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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
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京一・亡都に在りし……

2019/06/05・6に投稿した『魔力酔い』『王無き亡都』を誤字表現を中心に改稿し、京一の心情をかなり追加しました。

 日野京一の来世にご期待ください――


 一瞬、やたら渋いイケボでそんな言葉が脳裏をよぎる。


「……って、冗談じゃ無い!! カメレオンに食われてあの世行きとか、シュール過ぎんだろ!」


 閉じる口をこじ開け脱出を試みる。

 だが、カメレオンのくせに蛇みたいに先が割れている舌は――


「うしゃらうしゃうしゃうしゃしゃしゃしゃ……ひ、ひひ、ひ……」


 俺に巻き付いたままさらに腋をくすぐってきやがった。

 くそっ!

 綾さんしか知らない、俺の秘密『腋が激弱なこと』に気が付くとは……


 踏ん張るも、力が入らずついには再び閉じてしまった口。


「あかん……このままじゃ本気で来世にご期待になっちまう……」


 くすぐり攻撃の後にさらにグリグリと絞まってくる舌に雷撃を放つ。が、何てこった、まるで表面を撫でるみたいに電撃は走り抜けるだけ。


「え、え~……そ、それならば」


 火炎魔法を喉の奥、内蔵へと向かって解き放つ。内臓は流石に鍛えようが……え、えぇ~……直撃して爆風を起こすが、ただそれだけ。まるで変化なし。

 って言うか、よく見たら身体の中も外皮と同じ金属の光沢を放っていた。


「……おいおいおいおい! 普通デカ物退治は飲み込まれたら腹の中で暴れるってのが、一寸法師時代からのお約束だろ!! 内蔵(なか)まで硬いとかどんだけじゃい!?」


 どんだけじゃいどんだけじゃいどんだけじゃい……


 俺の絶叫が山彦みたいに金属の内蔵に反響する。


「あ、あかん……散々調子こいて来たけど、これはえげつなくピンチな予感」


 ……最終的にウ〇コで排出されるのか?

 いやいや、ウ〇コはダメだろ!

 世間からウ〇コな旦那なんて陰口叩かれたら離婚されかねん!!


 考えろ俺!

 どうやったら脱出出来る?

 ……そういやカメレオンって、トカゲの仲間だよな?

 トカゲって、爬虫類……いや、両生類だっけか?

 あー、くそ、ろくに勉強してこなかったツケが出てやがる。

 ええい! とりあえず魚じゃあるまいし、肺呼吸ってことはないだろ!

 ……まさか異形の呼吸方法は特殊とか言わんよな?


「とりあえず、このままじゃ俺は美味しく消化されるのがオチだ。喰らえ!」


 俺は以前、良が向こうの世界で見せてくれた氷の魔術を思い出し、喉の奥を全て埋め尽くすほどの氷の柱を生み出す。

 炎の爆発ですら傷一つ付かず、強化した俺の拳すら受け付けなかった外皮と同じ光沢の内臓。

 氷如きで傷が付かないのは百も承知だが、それでもお構いなしに氷を発生させ続ける。


 やがて隙間無く喉を埋め尽くした氷。

 と、ほぼ同時であった。大地震みたいな酷い揺れが襲ってきたのは。

 巨大カメレオンがのたうち回っているのだろう。


 元来トカゲってのは寒さに弱い。

 内臓から冷やされるんだ、たまったもんじゃないだろう。

 更には呼吸経路も氷で塞がれてるんだ、酸欠で地獄の苦しみだろうよ。


 程なくして内壁が光沢を失い鈍色に変わる。

 こんな硬くても苦しいと色は変わるみたいだな。そう、チアノーゼ状態ってやつだ。

 そして、不意にほどけた舌。

 空気を求め開いた口。


「よっしゃ!」


 隙を逃さず脱出成功!

 と、またもほぼ同時であった。

 灼熱の痰を巨大カメレオンが吐き出したのは。


「うぉ! ギリギリだったな……」


 燃え盛る大地。

 あと一歩遅れていれば、俺も火だるま確定、チリチリパーマ状態だった。

 って言うか、爬虫類のくせに炎を生み出せるとかどんだけ万能なんだよ……


 何て呆れている暇も無い。

 何せ巨大カメレオンの目がギョロギョロと忙しなく動き始めたのだ。

 ま、餌である俺にしてやられたのだ。

 怒り心頭ってところだろう。


 さて、どうする?

 魔法も通じず、ぶん殴っても意味が無いときたら、正直手詰まり何だが……


 ……あ、戦わないでこのまま逃走すりゃいいのか。


 って、背後を気にしなきゃならん状態ってのは流石に落ち着かん。それよりもこの塔は逃げたらダメとかアルフレッド君も言ってたしなぁ……


 どうする?

 戦略撤退ってことにすれば、逃走とは判断されないか?

 ……言葉遊びとか言われて終わりっぽいな。

 何より、散々コケにされて逃亡とか間尺に合わん。


 …………そうだ。

 俺は再び魔素でソナーを放つ。

 辺りに点在する敵意の数。


 別に合間を縫って逃亡を図るつもりはない。


 ソナーの反応を確認し、この巨大カメレオンと似た反応を幾つか見つけ出す。

 そして当たりを付けるのは、目の前の巨大カメレオンよりも小さい(・・・)反応にだ。


 俺は一番近くて小さい反応を探し出し、それに近づく。


 なるほど、あの巨大カメレオンが異常成長をしているのか、こいつはまだ子供なのか……

 それはわからないが、三メートルほどの(それでもヒクぐらいデカいが)ワニサイズのカメレオンが居た。


 しかもクソ生意気にも俺に向かって威嚇してきやがった。

 まぁ、俺よりもデカいんだ、餌ぐらいにしか思われてないのも仕方ない。

 いや、逆に俺に敵意を持ってくれるならありがたい。

 容赦なく生贄(ぶき)に出来る。


 伸びてきた舌を鷲掴みにしそのまま一本背負いで地面に叩き付けた。


 ゴイ~ン!


 明らかに生体を地面に叩き付けたとは思えない金属音。と言うか寺の鐘でも付いているみたいな音がした。


 

「コイツら、サイズに関係なく硬いのかよ……ま、そうでないと困るのはこっちなんだがな」


 GYAGYAYGAGAGAGAGAAGA!!


 衝撃波みたいな鳴き声が大地を振るわせる。

 ち、あの巨大カメレオン、俺の居場所に気が付きやがったか。


 とりあえず目の前のチビカメレオン(何度も言うが、それでもデカい)の尻尾を掴んで回収すると、俺は高速移動で巨大カメレオンから一キロほど距離を取る。

 ヤツはまた俺を見失って辺りをギョロついている。


「氷よ、砲身となれ」


 氷で生み出した直径一メートルほどの砲身。

 ま、ぶっつけ本番だが何とかなるだろう。

 俺は砲身にカメレオンを放り込む。


 角度はオッケー!!

 砲口を巨大カメレオンに向いた。

 あとは両手にありったけの魔力で生み出した電力を尾栓とも言える場所にぶっ刺し、ありったけの魔素で電力を生み出すだけだ。


「喰らえ! 簡易レールガン!」


 耳を劈く爆音と同時に発射される砲弾(チビカメレオン)


 ……

 …………


 俺の耳に音が戻って来た頃、やや遅れて巨大カメレオンがぐらついた。

 眉間に空いた風穴。そこからドロドロと溢れ出すコールタールみたいな粘性の赤黒い血。

 やがて、木々を薙ぎ倒しながら崩れ落ちた。

 その姿を確認すると、俺はその場に頽れるみたいにして座り込んだ。


「つ、疲れた……」


 後先考えない博打みたいな戦い方をしてしまった。

 さすがにこの歳でするような無理の仕方じゃなかったな……

 って言うか、魔力が枯渇しかてるおかげで、自分の中に冷静さと言うか理性が戻って来たのを自覚する。

 ぶっちゃけると、あのエーテリアスだかって鼻水みてぇな霊薬飲んでから、記憶が半分近くぶっ飛んでいた。

 これがカーズ兄が言ってた、魔力酔いってヤツか……

 こんな感覚は昔義兄(おっさん)と張り合って結婚式前夜に焼酎と日本酒を四升以上空けて記憶をぶっ飛ばして以来だな。

 齢四十間近……

 この歳になってよもや記憶を失いかけるほどに酔っ払っていたとは。

 って言うか、酔いが覚めた今の方が二日酔いみたいに具合わりぃ。


「くそ、吐き気がする……そういやあん時も結婚式の前日に義兄(おっさん)に喧嘩売られて飲みの勝負になったんだよな。そして、ウェディングドレスの綾さんにしこたま怒られたんだっけか……

 ハッ、こんなところでくたばってたら、また綾さんに怒られちまう。って言うか、娘達の花嫁姿も見ないでこんなところで死ねるかっての……いや、俺から娘達を奪おうとする婿共を血祭りに上げるのが先じゃい!」


 気合いを一つ。

 颯爽と、って言いたいが……我ながら情けなくなるぐらいおぼつかない足取りで、先ほど放ったソナーで発見していた階段を目指す。

 ついでに言うと敵意の反応があった場所も覚えているので、戦略的(・・・)にその位置を避けながら階段を目指した。


 階段までは結構な距離があったが、幸いにもあの巨大カメレオンが倒れた衝撃で辺りからは異形の気配が消えていた。

 推測にすぎないが、魔素の似た雰囲気からして巨大カメレオンの正体はアダマンレプタイルだかってモンスターのはずだ。

 そう、良達の家に塗っていた魔除けの血の正体だ。

 それが倒れ鮮血がぶちまけられたことで、辺りからは異形共の気配が消えたと思われる。


「魔物共が消えてくれて正直助かった。ぶっちゃけ、今襲われたらまともに戦える余力は無かったからな」


 ぼやきながらもやっと到達した階段。

 これを登り切れば、目的地だ。


 ……

 …………

 ………………


 なげぇ!

 ひたすらなげぇ!

 何だこの段差の数!?

 今までこんなにあったか?

 ……いや、あったなぁ。飛んで駆け抜けていたから気にもとめてなかっただけか。

 面倒くせぇ……

 とは言え、魔素が枯渇している今の俺じゃ飛ぶことなんか出来やしない。


「歩くか……」


 疲れ切ったおっさんボディにむち打ちながら、登ること一時間。

 くそ……世間はバリアフリーが主流だろうが……、エスカレーターぐらい付けれっての。

 

「ひ、ひぃ~は、はひ~……」


 情けないけどまさに虫の息。

 息も絶え絶えに何とか登り切った頃には膝はガクガクと笑っていた。


「もう無理だ! 絞っても何も出ねぇぞ!!」


 思わずへたり込んだ地面。

 切り揃えられた芝生みたいな草の絨毯が冷たくて気持ちよかった。

 寝転がって見上げた空は何故か日本の……いや、北海道(こきょう)の空に似ていた。

 耳を澄ませば聞こえてくる虫の音。


 THE・昭和!

 ノスタルジィ祭り!!

 ビバ・おれのなつやすみ!!!

 

 ……ヤバい、黙って目を瞑っていたら、綾さん達に会いたくなってきた。

 ホームシック!

 俺、今ホームシック!!


「俺ってヤツは何て繊細だったんだ……」


 ……

 …………

 ………………


「ツッコミ不在のボケほど寂しぃもんはねぇなぁ……」


 ぼやきながらも辺りを見渡せば、それはすぐに見つかった。

 小高い丘に石造りの一軒家があったのだ。


「……あの丘、また動き出したりしないだろうな」


 さっきの苦々しい戦いを思い出しながら、やっとの思いで丘を登り切って小屋の扉を叩く。


「誰か居るか~? 居ねぇよな-、お邪魔するッスよ~。あー、ガチャッと」


 不用心と言えば良いのか、鍵のかかっていない扉はあっさりと開き――


 俺を出迎えたのは花の香りと、まさにロボットって言葉がピッタリと似合う、薄汚れた金属のゴーレムだった。


「えっと……」


 部屋の中は、この塔よろしく広さがまるで違った。

 壁は遙か地平にあり、天井はガラスのようなモノで覆われているが空そのものがすぐそこにあるかのように真っ青。

 何より驚かされたのは、扉をくぐったそこは草花に覆われた庭園だった。


「川まで流れてやがる……ほんと、驚かされるな……ハハ……」


 よく見たら、この地面……浮いてるじゃんか。


「まるでラピュタだな……」



 ため息しか出てこない……

 思わずため息をつきたくなるほどの幻想と泣きたくなるほどのノスタルジィ。

 だけどここは……

 辺りを見渡せば否が応でも視界に入るのは、地面に突き立てられた剣や槍を始めとする武器の数々。



 まるで、人に忘れ去られた墓標のような……


 ならばここは、庭園ではなく墓場と言った方が正しいのかも知れない。

 そして、錆に覆われ所々に苔が生えたゴーレム。

 オブジェか? とも思ったが、ぎこちなく動くその様は、まるで失われた主の帰りを待ちながらここを管理する墓場の守人……

 そんな感じであった。


 今までの塔の雰囲気とはまるで違う。

 どこか冷たささえ感じるほどの凛とした空気感。


「たぶん墓場……ってことで間違い無いんだよな」


 地面に刺さっただけの墓標に手を合わせ、ゴーレムに向き直る。

 距離にして30メートル。

 敵対的雰囲気は無い。と言うか、ゴーレムにこんなことを言うのも変だが、何となく出自の良い執事にも似た気品さえ感じる。


「えっと……その、あれだ、俺の言葉を理解してくれるかわからんが、俺はあんたと戦う気は無い。って言うか、たぶん、ここはカーズ兄……じゃなくて、カーズさんの館であってるんだよな? 証拠は無いが許可を得て書斎からエリクシルの材料を貰い受けに来た」


 ゴーレムに向かって何を言ってるんだって思われるかも知れないが、でも、不思議とそうするのが礼儀な気がした。

 そして、ややの間。

 まるで俺のことを値踏みするみたいに、顔のセンサーがゆっくりと青く点滅する。

 やがて、ぎこちない動作で背後を振り向くと、ズシン……ズシン……と音を立てて歩き始める。


「えっと……付いてって良いんだよな?」


 ギィィ……

 首だけが俺の方を向いてまたセンサーが青く点滅する。


「良いってことだよな、うん。赤くないから攻撃色じゃないよな?」


 確証は無いが、大丈夫な気はした。


 ゴーレムが案内する道。

 それは、ますます館の中であることを忘れさせる光景だった。

 崩壊し、蔦の生い茂った城壁。

 壊れた町並み。

 そして、透明度の高い川に湖に沈んだ城……


 いやいや、もう軽く島一つ分くらいあるだろ、これ!


 ってな感じで、何時もの俺ならきっと騒いでいただろうな……

 だけど、それは許されない。

 何て言えば良いのか……軽々しくこんなこと言っちゃダメなんだろうが、ここを歩いているうちにある一つのことが俺の中で確信に変わっていた。

 そう、ここは間違い無く一つの文明が滅び、長い時が流れ去った文明の墓標なのだ。


「なぁゴーレムさんよ、あんたの主はカーズさんで良いんだよな?」


 返事は無い。

 ただ、しばらく歩き、崩れ去り役割を忘れた天井から光差し込む城内に入るとゴーレムは音も無く跪いた。

 跪いたその先、薄汚れた壁には酷く焼け焦げた彫刻のタペストリーがあった。


 薄汚れて分かり難いが、タペストリーに描かれているのは跪く十三人の男女と、その向かいに座る一人の肖像。


「……ここに居た、かつての主ってことか」


 当時はどんな肖像が描かれていたのか……

 焼け焦げあちこちひび割れ今となっちゃ確かめようも無い。

 ただ、古びても尚荘厳な雰囲気があるタペストリーからは、その主の偉大さが伝わってくる気がした。


 ゴーレムがかしずいたまま、ややしばらく時が流れた。

 余りに長く跪くから、若干このゴーレムには案内する気が無いんじゃないかと疑い始めた頃、ゴーレム再び立ち上がり俺を奥へと案内した。

 ……案内してんだよな?


 それから程なくして、蔦に覆われた木の扉が見えてきた。


「ここが、そうなのか?」


 当たり前だがゴーレムは応えない。

 ただ、役目を終えたとばかりに、今来た道をまた引き返して行った。


「……ありがとな、助かったよ。あと、ちょっと疑ってごめんな」


 心優しき紳士の背中を見送りながら、会釈する。

 アイツはこうやって、主が戻る事も無い遺跡を守り続けてるんだろうな。

 春夏秋冬があるかもわからないが、草木が伸びるだけの、動物さえも見当たらないこの地で……

 …………やめよう、あんま考えると泣きそうになる。

 おっさんが泣いたって、誰も得しない。

 昔、祖母さんに言われたっけな。俺みたいなバカはあんま深く考えない方が良いって。


 そう、感傷に浸るよりも今は優先すべきことがある。

 俺は気持ちを切り替え、半分枯れてる蔦を払いのけて扉を開けた。

 もう、長年使われていないのだろう埃臭さを感じる部屋の机には、薄らと埃のかぶった無数の小瓶と古めかしい天秤やらフラスコが置いてあった。

 ……正直、どれがどれだかさっぱりわからん。

 これで持って帰ったのが足りなかったらまた取りに来なければダメなんだろうか?

 正直それは勘弁して欲しい。

 まぁ、ここまで来る道中も大変だったが、それよりもこの城の雰囲気、それがどうにも……


 物悲し過ぎた。


 守りたくても守れなかった。そんな辛さや寂しさ……

 何て言えば良いのかわからないが、ノスタルジーを感じる景色の中に漂う愛情と優しさの合間に後悔のような悲しみも漂っている気がしたのだ。


 もし、ここの主が俺で、

 一人取り残されて、

 さっきの墓場に俺の家族の物があったなら、


 俺ならきっと、絶えきれずに発狂していただろう……


 ここには美しさも偉大な歴史もあるのかも知れない。

 ただ、二度とは訪れたくは無い。

 俺がその歴史(じじつ)を受け止めるには、あまりにも俺は小さすぎる。


「……とりあえず、ここにあるモノをありったけ持ち帰るとするか」


 ベッドのシーツを拝借して風呂敷を作り、そこに入れられるだけ辺りの小瓶を詰め込む。

 蓋が緩そうなヤツはとりあえず毟った蔦で縛り、割れそうなら葉っぱで包む。

 普段は我がことながら呆れるくらい雑な俺だが、この薬品が割れれば綾さんを悲しませるかもしれない。そう思えば必然的に丁寧になるってもんだ。


「よっしゃ終わった! 普段やり慣れない神経質なことやったから疲れた! 綾さん俺を褒めてくれ!!」


 思わずだだ漏れる本音。

 だが、静まりかえった城は誰も俺に反応してくれない。


「……寂しい。帰るとするか……よっこいしょうい……ぬはっ!!」


 ぱんぱんに膨らんだ風呂敷を背負うとした瞬間、


 ピキッ!


 と鳴った俺の腰。


「お、おぅううぅぅぅ……こ、腰が……あ、あれれ……?」


 まるで力が抜け落ちるみたいに、いや、全身を襲う盛大な筋肉痛。


「な、なんじゃこりゃー!! か、身体がいだだだだだだ!!」


 一体何が……

 あ、もしかして補助魔法……


 俺は自分にかけていたJRPG補助魔法が切れているのを知覚した。

 そう、ドーピングに次ぐドーピングで年甲斐も無く粋がっていた俺の身体は、ここに来て遂に貧弱なその姿を暴露したのであった。

残り1話で長かった改稿終わります!

次が真・新章になります!

是非最後までお付き合いくださいませ!!

お願いします!

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