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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
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京一・二人の父親

2019/06/02に投稿した『父として』を表現を中心に改稿しました。

 強い……


 たった二発……

 たったの二発で俺の身体がここまでボロボロにされるとは。


「誤解を招いたのならまずは謝るが、それだけの力がありながら血気に逸るのは感心出来んな」


 圧倒的な破壊の中で倒れているってのに、ハハ……

 まるで何事も無かったみたいな涼やかな返しをされちまった。


「そ、そいつは、悪かった……てっきり消されるもんだと思って……焦っちまった……」

「ふむ……貴公が生まれた時代の日本は、そう物騒な時代では無かったと思うが……随分と自衛を心得た殺伐とした思い切りの良さであった」

「そりゃどうも。生まれがあんまり良くなくてね。情けないことにガキの頃は喧嘩三昧だったんだ」

「なるほど、教え指導されたものというよりは本能型の動きだったのはそのためか。昔の私によく似た動きであった」

「ハ、ハハ……アンタもそうなのかい? まるで手も足も出なかったがね……」

「それは仕方あるまい。一万と数千年、数えるのも馬鹿らしくなるほど途方も無い時間で研鑽を続けた動きだ。我流もそれだけ時を刻めば、何者にも負けることの無い領域に辿り着く」

「一ッ!? あー……アハハ、そりゃ、次元が違う訳だ……とりあえず話を聞くよ。って言うか、聞かざるを得ない状況なんだけどな」

「うむ、では改めてだが……その前に……」


 倒れている俺の胸元に置かれた小瓶。


「ん、これは?」

「全力を絞り出したのだ。体内の魔素も尽きかけていよう。それを飲むが良い……」

「回復薬か……」


 俺はそれを口に咥えようとした瞬間、思いとどまった。


「魔素まで回復ってことは、これは……まさかエリクサーってヤツか!?」


 ボロボロの身体で無理矢理飛び起きた俺を見てカーズは一瞬眉を動かした。


「いや、それはエーテリアスという霊薬だ。エリクシルには及ばずとも幻の秘薬であることは確かだ」

「そ、そうか……」

「……なるほど」

「ん? 何がだ?」

「エリクシルを必要とする理由があるのだな。それが怪我か病かはわからぬ。だが、それを得るために危険を冒してまでこの地に来たと言うことか」

「ッ!? そ……その通りだ。お願いだ! いや、お願いです! ぶしつけにこんな願いを頼める間柄で無いことも十分に承知している。それでもどうか、どうかこの通りだ」


 俺はその場に膝をついて頭を下げる。


「俺の土下座なんか安いのは重々承知だ。それでも、どうかエリクシルとやらを持っているなら、いや、情報でもかまわないから、どうかその秘薬の在処を俺に教えてくれ!」

「………………」

「頼むっ! アンタなら知っているんだろう!? この通りだ!!」


 ドゴンッ!!


「こらこら、地面に頭を突き刺すな……」


 ボコッ! と地面から頭を引き抜き、カーズを見上げる。

 カーズは困ったようにため息を一つつくと……


「貴公も子の親であろう。簡単に頭を下げてくれるな」

「軽い気持ちで下げた覚えは無い! どうしても秘薬が必要なんだ。それを得られるのなら、俺の土下座なんか安いもんだ!」

「……本来なら、貴公の世界にこちらの世界の物を持ち込むのは良しとすべきでは無いのだが、こちらも貴公に頼み事をする側だ……」

「それじゃあ」

「その前に、こちらからの要望を先に説明させてくれるか」

「あ、ああ、そうだな」


 カーズの要望とは至って明瞭な物だった。

 それは、良達が百階に到達するために手助けをするのは構わない。ただし、59階に巣くう敵と戦う際には絶対に手を貸さないで欲しい、という物だった。

 理由は教えてもらえないと思ったが、訪ねてみると意外なほどあっけなく教えてくれた。


 アルフレッド――


 あの少年の中に潜む闇を自覚させ、人間として成長させたいとのことだった。

 年齢を考えれば荒療治が過ぎる気もするが、あの少年が持つ力は確かに常軌を逸している。

 俺も彼に感じた確かな闇。それが根深い物であるのなら、早く気が付かせた方が良いのも確か。彼のことは僅かにしか聞いていないが、俺の過去なんか霞むほどに過酷な運命を生きてきたみたいだ……

 ハァ……

 良、お前はつくづく困難な生き方をしているなぁ。

 だが、それが綾さんの血がもたらした宿命だというのなら、俺は全力でお前を肯定する。

 お前達の未来は、お父さんが生きている限り全力で支えてみせる!


「それが、アンタが望む俺への依頼だってのはわかった。それじゃ、ここからは俺の頼みだ。エリクシルの在処だ。いや、持っているのならそれを頂きたい」

「エリクシルなら作れる。それの素材はこの塔の百階、私の書斎にある」

「百階……また、ずいぶんと遠いな……ん? 百階?」


 俺はそこでふと思いつく。


「なぁ、そこって良達の目標地点でもあるんだよな?」

「そうだが」

「なら……六十階から百階までは、俺が一人で攻略する。それで、良達が到達したということにしてくれないか?」


 俺の提案に、カーズは逡巡する。

 だが、そこで俺はさらに思いつきをぶつけてみる。


「俺は良の力でこの世界に召喚された。その俺が良達に代わって攻略するってのは、すなわち良の力の延長線ってことにならんか?」

「……貴公は確か自力で強引にこの世界に来たのでは無かったか?」

「ぬぐぅっ!? そ、それは確かにそうだが、だけど、ほら、良が扉を開いたから来れたというか、何というか……そんな感じと言うか……」

「親心と言うヤツか」

「ま、まぁな」

「しかし、それなら貴公にとってはこの試練は失敗した方が、得なのではないのか?」


 不意に出された問いかけ。

 それは、たぶん……良が俺たちの住む世界に戻って、普通の男の子に戻るってことを意味しているのだろう。

 ……そりゃな、俺だってそう出来るならそうしたい。

 そうしたいけどよ……


「これはな、父親の贔屓目でもあるんだよ」

「贔屓目?」

「あの子は俺に似ず優しい子に育ってくれた。俺に唯一似たところと言ったら、せいぜい頭が少し悪いところぐらいだ。我が侭らしい我が侭も言わなかった。正義感……というか、正義に憧れる、そんな無謀なところはあったけど、それはそれとして、あの子はウチの嫁さんに似て良い子に育ってくれた」


 俺の生い立ちは決して良い物では無い。

 父親は、今の俺に似た感じのヤツだったと記憶するが、母親の俺への態度は今風の言葉を使うならネグレクトってヤツだった。

 俺は、そんな母親みたいになりたくないと思って家族と一緒に突っ走ってきたが、本当に良い父親だったか……


「あの子もあの子の姉も、俺たちに十分すぎるくらい子を持つ幸せを教えてくれた。そんな俺たち夫婦が望むことなんて多くはないんだよ。元気にあの子らが笑っていてくれること、それで、それだけで十分だ。親が望む普通が、あの子にとって最善とは限らないしな。あの子が、あの子の思うように生きてくれれば、他人様に迷惑さえかけないでくれれば、それ以上は贅沢だ」


 何て、な。

 人の優しさを信じられずに散々荒れ腐ったガキ時代を過ごした俺が、他人様に迷惑かけるなとか言えた義理じゃないよな。


 でも、まぁ……

 ホント、良は俺には過ぎた息子だ。

 その子が掴もうとする幸せだ。それなら、俺は父親として全力で応援するだけだ。

 あの子が望む、あの子が最も幸せと感じる未来を掴むために。


「だから、これは父親として、あの子に最後にしてやれるだろう贈り物にしたいんだよ」

「……そう、か。父親としての、矜持と言うヤツか」

「矜持とかそんな大層なもんじゃないやい。ただ……格好をさ、付けたいんだよ。気付いてもらえなくても、何時の日か、その思いが次に繋がると信じてな」

「……人であれ」

「ん? 何か言ったか?」

「いや……何も。では、貴公の思いを叶えるために」


 カーズが杖で地面を数回叩く。

 また、不意に襲われるあの不快な空間の歪み。

 そして、突如目の前に広がるレンガ造りの迷宮。


「ここは……また、転移したのか? って言うか、ここの階層は……雰囲気が俺たちが居た場所と若干違う気がするんだが」

「ふふ、やはり気が付くか。そう、ここは六十階だ」

「やはり?」

「貴公の感、と言うか洞察力は驚愕に値する。私を見て剣士と見抜いたその眼、なるほど、やはりあの子らのためにも離れてもらって正解だった」

「なんだいそりゃ。もしかして、褒めてくれてるのかい?」

「無論だとも。敵の正体を見抜く眼というのは戦いにおいても人生においても、最も重要だ。だが、それは一朝一夕で身につく物では無い。だからとて、それ(・・)が出来る者に頼っていては成長することは出来ない」

「ってことは、良達が戦う相手ってのは、その正体をどう見抜けるかにかかってるってことなのか?」

「やはり勘も鋭いな。そう、その通りだ」


 あっさりと返してくれたが、こりゃ俺が思っている以上にハードルが高い試練のようだな。


「一応、聞いておくが、命の心配は?」

「………………」

「おいおい、そこは嘘でも……いや、嘘じゃ困るが、大丈夫だと言ってくれよ!」

「……もし、この試練を乗り越えることが出来ないようなら、少なくとも、貴公の娘は記憶を消して元の世界に帰そう。命の保証と、元の生活に戻れるよう約束する」

「…………」


 コイツ……

 俺はこの男の底知れぬ冷酷さに恐怖していたのだが……


 それは、違った。


 この男もまた、父親の矜持というのを持っていたのだ。

 そして、それ故にアルフレッド君の闇を救えるのか、救い出すことが出来ないのか、それに頭を悩ませているのだろう。

 彼が持つ闇が、何時か誰かに牙を剥いて傷付けるよりは、あるいは……あるいは……


 良達が泰然とした神みたいな男だって言っていたが、この化け物じみた力を持つこの男もまた、ただの父親だったってことじゃねぇか。

 

「ハハ、幾つになっても子は子ってことッスか」


 俺の砕けた口調に、カーズが、いや、カーズの旦那が一瞬驚いた表情を浮かべる。


「ま、大丈夫ッスよ。俺のむす……めが、絶対にさ、アンタの息子を支えてみせるはずだから」

「貴公の娘、が? ……そうだ、な。貴公の娘は何度もウチの馬鹿息子を支え助けてくれた。きっと、今回もまた上手く導いてくれると信じよう」

「上手くいった暁には、俺とアンタは家族になるんだ。そん時はあんまり厳しくしないでくれよ」


 ニシシと笑う俺に、カーズの旦那は呆気にとられたみたいに固まる。

 そして、


「そうだな、その時は親族として、心を砕かせてもらおう」


 ホント、アルフレッド君の面倒臭ささはアンタに似たんじゃ無いかって思うよ。


「って、思わず長話しちまったな。あんまりウダウダやってたら良達に気が付かれちまう。アイツらが気が付く前に、ちゃちゃっと暗躍させて貰うとするかな」

「やる気に燃えるのは結構だが、その前に」

「ん? その前に?」

「先ほど渡したエーテリアスは摂取しておけ。この階層からは下層のような甘い敵は居なくなる。一瞬の油断が命を落としかねないほどにな」


 淡々とした説明。

 俺の喉がグビリと鳴った。

読んでくれる読者様に感謝を!

まもなく六章の改稿が終了します!

そして、年内は真・七章を投稿予定です!

もう少しですので、今しばしお待ちを!!

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