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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
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京一・自分が後悔しないための偽善と善

2019/05/13~17に投稿した、『クレイジーポリス』『偽善もまた善』『牙の数』の三話を結合し改稿した『お父ちゃん編・第三夜』になります。

京一がヤンキーだった中学時代のお話です。

 別に俺から何かをしたわけじゃ無い。


 ただ、無視を決め込めば苛立つガキ共。

 難癖付けては突っかかってくる雑魚共。

 別に、自分が強いだなんて思っちゃ居ない。


 ただ、周りが弱すぎた。


 中学に上がる頃には、気が付きゃ猿山の大将だった。


 その頃になれば、ますます生意気だとか言われて高校生にまで因縁をふっかけられた。

 全員、橋から冬の川に叩き落としてやったがな。


 影じゃ、やってないのは人殺しだけとか言われてた。

 

 喧嘩以外何もやってねぇよ!


 ついでに言うなら、俺からふっかけた事だって……な、無い……はずだ。


 ま、どうでも良いけどな。



 バシッ!!


「いってー!? な、何しやがるこの糞ババア!!」

「また悪さしとっただか! いつまで拗ね腐りゃ気が済むんだ!!」


 玄関開けたら二秒でババア。

 そこには松葉熊手を片手に仁王立ちする鬼婆が居た。


「って言うか俺の顔は庭じゃねぇんだ! そんなもんで引っ掻くんじゃねぇ!!」

「やかましい! 人様に迷惑掛けないだけ庭の方が百万倍マシってもんだよ!!」

「血! 血が! 血ぃ出てっから!! 俺、顔面、今、大怪我!!」

「やかましい!! こんクソガキは外出りゃ悪さばっかりしおって! お前みたいに血の気の多いヤツは3リットルぐらい血抜きしても死にゃしないよ!! その根性叩き直してやるから立ちなッ!!」


 俺は、ボコボコにされた……


 拳一つでヒグマと殴り合える人間が熊手を持つって反則だと思うんだ。

 言っちまえば、アントニオ猪木が釘バット持って出てくるようなもんだろ?


 まったく……妖怪ババアのくせに武器使う事を覚えや……?


 ……いつから、ババアは道具を振り回すようになった?

 俺の図体がでかくなった、からか?

 違う……


 そうじゃ、無い。


 殴られて腫れ上がり狭くなった視界。

 その隙間から見える祖母さんのその背中は、


 えらく丸く、小さく感じた……


 老い――


 父親や母親よりも、まして俺なんかよりも遙かに歳を食っている祖母さん。

 その身体には、俺が思うよりも早く老いが訪れていた。


 そんな事は分かっていたはずなのに……

 それなのに……


 中一の秋、俺は相変わらず糞みたいにうだついていた。

 町に出れば喧嘩を売られる日々。

 満足に飯の買い出しさえ出来やしない。


 そんな頃だった、あの糞鬱陶しいポリ公に出会ったのは。


 恐らく俺より一回り以上は年上と思われるヤツ。まぁ、社会人としてみたら若造だ。

 そんな、情熱とか鬱陶しさが空回った感じの糞ウザい熱血漢。


 ただ、腕っ節だけはバカみたいに強くて、俺が初めて祖母さん以外に負けたヤツだった。

 ……まさか、ミニパトの上に背負い投げで叩き付けられるとは思わなかった。


「おい、捕虜!」

「誰が捕虜だ!」

「猿山軍団のボスザルなんざ、貴様何ぞ捕虜で十分だ」

「この野郎……てめぇ本当にポリ公かよ!」

「ポリ公では無い! お巡りさんと呼べ!」

「お巡りねぇ、何だ、てめぇの方がよっぽど躾けられた猿みてぇじゃねぇか! 日光の猿軍団みたいに、ほらクルクルまわ――」


 バキューン!!!


 ………………うぉわーーーーー!!!

 撃ちやがった、今更っと撃ちやがった!!

 俺の右頬、何か熱いんですが!!

 穴!? もしかして穴が空いてませんか、これ?

 耳、俺の耳吹っ飛んでません!?


「右頬をかすめただけだ、気にするな」

「するわぼけぇ!!」

「ただの威嚇射撃だ。俺は逃げたら撃つぞと言って脅しで終わるタイプじゃ無い。次にピーチクパーチク騒いだらその眉間に風を穴開ける!」

「てめぇは本当にポ……お巡りさんなのかよ!」

「そうだ! そして俺が最も憧れるのはダーティーハリーだ!!」

「憧れる相手間違ってんだろ! ここはサンフランシスコじゃねぇぞ!!」

「あん!?」

「いや、何でも無いです……」

「こち亀の両さんだって民間人を普通に狙撃するだろ!」

「こちか……? 何だそりゃ?」

「ふん、ガキのくせに漫画も読まんのか?」

「知らねぇよ……」

「ふん、漫画は良いぞ。『友情・努力・勝利』! 素晴らしき情操教育ではないか!」

「狙撃を当たり前にするような情操教育って何だよ……」

「ふん、口は無駄に達者なようだな」

「うるせぇよ!」

「それにしても、パトカーを破壊し撃たれて尚元気とは……」

「いや、パトカーを破壊したのはあんただし、リアルに撃たれてこっちは割と尻込みしてるよ」

「………………………………怒りをぶつける矛先が無くて苦しいか?」

「あん!?」

「世間ってヤツに身勝手に疎まれて、ぶつける相手が無くて苦しいかと聞いているんだ」

「や、さっきの質問と違うだ――」


 ばきゅきゅ~ん!!


「撃った、また撃った!!」

「空砲だ」

「嘘つけ! 今地面がはじけ飛んだぞ!!」

「空砲とて地面ぐらいえぐれ飛ぶ! そんな事より、どうなんだ?」

「何がだよ」

「さっきの質問だ」

「さっきの? 何だっけ?」


 ゴリッ


「ふぁっ!?」


 突然額に突きつけられた拳銃に思わず声が裏返る。


「お前はバカなのか? 怒りをぶつける先が無くて苦しいかと聞いているんだ!」

「あ? ああ……その質問な!! 撃たれた弾みで記憶飛んだんだよ!!」

「繊細なふりをするな」

「この野郎……繊細じゃ無くたって、撃たれりゃ記憶ぐらい吹き飛ぶわ!!」


 ……その男はいつもそんな感じで、破天荒と言うよりもクレイジーなヤツで――


 とにかく嫌になるくらいしつこいヤツだった。


 町で見かければ追いかけ回され、喧嘩をやれば何処から聞きつけたのか知らないが突然に現れては襲ってくる。


 ヘイポリス! お前達の組織に中学男子を付け狙う変態ストーカーがいますよ!

 事案になる前に、逮捕した方が良いと思いますよ!!


 どごぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!!


 ふ……

 そんな事を考えていたら、俺はまたおっさんに掴まり投げ飛ばされていた。


「いでぇ……」

「ふん、ボンネットは硬そうに見えても衝撃を吸収するように出来ている。アスファルトの上じゃ無いだけ遙かにマシだろ」

「クソが……」

「口の悪い奴だ。いい加減無闇やたらと暴力を振るうのはやめたらどうだ? 何時か剥いた牙の数だけ、敵意となってお前に襲いかかってくるぞ」

「……うるせぇよ」

「おんんっ!?」


 ゴリ……


「わ、悪かった。俺が悪かったからいちいち気に入らねぇからって眉間に拳銃突きつけんな!!」

「ふん、それだけ叫ぶ元気があるならほっといても死にはしないだろう。では、本官は帰るから、これ以上悪さするなよ」

「……チッ、なぁ、あんた! 何であんたは俺にかまう? ほっときゃ良いだろうが」

「仕事だ。これで飯を食ってるんだから真面目にやるだろうが」

「真面目? ハッ……何だ、給料取りのただの偽善の押し売りかよ」


 別に期待なんぞしていない。

 期待していた……訳じゃ無いのに、何故だか分からないがその答えは少なからず俺に痛みとなって突き刺さった。


 なのに、よ……


「偽善の何が悪い」

「あん?」


 このおっさんは胸張って言いやがるんだ。


「偽善だろうとなんだろうと、結果が善であれば課程や動機など些末な問題だ。何もせず、遠くから眺めて見て見ぬふりするぐらいなら、本官はどこにだって首を突っ込む」

「それが……それが余計なお世話だって言ってるヤツの気持ちはどうなる!」

「そんなモンは知らん!!」

「え、え~……」


 コイツ、手に負えねぇ。

 胸張ってぶち切れてやがる……


「良いか、よく聞け。人間とは本来同情や哀れみだけで動ける生き物だ。他人はそれを嫌い、偽善と罵り、眉をしかめるかもしれん。だが、そんな他人の目や言葉如きに怯え、後にああしておけば良かっただのどうだの後悔するぐらいなら、俺は他人を同情するし哀れむし、お節介だって焼く!」

「は、はは……なんだそりゃ……それじゃあんた、ただ根っからの警官だって事じゃねぇか……」

「当たり前だ! ……時に人間は同情を嫌い向けられた哀れみを憎む生き物かもしれん。だが、同情し哀れみ、他人の痛みに共感出来るのもまた人間の特権なのだ! だから言ってやる! 本官が手を差し伸べられるところにいるうちは何度だって貴様をぶん投げてやる。貴様が嫌がろうと、この地球が丸いうちは何処まで(・・・・)だって追いかける!」

「……何だよ、それ」

「貴様だって気が付いているのだろう」

「何がだよ……」

「貴様が突き進み、行き着く果てだ」

「…………ッ」

「ガキはガキなりに悪さしているうちは可愛げもある。だが、そこから逸脱すれば待っているのは地獄だ。さっさとそれに気が付くんだな、クソガキ」

「……うるせえよ」


 チャキ……


「何か言ったか?」

「いえ何も! って、だからいちいち拳銃向けんな!」

「ふん……良いか、そのクソの詰まった耳をかっぽじってよく聞くが良い。これはそう、本官が常々思っていることだ」

「何をだよ」

「昔悪かった奴が更正すればさもヒーローみたいに取り扱われる昨今……本当に偉いのは一切道を踏み外さずに努力してきた者のほうが偉いだろうとな」

「は?」

「すなわちだ、お前は今後更正しようとも、ずっと道を踏み外さず、真面目に警官になった本官の方がメチャクチャ偉いと言うことだ!!!!(ドーーン)

「あん?」

「お前はどんなに足掻こうと一生掛けようとも、真面目に警官を定年まで勤め上げる予定の本官には一切敵わないと言うことを知れ!」

「……………………えっと、俺偉い。お前ダメって言いたいのか?」

「そう言うことだ! 皺の足りない脳みそにしっかりと刻んでおけクソガキ!!」

「ここ、この野郎……最後は自分の生い立ち自慢かよ!!」

「そうだ!! いつまでも偉い本官に引き離され続けるのが嫌なら、さっさと正道に戻って己の愚かさ加減を悔いるんだな!!」


 何てか……

 本当に無茶苦茶なおっさんだった。

 何度、ぶっ殺してやろうと思ったか分からないぐらいに、無茶苦茶なおっさんだった。


 そんなおっさんにストーキングされること数ヶ月。

 中一の冬……

 今日も今日とておっさんにボコボコにされた俺は、よたつきながら家に帰った。


「くそ、好き放題投げ捨てやがって。『何が雪の上なら痛くないだろ』だ。薄く積もった雪がクッションになるかってんだ。俺はガキや犬に弄ばれるぬいぐるみじゃねぇっての……いでで……祖母さん、帰ったぞ……今日の飯は何だ? ま、どうせ芋の煮物だろうけ……ど……祖母さん?」


 奇妙だった。

 いつもなら俺が玄関開けた瞬間には奥から怒鳴り声を飛ばしてくるババアの気配が無い。

 年金支給日でも無いのにどこかに買い出しにでも行ったのか?

 

 ……胸騒ぎがした。


「ババア、おいババア!! どこだ! お前の孫がババア呼ばわりしてんだぞ! 隠れてないで襲ってきやが……れ」


 心臓が軋んだ。

 居間に倒れてる、白髪の老婆……


 まさか……


「おい、冗談は……やめ……」


 背筋が凍てついていく。

 おい、ババア……冗談は、顔だけにしろよ……


「バ……祖母ちゃん!! 祖母ちゃん!!」

「あ……あ、きょ、京一かい……まったく、また泥だらけで……待ってな、いま、飯さ、作って……」

「良かった、生きて……俺の飯なんか良いから、いま救急車分捕って来るから待ってろ!」


 祖母ちゃんに薄くなった煎餅布団を掛けると、俺は突き動かされるままに家を飛び出していた。

 俺んちは貧乏だ。電話すら無い。

 だけど、五百メートル先の公園を曲がった先には交番がある。

 そこに行けば……


 ゴキッ!!


「ぐはっ!!」


 ……何だ、何があった?

 突然背中に走った衝撃と、せり上がってきた地面に打ち付けた顔面。

 口の中がやけにザラつき、それが砂だと理解するのに……


「最近サツと連んですっかり腑抜けになってると聞いたが、本当らしいな」

「てめぇは三年の大城……どけろ……」

「先輩様を呼び捨てにするんじゃねぇよっ! 大城先輩って呼べやクソガキが!」


 ゴッ!


「ぐはっ!」


 叫ぶ大城とは別の拳が振ってきた。

 揺れる視界。

 くそ……


「油断してんじゃねぇよ。隣には俺が居るんだからよ」


 誰だ、コイツ……

 クソ……

 どけろよ、ババアが待ってるんだ。


 ごっ!


「がは……」

「てめぇを狩るために人を集めたが、腑抜けを狩るには過ぎた数だったかもなぁ」


 ドボッ!

 がっ!

 ごがっ!


 増えていく拳の数。


「どけろ……」

「まだまだやりたりねぇんだよ!」


 ババアが、祖母ちゃんが……くそったれ!


「どけろつってんだろうがっ!!」

「ぐはっ! こいつ、まだ反撃出来る体力が……おい、お前らも参加しろ!」


 大城の呼びかけにゾロゾロ集まってくる不良ども。

 

『何時か剥いた牙の数だけ、敵意となってお前に襲いかかってくるぞ』


 は……

 誰の言葉だったけな。

 だけどよ、どんなに敵意が集まろうと折れる訳には「いかねぇんだよ!」


 だけど、現実は無情だ。

 どんなに強がろうと、どんなに怒りを燃やそうと……

 殴った拳の数より、殴られた拳の数の方が圧倒的に多かった。

 くそ……ババアが……祖母ちゃんが待ってるんだ……


 情けなかった。

 てめぇが弱いのなんて、嫌ってほど分かっていた。

 それが分かっていながら、暴れる事でしか自分を保てなかった。

 そんな自分が嫌で、また暴れて、結局は泥沼だ……


 ハハ……


 ざまぁ、ねぇ。

 疎まれて、嫌われて、喰らい付く事も出来ず自分から逃げ出した末路がこれか……


 祖母ちゃん、ごめん。

 拾ってくれたのに、俺、何も出来ねぇガキのまんまだった……


 せめて、病院ぐらいは連れて行ってあげたかったんだけどさ……


「さっさとくたばれよ、クソが!」


 ニタニタと笑った醜悪な笑みが俺を侮蔑する。 


 ハァ……


「大城ぉおぉぉおぉぉぉぉぉぉっ!!」


 テメェだけはせめて道連れにしてやんよっ!!

 大城は薄気味の悪い笑みを捨て、俺へと向かって拳を振り抜いた。


 バシッ!!


 ヤケにぬるい感触が俺の拳を包み込んだ。

 何だよ、俺はいま何を殴った? いや、まさか大城なんかに拳を掴まれたのか?

 まずい、早く倒さないと周りの拳が飛んでくる……


 闇雲に振り回した拳。

 だけど、その拳はことごとく空を切る。


「いい加減にせんか馬鹿者! 腫れ上がった顔じゃ本官の顔もわからんか!!」


 ……あ?

 その声は聞き覚えがあった。

 ムカつく、あのおっさんの声。

 何で、おっさんがこんな所に居るんだ……


「さて、ガキ共。真っ当な喧嘩なら口を出す気は無かったんだが、木刀振り回して集団リンチとあっちゃ黙って見過ごさん。これ以上続けるなら本官が買ってやる! 死にたいヤツから目に出ろ!」

「何だ、てめぇは! 俺たちにモガァッ!!」

「噛みついてきたな? よし、まとめて死刑だ。本官の拳銃は引導代わりだ。迷わず地獄に落ちるが良い」


 ハ、ハハ……

 なんだ、そりゃ……

 おっさんはまるで、俺の祖母ちゃんが好きな時代劇の決め台詞をなぞると……


 そのまま……


 発砲した。

お読みいただいている読者様、本当にありがとうございます!


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