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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
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TSヒロイン・夜を照らす太陽

2019/05/02・3に投稿した『孤独』『忘れられないように』の2話を結合しました。

誤字表現を中心に改稿しております。

「――これが、ボクの全部だよ」


 ポツリポツリと語り出した、アルフレッドという人間の闇。

 それを語り終えた時には、窓から見える荒野の景色はすでに太陽が地平の彼方に沈みきり闇が支配していた。


 アルフレッド――

 オレの想像したとおりの……いや、プライドの他にも嫉妬や憎しみ、恐怖……それらを綯い交ぜにした、遙かに澱んだものだった。

 綺麗なんて言葉とは真逆の感情。

 それは……


 生まれてすぐに、小さな、とても小さな檻の中に心を閉じ込められた少年が、助けを求め泣き叫び続けた心の慟哭だった。


「酷いでしょ、我がことながら、口に出すと本当に嫌になるくらい、最低なんだ」


 力無い笑みで自虐。

 傷付いてボロボロのくせに、こんな時にも強がり。

 ほんと君は、寂しくなるぐらい強くて……泣きたくなるほどに弱くて……


 そして、悲しいほどに優しいんだね……


「アル君……」

「嫌いに、なったよね……」


 それは、さっきの笑みよりも、さらに力無い笑み。

 だけど、どこか覚悟を決めた、そんな笑み。

 それは、オレが初めて見る、オレが大嫌いな笑い方。


 コイツ、すでにオレのこと諦めてるんじゃ……


「このガキャアァ……」

「リョ、リョウ? あ、あの目つきが凄く怖いんだけど……って言うか、その荒い口調、もしかしてオス化してるんじゃ――」


 ゴンッ!!


「モゲゥッ!!」


 鈍い音と同時に、上がる呻き声。


「パチキ(フォー)!!」

「あががぐはぁ……ちょ……さすがにこの短期間で何発も頭突きされたら、ボクの脳細胞が死滅するだろ!!」

「くだらない事しか考えられない脳みそなら、いっそ死滅し尽くせ!!」

「なっ!?」

「お前! オレのこと諦めてるだろ!! この無責任ヤリチン野郎! 将来はチャラ男か? ウェ~イとか言って、女遊びしまくる系のゲス野郎か? ヤリ逃げのアルとか呼ばれたいのか? ええ、この野郎!!」

「どんな想像をしたらそんな発想になるんだよ! あと品が無いこと口走るな! 君と別れたら、もう二度と誰かを好きになんかなるもんか!!」

「ふん、好きにはならなくても抱くのは別だとか言うんだろうね、チャラフレッドは」

「だから、訳のわからない濡れ衣を着せるな! それと変なあだ名も付けるな! ッ……君と別れたら、もう誰とも関わらないよ……」

「ッ……この、バカ!!」

「いっ!?」


 胸ぐらを掴かまれた瞬間、頭突きを恐れて目をギュッと閉じて身構えた。

 良い反応するじゃないか……

 だけど、オレが頭突きだけの恋人と思ったか?

 馬鹿め!

 何度も同じ攻撃何かするもんか。

 隙だらけのアル君を抱き寄せると、無理矢理キスをした。

 ムードも色気も無い、ただ、唇と唇を合わせるだけのキス。


「リョ、リョウ!?」

「…………」

「泣いてる……の?」

「泣かせたの誰だよ……」

「えっと、頭突きされて泣きたいのボクかなぁ……とか」

「おんっ!?」

「いえ、何でも無いです……」

 

 あれ?

 何でこんな展開になってんだろ?

 違う違う、アル君に暴力振るいたいわけじゃ無いんだよ。

 オレがしたいのは……

 そうだよ、アル君に謝りたかったんだ。そして、いっぱいの感謝と好きだって気持ちを伝えたかったんだ。


「アル君……」

「な、なに?」

「そんな飼い主に怒られる犬みたいな怯え方しないでよ」

「いや、また頭突きが来るかと思うと」

「しない、よ?」

「何で疑問系なの?」

「気のせい」

「う、うん?」

「アル君、オレ言ったよね」

「え?」

「いっぱい話をしようって。それはね、お互いすれ違ってきた思いがあるから……いっぱい話をして、隠し事をしないで、本当の気持ちを伝えようって事なんだよ」

「リョウ、ボクは本音を――」

「嘘……」

「嘘じゃ無い、ボクは!」

「嘘」

「ち、ちが」

「嘘、嘘、嘘」

「ボ、ボクは……ハァ、ハァ……ボ、ボクは……」

「ほら、オレの目を見て喋ろうとするだけで、呼吸困難になってる」

「ち、違う……ボ、ボクは! ボクはほ、本当の……こと、しか……」

「嘘……嘘嘘嘘、大嘘つき」

「ち、ちが……」

「だけど、優しい嘘つき」

「ち……え?」

「……寂しかった、よね」


 その言葉に、アル君はほんの僅か逡巡すると、静かに頷いた。


「ボクは……うん、寂しかった……」

「ずっと一人で生きてきて、誰にも心の内をさらけ出せなくて……」

「……うん」

「バカで弱ければ、誰かに頼れたのに……いや、そうだったなら、そもそもそんな孤独を味わわなくて済んだはずなのに……」

「……ボクは、頭は良かったかも知れないけど、愚か者だったよ」

「そうやってすぐ自分のせいにする……ごめんね」

「な、何で君が謝るのさ」

「……孤独で、孤独で、だけど、そんな君が初めて本当に心を開きかけた相手が居たよね」

「ッ」


 アル君の顔が青ざめていく。

 そう、だよね……

 だって、その相手はカーズさんじゃ無いもの。

 カーズさんは強くて聡明で気高いかも知れないだけど……それはあくまでアル君が理想とする自分の姿。

 初めて頼る事の出来る大人だったけど、同時に大人であるという事実は、アル君が心を開ききれない原因にもなっていた。

 甘えたくても甘えられない……

 それは多くの大人達に裏切り続けられ、親にさえも捨てられたキミだから……

 そして、そんなアル君の心の奥底を見抜いていたからこそ、カーズさんはあえて甘えさせず、優しくとも厳しく接してきた。


「……自惚れるよ。アル君が初めて心を開いた相手、それはカーズさんじゃなく、オレだったんだよね」


 そう、アル君が本当に心を開いたのは、いや、その他人に対して開く切っ掛けになったのはオレだったんだ。


 出会いの切っ掛けは先祖が仕組んだ罠だったのかも知れない。

 それでも、オレ達は出会った。

 地球の日本という小さな島国の、小さな町で出会ったんだ。


 そこで過ごした日々――


 それはオレにとっての日常。

 だけど、アル君にとっては全てが目新しい非日常だった。


 最初は、まるで捨て猫みたいに警戒心の塊だった。

 誰も信じない、ボクは強いから近付かないで、いじめないで……

 そんな傷だらけの、弱々しい捨て猫。

 そんな誰も寄せ付けない、いや、寄り付かれるのを恐れ強がるのが精一杯だった少年に、ほんの少しだけ自分を見つめる切っ掛けになった相手が――


 オレだった。

 

 それからは、アル君の中にオレは何時も居たんだ。何時も、居たんだ……

 だけど、程なくしてオレは自分がやらかしたバカな行動のせいで大怪我をし、それが切っ掛けでアル君は未来の世界に来る事は無くなった。

 オレと会えなくなった日々は、彼の中に音も無く降り積もる雪みたいに孤独な時間を募らせ、そして……


 アル君の地獄が始まった――


 自分の才能を妬みながらも搾取する大人達。

 それをわかっていながら、孤独を埋めるように研究だけに取り組む道化の自分。

 再訪した未来の地球で刻まれた、戦争という名の絶望と苦しみ。

 そして、気が付かないふりをして目を背けてきた、自分がもたらしたモノが世界にばらまいた破壊と悲劇……

 アルフレッドという名に刻まれてしまった、怨嗟の重さ……


 そんな傷だらけだった君とオレは……



 十年という年月を経て――



 この世界で再会した。


 窓の外。

 広がる荒野のどこか遠くから、獣の遠吠えが聞こえた。


 それはまるで、狼が姿を見せない家族を捜し求めて泣いているかのようで……


「ごめんね……アル君」

「だ、だから何でキミが謝るのさ、キミを傷付け、苦しめたのはボクだ! 責められるべきはボクだ!」


 慌てて否定するアル君に、だけどオレは頭を振って否定する。


「責める事が出来たら、怒る事が出来たら、ずっと楽になれたのに……」

「何を、言ってるんだよ……」

「だけど、キミは……自分でいっぱいいっぱいで、周りが何も見えず、頭が悪いそいつのせいで……」

「やめるんだ……」

「キミはキミ自身が傷付く道を選ぶ事しか出来無かった。キミは優しかったから、そのバカを責める事が出来無かったんだ」

「や、やめ……」

「アル君、キミをちゃんと信じてあげられずに裏切ったのは……」

「や……」


「オレ、だよね」


 裏切り続けられ、誰よりも裏切られる事を恐れたアルフレッド。そんな彼を最悪な形で裏切り傷付けたのは……オレだ。

 この塔に初めて来た時、ロイの言葉なんかを信じてアル君を信じてあげる事が出来ずに遠ざけ傷付けた。

 恋人同士なら当たり前にある事かも知れないすれ違い。だけど、オレのそれは他人の言葉を信じてアル君の言葉を信じられなかったという裏切りだった。

 それが、オレの罪――


 ……誰よりも、裏切られる事を恐れた少年に、オレは最悪の裏切りをしたんだ。


 ああ、ロイ……今更になって思い知らされてるよ。お前の仕組んだ罠がこんなにも一人の人間を傷付けていたなんて。

 まさかあの時のことが、今になってこんなにも尾を引くなんて……

 だけど、ロイへの怒りよりも、あの時の自分に対する怒りの方が込み上げる。

 例え魔術や訳のわからない薬を使われていたとしても、そんなのは言い訳にならない。

 オレがアル君を傷付ける隙を作った、


 それだけがどうしよもない事実なんだ。

 

「ねぇ……アル君……」

「……」

「ごめんね……こんなにも苦しませ心も体も傷だらけにして、右腕まで……キミをこんなにも苦しめたのは俺なのに、それなのに……それでもオレのために、自分が悪者に見える嘘までつかせて、まだ守ってくれて……ごめん……なさい……」

「泣かないで……キミのそんな顔が見たかったんじゃ無い。ボクは、ただ……ただ……」


 気が付けば、アル君に抱きしめられていた。


「ボクだって、同じなんだ」

「え?」

「だって、ボクだってキミをちゃんと信じてあげられていたら、もっと人間らしい心があれば……こっちの世界に来て、右も左もわからず、新しい性別にもどう向き合えば良いのかわからないキミの辛さに寄り添ってあげられていたら……キミにあんな思いをさせたり、失うんじゃないかって……あんな、あんな怪我をさせたりすることも……無かった……」

「アル君……」


 幼い頃に両親に裏切られた少年。

 幼くして大人達の欲望に翻弄された少年。

 この歳で世界中の闇を見せられた少年。

 この歳で絶望や挫折、恨みまでも覚えてしまった少年。


 それなのに……

 どんな時でも、今の今ですら、オレの事を守ろうとして苦手な自分の気持ちを伝えようと一生懸命になってくれるアルフレッド……


「アル君、オレさ、もうキミに守られるだけの自分で居たくないよ。ちゃんと、キミを支えられる人間になるから。たぶん、これからもいっぱいキミに迷惑を掛けると思うけど……アル君の隣に居たいんだ」

「リョウ……」

「アル君が、アルフレッドが、好きだ。愛してる。もう、惑わされないから、オ……わ、()をアル君の隣に居させて……」

「リョウ、今……」

「言うな」


 顔が赤くなる。


「顔真っ赤だよ」

「だから、言うな」

「こんなボクの隣に居てくれるの?」

「『こんな』とか、私の大切な人を卑下しないでよ……」

「ん? 何だだか、そのやりとり前にもあった気がする」

「うん、また反撃してみた」

「リョウ……」


 抱きしめられたまま重ねる口づけ。

 そのまま押し倒され……


「って、ちょっと待った!」

「何? ここにきてお預けする気?」

「いや、そうじゃなくて……私まだ男のまま……」

「何だそんなことか」

「そんなことって……むぅ……」

「キミ、ボクに襲いかかってきたでしょ」

「冷たく返り討ちにされたもん。って、えっと、そうじゃなくて、可愛い愛情表現だよ?」

「何故疑問系だ。まぁ、キミが今男であったとしても、関係ない。こんなに可愛いキミを見せ付けられて、我慢なんか出来るか。だから、リョウ……今からキミを抱く」

「うわぉ、なまら凜々しいっす! って言うか、アル君性格というか雰囲気ちょっと変わってない?」

「我慢しないことにした。キミが女に戻っても、その後に万が一にもまた男になったとしても、ボクがキミを愛している事を忘れられないように心にも魂にも刻むことにする」

「……む、むぅ」


 うちの彼氏がヤバいです。

 イケショタ独占欲爆発モードになってます。

 でも、すごく格好良いんです。


 ……うん。


「アル君、私のこと、改めてよろしくお願いします。幸せにして下さい」

お読みいただいている読者様、本当にありがとうございます!


ランキングタグなどで応援を頂けると執筆の励みになりますので、もし面白かったと思っていただけましたなら、何卒! ポチりとよろしくお願いします!!

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