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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
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京一・神と呼ばれる男の強さ

2019/06/01に投稿した『フルボッコ』を表現を中心に改稿しました。

 異世界――


 春先まで夢や物語の中だけだと思っていた世界。

 ……俺、異世界デビューしちゃったよ!!

 ヒャッハー!!


 やることは山ほどあるはずなのに……

 あるはずなのに……


 ちきしょうめっ!!

 テンション上がるじゃねぇか!!


 しかも何てこった!

 うちのモンジロウが可愛い女の子になってるじゃないか!

 お父さん娘がまた一人増えちゃったよ!!


 ふ、ふふ……


 あかん……ワクワクが止まらん!!

 しかもだ、子供達の前で格好いいお父さんを見せられるなんて!

 ああ、願わくは愛ちゃんと綾さんもここに居れば良かったのにな。


『お父さん格好いい』

『京一さん、素敵』


 とか拍手喝采されただろうな。

 うへへへ……


 ……

 …………

 ………………


「父さん! そこまでにしないと強制送還するよ!!」


 リョウに怒られた。

 綾さんそっくりに……


 俺は、目的は見失ってはいないはずなのに、いささかはしゃぎすぎていたらしい……


 ふ……


 認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを……

 まぁもう三十過ぎだけどな。

 

 とにも、それからの俺は少し自重することにした。

 そして階層は切り替わり、いよいよダンジョン然とした見た目に変わった頃、俺は頭を抱えていた。


 改めて落ち着いて見てみると、良達二人……

 どうにも上手くいっていない気がしたのだ。

 良は気が付いて居ないようだが、アルフレッド君が抱えているモノ。

 それが一体何なのかはわからない。わからないが、それが沸々と闇を生み出し、二人をギクシャクとしたモノにしている気がした。


「う~ん、どうしたものか……父親としては息子(・・)を取り戻すラストチャンスな気もするんだが、良には良の幸せを掴んで欲しいとも思うし。と言うか、こんな時に親が下手に口出しすれば余計に拗れるかもしれないし。何より、俺はぶっ壊すのは得意だがまとめるのは苦手だしなぁ……」


 良達が寝静まった頃、俺は小屋を眺めながらため息をついていた。


「う~ん……う~ん……う~ん……無理だ、何も思いつかん」

「なればこそ、子供達に全てを委ねるのもまた一つの選択肢であろう」

「そうだよなぁ、それしか――


 ッ!!


 突然、背後からかけられた声。

 何だ、いったい何が居る!?

 まるで気配を感じなかった。

 慌てて振り返ると、そこには男とも女とも見える容貌の剣士? が居た。

 な、何だ、何なんだ、コイツは……

 冷や汗が止まらない。

 それにしてもコイツが纏っている気はなんだ?

 気配を感じない?

 違う、これは……

 この気配は、この塔自体が纏う気配と一緒。

 まさかこのイカレた塔自体とこの剣士は同一の存在だとでも言うのか?

 俺の中を駆け巡る疑問。

 だが、そんな戸惑う俺に剣士は気にした風も無く近付いて来る。


 ッ!!


 俺の中の本能が――


 恐れに震えた。


 それは初めて感じた恐怖。

 ババアにもおっさんにも感じたことの無い圧倒的恐怖。


「初めまして、私の名はカーズ」

「おのれっ!」


 本能の赴くまま気合いとともに振り抜いていた拳。


「ふむ、深夜にぶしつけで驚かせてしまったようだな」


 振り抜かれた拳などまるで無かったみたいな反応。

 それも、そのはずだ。

 何故なら俺の拳は剣士に当たる直前、まるで俺の意志に反してずれると、壁をぶち抜いていたのだ。

 何らかの力が使われた?

 いや、違う。俺の本能が恐れたのだ。

 この剣士と戦ってはいけない、と。


「ふむ、いささか混乱を起こしているか。しばし、待たれよ」


 パチリと鳴らされた指。

 その瞬間、俺の中を駆け巡っていた表現しがたい衝動は静かに霧散していた。


「?? ……い、いまの、は?」

「すまないな。本来人の感情を操作するような真似をすべきでは無いのだが、今はあの子たちに私の存在を気取られる訳にはいかなくてな」


 横目で小屋に向けられる視線。


「そ、そうか……貴方がアルフレッド君の親代わりで、先生と呼ばれていた人か」

「そうか、聞き及んでいたか」

「それにしても、ハハ……何て有り得ないほどに馬鹿げた力だ……こっちの世界に来ていささか調子に乗っていた俺が、まるで足下にも及ばない……」

「ふむ、それは貴公が真の強者であるから気が付いたのだ。今この世界に君臨する四大魔王とて私の状態が素では私の力に気が付くこともあるまい」

「ハハ、その褒め言葉は素直に受け取っておくよ。それで、そのカーズさんが、俺に何の用があるんだい?」

「ふむ、察しが良くて助かる。だが、ここでは見付かる可能性がある。場所を変えるさせてもらうぞ」


 腰に帯びていた剣を抜い……


「それ、錫杖なのか? アンタの纏う雰囲気からも剣士だとばかり思っていたが……」

 

 俺の問いかけに目の前の男は薄い笑みを浮かべると、錫杖で床をコツコツと叩い――


 ッ!!

 一瞬視界がぐにゃりと歪むと、俺は森の中に居た。


「こ、ここは……召喚されたときに居た場所か?」


 この場所には何となくだが見覚えがあった。

 俺が調子に乗ってなぎ倒した木々や岩が粉々に砕けているからだ。


「ふむ、なかなか派手に暴れてくれたな」

「ちょっとテンション上がりすぎて」

「いわゆる魔力酔いと言うヤツだろう。むしろそれだけの力がありながらこの程度の破壊で済ませたのだ、大した自制心だ」


 ……本当はリョウに怒られたからなのだが、黙っておこう。


「上層でも感じた突然現れた巨大な力。一体何者かと思ったが、よもや私の力と契約したばかりのリョウが召喚魔法まで成功させるとはつくづく驚かされる。それにしても、貴公の能力は娘のそれを遙かに超越している。思いつきの召喚術でこちらの世界へ呼ぶことが出来るとは思えんが……」

「あ、繋がったトンネルを自力で上って来たッス」

「……まるで、たまたま開いた扉から出てくる異界の魔神クラスみたいな真似だな」


 初対面の相手に盛大に呆れられてしまった。

 が、まぁ……

 しゃあないか。

 我ながら無茶をやった自覚ぐらいはある。


「それはそうと俺を一人だけ招いたのは何でだ? まさか世間話をするつもりじゃないよな?」

「ふむ……実は貴公にはこの先の旅をリタイアしていただきたいのだ」

「ッ!!」


 ぞわりと逆立った毛。

 まさか、この男はここで俺を排除するとでもいうのか?


 俺は魔力を瞬時に高め解放する。


「む? 何か勘違いを……」

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

 


 魔力により爆発的に向上していく身体能力。


「界〇拳20倍だぁあぁぁぁ!!」

「やれやれ……」


 天地ほどに実力差があることはわかっている。

 それでも、俺を待つ綾さん達のためにもここで負ける訳にはいかない。


 いくつものフェイントを織り交ぜ、背後に回――


 パンッ!


「ガハァッ……ぐぉぉ……!」


 視界が歪む。

 振り返ること無く放たれた裏拳が俺の顎を鋭く捕らえ跳ね上げた。


「悪くは無い動きだ。だが、多すぎるフェイントの数が、逆にどこを狙っているのか丸わかりにしている」

「ご教授……ありがとよっ!」


 地面を蹴り砕きながらカーズに接近し全力の一撃を放つもあっさりと躱される。

 だが、躱されるのは想定内だ。

 俺は空振りした拳を地面にそのまま叩き付けると同時に盛大な爆発を起こし土煙を巻き上げた。

 俺は巻き上がった土煙に紛れて跳躍するとカーズの頭上から襲いかかり拳を放つ。


「ふむ……」


 ドオンッ!!!


 地面に立つカーズを中心にクレーターでも出来たみたいに地面が凹む。

 俺の拳が生み出した破壊。

 だが――


「……くそ、化け物め」

「それは、貴公にも言えよう」


 そう、俺の拳は目線で追いかけられることもなく棒立ちのまま頭上で受け止められていた。

 俺の解放した魔力、俺の全霊の一撃、その衝撃は受け止めたカーズの足下を見ればわかるだろう。

 だが……


「少し冷静になろうか」


 解き放たれ地面に降り立った瞬間、目の前に現れたカーズは俺に向かって――


 バチコンッ!


「おぎゃああぁぁあぁああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


 ただのデコピンで俺の身体は、木々をなぎ倒しながら数十メートルも吹き飛ばされた。

 ぐぉおぉおぉぉぉぉ……

 し、視界が歪む。

 あ、頭が……割れる……


「貴公は強い。だが、それは生まれ持った能力を振り回しているだけで、戦い慣れしているとは言い難いな」


 俺は正真正銘の化け物を前に、身動き一つ出来なくなっていた。

お読みいただいている読者様、本当にありがとうございます!


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