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受け継ぎし者

2020/02/13に投稿した『アルフレッド・受け継ぎし者』を表現を中心に改稿しました。

そして、リョウとアルフレッドの物語最終話となります。

ここまでお付き合いいただいた、読者様本当に感謝!


 全身を貫く焼け付くような激痛。

 油断だった。

 ルートヴィッヒに力を貸した怨敵がここに居ることは分かっていたはずなのに。


 一時の迷いが、反応を鈍らせた。


 ズルリと身体から引き抜かれる刃。

 溢れ出る血と共に流れ落ちていく自分の命。

 赤い絨緞の上に広がるドス黒い血溜まりに、自分の意識が溶け落ちていく……


「ご……ご、ふ……」

「お久しぶり~、何時以来だっけ? って、塔以来だから一年とちょっとぶりよね。でもね、気付いてた? 実はあの時アルキュンにとっては十年ぶり位かな? まあアタシにとっては三十年ぶり位の再会だったのよ」

「な……何、を……」

「いくら天才でも、そりゃわから無いわよねぇ。そうよねぇ、あの頃のあたしはまだ人間(・・)だったし、子供で小麦色海賊団なんてごっこ遊びしていたお子ちゃま時代だった」

「………………」


 それは、どこか遠い昔の記憶……

 な、何だ、そのごっこ遊びって?

 ボクの人生には、欠片も……かけ、ら……も……


『お前どこから来たんだよ。ここの公園を俺たち小麦色海賊団のなわばりだって知っててしんにゅうしたのか!!』


 な、何だ?

 今の記憶……そ、それに一瞬見えたあの夕日と、公園は……

 この記憶は……い、一体……


『自分よりもちいさきものをいじめるとは、ごんにょどうりゃ……ごんごごうだん……ごんごごごごんご!! ………………くきーっ!!』


 ……ッ!

 今の空回りした絶叫……そ、そうだ……

 ボクはあの時、リョウと出会ったんだ。

 ???

 な、何故この獣人は、そんな事を……そんな、こと……


 ――あの頃のあたしはまだ人間(・・)だった――

 ――アタシにとっては三十年ぶり位なんだけど――


 ま、まさか……

 いや……そうだ、思い出せ……

 

 ――そだね。てか、アレってよく祝福ソングみたいな感じでネタにされるけど、本当は失恋、って言うか別れを歌った曲だって、じっちゃが言ってた――


 何時だったかリョウが言ってたじゃないか。

 そして、ボクは疑問に思った。

 ロイがリョウの知っている、リョウの世界の歌を歌っていた事に。


「その顔、何となくでも思い出してくれたみたいね。アタシ、日本に居た頃は大城、大城鎧って名前だったの。まぁあの頃のリョウタンはアタシの名字なんか覚えてないだろうけど」


 お、思い、出した……

 そうだ、確か、確か悟とか呼ばれていた小猿と群れていた悪ガキだ。

 リョウに股間を膝蹴りされた後、自転車でひき逃げされたヤツだ。


 な、何故あの時のクソガキがここに……


「何かさぁ、アタシが痛い思いをした記憶までしっかりと思い出してくれちゃった感じ? ふふ……アタシが何故ここに居るのか、疑問かしら?」

「あ、あぁ……」

「そうね、一言で言うなら……神の気まぐれ、悪魔の酔狂、ってとこかしら。遠い未来でアルキュンとリョウタンが出会った。それに気が付いたエルヴァロンが二人まとめて始末しようとしたのよ」


 魔王の力を持ってすれば時渡りは可能だろう……

 それにしても、エルヴァロン? いま、こいつはエルヴァロンと呼び捨てにしたのか? 眷属であるこいつが……


「でもあの間抜けは過ちを犯した。貴方にちょっかいを出しリョウタンに攻撃されて、貴方たちの匂いが微か残ったアタシを、魔王の血族と勘違いして腹を引き裂いたのよ」


 神の気まぐれ、悪魔の酔狂とはよく言ったものだ。

 知らないところでボク達がこうも繋がっていたとはな……


「アタシを殺して間違いと気が付いた時にはすでに遅し。魔王の時渡りに気が付いた英雄王の気配を察してエルヴァロンはこの世界に逃げ帰って来ましたとさ。そしてアタシは時渡りで発生した時の濁流に呑み込まれて今よりも数十年も前の過去に飛ばされた。それが獣人族の村だったわ」

「はぁ……はぁ……ぐ……ぅ」

「そんで、たまたま流れ着いた村のシャーマンが、その村で死んだばかりの子供の死体にまだ残っていたアタシの魂を無理矢理ねじ込んだのよ。無惨な死体を哀れんだと言うより、便利な小間使いとして囲ったって感じだったけどね。はい、これでアタシの昔語りはおしまいよ、チャンチャン」


 ロイがケタケタと笑いながら手拍子交じりに説明する。

 何て皮肉だよ……

 まるで、あらかじめ仕組まれたような誤算という名の運命に翻弄され過ぎている。

 だが、


「自業、自得だ」

「はぁ?」

「ガキとはいえ、粋がった末、だろ」


 ボクのあからさまな嘲笑に、ロイの瞳に憎悪の色が宿る。

 確かにコイツは運命に翻弄された。そこには同情の余地はある。

 だが、それはガキとはいえ他者を力で強いようとした自分が招いた結果だ。

 あの国に生きていた人間には些か酷かも知れないが、粋がった悪ガキが大人に殺されるなんてのはどこにでもある話だ。


 ボクの今の様がそうであるように、全ては自分が招いた結末にすぎない。


 それに、コイツは運命に翻弄されようとも許されない罪を犯した

 ルートヴィッヒを神輿に担ぎ上げた時、どれだけの人間を犠牲にした?

 そうとも……

 

「た、他者を犠牲にしてきたお前に、い、今更……今更同情の余地はない!」

「……ほんと、アルキュンってば可愛い顔して良い根性しているわ。今にも死にそうなくせに、よくもそれだけ吠えられたものね」


 ロイが薄く微笑みながら兄の死体へと歩み寄る。

 まさか……


「よ、よせ、それに触れるな……」

「嫌よ。本当の目的はこれからなんだから」


 ブチ……ブチリ……


 異形と化した死体の中から毟り取られた魔石。


「水晶の中で育まれた魔石、か。一皮剥ければ案外ちっさいものね。でも、秘めた魔素はとっても濃厚♪」

「そ、それを渡す……訳には……」


 ボクの呻きに、ロイが満面の笑みを浮かべた。


「安心しなさい。ちゃんと貴方に返してあげるから」

「な――」


 ズブッ!

 鈍い音が、身体の中から聞こえた。


「が……アアァアアァァァアァァァァッ!!」

「痛い、ねぇ痛いの? そりゃ痛いわよね、生きたまま穴の空いた腹に石ころねじ込まれるんだから!!」


 燃えるような激痛とともに全身を駆け巡る魔素の濁流。

 引き裂かれた腹にねじ込まれた魔石がまるで生き物のようにうねりを上げてボクの全身を蹂躙する……

 

「が……あ……な、何、を……」

「そこの出来損ないじゃ、せいぜい成っても上位魔神か魔貴族が関の山……アタシの本当の目的はね、それは魔王として最高の素体であるアンタの身体を手に入れる事……さぁ! 世界中から掻き集めた魔素を喰らって、全てを超える魔王に生まれ変わりなさい!」

「ガアアァアァァァァァァァッ!」

「最初はね、同郷のよしみでリョウタンをこっちに引きずり込むつもりだったのよ。身体的な適正は十分そうだし。でもね、性格が全然駄目。あの子、メチャクチャな言動なのに壊したくなるぐらい素直で純粋なんだもん。だったらさ、アルキュンの方が性格的にもこっちに引きずり込むのは楽そうかなって」

「ぐ……おあぁぁあぁ……

「兄弟で潰し合ってくれてありがと♪ 無傷な貴方をこっちに引きずり込むのは、なかなかに骨が折れそうだったもの」

「そ、そう言う……こと、か……」

「でもね、ホントはアンタなんか大嫌いなのよ、こっちに何か来て欲しくないの。アンタのせいで帝国が調子付いてくれたおかげで、やっと出来た居場所もなんもかんも台無しにされてさ。ほんとやんなっちゃう」

「ハッ、そいつは悪かったね。ご愁傷様……」

「……チッ、ほんと他人を煽るのが上手いわよね。でも、悪態もそろそろ限界みたいね。だったら最後の一押しに教えてあげる」

「な、何を……」

「リョウタンのお祖父さん、日野京介を殺したのはア・タ・シ♪」

「ッ!」

「あーはっはっはっ、顔色が変わった、変わったわね!」

「何を……ばか、な事……」

「本当よぉ。貴方のせいでアタシの居場所がまた無くなってどうしようか悩んだわ。ここまでアタシの人生を弄んでくれた全てにどう復讐するかを」

「はぁ……はぁ……ぐぅ……」

「それで思い付いたのが、アタシの前に現れたエルヴァロンの配下になることだった」

「なん、だと……何故、自分を殺した敵に……」

「血を流し過ぎたのかしら、そんな事も分からないのね。かわいそ♪ あのね、復讐するには近くにいるのが一番楽じゃ無い。でも行ってみたらた~いへ~ん。無名な獣人崩れのアタシを受け入れてもらえる条件は、時渡りで未来に引き継がれた魔王の因子を消し去ることだったのよ」

「…………」

「でもね、その対象がリョウタンだって言うじゃ無い。そんな条件はアタシには受け入れられなかったのよ。あの子のことホントは気に入っていたし、あの子ってば魔王の中でも最強クラスの遺伝子を引き継いでるって話じゃ無い? だったら、あの子が覚醒してくれればこのクソッタレな世界も未来も、全て消し去ってくれるかなって思ったのよ」

「す、全ては……ガハッ……ふ、復讐のため、か……」

「それ以外の理由なんてあるかしらん? ま、あんなホニャホニャでゆるんゆるんな子になってると分かっていたら、そんな期待なんかしなかったけどね。とにも、そん時のアタシはリョウタンこそ切り札になると思ってたから、時渡りの最中に必死に願ったのよん。アタシが生まれた時代よりももっと前に行けますようにって。リョウタンが生まれるのに邪魔にならない直系の元に行けますようにって。あとは適当にぶっ殺して、その肉でも献上すれば魔王の因子を一つ減らしたことにはなるじゃない」


 ロイがケタケタと笑う。

 

「イ、イカれてるよ……お前」


 うつろな瞳がボクを穿つ。


「ありがと♪ アタシの狂気は貴方が保証してくれるのね。この地上で最も憎まれたガキの貴方が」


 その言葉の先には何も無い。

 ただ、空虚でドス黒い復讐の炎が燃えさかるだけ……


「さぁ面白くなるわよ! 現存する魔王全てを超える、最強の魔王が今この瞬間誕生するの! まずはエルヴァロンを滅ぼしましょう。アレが見たかった終末を絶対に見せてあげないの。そして、次は人間、エルフ、ドヴェルガー、獣人、魔族……この地上に生きる全てよ……全てが命乞いをしながら消えていくの。そして、未来も……」

「させ……ぐ、ぐあぁぁああぁぁぁぁっ!!」


 魔石が、ボクの中に飲み込まれていく……

 意識が、数多の生き物達から掻き集めた魔素に宿る意識が、ボクを支配していく……


「情報を得る為とは言え、死にかけでよく頑張りました。にじゅうまるあげちゃうわ。でも、持ち帰れもしない知識は十分知れたでしょ。さぁ、もう全てを忘れて生まれ変わりなさい。かつて英雄王に滅ぼされた魔王の魂とともに!!」


 ズグン! とボクの心臓が一つだけ脈を打ち、


 鼓動を止めた――





 視界が闇に閉ざされていく……

 音も無く、指先の感覚さえも無い……


 ボクは……死ぬの、か……


 ――そうだ――


 それは、どこからともなく聞こえた声。

 どこか先生に似た、だけど違う声……


 だれ、だ……

 ボクの最後は、見知った人に振り返られることもなく、終わるのか……


 まぁ、お似合いの末路、だな……


 リョウ……


 ――良いのか?――


 ……


 ――良いのか?――


 今さら、何を……


 ――本当に、良いのか?――


 ……


 闇の中にこだまする、悲鳴……

 男も、女も、老人も、子供も……全てを綯い交ぜにした悲鳴。

 嵐のような悲鳴……


 その悲鳴に混ざる、最愛の声……


 ――命の終わりは覆らない。だが、このまま全てを投げ捨て、この結末を受け入れるのか?――


 い……


 ――師との約束も、愛すべき者との誓いも守れず、これから生まれてくるはずの命をさえもその手で奪うを望むか?――


『いや、だ……』


 ――なら、目を覚ませ。かつて死の淵から何度となく立ち上がった男の教え子なら――


『化け物なんぞに、良いように支配されてたまるか!!』

 


 ――そうだ、それで良い……――


 血を流しすぎろくに視力が残っていないボクにも見えた、暗闇に浮かぶ一本の剣……


『そ、そうか時の果てより来たる(ファイナル・)終極を砕きし剣(クラッシュ)……お前だったのか……すまない、その力を借りながら無様に敗北して……』


 ――吠えながらも敗北を受け入れるのか?――


『……それ、は』


 ――かつて我が主と仰いだ男は幾たび敗北しようとも立ち上がり、絶望の中に光を見出し究極の悪を滅ぼした――


『……』


 ――その男に最後の希望とまで言わせた貴様が、あっさりと敗北を受け入れ、たった一度の死で全てを諦めるつもりか?――


『せ、先生……』


 かつて、先生に聞いたことがある。

 英雄王と呼ばれた男の歴史は、決して勝利という栄光に彩られた華やかな物では無かったと……

 数多の友を犠牲にし、信じる民を救えず、強敵を前になすすべも無く敗れることもあった、過酷な日々であったと……


『神剣よ、一つ教えてくれ……ボクの死の先には、何がある?』


 ――それは我にも分からぬ。貴様の中にあったブルーソウルの魂も、魔神や英傑達の血がもたらす加護もすでに無くなった。弱き魂の末にあるのは無情なる消滅のみ――


『そうか……』


 ――だが、貴様が真に強き者であったなら、或いは数多の英雄達が真なる未来に旅立ったように、新しい命の道が開けるやもしれぬ――


『それだけ、聞ければ十分だ。神剣よ、どうか最後の頼みを聞いてくれ……』


 ――貴様が諦めぬのなら、可能な限り――


『近い将来生まれるボクの子に、その力を貸してはくれないか?』


 ――……我が主に相応しき資質があるなら――


『ああ、それなら大丈夫だ。ボクだけじゃどうしようもなく頼りないけど、リョウの血も心も、そして偉大なる竜王ブルーソウルの魂までも引き継いでいる』


 そう、ボクの身体の急速な衰えも、リョウが再び魔術を失敗するようになったのも、そのお腹の中に新しい命を宿してくれたから……

 

 そう、だ……

 一度も抱いてあげることは出来ないけど、ボクは父親になる。

 せめて京一さんみたいに、家族のために前だけ向いて進まないと……


 もう二度と、何もかもを……「嘘になんかするもんか!!」


 全身から吹き上げる魔素の濁流。


「な、はぁ!? ちょ、ちょっと……あ、アンタ死んだんじゃ……」

「これはボクの身体だ! 魔石や魔王如きに支配なんぞされてたまるか!! 喩えこの肉体が朽ち果てようと、ボクの誇りと思いまで貴様の思い通りに何かさせるものか!!」


 再びボクの右手に戻って来た神剣にありったけの魔素を流し込む。


「こ、この死に損ないが……調子にのるんじゃねーわよっ!!」

「滅せよ! 昏き復讐者!!」


 無心で、ただ無心で神剣を振り抜いた。




 ドーンッ!!


 雷鳴が聞こえた。


 ザー……

   ザー……


 暗い曇天の下で……

 雨音が……


    ザー……

     ザー……



 いつまでも……

 耳鳴りみたいに……


 ザー……

  ザー……


 泣いていた……


 そこは、まるで見覚えの無い場所。

 そこは積み上がった瓦礫の山の中。

 そこに黒衣の男と対峙する神剣を構えた若者がいた。

 

 これは……

 あぁ、これは夢だ……

 恐らく神剣が見せた、泡沫の夢……

 でも、そうか……

 うん……

 神剣よ、感謝する……


 ボクを止める力(・・・・)を、この子に与えてくれて。


 リョウ、すまない。


「ボクはキミを残して、逝く!!」


 振り抜いた神剣が生み出した衝撃波。

 魔素と神気が混ざり合った暴風が城を引き裂き、復讐鬼を瓦礫ごと呑み込んだ。

 抵抗を許さず、悲鳴さえも呑み込み、暴風が去った後は……

 空が、ただ青かった。


 カシャン……


 神剣に魔素を吸い尽くされた魔石がボクの中で粉々に砕け散る。


 夜が明けた……


「ハァ……ハァ……」


 厄介な運命だけ残し……て、ごめん……


「どうか、君達の進む未来に、この青空が……ひろ……」


 ドサ……






























「じゃあ、行ってくるよ母さん……」


 命は続き、魂は引き継がれる――

 近日中にアフターストーリーを数話投稿予定です。

 その後第二部を開始致します。



 リクエストを多く頂きまして、リョウ達の閑話というか、ぶっちゃけ十八歳未満は読んじゃあかんよ、ってお話も投稿しております。


 興味のある読者様は【夏目 (おとな)】で検索して下さい。

 夏目と()の間に小スペースいりません。

 あくまで、大人の方(十八歳以上)限定でお願いします。


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