TSヒロイン・「ぷぷにぷにぷに」
2020/01/17に投稿した『TSヒロイン・「ぷぷにぷにぷに」』を表現を中心に改稿しました。
ププニプニプニププニプニ。
私のお腹がププニプニ。
「……あかん、私のお腹周りに異常事態が発生中」
軽快な音を奏でる自分のお腹を摘まみながら、冷や汗が垂れ落ちた。
な、何だ?
何が起きてこうなった!?
お、思い出せ……何が起きたのかを……
……
…………
………………
カーズさんが旅立った。
それは悲しい事。
だけど、永遠とも言える自責から解放され、本来あるべき時間に戻れたのは喜ぶべき事のはずで……
だけど、それを心の底から望んでもアル君の悲しみは深かった。
……当たり前だ。
自分が成りたかった憧れの人。時に父や母のように、あるいは祖父母や兄姉のように接し愛してくれた人との永遠の別れなんだ。
私だって父さんや母さん達が突然居なくなったら、どうして良いのか分からなくなる。
そんな落ち込んだアル君のことをどう慰めたら良いのか模索していた私は……
気が付いたらアル君をご飯責めにしていた。
何じゃそりゃ! ってツッコミを入れたいのは分かる!
私だって他人がやってたら『なんでやねん! って似非関西弁混じりに突っ込みを入れていたはずだ』
だけど、ちょっと待って。
これはウチの父さんの持論なんだけど、
『落ち込んでいる時、辛い時、怪我をしている時……そんな時こそ飯を食え! 喰らう事こそが人間の根底にある本能だ! どんな時でも喰らう事を忘れるな! 人間腹が膨れてさえいれば、次に笑う時まで生きる事が出来る!!』
……うん、改めて言う事でも無いけど、何たる脳筋理論。
や、持論を展開している相手が父さんの時点で間違いな気もするけど、でもウチの家族は嫌な事や辛い事があった時の晩ご飯は必ず肉だった。
胃が受け付けない時もあったけど、食べなかった次の日よりも、食べた次の日の朝の方が元気だった。
だから……
私は肉を焼いた!
ええ、焼いて焼いて、その量たるや日本から持ってきたWAGYU十キロ、三日で全弾使い尽くしましたよ。
そして、結論から言うなら、その七割以上(八割未満だよ、ほんとだよ)が私の胃袋に入った……
や、ちゃうねん!
私が食い意地が張ってたんとちゃうねん!
ただ、食欲がそんなに無かったアル君の分も食べてただけさ!
そう、うちの父さんは絶対にお残しを許さない教育方針だったから、私もそのクセが付いてただけだから!
や、それなら端から作る量を考えろって話なんだけどさ……話なんだけど……
その、アル君が元気になってくれればと思って、ちょっと頑張り過ぎちゃったんだもん。
まぁ、その結果がですね、このお腹に付いたプニプニと言いましょうか……
「リョウ」
ムニッ!
「みぎゃあぁぁあぁぁぁぁっ!! アル君何ゆえ何時の間に!?」
気配も無くいつの間にか私の背後に立っていたアル君。
しかも――
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに
「にゃあぁあぁぁぁ……や、やめ、やめ……て……」
ぷにぷにぷにぷに……
「や、やめ、こ、この、うがぁー!!」
ごんっ!!
「ぐ、ぐおぉぉぉ……」
「あ、咄嗟に! ゴ、ゴメンねアル君!」
思わず本気のジャンピングエルボーでアル君の頭を殴ってしまった。
訓練以外で叩くのは、初めてかも知れない。
だけど、
「だけど今のはアル君が悪いと思うよ! 人が気にしているのにプニプニプニプニ!」
「あ、ゴメン……触り心地が良くてつい」
「触りごこ……みぎゃー!!」
「えっと……」
「アル君が意地悪言った! どうせ腹の中じゃ『ガムシロは天然のミネラルウォーターって思ってんだろ』とか、『そのうちメガネの下側が頬の脂で濡れるに決まってる』とか思ってんだ!」
「いや、あのね……って言うか、そもそもキミはメガネを使ってない……」
「そして何時か言われるんだ……」
「こ、今度は何さ?」
「『HAHAHA、藪からスティックなバッドトークをするけど、ウチのワイフが最近ファットでBAT何だよ』、とか屋台で隣に座った見ず知らずのおっさんに嫌みったらしく話すんだ! うわーん!! アル君のばかぁあぁぁぁ!!」
「や、や、あの、その発想は被害妄想通り越してもう病気だよ!? って言うか、お願いだから落ち着いてってば!」
「うぅぅぅうぅぅ……がるるるる……」
「野生動物じゃ無いんだから、唸り声を上げないの。ボクも無神経に触ってしまったのは謝るけど、その、悪意があった訳じゃ無いから」
「う~……嫌いにならない?」
「なるわけ無いでしょ」
「シッシッってしない? お前が隣に居ると気温が二度は上がると酸っぱいんじゃか言わない?」
「だから、キミはボクを一体何だと思ってるんだ? 自分の大事な人にそんな真似するはず無いだろ」
アル君がふわりと優しく抱きしめてくれた。
「キミは少し細過ぎるくらいだから、多少肉が付いたって細過ぎが細いになるぐらいだよ」
「でもでも、このままあらぬところが成長したら、私の語尾が『でぶぅ』とか『ぶふっ』とか、普通の会話なのに濁点が多くなるかも知れないよ?」
「う、う~ん、流石にそうなる前には健康のためにもどうにかしようね。って言うか、そもそもそのプニプニはボクを励まそうとした結果でしょ。まぁ、あの肉攻勢は凄かったけど、君の優しさからなのは、ボクだって分かってるよ」
「ア、アリュくん……」
バタン!!
「うわぁ!!」
家の中に響いたアル君の叫びと鈍い音。
気が付いたら何故かアル君が私の下で仰向けになっていた。
「えっと、どうした、の? 目の奥にハートが見える気がするんだけど……」
「愛故に!!」
「それって答えなの!?」
「アル君も少し元気が出たですよね?」
「で、出たよ、うん、出た出た。ってか、語尾がすでにおかしい!」
「ダイエットに付き合って!」
「えっと……どんな?」
「NO アル君、NO LIFE!!」
「何じゃいそりゃ!?」
「私、HATUJYO!!」
「こ、こら……みゃくりゃ……」
二日後――
私のお肉は見事に消えて、アル君はビックリするぐらいやつれました、テヘ。
振り幅が酷い回ですが、次回、シリアスです。






