が南で輝く星であると教えて頂きました。ですが、その星は先日北の方角に……」

「流れ落ちたのですな」

「……はい」


 しばし続いた沈黙。

 バドハーは英雄王にお仕えした英傑の一人。

 【時喰らい】という未曾有の大災厄と戦い生き残った英雄の恐らく最後の一人だ。

 だが、英雄という絶大なるその名声が、時の女王である姉一族と王位継承で内乱が起こるのを嫌い自ら王族の地位を捨てた。

 地位にも名誉にも興味を持たぬ誇り高き英雄であり誰よりもこの国を愛した王族。

 そんなバドハーにとってソフィーティア様は紛れもなく血の繋がりがある直系であり、実の孫のように愛し可愛がられていた。

 ならば、この事実を前に私以上に思うところがあるは――


「ふむ、ご当主様、久方ぶりに鹿狩りにでも行きましょうか」

「は、はぁ?」


 それはまったく予期せぬ、あまりにも唐突すぎるほどに唐突な提案であった。


 そして、気が付けば連れ出されていた野外。

 えっと……


 倒れた

 ↓

 突然鹿狩りに誘われた

 ↓

 執務があるから断った

 ↓

 強引に連れ出される(いまここ)

 ↓

 ふと我に返って悩む(new)


 いやいや、『new』じゃねぇですし!

 あ、あれぇ?

 私は色々と失意の中で悩んでいたはずなのに……


「どうされましたかな、難しい顔なんぞされて」

「いえ、自分のいま置かれている状況に疑問を抱いてただけです……」

「ま、若い内はそう言う事もありますわい」

「こ、この、しれっと……」

「ところで話は変わりますが、ご当主様はお幾つになられましたかな?」

「は? 何ですか、藪から棒に」

「儂はたぶんですが千と五百は超えました。種の寿命を考えれば、まもなくお迎えが来る頃でしょう」

「まぁ……失礼ながらアールヴの寿命を考えれば、そうでしょうね」


 私たちアールヴ族は地上のどの種よりも長命だ。

 他の種族は悠久にも等しき長命を羨むが、私からすればそれは心の停滞を生み出す以外の何ものでもない。

 事実、私達は前進する事を忘れ、過去にしがみつ……


「あ……」


 バドハー、貴方は私に何時までも過去に囚われず、前を向けと言いたかったので――


「うぉっしゃー!! 大物じゃ大物じゃ! 今日は鹿肉の丸焼きじゃい!」

「…………」

「宮廷料理ってのは手が込みすぎてていかん。舌平目がどっちゃらとかポワレがなんちゃらとか! ふぉ~ん~でゅ~? なんじゃい溶けたチーズにお漬け下さいって!! じじぃは黙って丸焼き! じじぃは黙って丸焼き!! 塩とコショウ振って後は齧りつくだけじゃい!!」

「………………」

「大体食い物なんてのは余計な手間なんぞかけんでも、油で揚げれば旨くなるんじゃ!」

「………………ばどはー?」

「そう言えば大昔、カーズ大帝と遠征の際に食ったあの鹿肉は旨かった。そうよなぁアレは確か古代巨人種エンシェント・ジャイアントが暴走させた魔法で山一つが丸焼けになって出来た産物じゃから、『鹿の山火事焼き』調理法とでも言うのかの。実にワイルドな調理法じゃった」

「……バドハー?」

「まぁ今時は鹿肉食うのに山なんぞ焼いた日にゃ、どんなバッシング受けるか分かったもんじゃ無いから出来んがのう」

「おいじじぃ!」

「な、なんじゃい!? 突然大声出しおって」

「もしかして本当にただ鹿肉を食べたくて私をわざわざ狩りに誘い出したのですか?」

「そう言ったはずですが、何か?」

「『何か?』じゃありません! 何ですか、何なんですか!? わざわざ私を連れ出したと思ったらただ鹿肉が食べたいだけとか!! しかもさっきの『まもなくお迎えが来る頃』とか何のフリだったんですか!!」

「んぁ? あぁ、ただの世間話じゃな」


 頭痛がした。


「あ、貴方という人は……」

「ふぉっふぉっふぉっ、この年になると昔の頃ばかりが懐かしくなりましてな。若く楽しかった頃の思い出ばかりが蘇ってくるものじゃ」

「はぁ、今度は何の話ですが」

「仲間達と笑い合った時代、もう二度とは会えぬ真なる英雄達。どれほど時が流れたか……だが今でも目を閉じれば鮮明に思い出すのです。あの辛くも楽しかった熱い日々を。そして平和な世の訪れで得たそなた達の笑顔という名の宝の尊さをな」

「え?」

「すまんな。本来ならそなたの立場は儂か行方不明になった儂の弟が担うべきものだった。アールヴらしく自由を愛し、若者らしく恋に謳歌する事もさせてやらなんだのは儂らの不徳だ。いらぬ苦労を背負わせてしまった」

「……」


 まるで予期しなかったバドハーの思いに私は言葉を失った。

 《深緑の霊王》と称された偉大なる女王フィーダと共に【時喰らい】と戦った王弟バドハー。

 そして、戦場に出た姉と兄に代わり、善政を布き国難から民草を守ったその弟イプシの名は我が国で知らぬ者は誰も居ない。

 そんな王弟二人は、だけど王の地位に興味を持たず民草の中に身を置くことを望み風の中に語られる英雄となった。

 そう……

 この老英雄が語るのは、私が知る事の無い大戦の物語(おおむかしのきおく)

 誰もが生きる事に必死でもがいた時代の話。


 ……情けない。


 英雄達が救ってくれたこの世界を守り英霊達の御霊を安んじるは今に生きる者の務めであり、民草を守るは時の為政者の責務であるはずなのに。

 それを年老いた英雄に気遣わせ、道化のフリまでさせてしまうとは。


「すいませんでしたバドハー。私はソフィーティア様を信奉するあまり、自身が成すべき事を見失っていました。早急に成すべき事を見詰めなお――」

「うぉーっ! 見るんじゃ、あそこに馬鹿でかいイノシシがおるぞ! ありゃきっとこの森の主じゃ! 鹿は取り敢えずおいといて、今日はシシ鍋ぱーちーと洒落込むかのぅ!!」

「えっと……」

「酒もある! 港湾都市から仕入れた上等な焼酎がな! 昼間っから酒を搔っ食らってシシ鍋にがっつけるとは最高じゃわい」

「……おい?」

「ええぃ待たぬか、その肉をちびっとでいいから儂によこせい! もも肉を! モツを! ついでバラにヒレにネックにタンもじゃ!! 図体デカいんじゃ、肉の10キロや20キロぐらいケチケチすな!」


 呆然とする私を置き去りに、バドハーは軽く見積もってもあと数百年は生きそうなはしゃぎっぷりで森の中へとオーガンクルス馬を躍動させるのだった。

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