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アルフレッド・何処にも、誰にも届かないボクの誓い

2020/01/28,30に投稿した『アルフレッド・すがる』『アルフレッド・殺し合い』結合しを表現を中心に改稿しました。

 帝都を包み込んだかつて無い不気味な警報。

 警報の発信源は帝城。

 過去幾度も戦火を耐え忍んできた帝城は今、昼下がりの空を赤々と燃え上がる炎と黒煙で乱雑に塗りたくっていた。


「どっちに向かった!?」

「応接塔で百人隊長が負傷した姿で発見されています!」

「隊長! 財務塔で火災が上がっております!!」

「おのれ侵入者めっ!! どこに……うぉぉぉ、何だこの揺れは!?」

「隊長、じ、地震で床が揺れて……」

「ち、違う、こ、これは、床がそそり立っ……逃げろ、倒壊するぞ!!」

「ど、どこに逃げれば……」

「うわぁああぁぁぁぁ!!」



「残り、十七発か……」


 手の中の残り僅かになった弾丸を眺めながら、空になった弾倉に一発一発詰め直す。

 かつて向こうの世界でテロリストどもから奪い取った、恐るべき破壊力を誰にでも安易に委ねる忌むべき武器。

 敵から奪い取りながら、自分では使うことはないと先生の武器庫にしまい込んで存在すら忘れかけていた。


「まさか自分で使う日が来るとはね。そういや、これを見付けた時のリョウはやたらと目を輝かせてたっけな」


 ハハ……


 吐息とともに吐き出した笑いが、喧噪に砕けて消える。


 ほんと、一人になれば尚のこと思い知らされるよ。


 ボクの思い出は、キミとの思い出ばかり。

 無邪気に、何も知らない子供みたいに笑っていられた――


 幸せの時間だったな。


「居たぞー!!」

「五月蠅いな、少し位は思い出に浸らせてくれよ……近付かなければ、君達には何もしやしないんだから」


 怒号の中に、炸裂音を一つ解き放つ。

 見えない弾丸に武器を打ち砕かれた兵士が衝撃で吹き飛んだ。

 ピタリと固まる男達。

 走り抜けざまに先頭の男に蹴りを放ち、群れる三人を巻き込んで吹き飛ばす。


「はぁはぁ……情けないな。追われ追われて本城から随分離れてしま……ッ!?」


 キンッ!


 乾いた金属音。

 銃身で辛うじて受け止めたのは、黒塗りの刃。

 一瞬でも反応が遅れていたら真っ二つだった。

 それにしても、


「ボクに近付く気配さえも感じさせないとは……」


 振り返れば見たことも無い(・・・・・・・)紋章を鎧に刻んだ女騎士が、能面のような表情で佇んでいた。

 背筋に冷たい汗が流れ落ちる。

 確かに、ボクの身体は全盛時の半分以下だろう。

 だとしても、だ。まさかこんなところで不意を突かれるとはね。

 益々嫌な予感がするよ、ほんと。


「お前は誰の手先だ? まぁ、こんなこざかしい真似をしてくるのは知性を自称するヤツぐらいなもの、おっと」


 軽口を叩くボクに無言のまま降り注ぐ斬撃の雨。

 こんな連中でも主を貶されて腹を立てるぐらいの気概は持ち合わせてるみたいだ「な、っと!!」


 ゴッ!


 刃を反転して躱しながら、銃床を女の後頭部に叩き付ける。

 気絶じゃ済まない、頭蓋骨を破壊して命を奪える一撃。

 だが――


「ぐっ!」


 腹に焼けた鉄棒でも当てられたみたいな痛みが走る。

 くそ、直撃は避けたが浅く斬られたか。


「たく、いくらバケモノとは言え、後頭部を思い切り殴ったんだから昏倒ぐらいしてもらいたいね!」


 悪態をつきながら、女騎士の顔面に右ストレートを思い切り叩き込む。

 鈍い衝撃とともに吹き飛ぶ女騎士。


「あ゛ぁあ゛あぁぁ……今更フェミニスト気取るような人間じゃ無いけど、流石にこれは絵面が悪い」


 斬られた痛みよりも思わずそんな言葉が口をつく。

 こんな所をもしリョウに見られたら何を言われるか。

 きっと自分の言動を棚に上げてひっどいこと言われるんだろうな……


『アル君、いくら魔神(・・)相手でも、見た目女の子の相手にそれは無いと思う』


 いや、違うな。

 これじゃただの抗議だ、こんなので済むはずが無い。

 リョウの事だからきっと、苦虫噛み潰したみたいに眉間に皺を寄せて、


 って、ボクは――


「ボクは、何を考えてるんだろうな……」


 置き去りにしてきたんじゃないか。

 幾つも置き去りにしてきた過去と一緒に、自分の最愛までも置き去りにしてきたってのに……


 今更、

 今更、何を……


 すがろうとしているんだ?


 リョウにすべきは、甘えることじゃ無い。

 全てにけりを付けたら――


「ああ、そうさ」


 寝転がっている女騎士の髪を鷲掴みにして持ち上げる。


「うがが……まさかミスリルとはな」

「ほう、人語を発声出来るのか。悪かったな、変身能力を得ただけの【なりそこない】だとばかり思っていたよ」

「ぐ……どこまでも不遜な男よ」

「嫌ってほど自覚しているさ」


 コイツとの会話を楽しむ気は無い。

 有無を言わせず銃口を口の中にねじ込む。


「いくら魔神(・・)でも、下位種じゃ中から弾丸ぶち込まれちゃ終いだろ」


 パン! と乾いた音が響き、女騎士の格好したソレ(・・)の頭がはじけ飛ぶ。

 赤い噴水の下で、唇が薄気味悪く歪む。


「ガボガボ……お、恐ろし……小僧、だ……」

「頭吹き飛ばしたんだからもう死ねよ。いくら魔神とは言え流石にしぶとすぎるだろ」

「ふ……ああ、間もなく私は死ぬ……一足先に待っているよ、地獄の釜底でな……どうせ貴様は生き残れない……」

 

 魔神は口元に怪しい笑みを浮かべると、今までそこに居たのが嘘であったかのように一瞬にして朽ち果て消滅した。


「生き残れない、ね。たぶん正解だよ」

 

 だから、全てにけりを付けたら、


 地獄の底の底で、何時かリョウに笑顔が戻るその日を信じて祈り続けるさ……





 ポタ……


 ポタ……


 血を、流しすぎた、四肢に力が入らない。


「ぐ……ハァハァ…………はぁ……」

 

 壁にもたれかかり霞む視界で天窓から見た空には、すでに地球の青い光が浮かんでいた。

 古巣に来て、何時間が過ぎただろう。

 酷く長く永くいような、それでいて、ほんの一瞬だった気もする……


「地球の青、か」


 夜空に浮かぶ鮮やかな青――


 子供の頃から慣れ親しんでいたはずの夜空。

 それら当たり前に脳裏に焼き付いていたはずの光景。

 だけど、ボクの心がこの世界の夜空を否定する。


 向こうの世界で見た夜空に浮かぶ月。


 はじめてあの世界を訪れた日から、どれほどあの世界を求めただろう。

 あの穏やかな夕日に彩られた微睡みを覚える世界に、どれほど焦がれただろうか。

 焦がれ、求めて、自分が異物に過ぎないと恐れ、逃げ出して……


 だけど、どうしようもなく愛おしくて……


 ただ、あの日に君と出会えた事だけが……………………




 ッ!


 ヤバい、一瞬意識がぶっ飛んでいた。

 ボクは、何を考えていたんだ?

 何、を……


「ぐ……ガハッ……」


 身体を走り抜けた激痛が現実に引き戻す。

 腑抜けるな、アルフレッド!

 お前が成すべき事を思い出せ!


「はぁ……残り……」


 三発、か。

 力が入らず震える指先で弾を込める。

 情けない。

 まさか、ここまで苦戦するとは。


 あの女騎士の格好をした魔神との戦いの後、立て続けに魔神四体との交戦。

 魔神はあと、どれだけの数がこの帝都に巣くっているのだろう?

 一体か、それとも途方もない数か……

 自分の想像に、思わず苦笑いがこみ上げる。


「ハハ、考えたくも無いね」


 まぁ、あれさえ手に入れれば魔神どころか魔王ごと一網打尽に出来るだろうけどね。

 でも、それは最後の手段だ。


 いや、最後の手段にさえしてはならない。

 喩えこの世界が儚い夢の世界だったとしても、何もかもを無に帰すことは許されない。

 だから、最愛(リョウ)を置き去りにしても止めるためにここまで来たんだ。


 ……先生。


 幼木が大樹となって朽ちるほどの時が流れても、何も知らない幼い命達を見守り続けた偉大なるカーズ。

 

 もう、二度と先生とは呼ばせてくれなかったとしても、せめて、せめて最後くらいは貴方が守り抜きたかった世界を守ってみせます。



 それは何処にも、誰にも届かないボクの誓い。

 だけど命がけの誓い。


 だから……

 

「ハァ……二度とは来るまいと思ってたのに、またここに踏み込むことになるとはね」


 足がもつれようと、視界が歪もうと、ボクが終わらせないといけない。

 眼前にあるのは誰がくぐるのを想定して作られたのかも分からない、無駄に巨大で華美な扉を睨め付ける。

 

 この先にあるのは皇帝がふんぞり返る玉座の間(みえのま)だ。


「はぁ、はぁ……よし」


 投げ捨てた手榴弾が盛大な破砕音を上げ風穴が穿たれる。

 爆煙を纏いながら歩むレッドカーペット。


「いよう、久しぶりだなアルフレッド。扉くらい静かに開けろよ騒々しい。育ちが疑われるぞ」

「胸を張れるほど良い生まれじゃ無いんでね」


 我が物顔で玉座に座る男の軽口に軽口で返す。

 認めたくは無いけど、どことなくボクに似たその男は口角を歪に吊り上げ薄気味悪い笑みを浮かべた。


「十二年ぶりくらいか?」

「さあ、覚えてないね」

「そう邪険にするなよ、兄弟」

「兄弟? そんな気やすく呼び合うような関係を築いた覚えはないね」

「そういや、そうだったな。端から懐かしむ間柄なんかじゃなかったな。なら、さっさと始めるとするか」

「ああ、ここからは」


「「殺し合いだ」」

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