カーズ・去りし者
2020/01/13に投稿した『カーズ・去りし者』を改稿しました。
目を閉じれば今でも鮮明に思い出す。
かつて超大国と呼ばれ栄えた大国。地上の絶対王者のように君臨したその国が、わずか一夜で滅んだあの日の事を。
大地の奥底から呼び覚まされたマグマの津波が世界を呑み込んだあの日の事を。
海は干上がり、大地は焼け爛れ、やがて吹き上げた火山灰が星を包み陽光が消えた世界。灼熱から凍えた大地へと変わり果てた世界からは命が消え果て、やがて生き残った人々の心もまた凍てつき獣と成り果てた時代、私もまた敗北にまみれた弱き獣であった。
守りたい、救いたい……
そんな届かぬ願いばかりを求め、彷徨い歩き、
気が付けば、数多の命を二度とは届かぬ過去に置き去りにした。
誰一人満足に救えず、多くの命を犠牲にした。
だから、これは私の罪だ。
この終わりなき無限の牢獄は、何一つ守ることの出来なかった私の贖罪……
それ、なのに――
世界からの解放――
まさか、そんな日が来ようとは思いもしなかった。
私よりも遙かに若く幼い者達は私よりも早く老い、そしてまたその死を見送ることになるのだろうと、
諦めていた。
アルフレッド――
お前が私に師事したいと懇願したときも、そう思っていたよ。
瞳の奥に宿る憎悪、決して噛み砕くことは出来ない絶望と怒り……
まるで、私の過去を見ているようだった。
決して癒えることの無い心の傷。解き放てぬ後悔。
数多の負が複雑に絡み合ったお前の心には、一条の光さえ届かない深遠のようでさえあった。
逃げと言われようとも、死こそがお前自身を救うのでは無いのか?
そう思うことさえあった。
リョウ――
そんな私の誤った考えを、まさか平和を享受した世界で生きてきた其方に正されるとは。
だが、そう言うモノなのかも知れないな。
未来を切り開くのは、何時だってその時代に生きる青年の力だ。
ふふ……
不思議なモノだ。
「「人を、嘗めるな! 未来は今生きる私たちが護り紡いでみせる!!」」
あれほど頼りなかったお前達が今や私に啖呵を切るまでに成長してくれた。
私に吠えるなど、怖かっただろうに、な。
なぁ、ハルカ。
私は、私は……
許されても、良いのだろうか?
奪った命、守れなかった命……
秤にかけることなど出来無いほどに数多の命を奪い続けた一生。
何一つ、守り切れなかった愚かな男……
私は……
――カーズ……――
それは、幻聴のように聞こえた音色だった。
ただ、柔らかく、
どこまでも温かく、
そして……
………………あぁ、そうだな。
そうかも知れないね《・》、ハルカ……
私は、頑張れた………………かな?
ならば――
そう、だね……
うん……
うん……
アルフレッド、リョウ……
お前達に、バトンを引き紡ごう。
その紡ぐ命の先に、暖かなる太陽と優しき月の恩寵があると信じて……
もう、私は力を貸すことは出来ないが、どうか手を取り合って未来を切り開いてくれ。
この世界を愛した、かつての英雄達が、最後の一瞬まで命を燃やし輝かせたように。
「遠い未来の空から、其方達の運命が光り輝くことを祈っている。さらばだ」
人の身を捨て、長く永い刻を生きた私の運命は、終わりを迎えた――
「じぃちゃん、ばぁちゃん行ってきます!」
「ぬぉおおぉぉぉぉぉぉっ!! ひ、一人で登校何て、は、早すぎるぅうぅぅぅぅ! じ、じぃちゃんが、じぃちゃんが、い、一緒について行ってあげるからぁあぁぁぁぁ!」
「ダメですよ、かず葉ちゃんももう小学生なんだから。いつまでもくっついて歩かないの」
「だ、だけど、だけど……お、俺の初孫は宇宙一可愛いんだ! 誘拐されたら困るから、行ってくゆ!!」
「あ、こ、こらー! また娘に怒られるわよー!!」
「ぬぉおおおぉぉぉぉ! かず葉待ってろ! じぃちゃんが、じぃちゃんがお前を守ってやるぞおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉっ!」
『そこの暴走車……じゃなかった、暴走人! 止まりなさい! ここは四十キロ制限! 貴方は六十キロオーバーで走っています! 止まれ! 止まれって言ってんだろうが! 止まらんと撃つぞごるあぁあぁッ!』
「うっせぇ邪魔すんな! オレの初孫愛を邪魔すんならボーナスステージみたいにそのミニパトボコボコにすんぞ! うぉおおぉおぉおぉぉぉ!! 天高く吠えろ俺の双脚!!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
『こ、こらー! 加速するな止まれえぇぇぇぇ!! こ、今回こそ貴様を逮捕してやる! 止まらんかぁあぁああ!!』
この小さな田舎町に起きた賑やかな出来事は、
もしかしたら在るかも知れない未来の一つの可能性……






