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TSヒロイン・旅のオワリ

2020/01/18に投稿した『TSヒロイン・旅のオワリ』を表現を中心に改稿しました。

前回とは打って変わった展開となります。


 一年後――


 人類に対して最も穏健派と言われ、北のサイハテに居城を構える魔王レオニスと盟約を結ぶ事に成功した。


 魔王レオニス――


 その容姿は驚くほどカーズさんに似ており、あのアル君でさえも一瞬動揺したほどだった。

 そんな魔王との邂逅は、意外なほどすんなりとした物だった。

 まぁ、すんなりとは言っても認められる為に力を示さなければならなく、上位魔族達と三日三晩戦う羽目になったのだが今となってはそれすらも良い思い出だ。


「そなた達の力、確かに我と異にする魔王達に終わりをもたらす事が出来るかも知れぬ」


 そう、語った魔王レオニス。


 四大魔王はそれぞれに違う終わりを求めている、らしい。

 それは、


 この世界全てに終わりを求める竜王ラースタイラント。

 世界、命、未来、全てに終わりを求める魔王エルヴァロン。

 この世界に終わりをもたらし新しい未来を歩もうとする魔王レオニス。

 そして――


 全てが不明の魔王。


 それは、知性の魔王と称させるレオニスでさえもその正体を掴めていないと言う謎の存在。


 正直、たった一人の魔王に辿り着くのにさえ一年もかかった。

 いや、むしろ一年でたどり着けたのは優秀だったと思うべきかも知れない。

 以前の私達なら、あの強烈な吹雪の結界に支配された魔王の領域には到底辿り着く事なんか出来なかった。

 カーズさんに鍛えてもらった後も研鑽を積んだ恩恵だろう。

 そう考えたら、一年で辿り着けたのは快挙なのかも知れない。

 だけど……


「アル君、大丈夫?」

「あ、うん。ちょっと、疲れたかな」


 あの強がりなアル君が、決して弱い姿を見せようとはしなかったアル君が、弱音の吐露。 それは、妻になった私に隠し事をしなくなったというのもあるけど、それ以上にアル君の衰えは目に見えていた。

 あれほど長けていた魔術の行使も上手くはいかなくなり、戸惑いや苛立ちを見せる日が多くなっていた。


 カーズさんから聞かされた、アル君の残りの寿命。


 ブルーソウルの恩恵が本当にあるのか、それがどんなものなのか、正直分からないという不安。

 そんな日々を送る中、二人何も示し合わせぬままに訪れたのは帝都から遠く離れた南の地。

 帝国領とエルフ達が支配するアルトリア王国の中間の山間。

 そう、私とアル君が初めて出会ったあの森の中だった。


「ここを離れて、何年も経っていないはずなのに随分と懐かしいな」

「うん、そうだね。あ、アル君見えてきたよ、アル君が住んでいた家の……残骸」

「あはは、ほんとだ。見事な燃えかすだ。うん」


 こんなボロボロになった家を見て懐かしむとか、ちょっと切ない。

 けど、それでも、うん、懐かしい。

 ここでアル君と出会って、アル君を好きになって……気が付けば俺は私になることを受け入れていた。


「……よっと」


 アル君はおっくうそうに身体を動かしながら、切り株に腰を落とした。


「アル君、大丈夫?」

「アハハ、大丈夫だよ。心配しすぎだよ」

「うん……」


 アル君は穏やかに微笑みながら、まるで大丈夫だよと言わんばかりに切り株の上で小さく伸びをした。


「あ、見てアル君。こんな所に新芽が生えてる」

「ほんとだ」

  

 その切り株は、切られてから随分時間が経っているはずなのに、小さな新芽を咲かせていた。


「懐かしいな、その切り株。アル君に弟子入りした頃に、何度も吹き飛ばされてはその樹に腰掛けて泣いてたっけ」

「……ボク、そんなことしたっけ?」

「えぇ、そりゃもう。アル君は忘れてるかもだけど、その木が折れて切り株にしたのだって、吹き飛ばされた私がぶつかってへし折ったからなんだよ」

「えっと……」

「ほんと、アル君ってば愛する妻に対する仕打ちとは思えないほど苛烈でしたよ」

「そ、その節はすいませんでした」

「なんて……冗談」


 アル君の隣に腰を下ろすと、遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声。

 ……あれからほんのちょっとだけ時間が過ぎた。

 何も変わらないようで色々と変わって、だけどここは何も変わら無くて。


「ねぇ、アル君」

「うん、どうしたの?」

「あ、あのね」

「うん……」

「全部、さ……」


 全部――全部投げ出してやめない?


 僅か一年とちょっと前にカーズさんに啖呵を切って、つい三ヶ月ほど前には魔王レオニスとさえも盟約を結んだくせに、そんな言葉が喉の奥で震えている。


「リョウ……」


 私の名前を呼んで優しく手を握る。

 まだ大人になりきらない、小さな手。

 数え切れないほどの罪を背負ってきた手。


 だけど、誰よりも温かく私が大好きになった人の手。


「その先は、言っちゃ駄目だ」

「アル君……」


 あぁ、うん、分かっているよ……

 ごめんね、これは、私のわがままで、手を伸ばしちゃいけない願いだ。


 南に向かって、アルトリア王国を越えて、竜王ラースタイラントを倒す……

 そして、エルヴァロンも滅ぼして、見えざる魔王も倒して……


 それが……

 それこそが、何よりも優先しなきゃいけないこと。

 何よりも……


「ま、そうは言っても、無くなっちゃったけどとりあえずは懐かしの我が家だよね。今日はここで一泊していこうか」


 アル君が私の気持ちを察し、優しく微笑む。


「アル君……」


 だけど……


 

 私達の旅は、この日を最後に終わりを迎えた。

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